…寒空の下。(真横を除く)
またしてもやさぐれに拉致られた。
活殺自在 -Machiavellism 3-
「…おい、やさぐれ」
走り抜ける風が頬を撫でていく。
「ん〜? どした?」
耳元では煩いほどのエンジン音。ついでに熱い。
「どした? じゃねぇよ。頭に血ぃ上るンだけど?」
「ああ、それもそっか」
景色は真逆。正確に言えばオレが真逆で…
「つーか、片手運転ってどーよ?」
「問題の順番が違わねぇか、名探偵」
某月某日。
冒頭でも言った通りの寒空の中。
今日も今日とて学校を早退して要請に駆けつけたオレは、あわや証拠隠滅間近…と言う処でトリックと犯人を見つけ出し、警部達に盛大な感謝をされて現場を後にした。
当然ながらいつものように「送っていく」と言われたのだが、やはりいつもの如くやんわりと断って、此処最近ナニかと慌ただしかった日常(←前作参照)を忘れるかのように街中をぶらついた。
…のが、マズかったのかもしれない。
いや。完全にマズかったンだろうな、うん。
丁度時刻は昼休みが終わった辺り。
今から行っても1時間受けれるかどうかだな…と早々にサボることに決め、堂々と(…)制服姿のままで歩道を歩く。主治医に言われているから防寒はバッチリだ。
もっとも、主治医に言わせればまだ「バッチリ」ではないらしいが…
とある事情でダメにしてしまったコートの代わりに(主治医が)その原因である人物に新品を購入させたから、当然ながら今日もそのコートを着用していた。ブランド物のかなり上質なコート。丈夫で動きやすく中々気に入っている。
だから相手は、後ろ姿だけにも関わらずオレだとすぐ判別が付いたのかもしれない。
「お、名探偵じゃん」
「あ…?!」
背後から声をかけられた瞬間、身体が宙に浮いた。
…悲しいかな。
既にこう言った経験・体験は数度目だった為、すぐに状況の把握が出来てしまったのだが…
「…車道側を歩いてたオレに原因があるのか…?」
思わず自分のせいなのかを確認してしまう自分が嫌ダ。
──そんなワケで、冒頭に戻る。
バイクで走っていたアイツは、オレに声をかけると同時にオレの身体を持ち上げ…そのまま荷物でも担ぐかのように自分の肩に乗せやがった。(怒)
片手で持ち上げられてしまった事実にもムカツクが…なによりも、毎回こうやって肩に担がれるのは堪ったモンじゃない。
オレとしては当然な抗議を経て、信号待ちで停車した間に素早く動いて後ろに座る。
いつまでも上半身逆立ち状態はツライし…真横から聞こえるエンジン音と熱風がウザイ。
「あれ? てっきり逃げるかと思った」
「バーロ。そしたらエンドレスじゃねぇか」
「よぉく解かってらっしゃる」
運転手の言葉に──良いことなのか悪い事なのか──座り馴れた座席に腰を落ち着かせて言い返す。
どーせ逃げたってまた同じことの繰り返しだ。
だったら無駄な体力使う前に諦めて乗った方がマシ。
…それが脳内にインプットされている理由が、今までの経験から来る学習能力だと言うことが不本意だが。
「メットは?」
仮にも(…)警察に協力している立場にある人間がノーヘルってのはマズイだろう。
そう思って尋ねたのだが、運転手である──最近すっかり一緒にいる時間が増えた気がするやさぐれは、
「悪ぃな。被ってる暇はねぇ」
と、答えると同時に突然の急発進を敢行しやがった。
「ぅお?!」
「ちょっとばかりヤバイ連中に追っかけられてンだよ、今」
「はぁ? てめぇ、またかよっ!」
急発進に慌ててヤツの腰にしがみ付き、その上で後方を振り返れば…来るわ来るわ。いかにも怪しげな雰囲気と殺気を飛ばしまくった暴走集団。
…どうやら、さっきの信号停止はオレを座席に座らせるためだったらしい。
「なんでお前は毎回毎回、こういう時にオレを巻き込むンだ!!」
「たまたまオレの逃走経路にいる名探偵が悪いンだろ?」
「人のせいにすんじゃねぇ! 拉致らずスルーしやがれっ!」
「良いじゃん。面白いだろ?」
「面白いわけあるかっ! とっとと倒すなり撒くなりしろ!!」
脱力感と怒りが同時に襲ってくる。
しかし此処で脱力しては負けるだけだ(←ナニに?)と、同じようにノーヘルなやさぐれの頭を叩いた。
それにやさぐれは「お姫サマの命とあっちゃ、仕方ねぇか」等とぬかした上で、
「おーし。んじゃ、撒いたらメシ食いに行くかぁ」
と、スロットルを回した。
暴走に次ぐ暴走の果て、どうにか撒いたらしい暴走集団。
いくらやさぐれの後ろに乗り馴れたとは言え、いつ強行手段(武器使用)に出るか解かったもんじゃない相手との鬼ごっこは精神的にかなりの疲労を与えるモンだ。
なんたってこの状態で強行手段に出られたら…間違いなく第1撃はオレに当たる。
…頼むから拳銃だけは出すなよ、コノヤロウ。
そう思いながらの逃走劇。
それが終焉した時には既に1時間が経過していて、一般的な高校はもうすぐ下校時刻を迎える。
「(大人しく学校に行ってりゃ良かった…)」
サボったことが災いしたのか、それともどう足掻いても逃げられない運命だったのか。
