好きって言葉

あいつはいつも言っているけれど

自分からいう事は出来ない

きっと、あいつとの意味が違うから

 

もし、この言葉を聞いて、好きの中にあるもう一つの好きだと気付いて

否定されたら怖いから

 

 

 


 夢幻の魔法

 


 

 

共犯者という関係になってから数日。

しっかりと居ついて、それもずっと前からいるように馴染んでいる怪盗キッドこと、黒羽快斗。

今日も鼻歌を歌いながら、新一の分も合わせて朝食をつくってくれている。

「お待たせ〜vv

いつも、語尾にハートマークが付いていそうな感じで、にこにこしながら話し掛ける。

その笑顔が好きなのでうれしいのだが、いろいろと複雑である。

そう、探偵である工藤新一は、怪盗である黒羽快斗の事が好きなのだ。

それも、男同士でありながら、恋愛に関して鈍感な新一が好きになった相手。

やはり、一筋縄ではいかないような相手である。

だが、そんな彼等は両思いであるのは事実なのだが、当の本人達は気付いていなかったりもする。

お隣の少女から言わせれば、さっさとくっつけばいいのにというところ。

「・・・新一?」

「あ、ごめん。」

ズーンとどうやら思考に沈んで、箸も動いていなかったようだ。

心配そうに見てくる快斗に大丈夫だといっても、すぐには納得しない。

やはり、こいつにはポーカーフェイスは無意味の物だ。

「美味しくなかった?」

無理に食べているのじゃないかと聞いてくる快斗に、おいしいのだが、思う事があって箸が進まないだけ。だから、その旨を伝える。

「この前の事件の事でちょっと思い出して・・・。」

この前の事件とは、思いのすれ違いから起こった悲しい事件の事。

その事件を事前に止められたら良かったのにと、新一が本当に悲しんでいたのを知っていたから、快斗は「そっか」と納得した。

珍しく、静かな朝食だった。

 

 


「哀ちゃ〜ん。」

かなり泣き出しそうになりながら、情けない面して現れた怪盗紳士とは思えない彼。

「・・・毎回毎回、馬鹿な理由で来ないでちょうだい。」

「馬鹿なって・・・。ひどい。」

いつも来ては馬鹿と言われてだんだんと慣れつつあるが、やはり辛い。

確かに、今の姿は馬鹿と言われてもしょうがないほど情けないものだ。

「それで、今回はいったいどんな理由かしら?」

毎回、新一が事件で出かけては彼は隣へ来て、哀に訴えるのだ。

どうやったら、新一と恋人同士になれるかどうかについて。

そんな事、哀にしてみればすでに両思いなのだから、どちらかが言えばまるく収まる事だ。

だから、言えばいいじゃないと言うのだが、そうするとはぁと溜息を吐いて、あの探偵であって恋愛に鈍い彼の場合は、毎日好きだと言ってもわかってくれないので、駄目なんだと言う。

なら、いちいち言いに来ないでと言えば、聞いてくれてもいいじゃないか〜と、服を攫んで、新一について話し出し、挙句には惚気てくれる。

実験の時間を割いて付き合っているというのに、鬱陶しくてしょうがない。

「ねぇ。貴方の好きっていう言葉。いつも思うけれど、他のフェミニストぶりを発揮する時と同じに思えるのだけど。」

「そんなことないよ。彼に対しては愛してるも混じってるんだから。」

「でも、伝わらないのは、普段の貴方がいけないのよ。」

だいたい、女性という女性にはフェミニストぶりを発揮し、好きという言葉も使う事もあり、それがあるから鈍い探偵は勘違いするのだ。

なので、この馬鹿でまったくあの探偵の中途半端な鈍さ加減を理解していない怪盗から変える事にする。

「いい。彼が恋愛音痴なのはわかっているんでしょ?」

「そりゃそうですよ。だからこそ、西の彼も私を追いかけてくる鬱陶しい彼の言葉にも気づいていないのですから。」

何故か、キッド口調。だが、馬鹿に騒がれるよりはいいので、この際は放っておく。

「本当に好きなのなら、好きのあとに愛しているぐらいつけておきなさい。それでも駄目なら、キスでもしてみなさい。それか、押し倒してみなさい。どうせ、頭の中ではそんな事日常茶飯事で考えているんでしょ?」

