珍しく平和な秋の空。
 事件の呼び出しもなく、極々一般的な学生時間を過ごしたし、外を歩くとナニかと遭遇するやさぐれにも会わない。
 本当に珍しくも平和な1日だったな…などと呟きつつ、暢気に駅前方面へと足を進めていた。


 …が。
 このまま平和に終わったのならば、「やさぐれシリーズ」にはならない。(笑)


 ──そんなわけで…?




手練手管 -Machiavellism 4-





「工藤君? 工藤君ではありませんか?」

「?」

 折角平和なんだから…、と駅前へと足を向けていた(←用事は本屋・笑)処を呼び止められる。
 何処かで聞いたような気がする声に振り返ってみれば…やっぱり何処かで見たことがある男が手を上げていた。

 …学生服を着て、その上にちょっと常識を疑いたくなるコートを羽織っている男。

「(何処で見たっけ…?)」

と、首を傾げて数秒。

「……白馬?」
「僕のことご存知だったんですか?」
「え? …あ、ああ…まあ、な」

 思い出せたことで思わず呼んでしまった呟きをしっかり聴き取られ、マズったと思いつつも適当に頷く。

 名前を思い出したことでクリアになった記憶。
 そこで目の前の男と対面していたのはオレであってオレじゃない。高校生の『工藤 新一』としては初対面だ。

「そっちこそ、よくオレのこと知ってたな」
「工藤君の事を知らない探偵など、日本にはいませんよ!」

「…そうか?」

 一応初対面だし…と、社交辞令ヨロシク鸚鵡返し。
 すると何故だか興奮気味に返事をされ、思いっきり首を傾げてしまった。

「(…コイツ、なんかヘン…)」

 折角、珍しくも平和な放課後だったってのに…
 こんなことなら、声かけられた時に振り返らずスルーしとけばよかったな。なんか服部属性(笑)だしコイツ。
 さっきまでの平和には亀裂が走り、パラパラ音を立てながら崩れ始めてる気がする。

 …いや。崩れてるンだろうな。

 1人切々と、オレがどれだけ有名なのかと語っている男の背後に、見覚えのある黒髪を見つけた時点で…


「おい、白バカ。そろそろ移動…あれ?」

 目の前の男と同じ制服を着た1人の男。
 そいつは更に後方にいるセーラー服の女の子達を指差しながらこちらへと足を進め…オレに気付いて言葉を止めた。

「…………。」

「…………。」


 お互い思わず沈黙。


「黒羽君…」
「…青子達が喫茶店にでも行こうってさ」
「買い物は終わられたんですか?」
「休憩した後また行くらしいケドな…、で。お前はナニやってたわけ?」
「ああ…工藤君、紹介します。彼は僕と同じクラスの黒羽 快斗君。黒羽君には…必要ありませんよね」
「どーいう意味だよ。まあ、有名人な名探偵を知らないわけないけど」

 やり取りが続く中、白馬の意識がアイツへと向いたのを確認して溜め息を付く。
 なんだってこんな処でコイツと会わなきゃなんねぇんだ?

「どーも、ハジメマシテ」
「…初めまして、黒羽…君?」
「快斗で良いよ。オレも新一って呼ぶし」

 …呼ばねぇからお前も呼ぶな。

「事件?」
「いや…、たまたまこっちに来ただけだ」
「ふぅん…あ。連れ呼んで来て良いか? 待たせっぱなしもマズイし」
「ああ」

 怪盗モードでもなく、既に見慣れてしまったやさぐれモードでもないアイツは、どうやら学校では酷く明るい性格らしい。
 始めて見た「一般人」モードに、込み上げてくる笑いを隠すので四苦八苦。
 もっとも、オレもオレで「優等生な探偵」モードで接しているのだから、向こうも今頃は意地の悪い笑みを口元にでも浮かべているはずだ。←正解。

「工藤君…、君は、黒羽君を見てどう思いますか?」

 何気なさを装って口元へと手をあてたオレに、今までのテンションの高さとは違い、至極真面目な顔つきで白馬が尋ねてきた。
 その前触れもない質問に浮かびそうになっていた笑みはすっかりと消え失せ、代わりに疑問だけが浮かび上がる。

「は?」
「僕は彼が怪盗キッドだと思っているのですが…何か感じませんか。彼から…」

 バレてんのか?

