夜の古びたビルの屋上。
 向かい合う、それぞれ『稀代』と呼ばれる探偵と怪盗。

 鮮やかな手腕で月夜の犯行を繰り返す怪盗。

 するりと逃げていく彼を追い詰めることが出来るのは、同じ天才と呼ばれる探偵だけ。







abendstandchen -risk-









「よぉ。今日は遅かったじゃねぇか」

 屋上へと降り立った怪盗を出迎えた探偵。
 フェンスに寄りかかり不敵な笑みを浮かべる探偵に、降り立つと同時に人工の羽根を閉じた怪盗は、

「普段はツレナイ愛しの姫君が、本日は珍しくもお相手をしてくれていたようでしたので」

と、シルクハットを少しだけ上げながら答えた。

「誰が愛しのだ。誰が姫君だ」
「今日のようにまたにお相手はしてくれるのですが…やはりツレナイようだ」
「オレのフィールドは一課だ。何度も言わせんな」
「存じておりますよ。しかし、だからと言って私が一課の事件を起こすわけにはいかない」
「ンなことしたら速攻で捕まえてやるよ」
「貴方が相手では私如きすぐに捕まってしまいますね…。それが解かっていて、罪状を増やすことなど出来ません」
「良く言う」

 探偵が不機嫌そうな表情を隠さず言い返せば、怪盗はこれもいつものこと…と会話を続ける。
 そして探偵の視線が鋭くなった処で、これ以上は機嫌を損ねると把握している怪盗が話題を終わらせた。
 そんな怪盗の思考を読んでいた探偵もまた、怪盗が作ったその流れに素直に応じることにする。

 …何処までが本気なのか解からない、2人の間でだけ通じ合う言葉遊び…


「──で? 確認は済んだのか?」

 何時の間にか怪盗の目的を把握していた探偵。
 初めて聞かれた時は心底驚いたものだったが…今では挨拶と同じくらい使われるようになった言葉。
 どうして知り得たのかは解からないが、それもこの探偵が相手ならば不思議には思えど納得は出来る。

 怪盗も探偵の秘密を知っているのだから、探偵が怪盗の秘密を知っていても、2人の間にはなんの問題もない。

「いや。…生憎と雲が邪魔で未確認」
「犯行時刻は出てただろ、月」
「直後に確認出来なかったのは誰のおかげだ?」

 探偵がこの話題に触れると、いつも怪盗は口調を崩す。
 元々、探偵に対しては昔から崩した口調で接してはいたのだが…これも1つの区切り、と言うヤツだろう。

「…そーいや、日曜は1日中曇りだってお天気おねーサンが言ってたなぁ…」

 睨め付けるような怪盗からの視線に、「ちょっとやりすぎたか?」と言う自覚があった探偵は、視線を逸らしながら微妙にズレたことを口にする。

 犯行があったのは土曜日。
 既に日付けが変わっている為、今日はもう日曜日だ。

「おいおい、マジかよ;」
「お天気おねーサンを信じるならな」
「それ…何処のお天気おねーサン?」
「8チャン」
「うわっ、信用度高いし!」
「そうなのか?」
「少なくとも石原 ●純よりは」
「それって比べる対象のレベルが低すぎねぇ?」
「だけど8チャンの星占いは良く当たるンだよね」
「は? お前、星占いなんか見てンのか?」
「見てるよ? 毎朝8時ごろ」
「…怪盗キッドが星占い…」
「あ、バカにしたよーな発言は止めてくれるかなぁ」
「バカにはしてねぇよ」
「じゃあなにさ」
「呆れてンだ」
「もっと酷くない?」

 お互いがフェンスに寄りかかり、探偵は徐にポケットから取り出した携帯電話をなにやら操作しながら。怪盗はそんな探偵を警戒することもなく無防備に曇り空を見上げながら。相手には無関心のまま会話を交わす。

