──今年、貴方にとって最大の出来事は何でしたか? そう聞かれたら、きっと迷う事無くこう答えるだろう。 「そんなの、アイツと出会ったことに決まってンじゃん?」 適者生存 -Machiavellism
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12月の下旬になってからようやく冷え込みが激しくなってきた。 その寒さに身を竦めながら「今年ももう終わりだなぁ…」などと柄にもなく呟いたのは名探偵と名高い工藤 新一。 彼がそんなことを思わず呟いてしまったのは……呟きたくなるほど今年は様々なことが新一の周囲で起きてしまったから。 今年の初めには元の姿に戻り、なんだかんだと組織を潰して──それでもまだ何人かは逃げていて──学校にも復学して、世間に顔を出すのは避ける様になったものの、それでも相変わらず警察からは要請を受けていて、逆成長なんてものを経験する前と対して変わらない、それなりに平凡な生活を送っていた。←平凡…? このまま高校を卒業するまで続くンだろう…などと安易に考えていた(?)新一の周囲が急変したのは、猛暑と言うよりも酷暑だった夏が終わったあとの10月。 要請帰りの帰路を急いでいた新一は、暴走族の溜まり場になっているとある路地を抜けようとして…絡まれた。 だが、我等が名探偵はそのくらい予測済み。(笑) 寧ろ解かっててこの道を選んだくらいなのだから、当然その程度の連中にやられるわけがなく。 しかも実はストリートファイトが好きだった優等生な(ハズの)彼は、ここぞとばかりに被っていたネコを脱ぎ捨て久しぶりのファイトを(敵を打ち倒しながら)楽しみ… …すっかりテンションが上がった為か、気がつけば周囲を囲まれてしまっていた。←お馬鹿さんv それでも余裕の名探偵は肉弾戦をあっさりと捨てて秘密兵器(コナン時代の愛用品の数々)を使おうとした処で、事態を一蹴した人物と出会う。…いや、出会ってしまったのだ。 その人物と言うのが、世間では有名な怪盗紳士であり、この辺りの暴走族を一挙にシメているどころか関東連合軍の総長までも(遊びで)務めているやさぐれ怪盗こと黒羽 快斗。 タバコ吸う、酒は飲む、言葉は悪い。 コナンの時に探偵と怪盗としてしか顔を合わせていなかった新一は、そのやさぐれ具合に唖然としながらも否定はせず。 それどころか、散々文句(らしきもの)を言ったにも関わらず最終的には「手合わせしろ」と申し出た。 名探偵の正体は根っからのファイト好きだった…。 それから「狙ってるだろ、お前!」と叫びたくなるほど何度も何度も何度も(←エンドレス)顔を合わせ、やさぐれの騒動に巻き込まれ、手合わせでは思いっきり手加減されて本気でキレつつ、それでもちょっとだけゴミ(と言う名の西のバカ)の処理を手伝ってもらいホクホクもした(笑)のが、…今でも新一は思う。思ってしまう。 「あの時、あの道を使わなけりゃこんなことにはなってなかったのにな」 …遠い目をして言っていたことを付け加えておこう。(オプション?) ──そんなことを振り返りながら歩く寒空の12月31日。 年の瀬にはどうしても多くなってしまう事件の数々に今日も今日とて呼び出しを受けていた猫被り名探偵は、随分前に何処かのやさぐれによって購入されたコートを着込み、首にはクリスマスに幼馴染みから貰った手編みのマフラーを巻いて帰路に着いていた。 …ちなみに幼馴染みからのマフラーは、最近出来たらしい彼女の恋人へのプレゼント(手編みのセーター)で使用し余った毛糸の処理方法として編まれた物で、丁度良いゴミ箱扱い(…)以外そこに深い意味はない。 「寒い! 寒い寒いさむい!!」 コートのポケットに手を突っ込みマフラーに首を竦めながらグチの数々。