「お前…工藤 新一だな?」 背後からかかるドスの効いた声。 その声に、寒さ対策とばかりに買ってこられたコートのポケットに両手を入れていた、声をかけられた張本人は、 「(…ああ、またかよ;)」 と、かなり面倒臭そうな表情で振り返った。 奸佞邪知 -Machiavellism 2-
「ったく。なんでオレがアイツのとばっちりを受けなきゃなんねぇんだ」 すっかり行き慣れた屋台に入り文句を1つ。 「いらっしゃい、新ちゃん。また快ちゃんか?」 そんな客の態度にやはり馴れた店主から一声。 「ああ、絡まれたから適当にヤってきた」 ──チャーシューと餃子ね。 夕方になって呼び出された事件をさっさと解決して、やはりいつものように送迎を断って1人帰路に…つこうとして絡まれた。 やさぐれな怪盗と知り合う切欠になったあの日のように、裏路地を使ったわけでも近道を使ったわけでもないのだが…ともかく絡まれた。 理由はオレが『工藤 新一』だから。 それもこれも、全てはそのやさぐれ怪盗が原因であり… 江古田の総長・黒羽 快斗が、最近一般人を構っているらしい。 そして、その一般人に黒羽は頭が上がらないらしい。 …ならそいつを捉えれて脅せば、黒羽の持っているシマを手中に入れられるのではないか。 なんだそれは。理不尽にも程がある。 しかもかなり事実が異なっている。どうしたらそんな噂が流れるんだ? 『構っている』のは…百歩譲ってアリだとしても、アイツはオレに頭が上がらないなんてことはない。寧ろ散々好き放題やらかしてオレを振り回してやがる。 それに例えオレが捕まって脅されたとしても、アイツならあっさりとオレを捨てるだろう。寧ろそうしてくれないと困る。…アイツに助けられるくらいなら舌噛んで死んだほうがマシだからな。 ──てか、簡単に捕まるつもりもねぇけど。 「しっかし、バカはいるもんだなぁ」 いつもの席に座った常連のいつもの注文に、店主は来店時から準備しておいた鉄板に餃子を乗せて行く。 「バカ? アイツ等が?」 テーブルに置いてあるコップに水を入れつつ問い返す。 「だってそーだろ? 快ちゃんのいる椅子が欲しいからって、ロクに新ちゃんのこと調べもしねぇんだから」 「見た目がこんなナリだから、油断してンだろ?」 「確かに新ちゃんは細身だが…動きを見りゃ、それなりに解かるだろ」 「…ンなの、やさぐれとアンタくらいしかいねぇよ」 水を一口飲みながら、普段の動きだけで判断のつく奇特な人間はそういないと答える。 すると店主は「褒めて貰えたのかねぇ?」と楽しげに笑いながら麺を茹で始めた。 比較的風は入らないとは言えやはり屋外。 早く温かいラーメンが食いてぇな…と思いつつコートの襟元を握り締めていると… 「それで、今日は快ちゃんどーしてんだ?」 と、店主が声をかけてきた。 「…なんでオレに聞くンだよ」 「噂はともかく、最近一緒にいるのは違いねぇだろ?」 「あれはアイツが勝手に来るンだ!」 「で? 快ちゃんは?」 ……聞けよ、人の話。 なんだってやさぐれの周りにはこういう人種ばっかりが集まってやがるんだ? 「今日は会ってねぇからしらねぇよ」 本当に今日は顔を見ていない。 いつもはオレが何処にいようと何時の間にかやってきて人の話も聞かずに拉致ってくれるのだが… 「来るとしても、もう少しあとじゃねぇか? 多分」 「その理由は?」 「アイツにも色々と用事ってのがあるだろ。…多分」 …今日は、白い怪盗が夜空を舞う日だ。 「多分、とか言いながらも確信を持っているようだなぁ、その発言」 「オレはこれでも探偵だからな」 ニマニマと笑みを浮かべる店主に負けじとニヤリと笑みを返す。 それに「おーそうだった、そうだった」とワザとらしく呟いた店主は、丁度茹であがった麺を勢い良く湯切りした── ──そんな会話をした翌日。 「工藤 新一だよな。ちょっとツラ貸せよ」 …………またかよ。 日中、しかも登校中に声をかけられるとは思っていなかった。いつもは夜だったしな。 面倒なことにならなきゃ良いンだけど…と思いつつ、とりあえずは声をかけてきたヤツ等の後を着いて行く。 暴れるにしても返り討ちにするにしても(←対して変わらない)、人目が付く処は警察に協力している立場としては少々マズイ。←少々なの? …それにしても結構な人数だ。 たかが一般人相手に大袈裟すぎやしねぇか…? 「今までアンタに手ぇ出してきたヤツ等から情報を聞いてな。アンタを甘く見ちゃなんねぇって」 「…そりゃ、どーも」 疑問に思っていたことが顔に出ていたのか──まあ、単にタイミングがあっただけだろうけど──ゴシンセツにも説明をしてくれるお相手サン。 