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どうしてだろう 「馴染んでる・・・?」 閉じられたドアをしばらく呆然と見ていた優希 しだいにどうでもいいやと、手に持つカップの中身を飲むのだった 保健室の秘め事-休日の過ごし方 連休の初日の優希は、昼間ならば本を読んでもよいと言われたので、快斗が出かけている間にと、本をたくさんとってきて、ほくほくと読み始めていた。 そこまでは良かったのだ。 二冊目が読めた頃、そろそろ珈琲が恋しいなぁなんて思っていたら・・・。 「はい。」 「・・・ありがとう。」 近くにやってきた、良い香りに誘われて視線は三冊目の本にいっているが、手はしっかりと渡されたカップを受け取り、珈琲を飲むのだった そこで、気づいた。どうして自分は珈琲を持っているのだろうかと。 誰かがキッチンまで動かないと飲めないものだ。今、自分しかいないはずなのに、どうしてだろう。 そんな疑問のもと、視線を上げて、驚いた。 「・・・黒羽先生・・・?」 いつの間にか帰ってきてすでに眼鏡を胸ポケットにしまっている快斗の姿がそこにあったのだ。 「ただいま。本に熱中して気づかなかったみたいだけど。」 熱中していたが、知らない他人に対しては反応できる自身があったのに、またいろんな意味で驚いた。 だが、それよりも今日彼が行ってきた場所について聞きたい事があったので、そのことは頭の隅に置いておいて聞く。 「それで、高木さんは?」 「ほとんど、大丈夫みたいだったよ。」 前ほどたいした事がなくて良かったよねぇと言うところからして、今回はかなり軽症のようだ。 美和子のこともあるし、それは良かったと思う。 「そろそろ、3時だね・・・。」 もう少ししたらお茶しようと、誘われる。美味しい珈琲と優希がきっと気に入るお菓子を用意するからと言われると、断る理由もないので、わかったと答えた。 休憩もしないと後々煩いだろうからそれもいいかと思って、着替えてくると部屋から出て行った快斗の後姿を見送る。 そして、はぁっと力が抜ける感じがする。 「どうして、こんな短時間で馴染んじゃってるのよ。」 それなりに人見知りだとわかっている。だから、不思議でしかたがない。 とくに、うるさいあの二人は近くにくればすぐに気づくぐらいだ。(優希は意味はわからずとも、ある意味殺気を持っているから危険と判断された結果気づく) 「・・・なんだか、知っている気配なのよね。」 だから、余計に拒めないというか、いつの間にか側に居る事を許している。 どこで知った気配だっただろうかと、首を捻って考えている優希に声をかける原因の人物。 「どうしたの?」 両手にはトレイに珈琲のカップとつまめるようなお菓子を載せて奥から出てきた。 良い匂いに誘われるが、やはり気づくのは、どうして近くまで来たのに気づかなかったのか。 また首をかしげていると、テーブルの上に並べた快斗が、心配そうな顔をして尋ねる。 どうやら、どこか具合が悪いのだと思われたようだ。 「違いますよ。」 「なら、良かった。」 さぁ、食べようと差し出されたチーズケーキ。 甘酸っぱいソースがかかっていて、とても美味しい。 「美味しい。どうしたんですか?」 「良かった。口に合わなかったらどうしようかと思ったんだ。ちなみに、これは手作りです。」 どこで買ったのかと思っていたが、どうやら手作りのようだ。 料理だけではなく、珈琲の入れ方もお菓子も上手い。 「いいお嫁さんになれますね。」 「なら、もらってくれるかい?」 「・・・冗談はよしてください。」 と、話を打ち切られた。 快斗としては、そのまま話に乗ってお付き合いなんてことになっても良かったのだが。 まぁ、自分が作った物をおいしそうに食べてくれているのだから、今はいいだろう。 そして、いつか絶対に心も自分に惹かせてお嫁さんに貰うという決意をしてたのだが、生憎優希は気づいていなかったりする。 「明日も、何か作る予定だけど、何かリクエストある?」 「あ、いえ。とくには。」 「本当?」 「・・・じゃぁ、レモンパイを。」 「わかった。レモンパイだね。」 なにやら、早速明日のメニューを考えて、材料の計算をし始めた。 別に、そんなにしてもらわなくてもよいのだがと思ってしまう。 「あ、おかわりいる?」 「・・・お願いします。」 珈琲が空になったことも気づく男。いろんな意味で心を見透かされているようで嫌な気もする。 「はい。」 「ありがとうございます。」 だけど、この笑顔を見ると、そうでもないような気もしてくる。 そこでふと、思い出した。この顔、この笑顔。 やはり、この気配を知っていることは間違いなさそうだ。 「盗一さん・・・。」 「父さん?」 優希は知ってるのと問われて、どうやら間違いなく、彼はあの人の息子のようだ。 「そっか。そうね。」 