最近、姿をふらりと消す学園のアイドル いつもガードしていた二人があまり気にしてないところを見ると、どうやら事情をしっているようだが・・・ 「今日も、行ったのね。」 「保護者役御免ってところかな?」 少し寂しい気もするが、本人が大丈夫だと判断したのならいい ただ、彼女にもしものことがあったり、泣かせたら容赦するつもりはないけれど 「それにしても、今日も平和ね。」 「おもしろくないわ。いい男もいないし。」 二人は窓から空をぼんやりと眺めながらつぶやくのだった ・・・いい男 いるのだが、実は誰も顔を見た事がなかったりする 保健室の秘め事−何故か同居人 今日はこれだよと、出会って三日目の今日。相変わらず彩りのよいお弁当箱を広げて待っていた台に保健室にやってきた男、黒羽快斗。普段はかけているらしい眼鏡は、現在胸ポケットの中。 どうやら、親しい間柄の人間には、眼鏡ははずすらしい。 その行動の意味がわからず首を傾げるが、今はもう気にしない。気にしたらしょうがないほど謎の多い男なので無視を決め込む事にしたのだ。 「あ、美和子さんは今日、渉さんの用事で来ないから。」 「また、怪我をしたの?」 「まぁ、そんなとこだね。」 この前も、いろいろあって大怪我をした美和子の旦那様こと、高木渉。 その前は彼女を庇って怪我をし、この前は捕らえた犯人を庇って怪我をした。 その度に美和子は心配し、病院へと連行していくのだ。いいですよと、いつも行こうとしないからだ。 「もしかして、その為にもう一人保健医を配属したってことはないわよね?」 「さぁ?」 なんだか、ありえそうで怖いなと思う優希の考えはあながち間違いではなかったりする。 だって、優希は知っている。学園長達が美和子に対して持っている思いを。 まぁ、知らないのは幸せなのかもしれない。今も彼女は『佐藤美和子』として仕事をしているから、気づかない。 まさか、あの彼女が『結婚』しているなんていう事実に。 ま、知ってもそれはそれよと知らないふりをしておくつもりだが。 「そうそう。明日から、連休だったよね?」 「そう言えば、そうですね。」 なんか、嫌な予感。 ちらりとカレンダーを見ても、明日からちょうど三連休である。 「連休の間だけど・・・。」 「大丈夫です。ちゃんと食べます。」 「まだ、何も言ってないけど?」 「貴方なら、絶対来て作ると言うつもりだったでしょ?!」 「まぁ、そうだね。その役を負かされたからね。」 「そこまでしなくていいです。」 必死になって、来ないように言っているのに、一向に引かない。 確かに、連休となれば忘れてしまいがちだ。だって、つい先日、父から新刊などどっさり送ってきてもらえて、この三日間は読破しようと考えていたのだから。 「駄目だよ。美和子さんに、泊まりこみぎりぎりでもいいから、ちゃんと本に手を出さずに寝るか見張っててくれって頼まれたからね。」 どうやら、本を読むという計画はばればれのようだ。 「でも、先生もお忙し・・・。」 「大丈夫だから。それに、君がもしと考えると、おちおち寝てられないからね。」 「でも、・・・。」 「もう、決定。君の保護者代わりな美和子さんにしっかりと許可もらっているから問題なしだよ。」 あ、ごはん食べ終わったと、綺麗に弁当箱を片付けて、お茶を出してくれたりする。 だが、これに流されては、連休の予定が全て狂ってしまう。 「で・・・。」 「もう、『でも』は聞きません。」 最終警告を出されてしまった。 どうやら、徹夜での読破は諦めざるえないようだ。 チャイムが、今日の授業の終わりを告げる。 「優希、帰ろう。」 「あれ?今日はクラブじゃなかったの、蘭。」 「休みになったんだ。」 「久しぶりに三人一緒に帰れるわ。」 帰るわよと、蘭と優希の腕をそれぞれ攫んで進み出そうとする園子に、少し呆れながらも鞄を持って着いていく二人。 すっと、誰もが道を譲って開ける。お近づきに声をかけようとしたものは以前、こってり絞られたので、ほとんどいない。 それに、遠くから、出来れば少し近くから見れたらそれでいいと思う奴等が多いので、道を譲るのだ。 そうしたら、ありがとうと、三人がお礼を言ってくれるから。 