月に1度。
 工藤邸で過ごす身体は子供で頭脳は大人な少年の周りには、いつも高校生らしき男どもが3人と、隣家に住む小学生の少女が1人存在している。




Exclusive Paradise




 それは月に1度、工藤邸で見られるいつもの光景だった

 3人の高校生はともかく少年のことが大好きで、隙あらばいつでも少年を手に入れようとしているのだが、それはことごとく少女の妨害にあって失敗に終わっていたり……しかし少年は3人の高校生と1人少女の攻防に全く気付かず、工藤邸で過ごす有意義な読書タイムを満喫していて、そんなチャンス()を見逃すはずがない高校生の1人である黒羽 快斗が、人間ソファー()とばかりに少年を自分の膝の上へと誘導し、見ていた残りの高校生──服部と白馬──がそれを憎々しげに見つめ、見つめるだけではなく堂々と嫌がらせ(…)をし始め、しかし余り煩くすると少年の逆鱗に触れる為3人は無言で睨み合いそれを見ていた少女は溜め息を付きながら「バカがいるわ」などと呟いていたのだが、その手に持っていた何かのカルテ(…)には綺麗な文字で『ブッ殺す』などとボールペン(赤インク)で書かれていて、それを横目で確認してしまった服部がガタガタと震えていたりした。(長っ!)



……つまんねぇ」

 パタン、と読んでいた本を閉じたコナンがぽつりと呟く。
 どうやら本日の本は彼のお気に召さなかったようだしっかり最後まで読んでいるようだが。()

「面白くなかったのか?」
「ああ」即答。
「今日の本は服部君でしたか」
「うぐっ;」
「駄目だなぁ、服部く〜ん?」
「うるさいわっ!」
「来月は僕の番ですから、コナン君のお好みの本をお持ちしますねv


 ──月に1度の不思議な会合。かいごう?

 身体が小さくなってしまった高校生探偵は、隣家に住む自分と同じ境遇の主治医の検査を受ける為、月に1度居候先から離れ、ついでにリフレッシュタイムを満喫している。

 それに最初に気付いたのは、運命の邂逅から何度となくコンタクトを取り続けていた怪盗。
 元々、工藤邸の書斎にある数え切れないほどの本には興味があり、あれやこれやの手段を用いて、なんとか月に1度のその日に訪問する事を許された。

 次に気付いたのは大阪の探偵、服部 平次。
 たまたまコナンに連絡を取ろうとして偶然知っただけなのだが、そこに自分の知らない男()がいた為、いつもの強引さで必死に泣き落とし(…)、理由を言うのも面倒臭くなったコナンは彼にもその日の参加を許可した。

 そして最後に気付いたのがロンドン帰りの探偵、白馬 探。
 知ったのはクラスメートであり、自分が追い求める彼の怪盗だと信じて疑わない快斗の後を付けていた(…)時に、偶然コナンと落ち合っていた処を目撃したからなのだが『黄昏の館』の件でコナンに興味をもっていた彼は、衝動のままに2人に詰め寄り強引にもその後の予定についていった。


 そこに待っていたのが隣家の主治医、灰原 哀。

 怪盗が訪問するようになってから数度目の検診だった為か、独自の判断で怪盗には気を許していた哀は、後から増えた2人の探偵を値踏みするように見つめ、参加するにはこちらが提示する条件を飲むように言ってきた。

 工藤邸にいる時のコナンは完全に『工藤 新一』になる。
 なんと言っても、月に1度のリフレックスタイム。普段感じているであろうストレスを発散させるのが目的なのだ。
 だから、工藤邸では嘘・偽りは一切なし。そしてこの中であった出来事や話した内容を外に持ち出してはならない。
 それは組織のターゲットになっているであろうコナンと哀にとっては勿論、それを知ってしまったが為に抹消の対象になってしまうであろう他の人間を守る為。
 話したり隠し事をした時点で一切の関わりを絶ち、その際には哀特製の薬(記憶操作の効力あり)を服用させられる。

 怪盗に対しては然程心配していなかった哀だが、探偵2人は自分達とは違い「表」に生きる人間。コナンや哀、怪盗のように「裏」の世界を知らない。修羅場を潜っていない。
 だからこそその条件をつけコナンと哀は黒の組織のことを、怪盗は自分の正体と目的を告げた。
 哀は、怪盗に関してにだけは何も言わなかったのだがそれでは平等ではないと、快斗自身が判断して口を開いたのだ。

 結果、2人は3人の事情を全て理解し、それだけではなく協力までも申し出た。

 怪盗を追っていた白馬は、親が警察関係者である処から服部と共に今まで怪盗が1人で戦っていた凶悪であろう組織を把握する為に独自の捜査を始め今では少しずつ、5人共同で追い詰める為の準備を進めている。