 …探偵を崇拝している警察関係者や、怪盗に熱を上げているファンが聞いたら…きっと良くも悪くも意識改革を行うだろう内容ではあるが。

「あーあ。返却遅れそう;」

 ハンググライダーに適した風は吹いているが、月を隠している雲を取り払うほどのものではない。

「なんだよ。ハズレ前提か?」
「じゃあ聞くけど、そう簡単に見つかると思うか?」
「…だったら、お前がその服を着る事はなかったな」
「だろ?」

 マントを靡かせ、シルクハットを少し押さえながらボヤク怪盗に、探偵は呆れたように息を吐きながらも問う。
 しかしそのまま問い返されて、それもそうだと返事を返して用の済んだ携帯電話を片付けた。


 期待してハズレだった時ほどその落胆は大きい。

 ならば初めからそう考えていた方が…気持ちも楽だし落胆も少ないだろう。


「じゃあ、返却は明日以降だな」
「早めに返すように努力しまス」

 確認するように呟いた探偵に、怪盗も返事をするように呟きを返す。

 不用意に持ち続けて、悪趣味なヤツ等からアプローチされても困るだけだ。
 どんなに怪盗が紳士的なお断りしようとも、彼等からの求愛は衰えるどころか日に日に勢いを増している。

「懸命な心掛けだ」


 怪盗の熱烈な追っかけに、常識は通用しないのだから…


「さて。返して貰えねぇなら帰るかな」
「本当にツレないなぁ…、もう少し付き合ってくれたって良いだろ?」
「なんたって「普段はツレナイ愛しの姫君」だからな」
「ぅわっ、根に持ってるよこの人;」
「探偵がいつまでも怪盗と『仲良しこよし』してる訳にもいかねぇだろ?」
「おてて繋いで〜♪ …って?」

「──じゃ。」

 すちゃっ…と、擬音語が聞こえそうなスピードで利き腕を挙げた探偵。
 怪盗の素晴らしくワザとらしい歌声を綺麗にスルーして、そのままナニゴトも無かったかのように扉へと向かう。

「あ、マジで帰るし」
「ったりめーだろ」
「つまんねぇなぁ…」
「…ああ。そろそろ中森警部が着くだろうから、そっちで遊んでもらえ」
「はい?!」
「警部直通のラブレターを出しておいてやったぜ♪」

 そう言って探偵が見せたのは、先程仕舞ったばかりの携帯電話。

「メールかよ;」
「お前の追っかけの中じゃ上位に入る人だからな。精々楽しくやってくれ」
「くっそ! 次の予告状、覚悟してろよっ!」
「そりゃ楽しみだ♪」

 背後から聞こえる怪盗の悔しそうな声。
 それに探偵は心底楽しげな笑みを浮かべながら扉を開ける。

 と同時に、時間を測っていたかのように、遠くからパトカーのサイレンが聞こえ始めた…。


「…絶対「ぎゃふん」と言わせてやる」

「期待してるよ。じゃーな」




 敵か味方か。

 協力者であり共犯者であり…敵対する2人──




【実は実はな裏話…?】

50000hitありがとうございます!!(歓喜)
とうとうこの数字を見る事になりました。開設当初では考えてもいなかった数字です(笑)

実はこの話、近々「KOAで書こうかなぁ…?」と脳内で構想していたブツだったりします。
新しいシリーズものを凝りもせず書きたくなり(殴)、でもこれ以上は本気で首を締めると思いのんびりKOA連載にしよう…と目論んでました。
なのに何故、こうして50000hit記念で書いたのかと言うと…50000打が近付いてきた時、他にも色々と記念小説を書いていたりで…時間が無く。

ネタが浮かばなかったんです!!(爆)←正直。

……その内、KOAで続きが連載されてるかもしれません(笑)


──まあ、桜月的裏話はともかく。
こんなお話でもよろしければ、9月末までフリーにしますのでご自由にお持ち帰りくださいv
その際の事前・事後連絡は不要です。して貰えたら、例によって桜月がステップ踏みながらお礼訪問させて頂きます♪



  コメント

 雪花samaのサイトにて、50000HITのフリーを頂いてきました。
 お天気お姉さんに占いにラブレター。
 彼等の会話がとても楽しかったですよ、雪花sama!



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