 …いや。アイツがそう簡単にヘマするとは思えねぇし…

「……アイツが? 証拠でもあるのか?」
「…いえ、証拠は何も…ただ、彼の髪の毛と現場で採取したキッドの毛髪のDNAが…」
「現場で採取した方法は? 本人の髪を掴んで直接取ったのか?」
「彼がいた場所に落ちていました」

 やっぱりな。
 カマかけと直感、ってやつか。

 …マジでコイツ、服部属性だな。


「──じゃあ、証拠能力は薄いだろ」


 そう言えばコイツの親って白馬総監だったっけ…と、今更なことを思い出しつつ、表面上が猫被り100%なだけに内心は毒舌オンパレード。
 総監にはお世話になってるし、たまに美味い寿司屋で奢ってくれるから(…)好感がある人物なんだが…親の出来が良いと息子のレベルは落ちるものなのか?←例:大阪府警本部長とその息子。

 徐々に話題とは違う方へと思考を向けつつ、それでも(表面上は)冷静に自分の理論を口にする。

「その場にあったからと言って、それが必ずしもキッドのものとは限らない。アイツは変装の達人だし、変装するからには対象のデータや私生活も把握しているはずだ。そんなヤツが、捜査の撹乱を狙って他人の毛髪を置いていっても不思議じゃない」

 ……まあ、本当はバッチリ本人のものなんだけど?

「それに…お前、クラスメートなんだろ? お前の服に付着していた可能性だってあるし、キッドがお前の友好関係を調べてそうした可能性だってある」

 過去、中森警部のお嬢サンに変装したことだってあったらしいじゃねぇか。
 正解を当てていても、そこに辿り着くまでの計算式がきちんとしてなきゃ、どれだけ喚いても証拠能力は薄い。やさぐれを庇うつもりはないケド、『探偵』として常識だと思えるそれを省いて答えを出そうとしている白馬は目に余る。

「(どーせ捕まえるンなら、しっかりと証拠集めて戦略練って。んで、アイツをギャフンと言わせてから捕まえろよな)」←色々おかしい。

 腕を組んであっさりと答えると、白馬は納得したのかしないのか…返事をせず背中を向けているやさぐれに視線を送っている。
 人に意見を求めたンだから返事くらいしろよ……って、オレも(推理中は)似たようなモンか。


「──ありがとうございました」
「? 別に、礼を言われるようなことは言ってないケド?」
「いえ…、確かに工藤君の仰る通りです。まずは証拠を固めなければ…」

 あ。アイツを疑ってるのは変わらないワケね。別にいーケド。オレが困るわけじゃねぇし。

「それより工藤君。これからお茶など如何ですか?」
「は?」
「先程のアドバイスのお礼と…記念に」
「……何の?」

 アドバイスってのはまあ、納得したとしても…記念?

「勿論、こうして出会えたことのです! 是非とも親睦を深めましょう!!」

「………………。……や、でもお前、連れがいる、だろ…?」
「僕はクラスメートよりも工藤君を優先したいんです!」

「(…オレはご遠慮願いたいデス)」

 また(笑)テンションを上げてきた相手に、浮かべていた猫被り仕様の笑みも引き攣る。
 年季の入った分厚い猫は普段なかなか脱げないのだが、この系統と属性の人間(例:大阪の探偵)には比較的いつでも脱ぎ落とせるよう、自動的にチャックが半分ぐらいまで下げられるらしい。←チャック…?(笑)


 …出来ることなら、今すぐに脱いでこの場で蹴り倒したい。←切実。


「本当に工藤君だぁ!」

 何処となく距離を詰めてきた相手に限界直前。
 困ったら灰原になんか調合して貰えば良いか…とまで考え始めた(…)頃、やさぐれが戻って来た。

 …あとコンマ1秒遅かったら間違いなくヤってたな。

「こんにちわ、工藤君」
「こんにちわ…久しぶりだね」
「だね〜♪」

 にこにこと話しかけてきた中森さんに猫120%で笑みを返す。←増量…?
 何度か本庁で顔を合わせているから、実は中森さんとは既に顔見知りの仲だ。

「あ、紹介するね! この子は小泉 紅子ちゃん」

 中森さんの紹介でもう1人の紹介をして貰ったので、そのまま会釈と同時にに名前を名乗る。

「こんにちわ、工藤 新一です」
「…こんにちわ」
「? なにか?」
「いいえ…、なんでもないわ」

 数秒凝視された後、意味ありげに笑みを浮かべられ首を傾げる。
 見覚えもないし初対面だよなぁ、と思いつつ尋ねれば、彼女は軽く首を振って視線を僅かにやさぐれへと向けた。
 思わずそれを追いかけ──

 その瞬間、やさぐれの口元がくいっと上がった…。


「(てめぇ関係かぁぁぁぁ?!!)」


 恐らく、この小泉さんとやらはやさぐれの仲間…もしくは手下。
 この前の『1週間襲撃事件(←第2話参照)』の時に言っていた「有能な部下」ってヤツだ。

「(校内までシメてんじゃねぇだろうな、コイツ…)」

 出そうになった溜め息をギリギリで止め、深くは関わらないでおこうと心に決める。また面倒なことに撒き込まれるのはゴメンだし。
 そう結論つけた処で、すっかり忘れていた存在が詰め寄って来た。

「工藤君、行きましょう!」
「は?」
「僕はこれから工藤君と用事があるので、申し訳ありませんが此処で」
「え? そうなの? 快斗もこれから別行動なのに…」
「そうね…、黒羽君がこの時間までしか付き合えないと言うから、その代わりに白馬君を連れて来たというのに…」

 ……さり気なくキツイこと言っているが、白馬はそれに気付いた様子もない。もしくはそれが当然な認識なのか…?

