「だりー。」

「さぼるなよ。」

「わーってるよ。」

 

サングラスをかけた男が、挑発の男の襟首をつかんで引きずって歩く

そんな光景を誰もがちらりと見て、関わらないでおこうと見て見ぬ不利をして去っていく

 

「お前、危ない奴に見えるのか?サングラスだしなぁ。」

「それはお前だろう。遊んでそうだろ。軽そうな顔してるし。」

 

お互いにいろいろ言って、お互いが少しむかっと来ている時

 

「なぁ、あれって。」

「・・・間違いなく・・・ってところだな。」

 

普段なら、遭遇しないはずなのに

あの事件を引き寄せる(大事な大事な)探偵とは違うはずなのに

 

「追うか。」

「とりあえずな。」

 

現在、殺人の犯人として指名手配されている男を追跡する

その際に、しっかりと上司にメールを入れて

 

そして、向かった先に入るため、二人は優希を呼び出すのだった

 

 

 

 

保健室の秘め事-捜査中の秘め事

 

 

 

 

いつもと変わりなく、平和な朝がやってくる。

朝起きると、やはりと言っていいのか、朝食が用意されていた。

そして、快斗の笑顔が迎えてくれる。眠いのでほとんど見ていないが・・・。

「おはよう、優希。」

「おはようございます。」

あれだけ、昨晩は仕事をしておきながら、どうしてこんなに元気なのだろうか。

しかも、帰ってきたことを知らない挙句、自室にいたということは連れて行かれたということで、そこまで気づかない自分がかなり不覚だと思って、何も言わずにもくもくと食べる。

快斗は快斗で、優希のそんなぐるぐるした思いを知ってか知らずか、調子でも悪いのかと心配していたり。

だが、すぐに悩みの世界から戻ってきた優希が今日の予定を話す。

「今日、学校行かないから。」

「え・・・?どうして?」

せっかくお昼と思って、今日は可愛くタコさん作ったのにという馬鹿は無視をして、事件で呼ばれたからと言っておく。

実際、昨日快斗の帰りを待っている間に、メールが一件入ったのだ。本当はその日に来て欲しかったらしいが、無理だったので今日になったのだ。

だから言ったのだが・・・。

それはしょうがないよねぇーとなにやら机の上に突っ伏す快斗。

せっかく今日も一緒に昼食を食べようと思ったのにと、相変わらず邪魔な警察に対して憎しみと、そして一日会えない悲しさでしおれているのだが、その一緒にという意味がわかっていない優希には到底分かりえないものだった。

 

 

 

 

 

