大嫌い、でもやっぱり大好き

 






 

好きになったあいつとは、突然出会った。

昼間は絶対に会えないと思っていたあいつとしばらく一緒にいて、告白した。

すると、あいつも自分の事が好きだったらしく俗に言う、恋人同士という関係になった。

 

だが、やはり世間上では男同士と言うものはいろいろとあるのでそれに恥ずかしかったから隠して過ごそうと言った。

それにあいつはうなずいたけれど、今では少し後悔しているかもしれない。

 

幼馴染に会い、いろいろあいつについて話を聞いて、自分じゃ駄目なのかもしれないとも思った。

だって、あいつは相当遊んでいたらしく、夜は帰ってこない日があったとか。

 

あいつのことについて、いろいろ知っている幼馴染に、少し嫉妬し、そんな気持ちを持つなんてと、自分でも驚いていた。

 

その矢先だった。

それを目撃してしまったのは・・・。

 

「快斗・・・。」

 

やっぱり、自分も遊びの中の一つだったのかもしれないと、その場を立ち去った。

女が快斗の頬にキスしている。

快斗もただ顔を紅くして嫌がっているが、本心からではなさそうだ。

 

 

好きだといってくれたのに

今まではあまり考えたことがないけれど、自分からもないが、快斗からされたこともない。

別にそんなことが全てではないが、考え出すと止まらない。

やはり、こんな男には興味はないのかもしれない。

あの女の方がいいのかもしれないと思うと、うらやましいと同時にねたましい。

こんな、醜い感情を知られたくないから。

それに、これ以上今の彼を見ていたら、我慢できなくなってしまうから、気付かれないように素早く立ち去った。

 

 

 

 

 

あれを目撃してから数日。あの日以来、とある場所への仕事の遠出で会っていない。

本当は会って聞きたいが、聞いてそれでさよならになると悲しいから、自分からは行動できない。

何より、自分もこんなに嫉妬深くて、下手すれば彼をずっとこの家に縛り付けてしまえないかと考えてしまう。

そんなこと、あの自由な鳥には似合わないのに。ふとした瞬間に望んでしまうようになった。

もし、こんな感情を知られたら。それで嫌われたら。それとも、こんな火遊びはもうやめようと思われたら。

考えれば考えるほど、暗く沈む新一。

今日は特に考えてしまう。だって、夕方には快斗がこの家へやってきてしまうのだ。

それまでにいつもの自分に戻らないといけないのに。

幼馴染には散々鈍いとか恋愛音痴だとか言われてきたが、実際恋をしてみると嫉妬深い事がわかって苦笑する。

きっと、快斗と出会っていなかったら、こんな感情知らずに過ごしていたかもしれない。

他の女の子と一緒にいる彼。思い出して大嫌いと呟く。でも、やっぱり自分は快斗が大好きなのだ。

幼馴染の仲良くしていようが、他の女の子と仲良くしていても、それが彼の魅力で同じように自分も惹かれてしまったのだから、嫌いになれるはずがない。

でも、やっぱり寂しいし、特別ならずっと一緒にいてほしいと思ってしまう。

また自分は、彼の自由の翼を切り取ってしまいたいと考えてしまった。

こんなのではやっぱりだめだ。自分と一緒にいる時は自分に優しくしてくれる彼に甘えすぎてはきっといけないんだ。

さっきだって、本当は気付いてほしかったし、そんな女の子と一緒にいてほしくなかった。

はじめからわかっていた事だけど、やっぱり寂しい。

考えれば考えるほど、心の狭い自分を知って沈む。

もしここに、お隣の少女がいれば、少しは変わっていたのかもしれないが、生憎彼女はおなじみのメンバーと共にお出かけ中でいない。

「・・・買い物にでも行ってこようかな。」

まだ時間がある。家にずっといても暗くなるだけだから、夕食の買出しに行こうかと財布と上着を取って戸締りをして出かけた。

その入れ違いに、快斗はやって来たのだった。

 

 

 

 

 

 