蘭目当てもいるが、優希目当てが多い中、彼女の笑顔のお礼は一番うれしいものだったりする。 なので、結構そのために側にいるけれど、進行方向の邪魔にならないように譲る者が多かった。 しかし、入り口を出ようとして、問題が現れた。 まだ、強者は残っていたようだ。 「工藤さん!」 「工藤!」 現れたのは、相変わらずな白い馬と黒いトリの二人。 まぁ、名前を出さなくてもこの声は誰か誰でも嫌でもわかる。 道を譲った信者のような者達は、彼等を睨みつける。優先は彼女達だからだ。だが、それに気づいていないかったりする二人は、優希に近づく。 「白馬先生。何か用ですか?」 「服部君。何か用があるの?」 優希の前に出て、社会科の教師白馬探と、隣のクラスのある意味問題児の服部平次から優希を遠ざける蘭と園子。 「工藤君に、明日からのご予定を・・・。」 「せや、工藤と出かけよう思てな。」 意見が一緒な二人は、互いを見て、なんでお前がと睨みあう。また、馬鹿な人達だなぁと思いながら、蘭はお互いに文句を言い合っている隙に蹴り飛ばし、園子は優希の腕を引っ張って突破。 その後追いかけてきそうになったが、彼女たちに優しいけれど、彼等には厳しいクラスメイト達によって、しっかり足止めされるのだった。 ある程度走った後、ちらほらと背後を確認しながら優希の腕を攫んでいた園子と蘭が、やっと歩みを遅くした。 「振り切ったみたいね。」 「園子。皆が協力してくれたからでしょ。」 「どっちでもいいわよ。」 「というより、どういうこと?」 息は切らすほどではなかったが、(実際かなり疾走したが、優希は大丈夫だったりするので普通だが、)二人の行動の意味がまったくわからない。 「もう、わかってないわね。」 「優希も、あの二人には困ってるって言ってたじゃない。」 「確かに、前にもこの前も言っていたわね。」 いいかげん、うるさいのだ。警視庁へ行く際も、たびたび姿を見せたかと思えばあのように近づいてくるし。 かなり危ないものを感じる為に、いつも適当にあしらって逃げているけれど。 学校が同じなので、逃げるにも限度がある。 「じゃ、休み明けにね。」 「またね、優希。」 走ったせいで、いつの間にか優希は自宅の家の前だった。気づいてあっと思えば、二人はすでに帰る気満々で、手を振って去って行った。 「ま、いっか。」 蘭は明日から別居中の母親のところへ泊まりで出かけるらしいので、今日はその準備で忙しいだろう。 園子は明日から家の都合で他県のどこかの別荘に行くような事を行っていたので、準備で忙しいだろう。 本来なら、優希もこれから三日、誰にも邪魔されずに本三昧の日々を送る予定だったのだが。 それは悲しくも、食事係りなんてものをやると言いだした保健医によって儚くも夢に終わった。 今日も、そのうち来るだろう。 それまでに本を出来るだけ読んでやると、鍵を開けて家に入った。 そして、リビングに入って驚いた。 ボサ――― 手に持っていた荷物や手紙を全てその場に落としてしまった。 そうしても、誰も責めないだろう。というか、責める者もいかいけれど。 「やぁ。遅かったね。」 にこやかに珈琲なんてものを飲みながら、こちらを振り向いて手を振る黒羽快斗がソファに座ってくつろいでいるではないか! 「なんでいるんですか?!」 おかげで、冷静さを失って、ついつい叫んでしまった。 「君のご両親、優作さんと有希子さんは俺の両親の友人でね、しっかりと頼みますって鍵も預かってきたから、ここにいるんだよ。」 不法侵入なんて無粋な真似はしてないからねと言われても、納得できない。 「ちょっと、どういうこと?!」 あのお気楽夫婦のもとへ国際電話をかける。 『あ、優希。久しぶりだね。元気にしているかい?』 「ええ、元気よ。で、あれは何?」 『あれとは何の事だい?』 わからないよと言ってくる父親にぴしっと何かにヒビが入るのを感じる。 「あの黒羽先生のことよ!」 『ああ、彼のことだね?美和子君の知り合いでもあるし、友人の息子でもあるから、大丈夫だと思ったんだよ。』 ほら、ついつい優希が喜ぶようにと本をたくさん送ってしまっただろう?と聞かれて、ぎくりとなる。 ここにも、さすがというか優希の性格を良く知る者がいる。 