ガシャン――― 窓ガラスが盛大に割れて飛び散った 「いたっ・・・・。」 その付近にいた生徒は掠り傷を負った だが、中には一番危ない場所にいた生徒を、友人を庇った者が、腕を思い切り切ってしまったのだった 「優希っ!!」 「蘭はあっちで手当てしてもらってっ!!」 擦り傷の者達は後回しで、自分達で出来るのならお互い協力して処置しときなさいと、ここはこういった仕切る場面に慣れている一番多き名怪我をした張本人が指示を出す 「優希・・・動ける?」 「ええ。大丈夫よ。止血もしたから。」 誰もが心配する中、怪我を負った学園の美少女が保健室へと連れて行かれる 誰もが慌てているが、優希の姿を確認して、誰もが進路を譲るのだった 保健室の秘め事 「大丈夫だった?」 「はい。・・・ありがとうございます。」 「いいのよ。それに、何かあった時、困るもの。」 学校内で、優希をよく知る保健医の先生。優希の両親は、何かと目立ち、事件に巻き込まれては警察と仲良くしている人達だった。そこへ優希も誘拐されたり、子守と称してつれてこられたりしていたので、たいていの警察とは顔見知り状態になった。 この保健医は元々警察官をしていたために、顔見知りで事情をよく知っている。そして優希も自然といろいろ話すいいお姉さんのような存在。 そんな彼女は、同じ警察官の人と結婚した後、いろいろあってこの学校の保健医として入ってきた。 美人医として学園内でも優希と同様に有名なのだが、本人達は知らない。 「で、どうする?」 「そうですね。今頃教室では、きっと原因は何かともめたり騒いだりして授業どころでもなさそうですし。」 「さぼって寝ているのなら、ベッド全部空いているから、奥のにカーテン閉めて使ってくれたらかまわないわよ。」 「ありがとう、佐藤さん・・・高木さんに変わったんだったわね。」 「いいのよ。佐藤でも。優希ちゃんが呼びやすい方でいいんだから。」 そう言う彼女の言葉に甘えて、戻って授業を受ける気がなくなった優希は、ベッドの上で寝る用意をする。 「出血から、少し貧血気味だから休ませているって伝えておくわね。」 「どこか行くんですか?」 コートとバックを持って、入り口の言葉の欄に留守の言葉を入れているので、聞いてみる優希。 「あ、大丈夫よ。戸締りしておくから、誰も入ってこないし。」 「そうじゃなくって。・・・まぁ、いいわ。で、出かけるのよね。いってらっしゃい。」 「とりあえず、言ってくると答えておくわ。しっかり休んでおきなさいよ。どうせ、昨日も本を読んで寝てないんでしょ?」 図星だったので、優希は答えなかった。なので、やっぱりと意地悪な笑みを見せて、ちゃんと寝てなさい、いいわねと念を押して、この後にこれからしばらく第二保健室で勤務する事になったと言う、別の保健医がここへ来ることを伝え、彼女は出て行った。 「・・・そう言えば、そんな話もあったわね。」 あまり人には興味のない優希は、自分にかかわりのなさそうな教師の顔も名前も覚えていない。 そんなことがあったようなと、なんとなくで覚えているので、いざその時が来ても問題はないけれど。 「とりあえず、寝よう。」 布団の中に潜って、優希はすぐにすやすやと寝息を立てて眠り始めた。 保健室へと、黒い服を着た訪問者が現れた。 「あれ?」 札で出かけてますと書かれているが、この時間に来ても大丈夫だと保健室の鍵は預かっている。 なのに、中に入ってみても、誰かがいるような雰囲気ではない。 何より、以前に会ったここの保健医は、かなり元気で明るい女の人だったのだ。来れば、すぐに姿を見せて一言二言言うに違いない。 だが、奥まで入ってきても、それがまったくない。 「留守・・・なんだろうか?」 とりあえず、この時間だと言われているので、少し遅れているのだろうと、窓を開けて、適当に椅子を引っ張って腰掛ける。 そして、校長に渡された書類に一通り目を通す。 過去に通したものと似ているので、面倒になったが、一回ぐらいはと、読む。 彼は、一度呼んだものは大抵覚えているために、その辺は苦労しない。 そして、読み終われば、前とさほど変わっていない内容なので、もういいやと近くにある台の上に放り出して、美和子に渡す予定であった封筒を取り出す。 「・・・ん・・・すぅ・・・・・・・・・・。」 「・・・?」 突然聞こえてきた、寝息のような声。 