職場である保健室にやってきた快斗。

一応、働いている側なので、優希がいなくても、見た目は真面目に見せるために演じていた。

だが、ふられたのと、一発で面白くありませんという快斗の心情を見抜いた美和子に言われて、今日は一日本当に大人しくしていた方がいいかもしれないと思うのだった。

なぜなら、美和子にいろいろ言われて、優希に何か言われてしまう可能性があるからだ。

「あ、それで。渉さんは元気ですか?」

「今は絶好調よ。」

「・・・いじめてませんか?」

「いじめてないわよ!失礼ねっ!」

昔と違って、格好よくなっちゃったんだからとぼそりと言った言葉をしっかりと聞いた快斗。

顔を紅くして、そうしていると普通に見たら可愛いのにと思う。

なのに、この性格はなぁと思ってしまう。

渉がいくら好きになった人だとしても、大変だろうなと思ってしまう。

「じゃぁ、第二に戻りますね。」

「そうしてちょうだい。」

これから仕事だからと追い出されたので、第二に戻ってきたら、ちょうど紅子と志保がいるのに気づいた。

「そう言えば、昨日はどうだったの?」

「実験はいい結果が出たわ。」

とても満足そうだった。何があったのかは知らないが。知らない方がきっといいのだろうが。

「死にやしないわよ。結構丈夫だもの。」

この前はあーんなことやこーんなことをしても、しぶとく生きてたから大丈夫でしょといってくれる。

やはり、彼女には逆らわず怒らせないようにしようと決める快斗だった。

「それで、今日はいないのかしら?」

「優希のこと?」

「決まってるじゃない。」

「今日はいないんだよ。事件だって。」

「そうなの。」

残念だわと言う紅子に、今度は何を企んでやがると言うが、クスクス笑うだけで何も答えてくれない。

「言えー!!」

「嫌よ。どうして私が貴方に命令されなきゃいけないのかしら?」

「すみませんでした。・・・だから、言え。」

「まったく・・・。」

彼女の事に関しては馬鹿になるのねとつぶやきながら、紅子は答えた。

雲行きが怪しいということもあったからだ。

「今、潜入捜査をしているわ。先日一緒にいた二人の刑事と一緒にね。」

なんでも、最近騒がれている殺人事件の犯人に繋がる人物、もしくはその黒幕ということ。

入っていった場所が場所なために、新一に協力を求めたらしい。

「それを早く言え!」

彼等が行った場所を聞いて、即座に窓から出て行く快斗。

「相当心は狭いようね。」

「しょうがないんじゃないかしら。」

快斗の用意した珈琲を飲み、今日は片付けておいてあげましょうと、洗って定位置にしまう二人だった。

 

 

 

その頃、快斗の心配を他所に、二人の男のエスコートのもと、目的の人物を待つ優希。

「本当に、ここへ来るの?」

「見間違いはない。」

「だが、さすがにここへは俺たちだけってのは、いくら捜査でもなぁ・・・。」

苦笑しながら言う研二に、確かにと思う。

中はプライベートを守る為に二重にされ、入り口の受付嬢や警備員が目を光らせている。

恋人同士なら中へ入るのは容易いが、それ以外はなかなか難しい。

不倫のカップルも珍しくなく、何かあった時のためにと、一人では上に上がらせてもらえない。

あえて言うのなら、この店自体が問題なのだ。そこらへんのラブホテルとは違い、詐欺や不倫の現場になっているとわかっていてやっているのだから。まぁ、他も多少はわかっていてやっていると思うが、ここはそんな人間ばかり集めているような店だ。