『彼も了承してくれたから、しばらくその家に彼を住まわせるからな。』 家賃もないし、家事全てやってくれるだろうから、お前は楽が出来てしっかり食事と睡眠がとれていいだろうとはっはっはと相変わらずな笑い声が聞こえ、いつの間にか勝手に家の事も決められていて、むかついたので、これ以上話すことはないと言わんばかりに思い切りきってやった。 遠くで何かを言っていたような気がしたが、今の優希には届かない。 「まったく、ふざけたことをしてくれて・・・。」 「何がふざけたことなの?あ、電話終わった?」 快斗が顔を出して聞いてくるので、はい、終わりましたと答え、とりあえずリビングに戻った。 そして、しっかり本人から、借りていたけれど、家賃が高いから困っていたのだと言われ、ここだと家事が家賃代わりだって言われて、住み込みの家政夫もいいかもしれないと思って来たのだとすがすがしい笑顔と共に答えてくれた。 まぁ、本音としては父親の名前を利用して、優希ともっと近くなる為に立候補したのだが、それは黙っておく。 とりあえず、こうして奇妙な保健室の秘め事だけではなく、お家の事情まで加わるのだった。 夕食は、嫌味なほどおいしい料理が豪勢に出た。 しかし、優希はもともと食が細いためにほとんど食べれなかったけれど、あれだけの量は見事に机の上から消えるのだった。 「・・・よく食べるんですね。」 「優希が食べなさ過ぎるんだよ。」 すでに、名前の呼び捨ては気にしない。気にしたところでどうなることでもないからだ。 「で、この材料はどこから?」 一応、冷蔵庫にはこれだけの食材はなかったということを自覚している優希。 「もちろん、買いに走ったよ。まさか、あんなに何もないとは思ってもみなかったからね。」 「・・・すみません。」 とりあえず、顔は笑顔だが笑っていなかったので謝っておく優希だった。 そして、部屋に入ってきて、寝るまで出て行かないと宣言した快斗に、男の人が居て寝れるわけがないでしょうと文句を言っても、聞いちゃもらえなかった。 だが、保健室での時と同じで、意外なことにすんなりと寝付けた。 誰かの気配があれば、決して寝る事はなく、目を覚ますというのに。 「ゆっくり、おやすみ。・・・守るから。」 あの二人から、聞いたこと。どうして、優希が人前で寝ようとしないかという理由。 だから、自分の前ではすぐに寝る彼女が愛しくてしょうがない。 それだけ、許してもらえているのかと思うと。 とりあえず、側に居る事はそれなりに、無意識なのかもしれないが、認めてもらえているようなので、もっと自分自身を見てもらえるように頑張ろうと思う。 「その前に、明日からの朝食をどうするかが問題だな。」 一応、食材を購入したものの、まだ知り合って数日だ。好みを全て把握しているわけでもない。 まぁ、嫌いだといわれれば、無理には食べさせないし。 「俺自身もあるからなぁ。」 アレを食べたいといわれたらどうしようかと、密かに考えて恐ろしく思う快斗だった。 そして、次の日の朝。 「よく寝た。」 久しぶりに寝たかもと、美和子が聞けば怒られるようなことを呟いて、まだ寝ぼけているままに、顔を洗おうと下の洗面台へと向かう途中。 リビングに点いている明り。そして、聞こえてくる鼻歌。 「え?」 つい、中に入って見てしまい、どうしてと驚いている間に、昨日の出来事を思い出すのだった。 「あ、おはよう。もうすぐで朝食が出来るからね。」 どこから持ってきたのか、紺色のエプロンをして、カッターシャツにズボンでどうしてなのか眼鏡をかけている快斗の姿があった。 「仕事?」 「あー、ちょっと美和子さんに呼ばれてね。」 運転が荒いから、代わりの足役と答える。人前に出るから、またその眼鏡が出てくるわけねと納得した優希は、もう諦めてどうでもいいやと、目的だった洗面所へと向かう。 「あ、ちゃんと着替えてきてよ?」 「言われなくてもわかってるわよ。」 部屋に入ってきたら訴えるからと言われて、行きませんとしっかり返事をして引っ込んだのを確認して、水道を流す。 本当に、快斗はこの家に住む事になったのだなぁと思いながら、歯を磨いてすぐに着替え、快斗が用意した朝食に手をつけるのだった。 |