昔のアルバムを見て、嫌な過去をしっかりと思い出した 「げっ・・・。」 「ね。だから、賭けは俺の勝ちね。」 「う、うるせぇ。だいたい、こんなの無効だ!!」 「もう、照れちゃって〜。」 「て、照れる以前の問題だ!この、バカイト!!」 お隣さんもびっくりなほど声を張り上げて叫ぶ新一。 原因は間違いなく、昨晩から家に居ついただろうと思われる、眼を疑うようなお馬鹿さんのような怪盗さんだとわかる。 「まったく。家でいちゃつくのはいいけれど、限度ってものをわかってほしいわね・・・。」 お隣の少女の呟きが彼等に届く事はないのかもしれない。
ゲームの賭け
全てのはじまりは、昔のお話。 十年以上も前の事です。
ある日、マジシャンのショーに招待された一組の家族が、マジシャンに呼ばれて控え室へとやってきました。 このときのマジシャンは世界的に名を馳せるほど有名になった、黒羽盗一。そして、妻の薫。 招待された家族とは、工藤夫妻。世界的な小説家と女優というなんともすごい夫婦。 そして、その夫婦の一人息子の新一と盗一は対面した。 「こんにちは、新一君。」 「こんにちは、黒羽さん。」 「いやいや。黒羽さんだと、皆同じになるから、盗一でいいよ。」 「盗一さん?」 「そう。」 はいっと、小さなブーケをマジックでひょいっと出して、新一に渡してやると、ありがとうと、まさに天使の微笑みのような笑顔でお礼を言われた。 「・・・盗一・・・。」 「やだねぇ、優作ったら。」 親バカな父は友人に嫉妬するのだった。 さて、ここでもう一人の登場。先ほどから奥で何やら真剣に何かをしている子供がいた。 工藤夫妻の前に来た、有名人達の挨拶に疲れた彼だが、工藤夫妻が来る前に来た人にもらったパズルを暇つぶしに始めたのだった。 それが、結構楽しくって嵌ってしまい、工藤夫妻が来ても気付かないぐらい真剣にやっていた。 そこへ、父が声をかけてストップをかける。有希子はいいわよと言うが、挨拶ぐらいはさせないといけないという。新一に挨拶してもらったから、返すべきだと言うのだった。 ある意味、彼も親バカだった。だが、少し今回は新一よりかもしれない。 ひょいっと息子を抱き上げて、彼等の前に立たせた。 そして、目が合った瞬間恋に落ちた息子、快斗。 「・・・誰?」 「何だい?聞いていなかったのかい?私の古くからの友人で、今もよく会う人だ。知っているだろう?工藤優作っていう、推理小説家だ。隣に居るのが奥さんの有希子さん。元女優だ。テレビにも出ていただろう?」 「知ってる。で、彼は?」 父の友人よりもその息子の名前の方が重要だった。 「彼の息子の新一君だよ。」 新一かぁと、名前を覚えて自己紹介しようとしたら、新一の持っている小さなブーケが目に入った。 あれは、昨晩父が作っていたもの。ショーで使うのかと言えば、明日楽屋へ来てくれるある子への贈り物だと答えた。 まさか、彼だったとは。敵は父だな!と勝手にライバル宣言を彼自身の中でたてられた。 「はじめまして、しんいち。ぼくは、かいとだよ。」 はいっと、簡単な手品で小さい花を出して渡す。 すると、盗一から貰った時のように、笑顔でお礼を言う新一。 その時すでに、盗一は彼は大丈夫だろうかと心配するようになっていた。
それから数日。 快斗が会いたがるので、工藤夫妻の元を訪れる。 まぁ、ショーがあれば相手が出来ないし、頭のよい快斗は他の子供と比べられて差がある事でいろいろあり、なかなか自分から友達を作ろうとはしないし、他の子供達も逃げていく事が多かった。 それが、初めて自分から友達になりたいという意思が芽生え、それは良い事だと連れて行くようになった。 工藤夫妻も、まだまだ忙しい身で、賢い新一は家に篭って本ばかりで、快斗が遊びに来て新一の相手をしてくれるのはとても喜ばしいことだった。 両者の利害の一致で、彼等は毎日一緒に過ごすようになった。 その間、どんどん快斗の中では新一の好きの気持ちが大きくなっていた。 だが、そんなある日。快斗は日本へ帰る事になった。新一はまだ、このアメリカという日本とは遠い土地に残る。 離れるのがお互いに嫌だったが、新一は移動ばかりのためで気持ちを抑えた。しかし、快斗は文句を言いまくり、挙句の果てには新一をぎゅうぎゅうと抱きしめて泣き出したのだ。 さすがに困った両親だが、予定を変える事なんて出来るわけがない。 しばらく、二人だけにしておきましょうと言う。 新一が説得しますよと有希子は言って。 誰からも好かれる新一は、過去にも同じような事があったのだ。 絶対、世界中に名前が出るような有名な奴になろう。 有名になれば、何処にいるかわかるから、迎えに行くと言った。 そして、昔は別れたのだ。絶対先に有名になって、迎えに来てもらうっと言って。 「快斗は、あまり人とは関わらなかったからねぇ・・・。だから、余計に今回ははじめての我侭だから聞いてあげたいのだが・・・。」 「新ちゃんの場合は、人をうまく丸め込むのが上手なのよ、盗一さん。」 「そう言えば、夢はホームズだったか。」 その間に話がついたのか、一人下を向いて現れた快斗。 両親を見て、帰ろうと言う。 別れは悲しそうだが、何かあったのだろうとよくわかる。 何があったのかは聞かないが、決心が変わらないうちに帰ろうと、彼等は先に日本へと戻ったのだった。