過ぎたことは仕方がないがなんとなく納得が出来ずに溜め息を付けば、
「おーい、名探偵。生きてっかぁ?」
と、前方から声がかかった。
「精神的には死んでるな」
「元気そうでなにより」
低く唸るように言ってみれば、あっさりと返って来た笑みを含んだ言葉。
どうやら、嫌味を言うくらいなら大丈夫だろう、と判断されたらしい。…まあその通りだが。
「メシどーする?」
「…すぐに食う気しねぇンだけど」
「ダメだな。お前の事だからどーせ昼も食ってねぇだろ」
「…………。」
「この前の鉄板焼き屋で良いか? アレなら食えるだろ」
「あー、…それなら」
この前食ったもんじゃ焼きはすんなりと食えた。
あれなら食ったことにもなるし、主治医に叱られることもないだろう。
そう思って了承の返事を出したのだが…
…暫く走ったバイクが到着したのは、かなり見覚えがある学校の前。
「をぃ」
「あー?」
「なんで此処に来てンだよ」
──見覚えがあるもナニも、此処はオレが過去に2度ほど通った(嫌な事実がある)小学校だ。
「通り道だし、ついでだからオジョーサンも誘おうかと」
あっさりと答えたやさぐれに溜め息1つ。
「マジかよ…;」
「ンだよ。嫌なのかぁ?」
「ってか、どーして灰原を誘う気になるんだ? そもそもアイツが応じると思ったのかよ」
「だからついでだって言ってンだろ? なんとなくだって」
確かに、あの場所から鉄板焼き屋に行くには此処の前を通る。
更に言えば小学校は高校よりも終わるのが早いから、通る時には丁度下校が始まる頃だ。
だから「ついで」なのも「なんとなく」なのも解からなくはないが──
「(灰原が応じるわけねぇだろ…)」
「それで? 一体何の用があったのかしら?」
充分温められた鉄板にキャベツなどを落としながら問う。
「だから言ってンじゃん。一緒にメシでも食おうって」
同じように隣りの鉄板で鮮やかなコテ捌き(?)を見せつつ答える。
「…それには納得しても良いけど」
大雑把に、しかし細かくキャベツその他を刻んでいく。
「オジョーサンはナニが不満なんでしょーか?」
鉄板の片隅で焼かれていた半熟卵を崩して問いかけ。
「──どうして息子は、こんなにも疲労困憊なのかしら?」
ドーナツ形にした具材の中にダシを垂れ流し、目の前にいる制服姿の名探偵を見てヒトコト。
「オレのせいって決めつけてねぇ?」
卵の上に焼いていた物を置き…ひっくり返す。
「あら。貴方以外に原因があるとでも?」
程よく時間を置いてから全てを混ぜ合わせる。
「あるかもしれねぇじゃん。事件疲れとか?」
仕上げにソースとマヨネーズをかけて完成。
「否定は出来ないけれど、それで此処までなるのは不自然でしょう。まして、貴方がいたんだから」
薄く延ばして軽く焦げ目がついたら完成。
「やっぱオレのせいって決めつけてるじゃん」
さぁて、食べるとしますかぁ♪
「だから言ってるでしょう。『ハナコさん以外に原因があるの?』って」
悪いケド、そこの鰹節取ってくれるかしら?
「……好い加減、そのネタから離れないか…?」
──数十分後。
噛み合っているようで噛み合っていない会話と、全く以って意味を成さない突っ込みを交わしつつ、鉄板焼き屋で顔を合わせ食事に入っていた3人がいた。らしい。
【止まらない第3弾v】←開き直り。
やったね80000hit! すげぇよこのサイト!!←半分他人事。
…でも早すぎて桜月はいっぱいいっぱいになってマス(爆)←他人事では済まされない。
やさぐれ怪盗が再々登場! このままヒット記念小説はやさぐれで突き進みますかぁ?(誰に聞いてる)
前回やさぐれの出番が少なかったので、今回は頭っからラストまでやさぐれ投入。
ナニかとリクエストが多かった『ハナコ』ネタ再来(笑)と女史の出演を実現してみました♪
そしてさり気なく、拍手の返信小噺ネタもチラホラ…(笑)
──例によって今回も恒例のフリーでゴザイマス。
こんなやさぐれでもよろしければ、11月末までご自由にお持ち帰りくださいv 報告は任意です。
桜月を舞い上がらせようとお思いの方は、BBSやメルフォ。もしくは拍手コメントまでヒトコトください。「持って帰ってやった」とでも。舞い上がったままご挨拶に伺わせて頂きます(笑)
『活殺自在』とはご存知の通り(笑)「自分の思い通りに相手を動かし扱う事」という意味の四字熟語。
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おめでとうございます、雪花sama
そして、再びやさぐれさんに会えて私はうれしいです。はい。
それにしても、アンナに簡単に誘拐が出来るんですね。さすがです。
名前呼んだ瞬間にひょいって担がれるって。そのシーンが私的に良かったです。
また、ぜひとも誘拐して下さい。(犯罪をそそのかしたらいけないのかしら?)
そして、出てきたお隣さん。やっぱり彼女はいいですねぇ。
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