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連休が明け、お昼を食べる為に、蘭と園子に断ってから保健室へ向かう優希 そこで、快斗と女の声が聞こえてきた 「でもまさか、この学校へ貴方が来るなんてね。黙っていたわね。」 「お前にわざわざ言う必要もないだろ。」 「そうね。貴方はそういう男だったわね。」 お取り込み中ならよくないかなと思って、しばらく時間をつぶす為に晴れて心地よい風の吹く中庭へと行くのだった そして、一日を相変わらずで過ごしたその次の日 学園中で、噂になっていた 『あの高嶺の花と呼ばれる美人教師小泉紅子と新任の保険医がデキている。』 と・・・ 保健室の秘め事−新たな秘め事 情報をいつもどこからか持ってくる園子が今朝、優希におはようと言った後に言った重大ニュース。 紅子といえば、教師の中で一番美人と呼ばれている女教師で、どの男も虜になるような状況の中、旦那もいなければ、特定のお付き合いしている相手もいないと言われていた。 それが、今回の噂では、先日新任でやってきた保険医と、高校時代にクラスメイトで、長いお付き合いを続けているのだとか。 なんだかんだ言っても、ちゃんとその対称になる相手がいるんじゃないと思いながら、昨日の事を思って、今日のお昼はどうしようかと考えるのだった。 だって、快斗が必ず二人で食べたいが為に場所(権限)を利用し、優希に朝渡さずに学校へ来るからだ。 どうして一緒がいいのかは優希はわかっていないが、このことで、食堂で食べるべきか、昨日のように来ているのなら、遠慮するべきかと悩むのだった。 だが、やはり作ってもらっているのだから、食べないのは失礼だろうということで、一応向かうのだった。もし、いたら引き返そうと思って。 コンコン ノックをすると、中から入ってという声が聞こえてくる。 どうやら、今日は声がしないのでいないなと少しほっとして、ゆっくりとドアを開けた。 そして、優希は快斗が用意した昼食を食べるのだった。 そしてぽろりと言った、快斗にとってのタブー。 その瞬間、ざーっと快斗の顔色が悪くなり、なんとか元に戻ろうとして、失敗して苦笑いをする快斗が面白かったりするので、くすくす笑う優希。 ・・・ばれたことで恥ずかしいということと、そんなものが嫌いだなんて、しかも名前きくだけでと反対に感心する優希。 そして、快斗も嫌いなものがある人間だったんだなぁと、失礼な事を考えていたりした。 その日、事件に呼ばれて早退し、帰ってから相変わらずな快斗に、別に人のことだし、自分で確かめられない噂を信じるような人間ではないが、本当ならばどうしてわざわざこの家に来たのだろうと不思議に思っていた。 「快斗さん。」 「なんだい?」 「・・・いえ、別に。」 何か言いたい事があるのなら言ってごらんと言うが、言っていいものかどうかと、名前を呼んでから考える優希は、結局言わなかった。 そして次の日。 昨日とは別の意味で大騒動が起こった。 理事長があの学園の時計台のからくり人形の一つ、それが持っていたものがなくなっていた。 見回りが、最後にからくりを見たとき、それはなくなっていたことに気づいたのだ。 その持っていたもの。誰もしらなかったが、その日に明らかになった。 なんだったのか。それは数億円はすると言われている希少価値のあるブルーダイヤ。 驚きと知らなかった事実にその日は学園中騒ぐのだった。 おまり、大沙汰に外へ洩れる事はなかったが、数台の覆面パトカーが裏門から入ってきて、事情を聞いて行方を追っている。 もちろん、優希のいる学校だから、園子達に連れられて野次馬の中に紛れていて声をかけられ、現在行動を刑事と共にしているのはしょうがないかもしれない。 そして、その姿を遠くから見て、去って行く者がいた。しっかりと、優希はこちらを見る気配に気づき、そちらを見た。 『・・・快斗さん?』 それは、間違いなく快斗の後姿。言葉として口には出さなかったが、それは心の中で呟かれた。 そして即座に、優希は快斗が今回関わっていると思った。それはただの感でしかないが。 「・・・き・・・優希ちゃん。」 「あ、はい。」 呼ばれているのに気づかなかったので、驚いて返事をした優希に、呼んだ渉も驚いたが、何も言わなかった。 「それで、一応今日は学校のこともあるから帰るけど、放課後いいかな?」 「あ、はい。