今日も今日とて借り出された事件現場。

 その場所に何処か見覚えがあった某・名探偵が、概容を説明していた警部に隠れて溜息を付いた事に…幸い、誰も気付かなかったようだ。




多事多難 -Machiavellism 7-





 事件直後と言うこともあり現場は騒然。刑事に警官・鑑識・関係者多数が行ったり来たり。
 それどころか此処は野外。しかも白昼堂々と行われた犯行だった為、見慣れた黄色いテープの外には野次馬が数十人。時間を追うごとに報道関係者と思われる人間まで増えて来ている。

 そんな中、自主登校と言う名の長期休暇中を謳歌していた(最近某所でかなり有名な)猫被り名探偵こと工藤 新一は──とある理由から隣家の少女が作った新薬のモルモット(?!)にならなければいけなくなっていた危険な時間(…)を「要請」と言う大義名分(?)によって断り、現場についてから改めて確認した周囲の状況と今聞いていた警部からの状況説明に──もう1度溜息を付いた。


「(…なんでよりによって此処なんだろーな…)」


 …なんだか色々と突っ込み満開な上、無駄に補足説明や裏事情満載なのだが、此処はとりあえず(自分の身の安全の為にも)スルーの方向で。



 ──白昼での殺人事件。

 場所は冬でも人気なオープンテラスが楽しめる喫茶店。
 時刻は昼食時と言うこともあり、現場となった店には多くの客。テラスの向こうにも多くの通行人。

 目撃情報は多数取れたものの、同時に人込みに紛れる事も容易だった為…その情報も多種に渡る。
 だからこそ犯人は周囲からの目を誤魔化し、尚且つどさくさに紛れて逃げ切れると確信してこの場所を選んだのだろうが──新一が気にしているのは(当然ながら)そこじゃない。


 要請を受け家を飛び出した新一は、事件現場へと向かいながら何故か感じる「嫌な予感」と戦っていた。

 本来の彼ならば、どんなに切羽詰った事件でも「お迎え」が来るまでは邸内から1歩も動こうとはしない。
 しかし「お迎え」が待ち切れないほど、数分先でにっこりと微笑んでいた件の少女との親密な時間(…)は過ごしたくなかったらしい。嬉々として(いつもなら嫌がるはずの)寒空へと飛び出したのだから。(笑)


 ……ちなみに、親密な時間(…)を過ごす事になった原因は彼にあったのだが。


 まあそれはともかく。

 「嫌な予感」は現場に近付くと徐々に大きくなるものの、電話で聞いていた時には何も思わなかったし感じなかった。
 何故なら、新一はその場所を見知ってはいたが、自力で此処に来たのは初めて。
 だから場所を聞いてもピンとは来ず、自分の目で見てから(一応優秀な)脳内が警告を鳴らしていたのだ。


 …なんたって此処は、いつもは何処かのやさぐれが運転するバイクによって来ていた場所だったのだから。(笑)


 毎回騒動に巻き込まれては辿り着いていた場所なだけに、この場所に来るのはいつも異なったルート。自分で此処までの道を覚える事は無理であり、新一自身に覚える気も皆無。
 その為、新一は現場が近付くに連れてヒシヒシと感じていた「嫌な予感」を、この場所に到着してから確信すると言うなんとも見事な事態に陥ったのだ。

 つまり…?


「(マジでなんでアジトのすぐ傍なんだよ…)」


 …ってことである。(笑)



 現在までに解っている証拠品や情報を集めた後、徐に何処かへと電話をかけていた新一は、繋がらない相手に「ちっ」と(現場では)らしくもない舌打ちをしてからふらり、と現場から離れる。
 その際見事に気配を消し、誰にも見付かる事無く抜け出しているのだから…たいしたもんだ。(笑)
 そして脳内に残っている記憶を探りながら──同時に思い出されるドンパチは意識的に削除しつつ──某所へと足を進め…僅か数百メートル、という場所で立ち止まった新一は、再び溜息を付いてから目の前にたむろっている威勢が良さそうなアンちゃん(笑)達に向かってこう言った。

「やさぐれは?」

 一言デスカ;

「あぁ?! 誰だよ、兄ちゃん」
「つーか此処が何処だか解ってンのかぁ?」
「おいおい兄ちゃん。泣かされる前に帰ったほうが良いぜ?」
「それともなに? オレ達に鳴かされたいとか?」
「それだったらお相手してやっても構わねぇぜ? 兄ちゃん美人だしなぁ」

 ニマニマニヤニヤと汚い笑みを浮かべる男達に対し、特に言い返すこともせずただ半目で眺めていた新一。
 しかし、こっちの話も聞かずに勝手に進めて行く相手に好い加減時間が惜しくなったのか、

