「──新一? 起きて」 「…………。」 モーニングコール 2
世界に名立たる怪盗紳士。シークレットナンバーから『怪盗キッド』と呼ばれ、また自らもそう名乗っている1人の男。 人々を魅了し、鮮やか且つ隙のない手腕で犯行を繰り返す彼も、朝になれば唯の一般市民に戻る訳で… 怪盗の衣装を脱いだ彼は、極々普通……とは言えない知能指数を持ってはいるが、それ以外は本当に普通の生活を送っている高校生。 そんな彼の朝は、とある低血圧な名探偵を起こす事から始まる── ──事の起こりは数ヶ月前。 毎回警察とは別に送っているもう1つの予告状。 その受け取り人である稀代の名探偵が全然現場へとやって来てくれないことに、弱音を吐き地団太を踏んでいた(笑)怪盗キッドこと黒羽 快斗。 まさにその(情けない)現場に漸く訪れてくれた名探偵は、彼にとって死活問題な事情がある為に、今まで怪盗の現場に行けなかったのだと説明した。 その「死活問題な事情」というのが… 『要請による途中早退は譲って認める代わり、朝はきちんと間に合うように登校する事』 『もし早朝にも要請を受けるようなら、きちんとその旨を警察側から連絡させる事』 …何処が「死活問題」なのかと聞くなかれ; 低血圧で朝起きられないオレには死活問題なんだよ!(By.新一) そんな理由(…)で今まで現場に来て貰えなかった怪盗は、これを気に名探偵と親しくなろうと、 「これから毎朝、モーニングコールをしましょう。朝はきちんと起きれますし、そうすれば貴方も私の現場に来て下さるでしょう?」 と、提案したのだ。 それから、怪盗からの不可思議なモーニングコールが探偵の元へとかかるようになり…その内、電話での呼び名が『名探偵』から『新一』に、『お前』から『快斗』に変わった。平日の放課後に怪盗が探偵に会いに行く回数も増えた。 そして、今… 「おはよう、新一。起きて?」 「………ん〜、」 「こら! 布団に包まって逃げないで」 「………ねむ〜ぃ」 「可愛く言っても駄目だから;」 「ンだよぉ…、きょう、にちよう…」 「確かに日曜日だけど、今日は本庁に出頭でしょ?」 「…そーだった…」 ベッドの上でもぞもぞと動いていた布団を剥ぎ取れば、そこにあるのはしっかりと丸まっていた新一の姿。 その姿に苦笑を浮かべつつ、前もって聞いていた彼の予定を快斗が口に出せば、どうやら忘れていたらしい新一は渋々と抵抗(?)を止め起き上がった。 「おはようv」 「あー…、はよ」 「ご飯の用意出来てるから、着替えて下に降りてきてね♪」 「…たべたくない」 「だーめ! 少しで良いから食べて。そしたら目も覚めるから」 「…………」 「返事は?」 「……わぁった」 こくり、と頷いた新一ににっこりと微笑んで寝室を出ていく快斗。 その姿を目呆け眼で見送った新一は、パタンと閉まる扉の音を耳にしてからベッドの外へと足を投げ出した。 ──なんだかとっても自然にラブラブなように見えるのだが、この2人は別に恋人同士な訳でもお付き合いしている訳でもありません(爆)←意味一緒だし。 どんなに甘く見えても、快斗は新一を起こしているだけであり、手(…)は出していませんデショ? ちなみに言えば、快斗は工藤邸に住んでいるのではなく、土日を利用して泊まりに来ていただけ。 …つまり、そういうことなんです。 「お前、今日どうするんだ?」 快斗の用意した軽めの朝食をもぐもぐと食べていた新一が尋ねる。 その新一に目の前に座っていた快斗は、問われた内容に「う〜ん」と首を傾げ、 「…此処でマッタリさせて貰っても良い?」 と、尋ね返した。 「ウチ? 別に構わねぇけど…」 「ありがと♪ ついでに掃除とかしておくよ」 「悪ぃな」 「好きでやるンだから気にしないで」 「…今日は調書を確認するだけだから、昼頃には帰れると思うから…」 「じゃあ昼食も用意しておく♪」 しつこいようだが、この2人は別に恋人同士な訳でもお付き合いしている訳でもありません。 新一を送り出した後、朝食の片付けを始める快斗。 余り食べない新一ではあるが、快斗が一緒に食事を取る時は比較的食べてくれている…ように思える。 それを嬉しく感じながら片づけを済ませると、次はリビングや寝室の掃除に移る。 広い工藤邸ではあるが、使用している部屋の掃除は行き届いているらしく、軽く掃除機をかけたりする程度でそれも終わってしまう。 これが終わってしまえば…もう、やることはなくなってしまうのだ。 …そしてこの一連の作業(?)が、快斗の毎週末の定番の行動なのである── 「…今日もいつも通りの時間だなぁ」 リビングのソファーで丸くなりつつ呟く。 ちなみに抱えている膝と身体の間には愛用のビーズクッションが挟まれていたり… 「お昼作るには時間があるし…あー、メニュー何にしよう?」 ごろごろと左右に身体を揺らしながら呟き続ける。 …こうして誰もいない工藤邸で『お留守番』するのもすっかり馴れてしまった快斗。 始めの頃は、放課後に遊びに押しかけていても、新一に要請があったら流石に工藤邸からお暇していた。 それが何度か繰り返されたある日。 膨大な書籍数を誇る工藤邸の書斎で、各々本に没頭していた時にまたしても呼び出された新一。 それじゃあ仕方ない、とまた後日読ませて貰おうと快斗が本を片付けようとした時、 「…帰ってくるまで、読んでても良いけど?」 と、新一が提案したのだ。 それから、快斗1人でも適当な時間まで過ごすようになり、終いには泊まりに来る事も許可して貰って……最終的には、現在のように毎週末は必ず泊まりに来ていたりする。 快斗にとってはこれ以上にない展開。 なんたって、彼は随分昔から名探偵に恋情を抱いていたのだから… だから彼だけへの予告状を送ったり、彼の事情を知って図々しくも強引にモーニングコールの大役(←快斗にとっては・笑)をさせて貰った。 それが今では彼の名前を呼べるようになり、こうしてお泊まりまでさせて貰えるようになり…怪盗であるにも関わらず、彼はごく普通に自分と接してくれている。 これ以上望んでは罰が当たるかもしれない。 でも、例えそうだとしても、彼への想いは消えないし消すつもりもない。 数ヶ月かけてここまで進展(←快斗的に・笑)させたのだ。 少しずつであろうと前に進んでいるのなら… …最終的には彼をこの手に収めたい。 「ただいまぁ」 ずっと1人だったのに、帰ってきたら誰かいるって言うのもヘンなカンジだよな… そんな事を思いつつ、しかしその感覚に馴れてしまっている自分に苦笑しながらリビングへと向かう。 いつもなら、この段階で向こうから「お帰り〜♪」と、快斗の明るくてほっとする声が聞こえてくる筈なのだが… 「?」 気配はする。だからいるのは間違いないのだろう。 しかしいつまで経っても聞こえてこない声に、新一が首を傾げながらリビングを覗けば、ソファーの上で丸くなっている快斗の姿。 「………」 ビーズクッションを抱きしめ、穏やかな表情で眠っている快斗。 ゆっくりと、起こさないようにそっと近付けば、それが幸いしたのか相手は眠ったまま。 快斗の顔が眺める位置で腰を下ろす。 「…怪盗が探偵の前で気ぃ許してンじゃねぇよ」 普段は人一倍気配に敏感な筈の怪盗。 それが、今は穏やかな眠りについている… 「そんな風に無意識な反応されると、嬉しくなるだろーが」 小さく呟き、新一は苦笑のような笑みを浮かべた。 それから今度は完全な苦笑を漏らし、 「…って、オレもコイツには気を許してるから、お互い様か?」 と、快斗が聞いていたら舞い上がって喜びそうな言葉を呟いた。 会いたかったのは何も怪盗の方だけではない。 探偵だって、怪盗からの予告状を楽しみにしてて、時間さえ取れれば会いに行こうと思っていた。 だけど色々と都合があり、学校と主治医からは『夜更かし厳禁』命令を出されてしまった。 それでも会いたくて…少し無理をして会いに行った。 まさかその後であんな提案をされるとは思っていなかったけれど…彼が自分を気にかけてくれた事が嬉しくて、表面上では渋々そうな顔を作って怪盗の提案に頷いた。 今では「友達」と言えるような関係になれたと思う。 だけど、それだけじゃ満足出来ていない自分がいて… 「…なあ、もしオレが「好きだ」って言ったら、お前はどうする?」 眠っている怪盗に向けて、ちょっと卑怯な問い尋ね。 返事が返ってくる事はないし、返って来ないからこそ尋ねた問いだけど、これは自分の中にある本音だから… ──いつか、大空を舞う怪盗の翼を自分だけのものにしても、良いですか…? 【思わず続編書いちまったよ】 30000hitありがとうございます!! 今回は無事(?)自力で気付きました。…ただし、その時は既に29700hitだったンですがね?(爆) 約1ヶ月…でしょうか? こんな短期間で10000hitするとは思っておらず、カウンターに気付いた先日、大慌てでプロット作成。←やっぱり慌てたのか; 前回の後記で言っていたように(?)今回は快新でお届けしました♪(じゃあ次は快コだな?笑) 一応、前の話が解からなくても読めるように書いたつもりではあるのですが…; こんなお話でもよろしければ、7月末までフリーですのでご自由にお持ち帰りくださいv その際の事前・事後連絡は不要です。…でも頂けたら、桜月は狂気乱舞します(笑) ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ あとがき 30000HITフリーを頂いてきました。 前回の続きですよ。続き。 もう一息続きそうな勢いなので、次があるかどうかどきどきしつつ過ごす私。 やっぱり、布団に包まるあたりの新一さんが描きたい。 描けたらいいなぁ(願望だけ・・・? 新一さん、頑張れ!と密かに応援。 戻る |