…まあ、グチと言っても「寒い」としか言っていないのだが(笑) 暑さに弱く寒さにも弱い猫被り(…猫だけに?爆)にとって、午前0時を間近に控えたこの時間のこの冷え込みはさぞツライモノなのだろう。 なんたって彼の自宅である工藤邸は年中常春状態なのだから…。 …つまり、いつでも快適な温度でエアコンが稼動している、と。 「くっそー、高木サンに送って貰えたら楽だったンだけどなぁ」 流石にこの後の予定聞いたら邪魔出来ねぇし… いつもなら上司からの指示がなくとも「送っていくよ」と自ら言い出す某・お人よし刑事は、猫被り探偵のおかげで早く片付いた事件に喜び、(でも周囲の刑事には聞こえないように注意しながら)こう言ったのだ。 「佐藤さんと初詣でに行く予定だったんだよ。工藤君のおかげで予定変更しないで済みそうだ」 本性はどうであれ(笑)世間には猫を被っている名探偵がそれを知っていて「送ってくれ」とは言えず──いや。言おうと思えば言えたし、言わせるようにも誘導出来た(…)のだが、高木に恨みも悪意もない上いつもナニかと不憫な気がしていたので、にっこり笑顔で「よかったですね」と答えておいた。←をぃ。 その後、他に送ってくれそうな刑事がいないかとさり気なく周囲を伺ってみたのだが、何分事件解決後で慌ただしく、かなりの人数が外へと出ていたため適任者が居らず。 馴染みの警部に感謝と申し訳なさそうな顔を同時にされながら、やはり笑顔で「大丈夫ですよ」と内面渋々仕方なく本庁を後にした。 ──そして、先程のグチに繋がる。 「あー、くそ! 缶珈琲でも買うか?」 年明け目前のこの時間。 眠らない街なのは相変わらずだが、それでもいつもより人の通りは多い。 これから神社へと向かう気が早いカップル。今までが忘年会でこれからが新年会だと騒ぐ酔っ払い。 その人込みを避ける様、大通りからは1歩外れた道を歩く。 いつもなら薄暗くひっそりとしているその道も、今日ばかりは所々で店の明かりが漏れ…大通りに比べれば極僅かだが、それでも疎らに人が歩いている。 「でもなぁ、珈琲くらいじゃすぐ冷えちまうし…」 マフラーに埋まった口元をもごもごと動かしながら独り言。 出てきた言葉は少しだけ口元を温め…すぐに冷やしていく。 「…やっぱラーメンか…?」 この時間なら、あのやさぐれもあっちにはいないだろうし… 寒い夜にはラーメン、とちょっと微妙な認識をこの数ヶ月で持った新一。 行き付けであるラーメン屋(店名:「屋台ラーメン・コバヤシ」)を思い浮かべ、間髪入れずに脳裏を過ぎった某・やさぐれ(←ラーメン屋はコイツの紹介だからイコール認識されている・笑)のスケジュール予測を立てる。 ──なんたって今日は年末も年末。 関東の暴走族を一気に仕切っている(らしい)ヤツなら、今頃は年明けにする集会の為にアジト(があるらしい)にいることだろう。 …続々と集まる手下連中(…)に頭を下げられつつ。←年末の挨拶(笑) 「よし。挨拶兼ねて食いに行くか」 推理出来るほどやさぐれの行動と状況を把握している自分に少しだけ遠い目をしつつ、それでも意識的にそれを排除(笑)して寄り道を決める。 そう言えば朝にトースト食ってから何も食ってなかったな…と、隣家の少女が聞けば眉を吊り上げるだろうことを呟きつつ、進む方向を少しだけ右に変更。 物静かだった道から一変。喧騒と光が溢れる大通りへと出る。 車やバイク、人々がごった返す交差点を横目に、少しだけ足早に足を進めながら「この前から炒飯が増えたンだっけ」と新しく追加されたメニューを思い出していた処で… 「あっれ〜? なんだか見知った人はっけ〜ん♪」 …妙に明るい声が後ろから聞こえた瞬間、新一の身体は宙に浮いた。 「てめぇ…(怒)」 「よ、めーたんてい。元気かぁ?」 「ああ元気だよ。