「いーからこっちの質問に答えやがれ」

と、今までの言葉をさらっと流してみせた。

「…てめぇ」
「こっちが優しく相手してやってるからって調子に乗ってンじゃねぇぞ?!」

「別に乗ってねぇし。」←あっさり。

「少し痛い目に合わなきゃわからねぇみたいだな」
「日本語が解ってねぇのはそっちだろ。やさぐれ出しやがれ」
「──おい、野郎ども!!」
「ちょーど暇してたンだよ。少し遊ばせてくれや」

「…お前等、本当にやさぐれの手下か? 短絡的過ぎなんだけど」

 わらわらと集まってきた数はざっと見積もっても10人程度。
 あんま時間ないンだけどな…、とか思いつつもこの程度ならすぐ済むだろうと腕時計に視線を1つ。
 無駄に時間は使いたくない。ついでに体力も使いたくない。…此処を突破したらやさぐれに1発食らわしたいから。(爆)


「しゃーねーか。やさぐれじゃねぇけど1分でカタ付けてやるよ」


 そんな感じでリアルファイト開始。


 だけど新一サン?

 …彼等に「やさぐれ」は通じないと思いまス。←その通り(笑)






 1対10のリアルファイトが開始された直後。
 アジトの中で黙々と──時々文句を言いつつ──何かをしていたやさぐれ怪盗こと関東連合軍総長・黒羽 快斗は、部屋に飛び込んで来た手下の1人に眉を顰めた。

「大変です総長! 殴り込みですっ!!」
「あぁ゛? 外に暇人集めてあんだろ」

 今良いとこなんだから邪魔すんな。

「それがアイツ等じゃ相手にならねぇくらい強いンすよ!!」

 返事はするものの全く動こうとはしない…てか、殴り込みなんかには興味ないといわんばかりの態度。それでもアンタ総長かよ、と突っ込みたくなるのだが、生憎とこんなヤツに突っ込めるのは1人しかおらず。
 夜にアジトへと詰めているメンバー(人数いすぎて交代制・笑)が1人でもこの場にいれば、まだどうにかなっただろう状況も今はどうする事も出来ず…

「情けねぇ連中だな。つーか、オレも今ファイト中だから無理」

 黒い薄型の機械を見つめながらきっぱり言い捨て。
 機械の中央にある小さな画面に映るのは、誰でも1度は見覚えのある小さな牌が並び──って、麻雀ファイトクラブかよ!!←黒い機械はPSP(笑)


 …外から聞こえる阿鼻叫喚なBGMも、今の総長の耳には届いていないらしい。


「くそ、またリーチかよっ!」
「そ、総長…;」
「誰だよこのカズヤって!!」


 ──と、そこに突っ込める唯一の人(←当事者不本意)登場。


「おいこらやさぐれ」

 同時に黄金の右足炸裂。←挨拶。

「あ? …名探偵じゃん」

 画面を見続けながらソファーを右から左へ移動し、さらっと声の主を当ててみる。←避けた。

「避けンじゃねぇよ!」
「や、避けるし。つーかナニ? 殴り込みってアンタ?」
「殴り込むつもりはこれっぽっちもなかったンだがな」


 ……嘘付け。


「総長…? お知り合い、ですか…?」

「オシリアイになりたくてなったわけじゃねぇけどな」
「ああ。お前等って昼間しか顔出さねぇからコイツ知らねーのか」
「そのおかげでオレの貴重な1分が無駄になっちまった」

 まあ、寒いし良い運動にはなったけど。

「あー?」

 やる気満々だったンじゃねぇか…

 相変わらず視線は画面に向けつつ、それでもしっかりと突っ込む処は突っ込んでみる快斗。
 そんな快斗に、新一は不機嫌な表情とオーラ(笑)を隠す事無く全面に押し出し、

「てか、そもそもオレの電話に出ねぇお前が悪いンじゃねーか!!」

と、「てめぇが犯人だっ!」とでも言うように指差した。(笑)

「でんわ〜ぁ?」
「てめぇが出ねぇから、このオレがわざわざ出向いてやったんじゃねぇか」

「…お前何様だよ」

「オレ様。」

「ソーデスカ。…って電話?」
「鳴らしたぞ。今から5分以内に」

 しっかりすっかりやさぐれの影響を受けてしまった名探偵。(ちょっと微妙)
 いつもは自分が言うセリフ(笑)をさらっと返され、それでも「まあ、相手は名探偵だしなぁ」と流すことにしたらしい快斗は、言われた内容をもう1度反復して数分前を思い返す。

「……あー、鳴ってたかもしれねぇ…今ファイト中だから無視ったわ」


 ──あっさり。


「てめぇ…」←怒。
「仕方ねぇだろ? 今日もカズヤにやられまくりなんだぜ?」

 発売から密かに(?)アジトで流行っている麻雀ファイトクラブ。
 その中で有名なのが、誰とやっても勝ち続けている無敗の帝王『カズヤ』。
 何処の誰とも解らない。通信対戦なので相手の顔も解らない。
 だが『カズヤ』は誰と戦っても必ず勝ちを攫ってしまう。相手がこの馬鹿みたいな知能指数を持つやさぐれ怪盗であっても。