一番奥のベッドはカーテンで遮られていて気付かなかったが、近づけば、はっきりと聞こえはじめる規則正しい寝息。 ふわ――――――っ 先ほど開けた窓から入った風が、そのベッドのカーテンを揺らし、少しだけ中が見えるようになった。 そして、そこで寝ている人の背中を見つけた。 「人、・・・いたんだ。」 どうして鍵を閉めてあったのかはわからないが、人がいることに気付かなかった自分に驚く。 だが、聞こえた声に、起きてしまうかと思えば、寝返りを打ち、こちらの方を見た顔。 その顔を見て、ドクンと高鳴る胸。じっとそこで立っていたのではないかと思ってしまうぐらい、長い時間の感覚。意識が戻ってきて、時間を確認すると、それほど経っていないので、はぁっと息を吐く。 そして、見たくなる瞳。聞きたくなる声。 こんなことははじめてだ。しかも、年下のそれもこれから生徒になる女の子。 だが、惹かれた。その寝顔に。 無意識の内に伸ばす手。後少しで、彼女の顔に自分の手が触れるかという時だった。 ガチャ・・・ ガラガラガラ――ッ この保健室の入り口の鍵が開けられ、扉が開く音。咄嗟に手を引っ込めて、入り口の方へと身体ごと向ける。 「あ、来てたのね。ごめん。黒羽君」 「いいですよ。お忙しいのでしょう?」 やっぱり来てたわねと、慌てる美和子に、今日からやってくる事になった新しい保健医である黒羽快斗は苦笑しながら、お疲れでしたら珈琲でもいれましょうかと聞く。 「敬語はいいわ。いつも通りで。・・・あ、彼女見つけた?」 「はい。驚きました。」 「ごめん。先に謝っておくわ。」 「別に、人がいると思っていなかったということで・・・。」 珈琲をいるわと答えた佐藤の為にインスタントの珈琲を用意しながら会話を続ける快斗は、美和子にまだ寝ている女の子に関して聞く。 「で、彼女は?」 「えっと・・・。」 「滅多に保健室でさぼらせるようなことをしない貴方が、ベッドを貸して、尚且つ部屋の鍵をしめて他の侵入がないようにした理由を聞いているだけだよ。」 鍵が閉まっていたのに、中で寝ていた女の子。あまり可笑しく思われない程度に彼女に関する情報を引き出そうとする。 「そうね。貴方には嘘は通じないものね。・・・これから、忙しくなるから、その時は貴方に任せるのもいいかもしれないわ。」 一人つぶやき、快斗の方を見た。 「彼女は、工藤優希。工藤優作とかつて女優の有希子の間に出来た子供。・・・わかるように、金銭的目的でいろいろあるの。それと、容姿が容姿なだけに、狙われる事が多いの。」 貴方だから、信頼して頼むのだから、彼女の意に反して手をだしたら許さないわよと釘をさして、美和子は続ける。 「あまり、容姿だけじゃなくて、食事や睡眠にも疎くてね。よく抜かすのよ。」 これは、知り合いとしては見ていられないほどのことをやってしまうから、強制的に場所を与えて、食事を用意しているのと言う。 だから、これから保健室・・・第二で相談室ということになっているが、見かけたら、たまに声をかけてほしいのだと言う。 食事をしたか。睡眠をとったか。 「・・・そうなのですか。」 工藤優作や有希子は、かなり有名であり、知っているし、娘がいることも知っているので、こんな身近に会う事があるとは思っていなかったので、驚く。 だが、そんなことよりも、もっと驚く事を言われる羽目になるのだった。 「そういえば、貴方!」 「はい?」 「そうよ、貴方料理できるじゃない?!」 実は、美和子はとてつもなく料理が苦手で下手だったりする。なので、旦那様にいつも美味しい食事を作ってもらっている。 その旦那様が優希の分も作ってくれるのだが、いつも遠慮するので、ここに場所さえあれば料理が作れる人間がいるのならもってこいだわと、なにやら勝手に話が進んでいくのに、ついていけずにいる快斗だったが、やっと自分が優希の食事係りに任命された事に気付いた。 「ん・・・。あ、保健室か。」 今何時だろうと、腕時計を見て、大分寝たなぁと思って伸びをしていると、仕切られているカーテンが開いた。 「あ、起きた?さ・・・美和子さんは今、職員室に出てるよ。」 知らない男が目の前に居た。そして、何より、知らない相手がいるのに、のん気に寝ていた自分に驚きが隠せない優希。 家の事情が事情なだけに、人の気配には敏感だと思っていた。 「あ、俺はね、今日からこっちの第二保健室に配属された補佐の黒羽快斗。