精神的にはともかく」 「元気そうでナニヨリ。」 「つい1週間ほど前にも同じ返事を返したがな」 いつかのように片手で抱えられたまま答える。 結構素敵なスピードで移動する地面が視界に入っているこの状態では、身体的には元気でも精神的にはどうだか解からない。(笑) しかし連れ去った相手はそう言っている新一の言葉に気付きながら、敢えて…いや、全て含めてワザとらしくも笑って見せた。 「これも前に言ったンだが、熱風と音がウザイ」 「あー、悪いケド停まってる暇ねぇンだよ。自力で体勢変えろ」 「はぁ?! てめ、勝手に連れ去っといてナニ言ってやがる!」 「仕方ねぇだろ? この時期、「年忘れ〜」とか言って集団で来るンだからさ。バカも集まれば結構な人数ってな」 「……あ゛?」 エンジン音の影響でかなり大声で会話を交わしていた2人。 そこで告げられた不審な言葉に、新一がやさぐれに向けていた視線を前(走行方向からすると後ろ)に移してみれば… 「おらおら黒羽〜ぁ!! 逃げンじゃねぇよ!」 「てめぇの首も今日までだかンなぁ! 覚悟しやがれっ!!」 大量に追いかけてきているバイク集団。 その数は見ている間にも増えていっている…気がする。 …こっち(←大通り)の喧騒の原因はコイツのせいだったのか… 「ダレが逃げるって?! はっ、バトれる場所に案内してやってンじゃねぇか」 後ろからの罵声に不敵な笑みと共に言ったやさぐれに、「どーりでバイクの排気音が煩かったはずだよ」と半場諦め気味だった新一が大声を張り上げた。 「てめぇ! その最中にオレを拉致ってどーする気だよっ!!」 ──ああ。素敵にいつもと同じパターン。(笑) そして…? 「おい、やさぐれ」 向かってきた見知らぬ男を蹴り倒す。 「なんでございましょー? 名探偵」 のんびりとナイフを交わしながら首だけで振り返る。 「…なんでオレは今、この集団の中心にいるンだ?」 間髪入れず蹴り上げていた足を振り下ろして…もう1人撃破。 「ンなの、お前がオレと一緒にいたからだろ?」 隙を狙ったつもりだろう相手の顔面に裏拳1つ。 「だから! てめぇの争いごとにオレを巻き込むんじゃねぇって何度言えば解かるんだっ!!」 その叫び声は寒空と周囲の喧騒と、何処からともなく聞こえてきた年明けへの歓声の中に消えていった── …因みに新一が言っていた1週間前にも今と全く同じ会話がなされていたことを付け加えておこう。←クリスマス(笑) . 【年末年始はやさぐれで♪】←キャッチフレーズ(笑) 明けましておめでとうゴザイマス!! 昨年の年忘れ(ぇ)にKOAで連載したやさぐれで新年の幕開けをしてみたいと思います(爆) 初めての方でも入りやすいように説明オンパレードで振り返ってみた1年。 …まあ、KOA連載だったのでこんな形式にしてみたんですが…ちょうど区切り的にも良いし(笑)ここからでもお持ち返りしやすいかな、と思って♪ 猫被り探偵の去年は見事に10月からの印象しかありません(笑) ──そんなわけでして(笑)今回のフリーは1月10日まで。 KOAの再録品ですが、それでもよければお持ち帰り自由です。その際の報告も任意。 勿論、BBS・メルフォ・拍手コメント欄にヒトコト頂ければ桜月がルンルン気分で舞い上がりご挨拶に伺います ++++++++++++++++++++++++ 年末に連載されていたやさぐれシリーズですよ。 この先も、かわりなく新一はやさぐれな快斗(キッド)によって騒動に巻き込まれていくのでしょうね。 そして、いつか新一も快斗に近くなったりして。なりそうだな。 手や足が先に出てそうだ。回りは気をつけないといけませんね。うんうん。 本当に素敵なお話ありがとうございます、雪花sama どうか今年もよろしくしてやって下さいです。 戻る |