「すみません中森さん、小泉さん。ですが僕は工藤君と…」

「ちょ、ちょっとマテ。オレはまだ──」

 ああもう、疲れた。
 数分前の平和を返してくれ。

「あ。」
「? どしたの、快斗」
「悪ぃ、電話かかってきた。ちょっと抜けるな〜」

 やさぐれがポケットに手を入れてから中森さんに告げて数十歩ほど離れた。
 その間にも、オレと白馬は「元々工藤君とはお話しをしてみたかったンです!」「オレには話も何もない」「奢りますから!!」「問題が違うだろ」…と、平行線な会話を続けている。


 …猫が完全に脱げるまであと少し。


 そこで、胸ポケットに入れていたオレの携帯が鳴り始めた。
 これ幸いとばかりに携帯を取り出し、要請だったら問題なし。違くても適当に言い包めて逃げよう…と、その場を離れ電話に出れば…

『よ、めーたんてー?』

 つい数秒前、電話がかかってきたからと抜けたやさぐれ怪盗の声。

「………てめぇ…(怒)」
『助けてやろっか? アイツしつこいぜ?』
「充分理解した。てかボコりてぇ」
『あー、ウチの数人使うかぁ?』
「自分でやんなきゃストレス解消になんねぇだろ」
『それもそーだ』
「…で? わざわざ演技してまでオレを助けようとするその意図はなんだ」
『人のシンセツは素直に受け取れよ』
「おめぇのシンセツほど疑えるもんはねぇよ」
『日頃の行いが良いからな。だけど、今回は礼代わり』
「礼…?」
『さっき白バカに言ってただろ。「怪盗キッド」について』
「ああ、アレか。別にお前の為に言ったんじゃねぇぞ?」
『解かってるって。アレが正論だし、お前はオレを助けるようなタマじゃねぇ』
「オレを理解してくれていて嬉しいぜ?」
『棒読みで言われてもなぁ…、ま。お前の考えがどうであれ、ウザ過ぎてそろそろ処理しようかと思ってたからさ。面倒な手間が省けた礼ってことで』
「ふ〜ん…、じゃ。ヨロシク」

 処理って……身売りか?

 深く考えると問題あるし、その辺はスルーしとくことにして電話を切る。後は適当にアイツに合わせれば良いだろう。←楽観的。
 そう考えていれば、すぐに戻って来たやさぐれが適当な(だけど穴がない)理由をつけてその場は丸く収まった。白馬は最後までなんか言ってたけど、小泉さんが連れて帰ったから…もしかしたらマジでアイツはボコられたかもしれない。






 …その後の話で、小泉サンはやさぐれが総長をやってる『関東連合軍・紅灯邪知総本部』のレディーズ部隊を纏めてる、と聞きたくもないのに聞かされた。
 これまた強いレディースの総長らしく、学校をシメてるのはやさぐれじゃなくこの小泉サンだそうだ。しかし、その小泉サンはやさぐれの手下なんだから…結果的に、やさぐれがシメているのと変わりはない。

 んでもってその後の白馬の処遇(…)だが、いつもの如く寄っていたラーメン屋に顔を出した小泉サンからヒトコトだけ結果を告げられた。


「随分と醜い歌声だったわ」


 やっぱりその辺についてはスルーしておくことにする。




 ──って、オレやさぐれに番号教えたっけ…?




【好い加減にしろ的な第4弾】←セルフ。

 またも同月に2回目のフリー掲載となりました(笑)
 …そろそろ本気でヤバイです。早すぎて追いつけません;

 そんなカンジの桜月ですが、90000hitありがとうございます!!←遅。
 今回は「日常」を過ごしている探偵と怪盗を出して見ました。お互い表と裏では大違い。(笑)
 そして紅子サン登場! 彼女もやさぐれ一味(…)です。ほら、髪の色も丁度良いし♪←マテ?
 ロンドンの探偵との遭遇があったということは…次は西の探偵ですか?(笑)

 毎回恒例なので(笑)今回もいつもの如くフリーでゴザイマス。
 お持ち帰り期間は12月15日までご自由にどうぞv 報告は任意です。
 BBSやメルフォ、拍手コメントでヒトコト頂ければ、桜月がホクホク顔でご挨拶に伺います(笑


+++++++++++++++++++++

これから、日常生活にもぐいぐいと入ってくるのですか?
紅子さんが権力持っているって。お隣の少女よりもですか?
何もなくても彼女は強そうですが。
次回は西の方ですか?!あるのなら楽しみにしてます。
これからも頑張って下さい。応援してます。



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