あの人から、君の事は聞いているよ。工藤優希さん。」 昼食なしで寝ていたようだから、作っておいたよと、おぼんに簡単な食事をのせて、台の上に置かれた。 「あの・・・。」 「ちゃんと、聞いてるから大丈夫。それに、それに毒なんて入ってないよ。俺が作ったから、もし何かあれば俺を疑えばいい。」 とりあえず、食べないと彼女が戻ってきたら怒られるよと言うと、すごすごと優希は箸に手をかけて、それを一口口に含んだ。 美和子がわざわざ話したのなら、安心できる相手なのだろうと。 まぁ、警戒心を全て消すわけではないけれど。 意外と、おいしいので、少しお腹も減っていたので、二口三口と、次を口へと運ぶ。 その様子を離れた所から見ていた快斗は、食べてくれてたようで、ほっとしていた。 優希が半分ほど食べた頃、美和子が戻ってきて、どうやら彼が、しばらくの間自分の食事係りに任命したという事を知った。 まぁ、おいしかったしそれでもいいやと思う優希。しかし、毎回なんてことになれば、彼に迷惑がかかってしまう。 「別に、私だったらちゃんと食べるわよ。」 「食べないから困ってるんでしょ。」 「・・・食べるわよ?」 「嘘おっしゃい。」 そんな会話を聞いて、苦笑している快斗。 「それに、黒羽さんに迷惑がかかるでしょ。」 毎回なんて、時間をつかわせるわけにもいかないしと言えば、確かにそうねと、今更思う美和子に、やっぱり周りが見えていなかったのねと心の中でため息をつく。 しかし、意外なことに一人分も二人分も同じだし、せっかくお近づきになれたことだから、毎日作ってあげるよと言い出した。 「・・・あの。毎日は別に・・・。」 「ちゃんと食べないと健康によくないからね。それに、俺は君の事を気に入ったからね。」 「あら。そうなの?じゃぁ、近づけないようにした方がいいのかしら?」 「ちょっと、美和子さん。そんな事を言うのは、料理、出来るようになってからにして下さい。」 「む。言ったわね。じゃぁ、今度食べさせてあげるわ!」 「・・・遠慮しておきます。」 「何よー。」 どうやら、美和子の料理を快斗も知っているということを知り、優希も知っていたので苦笑する。まぁ、見た目もあれだが、味も危ないもので、旦那様が慌ててキッチンの出入りを禁止にしたくらいだ。 きっと、一生旦那様は奥さんの手料理を食べる事は出来ないだろう。どうにかなるのかもしれないが、それは程遠いと思う。 「あ、これ。」 忘れるところだったわと、白い布の塊を渡す美和子。 「あ、ありがとうございます。」 快斗はそれを受け取り、広げて袖を通す。 「いつも黒い服ばっかりだったけど、白衣も似合うじゃない。」 「そうですか?」 「・・・眼鏡。」 「そういえば、目がいいはずなのに、眼鏡よね。黒羽君。」 優希の言葉に、今更疑問に思った美和子が聞く。 「別に、深い意味はないですよ?伊達眼鏡ですし。」 なら、どうしてかけてるんだと思っていたら、優希の心を見透かすように、呟く声が聞こえてきた。 「危ないお嬢さんから身を守る為の壁だよ。」 身を守るって、確かに眼鏡が嫌味なほど似合っていて様になっているけれど、なくても己の身ぐらい守れそうなものなのだが・・・。」 「それに、これは形見なんだよ。」 「あ、おじ様のね。」 聞けば、彼の父親は数年前に亡くなっているのだという。その父が使っていた遺品で身に着けられるものがこれなので、持ち歩いているらしい。そして、目は悪くないのに、レンズではなくガラスを入れて使用しているらしい。 「ファザコン?」 「違うよ。尊敬はしていたけどね。」 追い越せない壁だったよと言う。 こうして、その日はどうしてか三人でいろいろ話をしてお開きになった。 幼馴染達のことを思い出して慌てるが、美和子がしっかりと伝言で先に帰るように言っていてくれたため、ほっとする優希。 「あ、明日、第二保健室に朝一で来なさい。」 「?」 「どうせ、ご飯食べて来ないんだろ?用意しておくからさ。」 珈琲だけは駄目だからねと言われて、固まる優希。そのへんもしっかり美和子に言われてぬかりはないらしい。 当分、優希はきちんとした食生活を送れそうだ。 明日から、他の者達が知らない秘め事の時間が始まる。
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