彼等の間の出来事はこうだ。 新一が、また会えるからと言い、いつと聞いた快斗に一つの約束をしたのだ。 10年後。お互いの事を忘れず、迎えに行くと。 忘れていなかった方が勝ち。忘れていた方が負け。 どっちも忘れていたら、この約束事態が無効。 約束という名の、御褒美付きのゲームだ。 勝った方は負けた方に何か一つ命令できるという特権があった。 「約束。」 「うん。忘れない。しんいちも忘れてたら嫌だよ?」 「・・・努力する。」 「・・・。じゃぁ、絶対に勝つ!」 「むっ。かいとには絶対に負けないもん!」 指きりされた事。 それから、10年が経った。
快斗は白い衣装を纏いながら闇夜を飛ぶ。 新一は組織を倒して、日常に戻っていた。 今年が10年後。新一は組織に関わった際の忙しさと身を隠して嘘を重ねる事で、辛い日々を送っていた中、協力者としてキッドを側に置いていたのだが、すっかり忘れていたのだった。 だが、快斗は忘れている事はなかった。 そして、言ったのだ。だが、すぐには信じてもらえなかった。 そこで取り出したのは一冊のアルバム。そして、自分の名前と父の名前。 それでやっと、新一は思い出したのだった。 「詐欺だ。くっそ〜。何で忘れてたんだ、俺〜!」 むかつくむかつくと連発する新一。 家に一泊して次の日の朝の事だった。
どうあっても、快斗の存在を忘れていた非もあるし、約束を持ち出したのは自分なので、要求は何だと、昔の天使の笑顔ではなく、ふてくされて不機嫌な彼の笑みのない顔が聞いてくる。 やっと言える。快斗はあの約束の時からずっと決めていたのだ。 「俺。昔何度も言っていたよね。」 「何をだよ。何か、あったっけ?」 きょとんと過去を思い出そうとする新一。 「好きだよ。ずっとそう言っていたよね?」 「あ〜、そういえばそうだな。俺は、快斗も盗一さんも薫さんも好きだったしな。好きだって答えていたよな。で、それがどうかしたのか?」 快斗の名前が出た事はうれしいが、それ以外の名前が出て、複雑な快斗。 「俺の恋人・・・、花嫁さんになって?」 「・・・。」 快斗の発言にクエスチョンマークを頭に浮かべる新一。 「だから、俺はずっと新一が好きだったの。ずっと一緒に居て、新一が恋というものがこの世にあるのだとしっかりとわかってもらえてから告白するつもりだったの。」 「・・・な、何言ってんだ、バーロ。」 顔を真っ赤にいして、またそれが可愛いだけでしょうがないのだが、ここでへにゃりと崩れては元も子もない。 「新一が好きなの。命令というか、告白する事を許してって事なんだけど。・・・それで、新一。」 「な、何?」 「返事は・・・?」 かぁっとさらに顔を真っ赤にして、下を向く新一。それを、手でくいっと自分の方を向けて問いかける。 「嫌い・・・?」 その言葉を聞いてくる彼が、しゅんっと、昔自分が怒って嫌いだと言った時の快斗のままだった。 「嫌いじゃ・・・ないけど・・・。」 「わかんないとか?」 コクリとうなずく。 「じゃぁ、俺が触れるのは嫌?」 首を横に振る。 「俺以外が触れるのは?」 顔をしかめて、一部の人間は受け付けないと答える。 「昔、よくキスしていたよね?」 「な、今頃そんな事言うなよ。あっちでは挨拶代わりだっただろ!」 「それで。キスは頬だけではなく、口にした事もあります。」 「・・・。」 「キスして、俺は嫌だった?」 そう聞かれたら、嫌ではなかったのだからそう答えるしかないが。 それはつまり、誘導されているというか、自分は快斗の事を好きだったのだろうか? 真剣に悩み始めた新一。 記憶力がいい自分が、大切な友人である快斗の存在を忘れていた。 知らないうちに好きになっていて別れが悲しいから、無意識に記憶を彼方へと追いやっていたのではないか。 ふと、そんな事を考えてまたまたかぁっと顔を赤くする。 しっかりと、幼い頃には分からなかった、両親とは違う特別な感じの好きの意味。 「・・・嫌じゃないよ。・・・きっと、無意識のうちに俺は快斗が好きだったんだ。」 「新一〜。嬉しい事言ってくれる〜〜〜。」 ぎゅうっと抱きしめられた。 別れの時に離れたくないからと力いっぱいぎゅうぎゅうと抱きしめてきた快斗と同じようで違った。 今の彼はとても成長していて、新一よりも大きな彼だからすっぽりと腕の中に納まってしまう。 自分もあの時、悲しかったのだ。 だから、快斗に忘れられないように、快斗とまた会えるようにあのゲームを持ち出したのだ。 無意識に、快斗を惹きとめようとしていた。 そんな事は言わないが、思い出してみれば、あの頃からベタぼれだったのだろう。 「新一っ。」 語尾にハートマークなんかつけて、ちゅっと新一の口に軽いキスを一つ。 さすがに恥ずかしい新一は蹴りを喰らわそうとするが、彼は怪盗なんぞをやっている、でたらめな運動神経を持つ人物だ。軽々と交わされた。
こうして、彼等は暴れまわった後、二人仲良くお昼寝をするのだった。 かつての懐かしい夢の続きを見ているのか、それとも・・・?
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