「遅い・・・。」

いるはずの新一がいなかったので、おかしいなとは思った。しかし、上着と財布がない事で、買い物か何かの為に外出しているのだとわかったので、大人しくしていた。

だが、一向に帰ってこないのだ。

自分は今日、夕方には行くと言った。大抵、4時ごろにはいつも来ていた。今日はたまたま早く来たけれど。

もう、夕方なんて過ぎて、外は真っ暗だ。なのに、帰ってこない。

日が暮れ出してから、快斗も一度買い物に出かけて夕食も用意済み。だが、肝心の人がいない。

「どこ行っちゃったんだよ。」

事件にでも取られたのだろうかと、メモ紙を残して、夕食にラップをかけて家を出た。もちろん、戸締りはしっかりした。

そして、警視庁まで足を運んだ。

着いて聞いてみると、顔が似ていることであまり警戒される事なく話してくれた。

それに、高木という馴染みの刑事が出てきて、教えてくれた。

この人は別に好きな人がいるということで、快斗も別に敵視していないし、中に入れない快斗を事情を知っているために中まで入れてくれる人で、そんなに人柄も嫌っていない。

「工藤君なら、とっくにひったくりの犯人捕まえて家に帰ったはずだよ?」

帰ってきてないのと心配されて、そうなんですと答えた。しかし、探すので仕事を続けて下さいと言っておいた。連絡は後で入れますからと言って。

どこいったんだと、高木とわかれた快斗は新一を探す。

たかがひったくりで、彼が姿を消すようなことなどありえない。

もしかしたら事件に巻き込まれたのかと思ったが、警視庁があの様子ではありえなさそうだ。

もしそんなことになっていれば、もっと切羽詰っているだろうから。

「本当に、どこいっちゃったんだよ。」

探しても見つからない。

家に帰ったのかと電話をかけてみるが誰も取らない。

夜には帰るらしいお隣にかけてみる。今の時間なら帰っているはずだ。

『はい。』

「あ、哀ちゃん?」

『黒羽君?どうしたの?』

快斗は説明すると、彼女も探すわと出かけようとする。

「あ、その前に、一度家の部屋全部調べて。どこにもいないかどうか。」

『わかったわ。』

それで一度電話を切り、再び探し始める。

 

 

 

 

 

少し時間を遡る。

「どうして、事件と関わるんだろ・・・。」

自分は夕食の買出しに来たはずだ。これでは、今から買っても、快斗はとっくにきていて、もしかしたらすでに夕食を作ってしまっているかもしれない。

それに、まだ心はぐるぐるといろんな思いが巡るまま、解決していないし、このまま快斗と顔をあわせたら何を言ってしまうかわからない。

「どうしよ。」

はぁと、ため息をつきながら、とぼとぼと道を歩いていた。

すると、前方から一人の女性が歩いてきて、目線があった。

その相手に新一は見覚えがあった。

「あら。どうしたの、こんなところで。」

笑顔でとても綺麗な女の人。

彼女は、昼間快斗と一緒にいた女性。

「快斗、振られたの?」

と、ばしばし背中を叩いてくる。快斗と呼ぶだけあって、親しそうで、羨ましいと同時にまた沈んでいく。

人違いをしているらしく、どんどんしゃべっていく。

「それにしても、快斗が本気で好きになるなんてね。両思いでしょ?可愛いとか惚気てくれちゃってね。」

嫌になるわと言いながら、女は快斗のことをたくさん知っていた。自分も知らないことも。

どうやら、快斗は彼女にいつも好きな相手についていろいろ語っているらしい。

ちょっとしたことに気付いてくれて、いつも支えになってくれて、照れ屋で恥ずかしがりやだけど、笑うととても綺麗で可愛い人らしい。

明らかに、自分じゃない。快斗がいつも自分のことに気付いて支えになってくれているのだ。よく考えると、あまり快斗のことを知らないんだなと思い知らされる。

それに、本当に好きな人がいるのなら、どうして自分に何もいってこないのだろう。同情とかから言い出せないとか。それとも、彼女には話せるが、自分には話せないのだろうか。

