…もし。
もしも。
たまに見かけることがある気障な白い紳士の正体が…
……やさぐれていたらどうしよう──?
権謀術数 -Machiavellism-
「で? なんであんなトコにいたのさ」
置かれたばかりのラーメンにコショウをかけながら問う相手。
「仕方ねぇだろ。近道だったんだから」
そう答えながら、同時に置かれていたギョーザの受け皿にラー油とタレを混ぜ合わせる。
「だからってなぁ…、あそこはガラが悪いヤツ等の溜まり場で有名だろ」
ついでに、と思いっきりかけられたコショウに顔を顰めつつ、割り箸に手を伸ばしながら言い返す。
「…そんな処にいたお前はなんだ」
微妙な誤差で届いたギョーザ2人前。
「仕方ないじゃん。あそこ等辺、オレのシマだもん」
渡した割り箸を受け取りながら、ヤツは生ジョッキ(大)を片手にニヤリと笑みを1つ。
……なんで今、オレはコイツとラーメン屋に来ているンだろう…?
今日もいつものように要請を受け、それをいつものように(深夜までかかったが)解決して、やっぱりいつものように送迎を断って、1人ぶらぶらと歩いて帰っていた。
だけど歩き始めてすぐ、推理に没頭している時には気にしていなかった冷え込んだ空気を身体に感じ、数分前の自分の言動に早くも後悔。
もうすっかり秋なんだなぁ…などと思いつつ、さっさと帰るべく近道を選択した。
その道は建物同士に挟まれた裏道で、薄暗く街頭もない為、この時間は元より日中ですら人通りは皆無に等しい。
そんな場所だからなのか、最近では結構ガラの悪い──所謂暴走族といったヤツが溜まり場として使っていた。
当然その事実は知っていたが、寒さに堪えつつ残り数十分歩き続けるくらいなら、少々絡まれようが時間の短縮を図りたい。なんたって今日はかなりの薄着で…これで体調を崩したら、隣家の主治医から雷が落ちるのは確実だ。
…正直、ガラの悪い連中ならば対応出来るが、あの少女にはどうやっても勝てない;
色んな意味で叶わない少女のにっこりと微笑んだ怒りの形相(←なにかおかしいが適切な表現)を思い出し、寒さ以外で身を震わせつつ裏道へと入った。
一応気配を探ってみるものの、たいしたヤツはいない(←酷)ようで、「帰ったら温かいコーヒーでも煎れるかぁ」と余裕綽々独り言を呟いた。
そうして裏道の出口まで残り数百メートル、と来た処で…
「よぉ、にいちゃん」
「ちょっとオレ等と付き合わねぇ?」
…出た。←そんな幽霊かなんかみたいに;
「そんな怖がることねぇって」
「そーそー。ただ退屈凌ぎになってくれりゃ良いだけだって」
お約束な展開に思わず呆れ、あまりにも馬鹿馬鹿しくて口を閉ざしていると、現れた2人組はそれを恐怖から竦んでしまったと勘違いしたらしい。
日々凶悪犯と立ち向かっているオレがこの程度のヤツ等にビビるわけがない。←何気に鬼。
どうやら、この暗闇のせいで『男』だとは解かっていても『誰』であるのかは解かっていないらしい。
「(…だったら、少々暴れても問題ねぇよな…?)」
普段は警察に協力している手前、あまり大っぴらに暴力沙汰に出ることは出来ない。…まあ、時々大目に見て貰っているが。
ある程度は世間に顔と名前が知れ渡っている(らしい)から、多少ストレスは溜まるものの、なんとか穏便に対処するようにはしている。
だがしかし。
多少とは言ってもやっぱり溜まるものは溜まるわけで。ついでに言えばそれは蓄積していくもので…
「(寒いし、最近身体鈍ってるし)」
…たまには運動しておかねぇと博士のようになっちまう。(ぇ)
そう結論つけて、裏道でのストリートファイトに(強制)突入。
元よりのこのこやって来たカモ(この場合はオレ)で遊ぼうと思っていた相手だ。こっちの反撃に仲間を呼び寄せながらも思惑通りに反撃してくるから、内心で呆れつつもオレはこの状況を楽しんでいた。