疑問が解決して、納得した優希は満足げに珈琲を飲む。 しかし、意味がまったくわからない快斗は優希に問いかけるのだ。 どうしてここで、今はもういない父親の名前が出てきて、尚且つ優希が笑顔なのか。ここが結構重要なポイントだったりする。 「秘密よ。」 「なんだよそれ。」 とても気に入らない。それで、不機嫌な顔をすれば、ファザコンかと聞かれた。 そう言えば、数日前も言われたような気がするが、今はそんなことよりも優希のころだ。 「さぁて、さくさくとはいてもらおうか!!」 立ち上がったと思えば、いつの間にか正面ではなく隣にやって来た快斗が、優希に手を伸ばす。 「ちょ、何するって・・・・・・や、やめっ・・・くすぐったい・・・っ!!」 こそばしの刑だと、仕掛けてくる快斗から必死に逃げようとするが、簡単には逃げる事は無理だった。 「やめ・・・っ、く・・・ろ・・・せん・・・せ・・・くっ・・・いやっ・・・。」 ちょっと間違えれば、妖しい方向に変換して聞こえるような気もするが、本人達は別の事で必死だった。 「なら、教えてくれるかなぁ?」 にやりと見せるその笑顔は、かなり何かを企んでますというようなもの。 「わ、わかったわよ。だから、離れてっ!」 よっと、思い切り押すと、どうやら、離れてくれるらしく、一歩下がって、優希の言葉を待っていた。 優希はよれよれになりながら、快斗の父盗一のことを話そうとするのだった。 「昔、会った事があるのよ。父さんが呼んできた友人。まさか、電話で言っていた友人があの人だとは思わなかったから。」 でも、同じ姓名なのだから、気づいても可笑しくなかったのに。 まぁ、それで知っている気配だったので、いつもは気になるけれど、あまり気配を気にすることなく過ごせたという事の真相を話すのだった。 しかし、聞いた快斗はまた、妖しい笑みを浮かべていた。 今度は何なのよと、身構える優希。またこそばされるなんてごめんだと思っているからの行為。 「そう。へぇ、親父、優希と会ってたんだねぇ。」 「そうだけど、知らなったの?」 「知らないどころか、どうしてこんなに親切なのかなぁと思ってた疑問が解消されたところだよ。」 よくわからないが、父の友人だと言う男(優作)から電話があり、今回この家に突然訪問なんて事をしたのだ。 だが、全ては父が影響していたとは。何より、自分の気配を疎まれない理由が父の存在だったなんて、快斗自身、それはもう、父親に対してかなりお怒りだった。 どうしてその小さい頃の優希に合わせてくれなかったんだという思いでいっぱい。 まぁ、あの父親がいれば、それはもちろん快斗が惚れると思ったからと、いけしゃあしゃあと答えてくれることだろう。 結局は似たもの親子なのだ。優希と同じで快斗も。 快斗は認めないし、優希も論外だと言うぐらい認めていないけれど。 とにかく、暴れた後は、のんびりとお茶を続けるのだった。 優希は、どうしてこう違和感のあるような笑顔でいるのだろうと、快斗の様子を伺っていたのだが、その時間は終わりを告げたのだった。 理由は簡単。 警視庁からの優希へのラブコールがあったからだ。 もちろん、危ない事を止めるためという任務もあるために、快斗は一度止めるが、行くと決めたのなら行っておいでと言ってくれる。 どうしてかと聞けば、優希らしいその瞳を曇らせたくないからねと答えが返ってきた。 「片付けておくから、行っておいで。お迎え、来るんでしょ?」 「あ、そうだ。」 快斗が認めた理由の一つが、お迎えがおなじみの美和子の旦那様こと、高木渉だからだ。 彼ならどこぞの新米や居座っているおじさんのような刑事とは違い、安心できるからだ。 理由の一つは結婚していて、しかもらぶらぶで美和子を愛しているので、浮気なんて行動には出ないだろうし、出れば美和子や自分が制裁を下すとよくわかっているからしないだろうと思っているからだ。 ちなみに、軽症だったので、病院行ったあとは職場に復帰しているので、現在こちらにお迎えに向かえているのである。 「いってらっしゃい。」 「・・・いってきます。」 とりあえず、見送られるままに出る優希。快斗に驚いていないところから、美和子に渉は話を聞いているのだと納得した優希は何も言わずに車に乗り込むのだった。 「さて。夕食の用意をして待ってますか。」 一応、ずっと不機嫌だったことに気づかれているということをわかっているので、帰ってきたらもとに戻っておかないとと思いながら。 現場に到着し、胃が重たくなる思いがした。 「工藤っ!」 「工藤さん!」 そこには、つい昨夜、目の前に立ちはだかったが、なんらく突破したはずの、うるさい二人だった。 「渉さん?」 優希は、隣に立つ渉に問いかける。どうして、この二人がここにいるのかという事を含めて。 「呼んだつもりはないんだけど・・・。」 「暇なの?」 