「うっ・・・。で、ですが・・・。」

そんな事をして嫌われては、さすがにショック以上に立ち直れないと思う。

だから言おうとしたが、今夜試してみなさいという。

本気で好きだという気持ちを込めて、相手からしっかりと返事を貰いなさいと。

「それで・・・。」

「それで上手く行かないようだったら、慰めてあげるわ。だけど、中途半端な事をしたり、今夜告白しないようなら、明日、私の実験に付き合ってもらうわよ。」

「は、はいぃ〜〜〜。」

さすがに、恐怖を感じですぐさまお隣へと引っ込む。

「・・・ま、結果はわかりきっているけどね。」

新一が事件から戻ってくるのはもう少し・・・

 

 

 

 

 


「ただいま。」

「お帰り〜。」

哀の言葉。身を持ってその恐ろしさを知っているので、少々顔が引き攣りながら、新一を出迎えた。

さすがに新一も、その様を見て哀と何かあったんだろうなとわかった。

だけど、いくら事件を優先にしてしまうとしても、やはり哀にも嫉妬してしまう。

「あ、あの・・・。」

「どうしたんだ?」

「えっと・・・。」

確かに、そろそろ言いたいのだが、やはり新一相手に言うのには勇気がいる。だって、それを拒絶されたら、一緒にいることはきっと出来ないだろうから。

もしかしたら、一番いけないことをしてしまいそうで怖い。

まぁ、そこは悲しませたくはないので止めるつもりだが。

「どうした?哀に何かされたのか?」

さすがに、ここまでポーカーフェイスも出来ていないのは珍しいので、本当に何があったのかと心配になる。

「と、とりあえず、夕食先に食べない?」

「そうだな。お前のはおいしいし。」

朝はいえなかったことがすんなりと言えて、少し満足な新一。

だけど、その笑顔でやはり言いたいけど、言ってその笑顔を失うのは嫌だなと思う。

今朝の新一同様に、ズーンと考え込んでいた快斗。

なかなか部屋に入ってこない事を不信に思い、新一が扉から廊下を覗けば、なんだか悩んでいる快斗の姿があった。

「おいっ、本当にどうしたんだよ?とにかく、部屋入ってこいよ。暗いんだからさ。」

「あ、うん。」

新一の声は、何が何でも届くという便利な耳を持っている彼。

ある意味、さすがねと哀も驚くほどのもの。

「なぁ、どうしたんだよ?」

相変わらず元気が無いのか、何か悩んでいるような快斗。

夕食が済んでも、なんだか溜息ばかり。

何か言おうとしては、話をそらす。

やっぱり、何かおかしい。

先に、シャワー浴びておいでと言われて、汗をかいていたのは事実なのでその言葉に甘えて浴びるが、新一も考えが沈んでくる。

「やっぱり、迷惑かけてばっかりだから、家に帰りたいのかもしれない。」

家に帰っている様子はない。

だって、あの日からずっと工藤邸にいるのだから。

しっかりと、自分の隣の部屋を使用して、私物もいっぱい置いてある。

まぁ、それを触る事はないのだけど。

「それとも、灰原が何かいったのかなぁ?」

灰原には自分の気持ちは知られている。だから、それを聞いていろいろと快斗は考えているのかもしれない。

「どうしよ。」

もし、またこの家に一人になったら、寂しくてしょうがない。

せっかく、温かい彼の隣にいる事が出来るようになったのに。

とにかく、お別れになっても共犯関係は変わらない。彼から言い出したのだから、それを変える事は彼が、怪盗キッドがしないと思う。

だから、この生活がなくなっても、それを聞き入れたらいいんだと、言い聞かせる。

シャワーからあがれば、相変わらず何かぶつぶつ言いながら悩んでいる快斗の姿があった。

 

 