わかりました。」 またあとでと引き上げる渉に頭を下げて、パトカーが全て校内から出て行ったのを確認した後、優希は始業チャイムを無視してある場所へと向かった。 快斗がいるはずの保健室へ。今は、渉について、美和子もいないから話を聞くには絶好の機会。 まっすぐ、保健室へと歩く。 保健室の前に来て、一度深く息を吸って吐き、心を落ち着ける。 そして、ゆっくりと扉を開き、中に入った。 「どうかした?」 そこには、変わらない快斗の姿があった。だが、どこか慌てていて、隠している素振りがある。 きっと、他の者なら気づかなかっただろうが、入ってきた瞬間こちらを見た快斗の顔が、一瞬慌てていたのに優希は気づいた。それで、確信できた。 「何を、隠しているんですか?」 「隠すって何を?」 変わらない顔で聞き返す快斗が立ち上がって優希に近づいてくる。 「今日、話題になっていた盗難の件です。」 「すごい騒ぎになっていたね。知らなかったけど。」 「・・・嘘つかないで下さい。」 少し間をあけて、しっかりと快斗の目を見て言う。それは、普段の優希ではなく、犯人を指さす時の探偵の顔。 その顔を見て、少しだけ、快斗の表情が変わった。 「快斗さん。今回の件に関わっている。・・・そもそも、入って来た時期もおかしかったのよね。・・・無関係だと思えない。何よりあの違和感と、あるものを見つけてしまったんだもの。」 何より、あの時計台を調べる際に感じた違和感と、見つけたもの。そしてあの時の視線と感。そして、絶対そうだと思える確証。 それで、快斗が一番怪しいと思われた。 だって、同じだったのだ。彼の父親である黒羽盗一と。 誰にも内緒にしていた秘密の中で出会った彼と、その顔は同じだった。 だから一瞬であっても、見逃す事は無かった。 「・・・親子ね。」 「何が?」 「さっき、入ってきた時、一瞬だけ見せたあの顔。」 快斗は気づかれていたのかと驚きと優希にばれた悔しさで曖昧な顔をしている。 「優希は、すぐにそうやって気づくんだね。」 「そうじゃないと、探偵もやってられませんし。」 それもそうか・・・といいながら、快斗は苦笑して椅子に座った。 「それで、『探偵』さんが俺に何の用なのかな?」 「昨日起こった盗難の事だと、さっきも言いましたけど?」 「そうだったね・・・。」 優希は快斗に見つけたといったあるものを見せた。 「警察も犯人がこれで誰なのかわかりました。」 ぴらっとポケットから出したそれを快斗に見せるように持つ。 それは、今回それを持ち去った『犯人』からのメッセージ。 『カラクリ人形のブルーダイヤは頂きました。キッド』 その言葉とともに、描かれたのはいつもその『キッド』を示すふざけたイラスト。 「今、担当の中森警部に連絡をしていると思います。・・・貴方は捕まるつもりはないのでしょうが、聞きたい事があるんです。」 それは、ずっと気になっていたこと。 自分は、盗一がキッドだと知っている。だから、快斗が今現在キッドと変わらないようにして存在するのなら、一番近い彼が演じているとしか考えられない。 キッドを知ったのは偶然だったけれど、気になっていたのだ、ずっと。 「キッドのことは、盗一さんの時に知っている。貴方が二代目でしょ?」 「そうですね。・・・気づくとはさすがです、名探偵。」 その気配、口調は、優希が知らないもの。・・・そして、盗一と似ているもの。 「でも、誰も気付きませんでしたけどね。・・・それにしても、父と接点がある時も驚きましたが、まさかキッドとも接点があるとわね。思いもしませんでしたよ。」 「誰にも言わなかったんだもの。あたりまえでしょ。」 「お父上にも?」 「知ってる可能性は高いけど、私からは言ってないわ。」 「そうですか。きっと、それが敗因なんでしょうね。」 そして、一番気になっていることを、今度こそ口にした。 「盗一さんの死。・・・あれは本当に事故だったの?」 その問いと同時に、快斗の、キッドの気配が一瞬乱れ、そしてキッドのようで違うものへと変わった。 「・・・ええ、そうですね。父が大切にしているマジックの舞台で、事故に見せかけて殺されましたよっ!」 最後は叫びのように口から出た言葉。悔しそうに快斗は手を握り締める。 マジックの失敗というレッテルを貼られてこの世を去った、尊敬していた父。 突然いなくなって、涙が出るなんてことはなかったが、かなり混乱して家に閉じこもっていた時期もあった。 