探偵として活動し始めてからさっきの事情を含めて自粛していたが、格闘・乱闘・ストリートファイトは結構好きだったりする。
だからなのか。それとも久しぶりのリアルファイトでテンションが上がっていたのか。
周囲の状況に気を配るのを忘れていたオレは……
……気がついた時にはすっかり囲まれていたらしい。(爆)
暗闇の中でニヤニヤ笑っている(←ように感じてる)男達に、ワザとらしく「ヤバイなぁ…」とか呟きつつ、内心では肉弾戦はもう無理かと算段をつける。
身体1つじゃ、流石にこの人数を相手にして無傷では済まない。勝てなくはないが、怪我をすれば隣家の主治医が…(以下同文)
ストリートファイトで道具を使うのはかなり不本意なのだが、帰宅後から数日間の(自分の)精神安定の為に、ここはプライドを捨てましょう…と、コナン時代から愛用している数々の道具を使うことにした。
散々ヤラれていた相手からの勝ちを確信した男達が、ケリを付けるため一斉に向かってくる。
その内の1人が殴りかかる為に近付いてきた処を、手始めに(…)麻酔銃で眠らせようとした処で…
「おい、おめぇら。コイツはオレの連れだ。手ぇ出すんじゃねぇよ」
…何処かで聞いた事のある、しかしこんなドスの聞いた声に心当たりないよなぁ…と言う声(←矛盾)が周囲に響いた。
どうやらオレを助けてくれたらしい男はこの辺りでは有名な人物らしく、その一声であっさりとオレに襲いかかってきてたヤツ等が退いた。
そんでもって男に腕を引っ張られ、そのまま裏道を抜ければ──
「結構好戦的なんだねぇ、名探偵ってば」
──そのオレの呼び方には、心当たりがあった…。
そんなワケで(?)、今オレがコイツと一緒にいることには説明がつくのだが…どうして2人顔を突き合わせてチャーシュー麺を食っているのだろう…?
「…あ、美味い」
「だろ? ここのは全メニュー食える味なんだよ」
疑問が頭にあるものの、素直に口から漏れた感想。
それに目の前の相手は得意げな表情で餃子へと手を伸ばす。
「おいおい、快ちゃん。素直に『美味い』って言えば良いじゃねぇか」
「ンなこと言ったら、おっちゃんが調子に乗るの目に見えてるじゃん」
「ったりめぇだろ? 快ちゃんに認められりゃこの辺りでの商売は安定ってな」
屋台の店主と会話を交わしながらも食べる手は止まらない。
ついでに言えば、来て早々頼んだ生ビールは既に1/3まで減っている。
…って、コイツオレと同い年くらいだよな…?
「(…ま、いっか。別にオレが困るわけじゃねぇし)」
そう結論付けて、オレも餃子へと手を伸ばす。あ、これも美味い。
「それはそーと。喧嘩馴れしてんな、名探偵」
店主との会話を終わらせた相手がラーメンを啜りながら聞いてくる。
「ある程度戦えなくて『探偵』なんて名乗れるかよ」
同じように啜りながら答えれば、残ったビールを飲み干した後で、
「って言う割りに、普段はそんな素振り見せてねぇよな?」
「…オレは『警察に協力してる探偵』だからな」
「あー、建て前ね」
──おっちゃん、生中1杯。
「名探偵も飲むか?」
「オレ、未成年」
「ナニを今更。てかオレも未成年」
「やっぱそうか。同い年?」
「そ。」
「ふ〜ん」
「あれ? 窘めたりしないワケ?」
「それこそ今更だな」
「それもそっか。…で? 飲む? 飲まない?」
「遠慮しとく。主治医が怖ぇからな」
「なーるほど」
ずるずると啜りながら、餃子に手を伸ばしながら会話を続ける。
その間にもヤツがオレのチャーシューを取ろうとして、ちょっとした攻防戦(←箸と箸)をかましたり…
「はいよ。生中お待ち」
…店主に気を取られた隙にまんまとチャーシューを2枚取られた。
「あっ!!」
「隙アリ♪ さんきゅー、おっちゃん」