他に好きなら好きと言ってくれたら、自分は彼の手をすぐに離すのに。彼が望むのなら、寂しいけれど別れるのに。

何もいってくれないことが寂しい。それと同時に、彼女がうらやましかった。

「今度絶対紹介しなさいよ。」

と最後に言って去って行った。最後まで、彼女は気付かなかったようだ。

だが、新一にはそんなこと、どうでも良かった。

快斗と別れるということで頭がいっぱいだった。

もしかしたら、今日言われるのかもしれないと思うと、突然家に帰りたくなくなった。

帰ったら言われてしまう。さっき、快斗が望むのならと思ったが、心はそう簡単に納得してくれない。そして、家とは反対の方向へと歩き出した。

「・・・帰らなかったら、そのままいなくなるかな。」

そういうことはしっかりとしていると思うが、いなくなった奴のことなど、気にしないかもしれない。

それに、話を聞いていると、今日も会うらしいということ。なら、尚更自分に別れを告げて行ってしまうかもしれない。

今日いなかったら、そのまま帰っても、後日また彼は来るだろうから。

でも、来てしまったら、会ってしまったら。もう会うことはないかもしれない。

そう考えたら、怖くなったのだ。そして、逃げた。

時間を潰せる場所はと、適当な店に入って珈琲を注文した。

出されてそれを一口飲んだが、味はしなかった。

そうして、新一は二時間ぐらい時間を潰した後、店を後にした。

 

 

 

ふらりといつの間にかたどり着いた場所。

事件によって、向かった場所。

あの事件の後、自分はこの音がどこか懐かしい気がして、その時計塔の中に入った。

そこで、あいつと会った。

すぐには気付かなかったが、話をしているうちに、彼が誰であるか気付いた。

幼馴染が来たらしく、その後は連絡先を告げて去って行った。

はじめて見た、作り物ではない笑顔。ずっと心で何か引っかかっていたが、あの顔を見て好きになってたことに気付いたのだ。

その後、電話が一度あり、会う事になった。その他には、彼の幼馴染を通して顔を合わせる事が多くなった。

一緒にいる二人が似合っていて自分の入る場所なんてないと思ってた。

でも、哀に相談して、言葉で継げてどちらにしてもすっきりしてきたらどうかと言われ、告白なんてものをしてしまったのだった。

今思うと、どうしてそこまでしてしまったのだろうと思ってしまう。

人を好きになると回りが見えなくなるものよと幼馴染が言っていたが、そうかもしれないなと思った。

告白して、きっと返事は駄目だと思った。幼馴染を見る彼の目がとても優しかった事や、彼女から聞く彼の話しでは、女の子にもてて、目立つ奴で、いつも誰か女の子と一緒にいるたらしということ。夜帰ってこない日もあるとか。

もてて目立つ奴というのはわかるが、彼女以外ではあまり見ないのであまり実感がわかなかったが、目撃してからいろいろ目につくようになって、本当なんだと思った。

だから、駄目だと思ったのだ。それなのに、彼は自分の告白を受け入れたのだ。うれしかった。

触れてくる、抱きしめてくれる彼の腕はあたたかくて、魔法を生み出す指が好きで、どんどん彼以外が見えなくなっていった。

別に、彼なりの付き合いがあるからとあまり気にしてなかったのだが、ある日彼が忘れていった上着を見つけたとき、はらりと落ちた一枚の紙。

それは、あるホテルの宣伝。以前事件で関わったホテル。俗に言うラブホテルと言う奴だ。

今日、ここへ来る前に知らない女と一緒にいたのを知っている。だから、一緒にいったのかと考えた。

違うと首を振っても、どうして快斗がこんなものを持っているのかわからない。いらないものはすぐに捨てるし、広告を道で配られていても、あまり受け取らない奴だ。

なら、興味があったということだろう。

つまり、誰か『相手』を連れて行こうとしているのだろう。その相手が自分でないことは確かだ。

今更だが、こんな身体抱いても何にもならないだろう。

その日から、快斗との間に勝手に理由をつけて距離を作っていた。会わないようにと。

その矢先だった。あれを目撃したのは。

嫉妬していた相手から、たくさん聞いたではないか。

しばらく立ち入り禁止の札を超えて、奥へと入る。

高いその場所から町を見下ろす。

早く、日が昇らないかなと思いながら、そこでぼんやりと町を見下ろしていた。

 

 

 