 その事は新一も知っていたし、ナニを隠そう新一だって暇な時には某・ラーメン屋とかで対戦してたりもする(笑)のだから、『カズヤ』の強さは充分把握している。把握してはいるが…ソレとコレとは別問題。

「だからってオレ様の電話を無視るとは良い度胸じゃねぇかっ!!」

 再び込み上げてきた怒りのままに新一が足を振り回せば、まだまだ画面に集中していた快斗も素早く反応し、無駄に長い足を動かして傍で2人のやり取りを(茫然としながら)見ていた手下の背中を押した。
 猫被りにとって、世界は自分を中心にして動いているものだと思っている。まあ、それは目の前で身代わりを立てたやさぐれにも言えることなのだが。(笑)


 …見事に顔面ストライクな新一の蹴りで、強制的に身代わりとなった彼は壁まで軽く吹っ飛んでいく…


「ありがとうタケウチ君。君の犠牲は忘れない」
「ち…、無駄なモン蹴っちまった」

 漸く顔を上げた快斗が壁にぶち当って気絶している手下(竹内君、20歳。今月ぷりちーな彼女が出来たばかり)に向かって無駄に爽やかな笑みを見せる。

「出来たばかりの可愛い彼女はオレが慰めてやるよ。だから安心して成仏してくれたまへ」

 心なしか「キラーン☆」と何処かが輝いたような錯覚に陥る。

「…そっちの方が成仏出来ねぇと思うケド?」

 気絶した竹内君が聞いていたならば「その通りです…」と切実に同意しそうな突っ込みを入れた新一。でもその原因になった実行犯はアナタです;


「──で? 昼間っからなんの用?」

 使い終わったゲーム機をポケットに仕舞いながら尋ねた快斗に、そういや漸く顔上げたな…と今更ながらに確認した新一は、

「もう終わったのか。負け?」
「タケウチ君が飛んでる間にロンされた」
「オツカレ。んじゃ、ちーと手伝いやがれ」

 解り切っていた結果だけを聞いて早速本題へと入った。
 しかし相変わらず重要な言葉が抜けている新一の日本語は、流石の快斗でもすぐには理解出来ない。(笑)

「もっとまともな日本語使いやがれ」
「そこでコロシがあったンだよ」
「コロシ? そりゃまた威勢が良いヤツもいるんだなぁ」
「で、明確・正確な目撃者及び犯人が欲しい」
「欲しいだろーな」
「だから手伝え」
「あ゛?」
「近場だし、お前の手下で見てるヤツとかいるだろ」

 ついでにお前の情報網も貸しやがれ、と続けた猫被り名探偵に「オレはお前専用の便利屋じゃねぇんだぞ?」と思いつつ、

「…ま、年明けの借りもあるし。「総長として」なら手伝ってやるよ」

と、携帯電話を取り出しながらやさぐれ怪盗は口元を歪めた。




 ──なんだか偶然にも犯人と出くわし、興味本意にその後をストーカーしていた(…)やさぐれの一味が知らなかった事件の事を聞き、ソイツの居場所を猫被りへと伝えたのはそれから1時間後のこと。(笑)




【久し振りのフリーはやっぱりコイツ等(笑)】

 感謝感激の150000hitありがとうございます!!

 なんだかあっという間だったような気がしないでもないですが(笑)、桜月的にとっても嬉しい15万ヒット記念は…やっぱりやさぐれでした(笑)
 アンケートで書かれてあった「事件の現場近くで集会中の快斗に目撃情報を求める新一」と言うのをネタに使わせて頂いたのですが…今まで以上におかしなことになってしまった;
 拍手返信では軽く触れていた(笑)本文中にあった「麻雀ファイトクラブ」ネタは…そのうちまた出てきます。
 そして「親密な時間」を過ごす事になった原因は…長期休暇中の猫被りの生活ぶりを想像して頂ければ容易に思いつくかと思います(笑)

 今回のフリーは2月末まで。この期間中でしたらお持ち帰り自由。報告も任意です。
 桜月を喜ばせてくれる方(笑)は、BBS・メルフォ・拍手コメント欄にヒトコト頂ければと思います!

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桜月samaのサイトにて、恒例のフリーを頂いてきました
やさぐれシリーズですよ。相変わらずなお二人が。
待ってましたという感じでまた続きが読めてほくほくしてる李瀬です。
それにしても、タケウチ君、無事だったのでしょうか・・・(少し心配というか、かわいそうというか・・・)
150000HITおめでとうです。そして、素敵なお話をありがとうございます。



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