どうやら今日まで暴れすぎていたらしい。←自覚ナシ。 「(だけどなぁ…、ヤられる前にヤレだし)」 かなり広い空き地に到着し、呼び出しメンバー総勢30名ほどと顔を合わせる。 ってか、ここまで人数揃えるくらいなら、直接アイツのとこに乗り込めば良いじゃねぇか…; 「アンタ、黒羽のダチなんだろ?」 「ダチになった覚えはねぇけどな」 「良く連れだってるらしいじゃねぇか」 「たまたまだ。寧ろオレにとっては良い迷惑なんだけど?」 この状況もな。 ニヤリと挑発するように笑ってみれば、案の定、相手は素直に挑発されたのかかなりの殺気を向けられた。 単純だな…とか思いつつ、解かり切っている『オレを狙った理由説明』など聞いてられない(←面倒)から丁度良いと戦闘モード。 ついでにあのやさぐれとのリアルファイトに比べれば、この程度の殺気はたいしたことないと楽観視。 そんなワケで…? 「お前等の目的に了承する気はねぇから、さっさと始めようぜ?」 …真っ昼間(朝?)からストリートファイト。 「おーお。やっぱ名探偵って喧嘩っ早いよなぁ♪」 そんな空き地でのやり取りを見ていた…やさぐれ怪盗こと、なんだか色々と裏の顔が多い高校生、黒羽 快斗。 流石にこれ以上迷惑(?)をかけると名探偵の主治医から今後の付き合いを牽制される…と、彼は今日のこの情報をキャッチしてこの場所へと先回りしていたらしい。 …が、来ていただけで今までのやり取りを黙って見ていたのだから、上記の理由は上辺だけだろう。(笑) 「どーすっかなぁ…、楽しそうなの邪魔するのも悪ぃよな、やっぱ」 そう言いながらも座っていた場所から立ち上がり、試合会場(笑)へと歩き出す。 「だけど、これってオレが片付けなきゃなんねぇモノだしなぁ…面倒だけど」 囲んでいた集団の1人が新一の背後で光りモノを取り出す。 それを見た快斗は一瞬で目付きを鋭いものに変え、素早く移動し声をかけた。 「…お前らの目的って、オレだろ?」 言うと同時に回し蹴り1つ。 回し蹴りされた相手はそのまま周囲にいた仲間を数人巻き添えにして吹っ飛んでいく。 その衝撃と変わった空気に、新一と傍にいたヤツ等が同じタイミングで視線を向け… 「………げ。」 「黒羽っ?!」 「よーぉ、田村。なんか面白そうなことやってたみたいじゃん?」 同様を顔に出した田村と呼ばれた男。 その田村にニマニマとバカにしたような笑みを見せる快斗。 そんなやさぐれの姿に素直な反応を口にした新一は、 「てめぇ…、見てやがったな」 と、片眉を上げて問い尋ねた。 「まぁね♪」 「だったらとっとと出て来いよ」 「名探偵ってば楽しそうだったしさ〜? 邪魔しちゃ悪ぃかと思って」 「てめぇの問題にオレを巻き込むンじゃねぇよ!」 「楽しんでたクセに」 「週に4回も5回も来られりゃ、好い加減ウザイんだよ!!」 「あ? そんなに来てたのか?」 それ全部片付けてきた名探偵も流石だなぁ… 白々しい言い方に「ぜってぇ知ってただろ、お前」と睨みつける新一。 その視線に快斗がニヤリと笑みを返せば、 「…面倒。もうしらねぇ」 ──名探偵、試合放棄。(笑) 「どーせお前のことだ、後始末はするつもりなんだろ?」 「当然。今までの迷惑料も兼ねて、後はちゃんと始末してやるよ」 「…本来はてめぇの問題だろうが」 なにが迷惑料だ。 「名探偵はその特等席で高みの見物してろって。──ンなわけだから、てめぇ等」 今だ囲まれたままの状態で緊張感のカケラもない新一に、快斗は「これだから面白いンだよ」と思いつつ集団の中に割り込んで行く。 その動きに慌てて対応しようと動き出す田村以下どっかの族集団。どうやら今までのやり取りに状況を忘れていたらしい。(笑) そんな格下連中のバタバタとした動きに、快斗は怪盗の時さながらの不敵な笑みを浮かべ、 「コイツに手ぇ出したらどうなるか、身をもって教えてやるからかかってきな」 と、試合再開のゴングを鳴らした。 「──最悪だな。」 届けられた広島風お好み焼き(豚玉)に手を伸ばしつつヒトコト。 「なんだよ。良い眺めだっただろ?」 やっぱ自分で作るのが1番だろ、と鉄板でもんじゃ焼き(エビ・イカ)を焼きつつ言い返す。 「眺めは良かったよ。ああ、最高だったさ」 目の前を華麗に空中遊泳(命綱ナシ)してってくれたからな。 「だったらナニが最悪なんだよ」 よし出来た。食ってみろって名探偵。 「ドロドロじゃねぇか…」 進められ、訝しげな顔をしつつも手を伸ばす。 「そのドロドロが良いンだって!」 小さなコテで器用に掬いつつ食べ始める。 