「くそっ、てめぇの餃子寄越しやがれ!」
「あぁっ! ナニしっかり2つも取ってンだよ!!」
「てめぇだってオレのチャーシュー2枚取ってったじゃねぇか!」
ぎゃあぎゃあ喧しくやり合いながら、それでもお互い食べる手は止めない。
そんなオレ等の様子に、店主もにこやかに笑顔を浮かべているだけだ。
…まあ、他に客もいないから、営業妨害にはなっていないだろう。←充分妨害してる。
「つーかお前、あそこ等辺シマにしてんのか?」
早くも食べ終わり、生ビールを飲み干している相手に問う。
ちなみにオレはまだ半分くらい残ってる。猫舌だから熱くて食えないンんだよ。
「…それもまた、今更な質問だな」
「オレは気になった時に気になったことを聞く主義ダ」
「へいへい」
ずるずると啜りながら言い切ったオレに、ヤツは返答が解かっていたのか適当な相槌を返してから答え始める。
「ちょっと前にね、あそこ等辺を仕切ってたヤツと揉めてさぁ」
「揉めるなよ」
「仕方ねぇだろ? 組織のヤツ等と比べたらこっちの方が楽だったンだよ」
「…帰りか」
「そう。」
「まさかお前、あの格好で揉めたんじゃねぇだろうな?」
「ンなワケないって。ちゃんとこの格好で勝たせてイタダキマシタ」
元々地元の族はオレが仕切ってたしねぇ。このくらいちょろいちょろい。
「その格好、素なワケ?」
「ナニ? 気になる?」
「一応。あのエセ紳士が素だったら寒気が走るからな」
漸く普通に食べれるようになったラーメンを一気に食い始める。屋台だから冷めるのも早い。
「ご安心を、名探偵。今の姿が私の真の姿です」
「ぅわ…っ! トリハダ立った、トリハダ!!」
食後の一服なのか、懐から煙草を取り出しつつも口にされた例の言葉使いに、思わず箸を置いて両腕を摩る。折角ラーメンで身体が温まった処だったのにまた寒くされちゃ堪らない。
「てか、ラーメン屋でそれも合わねぇぞ?」
「だな。オレもそう思った」
再び持った箸でヤツに指摘し、1枚だけ残ったチャーシューと一緒に麺を口に入れ、最後にスープをどんぶりのまま一口。
オレの指摘に余裕な笑みで肩を竦め、ヤツは咥えた煙草に火をつける。
未成年で煙草を吸おうが酒を飲もうが、既に注意する気もどうこう言う気もないオレは問題があるのか…?
……別に、人それぞれの自由だしなぁ…。オレも酒は飲むし。
「──コレ吸ったら、家まで送るわ」
ふぅ、と紫煙を吐くついでのような言葉が漏れ聞こえた。
「は? 別にいらねぇよ」
「良いじゃん。美味いラーメンまで食った仲だし?」
「疑問系で言うな。確かに美味かったけどな」
「それにほら、名探偵はオレの正体知ったからって捕まえる気はないンだろ?」
「…なんでだよ」
「解かってて聞くなよ。オレの目的知ってるンだろ?」
「まぁな。遊び半分でやってンだったら容赦しねぇけど」
「安心してくれ。遊び半分なのは『こっち』だから」
遊び半分で族を仕切るな。
断言する口調で問われ、ちょっとムッとして聞き返すと、どうやらこっちの考えは読まれていたらしい。
だから正直に(それでも素直にはなれず)言い返せば、あっさりと、しかしちょっと(かなり?)ばかし問題発言が返って来た。
「それにほら、こうして素顔を晒したンだし、ちょっとは仲良くなろうぜ?」
「…仲良く、ねぇ」
マルボロのボックスを弄りながら、何処か含みのある笑顔で提案してくる相手に、テーブルに置かれてあった水を口に運びながら呟く。
ヤツの思惑は解からないが、とりあえず知り合いになっておくのも悪くはないかもしれない。
エセ紳士の時とは違いどうやらこっちが本性のようだが…これはこれで面白そうだ。てか、あっちより数倍マシ。
…それにコイツ、なんだかんだと強そうだし。手合わせしてくれるかも。←そこ?