 ……だが、今日は月に1度のリフレッシュタイム。


退屈。」


 そんなシリアスな説明が皆無だった程、彼等の力は抜けきっている。()



「おい、退屈だってさ」

 コナンの言葉に、彼を自分の膝に乗せていた快斗が服部・白馬へと声をかける。
 その何処か偉そうな態度にちょっと(どころではなく)むかついた2人だったが、愛しい至宝である彼が退屈と言うのであれば仕方がない。
 さてどうしたものかと視線を巡らせると、視界に何故かボードゲームが飛び込んできた。

 それはルーレットを回して出た目だけ車を動かし、物件と株を買い結婚して成長していく……つまり、人生ゲームというやつだ。(しかも海外版)

「ではこれで遊びますか?」
「人生ゲーム?」
「なんでこんなんがこのウチにあるんや?」
「ああ。この前母さんが持ってきたンだよ」

 先日、またも遠路遥々襲撃(…)してきた母・有希子の手土産()に、

「暇潰しくらいにはなるんじゃない?」

 私はコーヒーでも煎れて来るわ。

と、使い物にならなくなったカルテ(…)を片付けながら哀が呟いた。
 コナンが何も言わない限り、権力者である彼女からのお言葉は決定事項である。()

「黒羽君、当然勝負しますよね?」
「まっさか逃げたりせぇへんよなぁ?」

 ニヤリと悪魔の微笑を称える白黒コンビ()にカッチーンときた快斗。

「フッ、このオレ様を本気にさせたこと、後悔するんじゃねぇぞ?」

 今では言ってはいけない決めゼリフ()でその場を無駄に盛り上がらせ(?)、いよいよ4人の人生はスタートした。


 もちろん、これはゲームである。

 ゲームではあるのだが




「白馬! 株買占めてんじゃねぇよ!」
「株券は独占禁止法には引っ掛かりませよ」嘘。
「てめっ、黒羽! 借金こっちに廻すなやっ!」
「はっ。廻される方が悪いんだろ?(冷笑)
「なんやと〜()
「それより白馬。てめぇの家(海の見える赤い屋根のおうち・爆笑)放火しても良いか?」
「出来るものならやってみてくださいよ(にっこり)

「こっわ〜;」
低レベルな争いね」


 ……10分後。
 バカなようだが、非常に白熱した戦いとなっていた

 たかがゲーム。されどゲーム。

 別に、勝者にコナンさん贈呈なんていう契約(…)を交わした訳でもないのに、このやる気。


 流石はそこそこ(…)名の知れている探偵2人と世紀の大怪盗。関連は微妙に皆無。


 最初はヒートアップした4人の戦いを興味半分、脅し半分(笑)で観戦していた哀だったが、その戦いの激しさにバカバカしくなったのか、一声かけて隣家へと戻って行った。
 どうやら何かの研究が進行しているらしく、その経過を確認するのだとか。()


 そして工藤邸に残ったのは、止まる事無く飛び交う4人の声


「快斗っ! オレの競技場買収するなんていい度胸じゃねぇかっ!」
「この世は弱肉強食なワケよ(苦笑)」
「服部君、此処にあった僕の会社4号店は?」
「あ、さっき潰してもーたわ


 白熱した戦いは終わる事を知らない。()
 終止符が打たれるのは、隣家から戻ってきた哀が呆れながらも注射器を片手ににっこりと可愛らしく微笑んだ時、だろう。



 勿論、コナンに被害はない。至宝だから(笑)








 桜月雪花samaのコメント

【何が言いたかったのか

40000hit
ありがとうございます!!
暫くオンライン上から姿を晦ましていたのですが戻ってきたら突破してましたよ。()
やっぱり今回も大慌てで書き始めたんですが、ネタが思い浮かばなくて困った困った;
何度となく『モーニングコール』の続編にしようかと思ったンですが、前回の後書きで『次は快コ』とか書いてたので書いてみたらなんとも微妙な話しになりました。
書きたかったのはコナンな事情もキッドな事情も知ってて悪友ちっくな服部と白馬。
いつもは当て馬な2人だが、桜月は別にこいつ等が嫌いなわけではなく寧ろ協力体制にあると萌えまス。告白。

まあ、そんなことはともかく。
こんなお話でもよろしければ、8月末までフリーにしますのでご自由にお持ち帰りくださいv
その際の事前・事後連絡は不要です。
して頂けたら、桜月は狂気乱舞ですが()



 李瀬のコメント

フリーだったものを頂いて帰ってきました。
仲良くやっている人達ですよ。争奪戦は結構好きなのでもう楽しかったです。
それにしても、ゲーム一つも彼等が固まれば凄い事になりますよね。
そして、止めるのはやっぱりお隣さんですか?
その瞬間も見てみたかったかも。
40000HITおめでとうございます。そして、素敵なお話とてもよかったです。



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