そして、見つけたもの。父の死の真相を知った時。 芽生えたのは殺意。だが、それを望まない父のため、せめて真実を全て明るみに出せるようにと続けてきた。 「まさか、こんなに早く見つかってしまうとは思いませんでしたけれどね。」 そう言って、ぽんっとマジックで取り出した。 それは今回、消えてなくなったブルーダイヤ。 「見つかった以上、これは返しましょう。」 優希の手のひらに乗せた、大きなそれ。そして、優希の言葉を待つ。 「・・・別に、快斗さんを捕まえることはしませんよ。・・・すでに私は、キッドというものの味方なんですから。二代目であっても、『キッド』である限りは。」 つまり、キッドの信念を壊すものならば、容赦はしないと言っている優希。 そこまで知られているのなら、負けだと思う快斗。 『それにしても、あっさりとばれたわね。』 突如、保健室に声が聞こえてきた。 「え?」 それは間違えることなく、紅子のものだ。だが、この部屋には気配はおろか、人の姿などない。 それなのに、今側にいるかのようにはっきりと聞こえる声。 「ややこしいから、出て来い。」 「そうするわ。」 すうっと、快斗の隣に姿を見せた紅子。そのマジックでも証明できないそれには、驚く。 「こんにちは、工藤優希さん。」 にっこりと見せる笑みは、噂されるほど綺麗な彼女を引き立てる。 しかし、内側を見る優希や、長い付き合いの快斗には、ただ企みを隠すものにしか見えない。 「今回は、騒がせてごめんなさいね。でも、今回のことは彼の独断だったけど。」 「悪かったって。それに、そもそもキッドは単独犯だ。」 「そうね。でも、魔女と月の加護、そして補佐が一人いるのだということは忘れないでちょうだい。」 そして、改めて紅子が優希に名乗る。学校内では誰も知らない真実を。 「私は古に滅びたと言われる紅魔女の後継者。キッドへの預言者である、小泉紅子よ。よろしくね。」 そう言って差し出された手。どうしたらいいのかと迷ったが、とりあえず、手を差し出して握手に応じる。 「まず、貴方に聞いておきたいことがあるの。」 「なんですか?」 なんとか、驚きを押さえ、自分を取り戻して優希は紅子の問いに聞き返す。 「『キッド』を捕まえるか否か。」 「・・・私は否ね。」 「そう。なら良かったわ。」 もし捕まえる気があるのなら、今ここで記憶を消すところだったからとかなり物騒なことを言ってのける。 「ま、そうしたら誰かさんに怒られるけれど。」 「紅子っ!」 なにやら慌てている快斗に、なんなのかわかってない優希は首をかしげる。 そして、話の続きを待つ。 「それならいいわ。で、彼の目的は知っているの?」 「『キッド』が何なのかは知っていますけど?」 「なら、ほとんどそれと同じだから、説明はいいわね。」 今日から、貴方もキッドに関わる関係者よ。と、何故か言われ、これからよろしくねと言われた。 どうやら、犯人を捕まえるどころか、おかしなことに巻き込まれた(捕まった)ようだ。 「そう言えば。お二人が恋人だという噂は本当なんですか?」 何故か快斗が入れた珈琲で、保健室で三人くつろいでいた時に、ふと優希が言葉にした。 「え?何それ。」 「確かに、昔は好きだったけれどね。」 聞けば、学生時代のクラスメイトの際、紅子は全ての男は自分にひざまずくのよという性格の持ち主だったらしい。 そして、快斗もそうだと思えば、思い通りにいかない。 さらにいろいろやってもどうにもならず、途中で切れて少々物騒なことを仕掛けたこともあったらしいが、今は味方でキッドの補佐をしているらしい。 しばらく遠出で仕事をしていて連絡がなかったと思えば、突然自分が勤めているこの学園に保険医として現れて困っている関係だと言われても、だから恋人なのか違うのかと思う優希に、どうやらしばらく固まっていたらしい快斗が思い切り優希の腕を攫んで、凄い形相で訴え叫ぶのだった。 「違うよ、違う!俺は紅子なんかと恋人になんかなってません。完全な嘘偽りですっ!!」 信じたら駄目なんだからね!と何度も言われて、とりあえずこれだけの動揺っぷりだし、呆れながらも本当に違うのよと紅子が言うので、うなずいておいた。 とりあえず、こうして慌しい、それでいて秘め事が増える日々はまだまだはじまったばかりだった。
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