なんだか、あがってきた事にも気付いていないようだし、出来ればお別れの言葉なんて聞きたくなかったから、先に部屋に戻る事にした。

どさっと身体をベッドに倒す。

何も考えないように、このまま寝てしまおうかと考える。

だけど、目がさえて眠る事は出来なくて。

「どうしよ。」

その言葉がぐるぐると新一の頭の中でまわっている。

そして、しばらくしてうとうとし始めた頃、階段を上ってくる足跡が聞こえ、目を覚ます。

気配や足音に敏感な彼は、それが知り合いのものか、それ以外のものか区別できる。

とくに、過敏に近づいたら反応しない親しい者達でさえ、時に反応を見せてしまう。

今のように、考えていたりすると。

「何を、言われるんだろ・・・。」

快斗は優しいから、傷つけないように言葉を選んで言ってくる。

だけど、今はそれもまた辛い。

コンコンと、部屋をノックし、起きてるよねと言われて、このまま寝た振りをしていても快斗にはばれてしまうから返事をすると、話があるからと言ってくる快斗。

「入れよ・・・。」

もそりと起き上がって、快斗が入ってくるのを待つ。

「新一・・・?もしかして、寝てた?」

起こしちゃったんだったら悪いなという快斗にまだ寝てはいないと答える。

「で、何だ。話って。」

「えっと、その・・・。」

「そんなとこで立ってないでこっちに来たらどうだ?」

「あ、うん。そうだね。」

すぐ側にまで来て、ベッドの上に座っている新一に合わせて、ベッドに座る許可を貰って座った。

「返事はイエスでもノーでもいいから、とりあえず聞いてほしい。」

そういう快斗の目はとても真剣で、それだけ内容が深刻なものなのだろうと思う。

「あのね、俺は新一の事が好きなんだ。」

「・・・知ってる。」

その言葉は毎日聞いているから知っている。だからどうしたのかと思えば、また溜息。

「あのね、俺の好きって言葉は・・・えっと・・・その・・・。」

「何なんだよ。」

「もう。・・・っ、新一が好きなんです。どうか、この先もずっと一緒にいる事を許して下さい。」

思い切って言ってみた。そして、否定されるのが怖くて、ついキスなんてものをしてしまった。

そこではたと気付いた。

「えっと、新一・・・?」

かちんと見事に固まっている新一の姿が快斗の腕の中にあった。

「し、新一?!」

お願い、固まってないで反応して〜と慌てだす快斗。

新一にしてみれば、思っていたことと違っていた事は良かったのだが、まさか告白されたあげくキスされるなんて思ってもみなかった。

だって、片思いのままで、思いが叶うなんて思ってもいなかったからだ。

「え、えっと。」

固まっていた新一が戻ってこれば、心配そうに見ている快斗が目の前にいて、さらに顔を真っ赤にする事になった。

「し、新一っ?!」

とりあえず、ここで返事を出さないときっと出て行ってしまうだろうから、言おうと思うのだが、上手く言葉に出来ない。

「探偵と怪盗だし、男同士だし、嫌いだと思ったら追い出してもいいし。だけど、新一が好きなんだ。それだけは否定しないで。」

「なっ、ひ、否定も何も。俺はお前が好きだからそんな心配いらないだろ。」

「え?」

「あっ・・・。」

つい、返事というか、自分も告白なんてものをしてしまって、顔がさらに赤くなっていく。

「新一〜。もう、大好きだよ〜。」

がばっと抱きつかれて、ベッドに転ぶ二人。

その日は、仲良く一緒に寝て、夢の中でも仲良くしていたとか。

 

 

 

 

 


夢見てきた幻

何度も返して欲しいと思っていた言葉

夢や幻から現実へと魔法を解くのはとっても簡単な言葉

 

やはり、あいつは魔法使いだと思う新一

夢や幻を見せる魔法使い

そんな魔法使いの隣を許された

 

 

 

大好きだよ

・・・ただ一人、愛する人

 

 

 

魔法使いがくれた、夢を現実にしてくれた魔法の言葉

 

 

 

 

 

あとがき

 

30000HITおめでとうございます。

地雷王の名を頂いたのち、最近紙一重でよけている(?)ので、お祝いに参上いたしました。

前回もお祝い差し上げましたし、せっかくですし。

帽子は終わったので、夢幻の続編でお祝いをお届けさせていただきます。

これからも、頑張って下さいませ。

 






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