大分寒くなってきたなと思う。時間も結構経っているようだ。手は少し感覚がなくなっている。

今頃、快斗は帰ってしまっただろう。それでいい。自分の我侭だけど。

「やっと、見つけた。」

自分が求めてやまない声。振り返ると、ここにいるはずの快斗の姿があった。

どうやら、自分を探していたようだ。少し息が荒く、走っていたらしい。

そうしてまで、告げようとしたのか。

なら、言わせない。聞くのは辛いから。

「どうしたんだ、新一。」

近づいてきて、快斗の手が肩に触れる。

それを、新一は払いのけた。その行為に、快斗の方が驚いていたようだった。

でも、これ以上みっともないところも醜いところも見せなくないし、快斗からの別れの言葉だけは聞きたくないから、自分が言うのだ。

「・・・かぃ・・・・・・黒羽。・・・俺はお前と別れる。さよならだ。」

「え?」

新一の言っている意味がわかってないらしい。やっぱり、自分から言われるなんて思ってなかったんだろう。そうやって、人の事面白がってたんだろう。

だから、絶対に弱いところを見せないようにと仮面を被って、言う。

「お前なんか、・・・・・・大嫌いだ。」

そう言って、快斗の顔がこれ以上見られないから、通り抜けて立ち去る。

快斗が追って来ることはなかった。きっと、そのっま好きな相手のところにでも行くんだろう。

「大嫌いだ。」

今の自分もまた、大嫌いだ。

だって、快斗の幸せを願っているのに、快斗が好きな人と一緒にいたらいいと思うのに、その相手に嫉妬している。だってまだ、快斗の事が好きなまま。

その相手が現れるのが遅かったら、もう少し快斗と一緒にいられたかもしれない。

でも、そんなのは仮定でしかない。

家に帰って、机の上に用意された料理を見て、来てたんだと思う。

いつも以上に、豪華な食事。今はラップがかけられているけれど。

きっと、これが最後の晩餐だったんだ。そんなことを思ってしまう。

そうなると、手を付けられない。これで、快斗の作る料理は食べられない。そう、最後だから。

顔も今はきっとぐちゃぐちゃだ。こうなったらさっさと寝ようと、部屋に戻った。

そして、今度もたまたま見たのだ。

お隣の玄関に明りがついた。そして、哀が出てきた。門には快斗がいた。

哀は快斗に近づいて、何か話をしている。

元気のない快斗を見て、少し心配になる。先に言って逃げたから、気にしてるのかもしれない。優しい奴だから。

慰める哀の姿があった。どうやら、泣いているようだ。新一の前では、決して辛いことも悲しい事も言わなかったし、怒ったところの泣いたところも見たことない。怒ってもそれが本気でない事はわかるからだ。泣いたところも同じ。

哀になら、快斗は見せる。弱いところも。快斗の支えになるのは哀なのかもしれない。

様子を伺っていると、まだ目尻に涙は残っていたけれど、少しだけいつものあいつに戻った。

「俺は、あいつに近づく為の口実だったのかな・・・。」

家の中に入る二人。新一に見られているなんて気付かずに。

最近両思いになったのは、あいつ等なのかなと思う。そう思うと、哀がうらやましい。

「・・・泣かない・・・。」

泣かない。なのに、涙が溢れてくる。

きっと、哀は知っていて黙っていたんだ。自分の事を気遣って。どうして、気付かなかったんだろう。彼女だって辛い立場だっただろうに。

でも、うらやましという気持ちの方が大きい。

「女だったら、もう少し望みがあったのかな・・・。」

布団の中にもぐって、声を殺す。

 

 

 

 

 