「あ、美味い…あちぃけど」 「だろ?」 思わず呟いた感想に烏龍茶片手に得意げな笑み。 ……流石に真っ昼間から酒は飲まないらしい。 ストリートファイト終了後。 当然ながら勝利を収めたやさぐれに連れられて、小さな鉄板焼き屋に連れて来られた。どうやらここの店主もやさぐれとは顔見知りらしい。 夜だったら、いつものようにあのラーメン屋に行ってたンだろう…。 「で?」 「あー?」 「ナニが最悪なんだよ」 初のもんじゃをしっかり半分ほど頂き、かわりにお好み焼きを2/3ほど引き渡す。 もんじゃって意外に腹にこねぇンだな。これなら普通に食えるかも?←疑問系。 「結局、学校サボっちまったじゃねぇか」 「あー、出席日数ヤバイんだっけ?」 「ヤバイな。…適当に切り抜けるケド」 「ンだよ。じゃあ問題ねぇじゃん」 「…灰原と蘭にナニ言われるか解かったもんじゃねぇ;」 「そっちの問題か」 オレの回したお好み焼きをペロリと完食し、それどころか足りないとばかりにメニューを広げる相手。 「……まだ、食うのか?」 「ああ。やっぱもんじゃ1人前じゃ足りねぇな」 「オレの豚玉食ったクセに…」 「あんなのたいした量じゃねぇよ」 ──おっちゃん、豚トロと若鳥2人前ずつ。 「とりあえず、幼馴染みはアンタが何とかしろ」 「は? じゃあ灰原はどうにかしてくれンのかよ」 「食ったらアイサツしに行ってやるよ」 楽勝だったとは言え、人数が人数だったもんだからすっかり時間は昼を過ぎている。 今日は週末だし小学校も早く終わってるだろう…。 「…なんか偉そうに聞こえるのはオレだけか?」 「気のせいだろ」 「ならその顔はなんだ」 「オレは元々こーいう顔なんだ」 「あーそうかい」 届いた豚トロと若鳥を早速鉄板で焼いていく。 「そういや…」 「あ?」 「ラーメン屋のオヤジさん、最近お前の顔見ねぇって嘆いてたぞ」 「…嘆いたのか?」 「退屈そうにな」 若鳥はともかく豚トロはすぐに焼き上がる。 それをバグバグと口に運びつつも器用に会話を続け… 「ま、ここ暫くは仕事の準備で忙しかったしなぁ」 ほら、名探偵も食ってみろって。 「今日辺りにでも顔出してやれ。行く度に「今日は快ちゃんどーした?」ってうるせぇから」 げ…、勝手に置くなよ。 「なに? 行ってンの?」 「近く通った時とか、お前の騒動に絡まれた時にな」 良いから食えって…と言われ渋々豚トロに手を伸ばす。 これもまた、意外とクドくなくて美味い。 「明日っからはねぇと思うから」 「当然だ。この先もあって堪るか。だいたい、もっと早く対処しやがれ」 「仕事と被って後回しにしちまったからな。名探偵ならどうにでも立ち回れるだろーと思ってな」 美味いだろ?と聞かれ素直に頷きつつ会話は変わらずこの状態。 その間にも若鳥が焼き上がり、また同じように数個ほどこっちの皿に回された。 「…おい」 「お前食わなすぎ。1日のカロリー足りてねぇだろ」 「余計なお世話だ」 「今日まであんだけ運動してンだから食っとけって」 確かに、今日はコーヒーしか飲んでなかったし…ここ最近の運動もハードだったし…? 「…なんで知ってンだよ」 「あ?」 「運動内容」 「ああ…、オレにも有能な部下がいるからな」 「……てか、お前ってそんなに有名なのか? この業界で」 「今更な質問じゃねぇ?」 「オレは聞きたい時に聞きたいことを聞く主義ダ」 「あー、それ前にも聞いたわ」 置かれた若鳥にも手を伸ばしつつ視線で先を促す。 それによって出てきた答えが… 「ここらへんの族の総元締め」 関東連合軍・紅灯邪知(こうとうじゃち)総本部、総長。 「江古田の族はその流れで締めてるだけ」 あー、だからあんなにもお前の地位が欲しかったワケね…。 【調子に乗って第2弾(笑)】 70000hit、ありがとうございます!! まさかこの言葉を同月に2回言うことになるとは思っても見ませんでした(笑) 1日だけ重なったフリー小説。 シリーズ化希望のお声が高い(笑)やさぐれ怪盗が再登場! 今回はその後の流れと快斗サンのちょっとした説明編。 シリーズもこんなカンジで1話完結物にしたいと思っております。…寧ろこのままヒット記念フリーモノ?(笑) ──今回も例によって恒例のフリーとなっております。 こんな話でもよろしければ、11月14日までお持ち帰り自由なのでどうぞv その際の持ち帰り報告などは任意です。 BBSやメールが嫌な方は拍手に「持って帰ってやったぞ!」とでも(笑) 今回のタイトル『奸佞邪知』は「心が捻くれていて狡賢いこと。悪知恵が働く人」と言う意味を持つ四字熟語。 |