「ま、いっか」
「そうと決まれば善は急げ。さっさと帰らなきゃ、お隣サンが心配するンじぇねぇ?」
「…マズイ。連絡してねぇや;」
立ち上がりながら言われた内容にすっかり忘れていたことを思い出す。
よく事件に巻き込まれる(…)から、夜は特に細かく連絡を入れておかなければ怒るのだ。
……主治医が。
「なんだったらオレが挨拶に行こっか? 『お宅の息子サンを連れ回してスミマセン』って」
「やめい」
慌て始めたオレを横で、揶揄しながら店主にラーメン代その他を払ってるヤツに蹴りを入れてみる。見事に避けやがったが。
絶対にいつか手合わせして貰おうと心に決めつつ、屋台を後にしてから気になってることを尋ねることにした。
まずはその1。
「なあ、メシ代…」
「いーよ。今日はオレの驕り」
「ふーん? じゃ、ごっそさん」
らっきー♪
「驕り」と言われて、カタチだけでも遠慮の言葉を口にするのは警察のお偉いさんだけで充分。←をぃ;
んじゃ、その2。
「オレと仲良くなりてぇンなら、名前くらい名乗りやがれ」
「ああ、そっか。まだだったな自己紹介。本名?」
「じゃなくても良いケドな。とりあえず呼べる名前がねぇと不便なんだよ」
「確かに。んじゃ…、ヤマダ ハナコ」
…ほぉう?
「──よし解かった。これからは『ハナコ』って呼んでやる」
街中だろうが何処だろうが、無関係に呼んでやろうじゃねぇか。
ニヤリ、と心なし顎を上げて笑ってやれば、再び煙草を吸おうとしていたヤツの動きが止まる。ザマァミロ。
「スミマセンデシタ。ソレダケハヤメテクダサイ」
「オレはそれでも良いンだけどな。ああ残念ダ」
「…本気で残念そうに言うなよ;」
「偽名にしろ何にしろ、もう少しまともな名前名乗りやがれ」
「ま、確かにね。あからさま過ぎてもアレだし…」
──気障で紳士な怪盗の正体。
それは現場で見るのとは180度違うやさぐれ具合で…ギャップに少々驚きつつも、これはこれで面白そうだし。
……まあいっか?
【書いてみたかったンです!!】←正直。
祝! ろくまんひっとv
此処最近のカウンター回転数に吃驚しつつ、こんなにも来て貰えて嬉しい反面、「ウチなんかにこんな来て貰って…期待ハズレとか思われてないかな?」と日々ドキドキな桜月デス。
…そろそろヒット記念のネタに困ってきたこの頃。(笑)
ウチでは珍しいタイプの内容ですが、実はずっと書きたいと思っていた系統のお話なんです。やさぐれorスレた快斗サンを書きたかったのです。
実は地元(江古田)の族の総長なんかをやってる快斗サン。その流れで(?)ちょっと領土拡大なんてしちゃってるらしいデス。(ぇ)
そしてそれを偶然(??)知ってしまった新一サンは、これから何かと快斗サンに振り回されるようになります。(笑)
受け入れられるのならこの話はシリーズ化したいンですけど…どうでしょう?(此処で聞くなよ;)
──今回も例によって恒例のフリーとなっております。
こんな話でもよろしければ、10月24日までお持ち帰り自由なのでどうぞv
ちなみにタイトルの『権謀術数』は「人をあざむく策略。数々の計略」と言う意味を持つ四字熟語。
コメント
雪花samaのサイトが60000HITを越え、そのフリーを頂いてきました。
いつものことながら。今回もとっても素敵なお話だったのでしっかりと頂いてきました。
この後、彼等はどのように関係を気付いていくのか楽しみですね。
だって、ねぇ。
ともかく、おめでとうございます、雪花sama
これからも頑張って下さいと、ひっそりと応援してます。
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