簡単に言えば、トラブルの原因の場所とも言うべきか。

もし警察だと言えば、店は嫌がるし、その間に客も逃げる。だから、客として紛れ込もうとした。

まだしっかりと証拠を押さえられていないために、まだこの店を取り締まる事は出来ないからだ。

そこで問題は、二人とも男だということだった。

男二人でも入れるようだが、おかしな誤解を受けたくないために、優希を呼んだのだ。

美和子でも良かったが、彼女だと旦那様に見られる目が痛いし、何より警視庁全体がうるさい。

他の者達で度胸のある者といえばなかなかいないし、いたとしても、口がうるさいものが多いので、二人にとってはごめんなのだ。

「それにしても、嫌ね。三人がそんなに珍しいの?」

先ほどから鬱陶しいほどささる視線。普通は二人なのだから、確かに三人は珍しいのだろうけれど。

それだけではないことを二人はわかっているが、自覚なしの優希にわざわざ言っても効果はないので黙っていた。

さて、待ちすぎても目立つので移動しようと立ち上がった三人。

向かった場所は、渡されたキーの部屋。仕掛けた盗聴器でわかったが、そこはちょうど目的の人物が予約を入れている部屋の隣らしい。

隣といっても、かなり距離があるけれど、それなら好都合だ。この部屋の前を通るのだから、待てばいい。

しばらくすると、目的の人物が現れた。

「この声。」

「優希も知ってるだろう。」

「・・・思い出したらむかついてきたわ。」

「そう言うと思った。」

その男とは、かつて優希と会っていた。

たまたま陣平と待ち合わせをしていた時に声をかけてきた男だ。

今回同様に、殺す相手を探していたのだろう。今思うと、あの時わかっていたら警察に連絡していたのに。

やはり、自分は事件が起きてからしか動けない探偵。警察同様に。悔しくてしょうがない。

あの男によって、会ってからの後の期間、殺された人がいたから余計にだ。

「優希が悪いわけじゃないから。」

「でも。」

「今は仕事だから、話はあとな。」

優希の頭をぽんぽんとして、意識を集中させる二人。

「ターゲットが現れた。・・・とりあえず、証拠やその他押さえて出ます。」

「店を出た時がチャンスです。」

そう伝え、すぐさま二人はここの店の店員の制服に着替える。着替えてしまえば、何処をどう見ても店員だろう。

「こういった仕事。似合いそうね。」

「そんなことないぞ。」

「萩原は大丈夫だ。」

「はぁ?そんなこと言う松田、お前だってそのサングラスしてたら危ない取立て屋みたいだぞ。」

「うるさい。」

「ちょっと。そんな言い争いするために来たわけじゃないでしょ。」

「そうだった。」

いけないいけないと言いながら、二人は部屋から出て行った。

出て行った二人がいなくなってからため息をつき、持ってきていた本を取り出した。

ここから先は彼等は手伝わせてくれない。危ないから駄目らしい。

ま、お隣も帰ってきて、居候も増えて、自分を怒るだろう人間が増えたので優希は大人しく部屋で本を読むのだった。

 

 

 

 

店の扉が開いたので、定員がカウンターからいらっしゃいませと客を迎えようとしたら、誰もいない。

あれっと思ったが、声が聞こえてきて、下を見た。

「お兄さん。」

そこには小さな茶髪の女の子がいた。

小さな女の子にはそれほど警戒心がないのか、カウンターから出てきて、しゃがんで視線を低くして話しかける店員。

「どうしたの。迷子かい?」

「ここに入ったお姉さんがこれを落としたの。」

そう言って、ジャラジャラとした飾りではなく、シンプルなデザインのブレスレットを出した。

「本当かい?」

「うん。入ってもいい?」

「うーん。でもねぇ。」

店員が困っているところへ、一人の青年が見せに入って来た。

彼には帰ってもらおうと対応しようとする前に、青年が安堵の笑みを見せて、その小さな子供の名前を呼んだ。

「哀ちゃん。もう、探したんだからね。勝手に走っていったら駄目でしょ?」

「ごめんなさい。」

女の子はしゅんとして、謝る。保護者が現れたということで、落し物を預かって帰ってもらおうとしたが、そうならなかった。

「悪いね店員さん。この子がお邪魔して。」

「いえいえ。気にしないでく・・・。」

「あとはゆっくり休んでくれ。」

にやりと見せる笑みはまさに怪盗そのもの。

「まったく。一つ貸しね。」

「はい。ありがとうございました。」

そのまま、店員をカウンターの奥へ縛って放置し、快斗は店員の服を着て、迷子らしいということで中を歩いた。

そして、見つけた一室。

「ここなの?」

「調べて間違いないよ。」

どうやって調べたかは企業秘密ねと言いながら、そおっと扉を開けた。

中では、ベッドの上で転がりながら暢気に本を読んでいる優希の姿があった。

「優希。」

一回目は呼んでもまったく反応がなかったが、二回三回呼べば、顔を上げてこちらを見た。

「あれ?快斗。それに・・・どうしてまた、縮んでるの?」

「ちょっと便利だったからよ。」

「あ、そう。」

お迎えが来た頃、結構時間が経っている事に気付いて、どうりで本の進み具合がいいと思ったと暢気に言う優希を担ぎあげて、書置きをして部屋から出る。

「ちょっと、快斗。」

「わかってるけど、俺としては許せないんだよね。」

「何がよ。降ろして。陣平さんと研二さんまだ中っ!」

「わかってる。だから、置手紙してきたでしょ。ってことで、大人しくしててね。」

首筋に感じたチクリとした痛み。

「あっ・・・。」

それが何か気付いた時には遅く、完全に快斗に身を預けて意識を失った。

「さて、帰りますか。」

「明日の新聞は見出しいっぱいに出てるんでしょうね。」

そんなことを言いながら、非常階段からこっそり出ていった二人と一人だった。

 

 

 

家に帰って起きた優希は快斗に文句を言ったが、反対に言いくるめられて、結局変わらない状態になっていた。

そして、事件もすっかり忘れてお休みモードに入った優希は、ぐっすりとリビングで寝てしまい、また快斗に部屋まで連れて行かれたが起きない状態だった。

次の日の新聞で、すっかり忘れていた二人の存在を思い出すのだった。

 




あとがき
ちょっと事件編。こちらはこちらで秘め事を。
要望(?)があったので、小さいサイズで再登場しちゃいましたが、いいですか?