そんなことなど知らない二人。

「どう?落ち着いたかしら?」

「うん。ありがと。」

新一に別れるといわれて、さようならと言われて、最後に大嫌いと言われて動けなくなった自分が情けない。

すぐに追いかけたらよかったのに、足が動かなかった。

すごく心が悲しんでいる新一を見て、何に対してそんなに悲しんでいるのかわからなかったから、余計に動けなかったのだ。

追って捕まえても、いう言葉が見つからないからだ。

「それにしても、可笑しな話ね。」

「・・・新一。」

「彼は貴方の事が好きだったのよ?あなた、何かしたの?」

「・・・怖くて手が出せません。嫌われるのだけは、怖かったから。」

だから今は、両思いになれて、新一の側にいれて、それだけで良かったんだ。たまに理性が危うい時もあったけれど、無理にやって彼を傷つけたくなかったから、抑えた。

「彼も同じよ。貴方に嫌われる事だけは怖いって言っていた。だから、可笑しいのよ。」

「どうして?気が変わったんじゃ・・・。」

「彼、不器用な人よ。そう簡単に人を好きになって嫌いになるなんてこと、ないわよ。きっかけさえない限りね。」

きっかげがあっても、人を憎む事は出来ない人だから、好きになったら、反対に怯えて本心を見せないようにする人だから。

「何か、あったはずなのよ。あれだけいちゃついてた貴方達なんだから。」

彼が原因じゃないとすると、いったい何が原因なのかしらと考え込む哀。

だが、手がかりがなさすぎてわからない。

「今日はもう遅いから、泊まっていきなさい。明日、彼の様子を見に行くでしょ?」

「うん。じゃぁ、そうさせてもらう。」

さすがに話をつけるためにこの時間から尋ねるのはよくないだろう。

そして次の日の朝。

あまり寝付けなかった新一は目を覚ました。

そして、窓を開けようとしたが、その手を止めた。

ちょうど、お隣から快斗が出てきたのだ。昨日とは違う格好で。だが、眠そうな顔にさらにぼさぼさに跳ねる髪。

お隣に泊まったのかもしれない。

カーテンを閉めて、それ以上見ないようにした。

 

 

 

 

 

「起きた?」

「うん。」

少し眠そうな彼に、苦笑する哀。

「眠れなかったみたいね。」

「・・・うん。」

「ま、眠くなったら寝て頂戴。とりあえず、新聞取ってきてくれないかしら?」

「わかった〜。」

寝たときに少しよれたその服のままで外に出た。新聞を取り出していると、声をかけられた。

「見つけた。でも、こっちだったっけ?」

あの女が快斗を尋ねてきた。

「どうした?」

「頼まれていた物を持ってきたんじゃない。」

そっかと、受け取った彼があまりうれしそうじゃないので、やっぱりねと呟く。

「その顔はやっぱり振られたな。」

「え?」

「昨日から、浮かない顔だと思ったのよ。振られたかって聞いても曖昧な顔だったし。今頃沈んできたの?あ、でも、それの返品はやめてね。」

いまいち話がつかめないが、自分は昨日あったのはあの時だけだ。浮かない顔なんてしていた覚えはない。それに、昨日は振られたかって聞かれてはいない。

そこではたと気付いた。

「ねぇ、昨日どこでその人と会った?」

「誰の事?」

「振られたかって聞いた相手。それは俺じゃないんだ。」

「え?じゃぁ、他人の空似?」

「・・・俺に、似てた?」

その問いに、彼女はうなずいた。

「何?親戚?」

そっか、悪い事したなと言っていながら、快斗の何と聞いてくる女に、反対に問い返す快斗。

「昨日、どんな話をしたの?」

「えーっとね。」

思い出しながら言った言葉を述べる彼女。

「あ、ほら。両思いになった相手の事。どんな子か聞いた時に答えたあれとか。・・・そう言えば、両思いになった相手をつれていってみた?」

「へ?」

突然話を振られて驚いたが、とんでもないことを聞いてしまった。

「前言ってたじゃない。相手が恋愛には鈍い子だから、手が出せずにそのうち遅いそうだって。」

「あ、言ったね。」

「案外相手もそういうこと気にしてるかなと思って、コートに入れておいたんだけど。見なかったの?」

と聞かれても何の事かさっぱりわからないが、入れられていたものを知って慌てる。

そのコートはあの日新一の家に置いていってしまって、返してもらったときには何もなかったのを確認している。

なら、新一が見た可能性が高いじゃないか。なんということだ。

遊び人だとは青子がいろいろ言って新一は知っているし、この人をそこに連れて行ったのだと誤解されたのなら、言われた言葉も頷ける。

でも、両思いの相手は新一なのに、どうして新一がと思って、ふとわかってしまった。

新一は可愛いとか綺麗という言葉を言われるのを嫌がる。なら、その言葉に当てはまらないと考えたら、両思いの相手が別の誰かだと思ったら。

「全部誤解じゃん。」

「何、どうしたの。」

「どうしたのじゃないよ。貴方のせいで、俺昨日振られたんです。」

「え?」

この人には適わないので、好きな相手を白状する。工藤新一で、それが昨日会った相手だと。

「え?じゃぁ、私余計な事言っちゃったの?」

「そうだよ。思い切り昨日は大嫌いって言われたし。」

それを思い出して沈む快斗。さすがにちょっと罪悪感を感じる。

ちょうど、哀が顔を出した時だった。あまりにも遅いので出てきたのだ。

そして、彼女も事の経緯を聞いた。

「・・・誤解ね。貴方も、紛らわしい噂」

 