「さっき、メールがあって、どうやら優希ちゃんがくるって聞いて・・・。」 それで来たみたいなんだと苦笑しながら答える渉に、解決の手助けをせずに立っているだけだったのねと迷惑な二人を見ながら、無視して目暮の元へと行く。 「すまんな、優希君。」 「いえ。・・・それで、今回はどのような・・・。」 「工藤っ!わいの話聞いてな。」 「工藤さん。大事な話があるんです。」 渉にある程度聞いているけれど、目暮に事件の内容を再確認し、新しい情報があればと思って聞こうとしているというのに、背後からやってきた二人が優希の両サイドに回り、それぞれが手を攫んで言い寄ってくる。 「事件が一刻を争うものだったら、どうするつもりなの?」 無言で離してと言わんばかりに手を振り払う優希。だが、事件を使って照れなくてもと思っているこの二人は相当なお馬鹿だろう。 「でもな、工藤。」 「しかしっ。」 まだ何か言いたそうだった二人の背後からさらに別の者の声がする。 「おっ、優希じゃん。」 「・・・研二さん。」 それは、優希に危険物(爆弾)の解体の仕方を以前丁寧に教えてくれた一人、萩原研二だった。 仕事かなと思ったが、どう見ても、いつも仕事用のような服ではなく、普段会いに来る時に見るもの。 「・・・デートですか?」 「・・・ま、それはおいておいてだ。」 明らかに慌てているところから、そうなのだろう。人様のことはどうでもいいので口出しはしないが、急ぎなら行かなくてよいのかといえば、どうやら帰りらしくて別に構わないらしい。 「ふられたのね。」 「っ、ちょ、優希!それはないだろ。」 慌てるところから、図星だったのだろう。いつものことながら、よくこんな人にひっかかる女の人がいるものだと思いながら、帰らないのかと聞いてみたら、背後にいるものをくいっと顎で示して、にっこり微笑む。 「送っていってやるよ。」 「それはどうもありがとう。」 「棒読みだな、おい。」 とりあえず、邪魔しそうな二人からガードしながら、優希を見守る研二。 その合間に、何気に誰かへメールを出しているのに、気づいたのは優希だけ。そして、そのことでため息をつく優希だが、すぐに切り替えて事件に取り掛かるのだった。 現場に来てから二時間後、事件は無事に解決したのだった。 帰り道。渉が送ると言ったが、背後にいた二人の姿を見て、気をつけてと見送ってくれた。 この二人がいたら、いつも二人が送ってくれているので、知っているからだ。 「でも、わざわざ来なくても良かったんじゃないの。陣平さん。」 「ちょうど休憩だったから気にするな。」 「そうだぞ。こいつはこき使っても誰も怒らないって、いでーよ、陣平〜〜〜。」 思い切り、睨まれた挙句に頬をつかまれて引っ張られる研二。 痛そうだが、発言には気をつけるということを忘れている彼には自業自得のことなので、放っておく。 その後、いろいろ話をしていたら、いつの間にか家の前だった。 「ほら、ついたぞ。」 「あ、本当だ。・・・今日はありがとうございます。」 「いいってことよ。」 「悪い虫が近づかなくていいからな。」 「それでは、今日はこれで。」 と、頭を下げて門に手をかけた時だった。 バタンッ んっとドアの方をみると、そこには快斗の姿があった。 「帰ってきたんだ。おかえり、優希。」 笑顔で迎えてくれている。だけど、やっぱりその笑顔はどうもおかしい。 「・・・た、ただいま?」 「どうして疑問系なのかな?」 「いえ、別に・・・。」 そんなやり取りを見ていた二人がへぇっと呟いて、誰だと聞いてくる。 「あの人は、父の友人の息子さん。研二さんや陣平さんも知ってるはずよ。あの黒羽盗一さんの息子さん。黒羽快斗さん。」 で、現在居候中で、食事管理している人ですといえば、二人がクスクスと笑い始めた。 「そりゃいいや。」 「確かに、誰かが見張ってたら、優希も気にして食べるもんな。」 経験者は良く知っている。 「じゃ、俺たちは帰るな〜。」 と、ひらひらと手を振って二人は去って行った。 その後姿を見送って、快斗が立っている玄関まで足を運んだ。 「中に、入らないんですか?」 「入るよ。で、あれは誰?」 「あ、そうでした。彼等は警視庁で爆発物処理班所属の萩原研二さんと松田陣平さんです。」 いろいろ教えてくれたいい人ですというが、快斗にとってはそんなことはどうでもよかったりする。 一応、二人とも中に入ったが、まだまだ問題は残っていたりする。 「どうしてあの二人は名前で呼んでいるんだ。」 自分は呼ばれていないのにと、そんなところで嫉妬する男は、リビングの外で唸っているのだった。 ちなみに、中に入った優希は何をやっているのだろうかと首をかしげていたが、もちろん放置しておいた。 謎は解明したいが、快斗に関しては何かおかしすぎてどう手を出していいのかがわからなかったりするからだ。 とにかく、まだまだ彼等の距離は遠いということで。 |