 

 

 

 

「新一、開けて。話があるんだ。」

「俺にはない。」

「お願い、聞いて。全部誤解なんだ。」

「新一君。」

二人の必死のお願いに耳を貸さない。だけど、二人がつきあってるのだと思っている新一には、その声は届かない。

ちゃんと付き合ってるとでも宣言するつもりなのかとしか思わない。

「帰れ・・・。帰れよ。」

「ちゃんと話を聞いてくれるまで帰らないよ。」

居座るつもりの快斗。哀もそのつもりだ。

しかし、新一は二人が一緒にいるのを見るのも辛いのに、気配がいつまでもそこにあるのは、辛くてしょうがない。

「帰れ・・・。大嫌いだ。・・・黒羽も・・・灰原も。」

「え?」

「ちょっと新一!哀ちゃんになんてこと言うの!」

哀は新一の言葉に呆然とし、そんな新一に怒鳴る快斗。

「俺のことなんか、放っておけばいいだろ。・・・はじめからその気なんか、なかったくせに。」

いい加減、怒った快斗は無理やり部屋の鍵を開けようとするが、開かない。

「駄目よ、黒羽君。そこだけは、特殊なロックがかけられているの。」

哀も知らない、七つの文字。アルファベットと文字を使った新一だけが知っている登録されたそれ。

「ドアが駄目なら・・・。」

「どこ行く気?」

「窓。」

それを聞いて、窓なら怪盗の彼なら開けられる事を思い出す。

そして、向こう側の風の流れが変わったのを、哀は感じていた。

 

 

 

「新一・・・。」

キッドの姿ではなく、昼間のままで窓から入る事になるなんて思わなかったと思いながら、中に入った快斗。部屋の中では布団の中に潜っている新一がいた。

あれだけ山が出来ているのだ。そこに彼はいるだろう。

「いったい、どうしたのですか。」

彼女にまで嫌いだなんて言って。とても驚いて悲しそうな顔をしていたと言えば、動く塊。

きっと、本心でいったのではないから、今すぐにでも謝りたいのだろうが、素直じゃない彼はそう簡単に言わない。そうやって、閉じこもっていくのだろう。

「ねぇ、教えて。大嫌いだなんて、どうして言ったの?」

その理由が、新一じゃなくて他の誰かの事が本当は好きでそのせいで大嫌いだなんて言うんだったら、それは誤解だよと言うが、布団の中から出てくる気配はない。答えも何も帰ってこない。

「昨日、新一が会った人はね、俺がマジシャンとしてデビューするって言ってたでしょ?彼女が俺のマネージャーになる人なんだ。だから、間違えていろいろしゃべってたけれど。それに、俺が好きなのは新一だけだよ?」

その言葉に、聞こえるか聞こえないかという小さな声で『嘘だ』という新一の言葉が聞こえる。

「嘘じゃないよ。いつも新一は怒るけど、言ったでしょ。可愛くて、綺麗だって。」

「嘘つき。」

「どうして?俺にとって一番好きで可愛くて綺麗なのは新一なんだよ?」

「付き合ってる奴いるくせに。」

まだ、架空の相手の事を言っているのかと、快斗はどうしたらわかってもらえるのかお手上げ状態だった。

こうなった新一は、何を言っても聞かない。わかっているからこそ、困っているのだ。

勢い余って手を出して壊してしまいそうで怖い。寝ている彼に、布団をかけようとして、寝言で呼ばれた時なんて、手を出してしまいそうだったのだ。

その時は、なんとか踏みとどまったが。

「どうしたら、信じてくれるの?」

「・・・信じるも何も。俺なんかどうでもいいんだろ。最初から口実で遊びだったんだろ。男なんかより、女の方がいいよな。・・・さっさと、出て行け。邪魔しないから、・・・あいつのところいけばいいだろ。」

その言葉には快斗もかちんとくる。男とか女とか関係なく、新一だから好きなのに、それを否定されて、知らない相手の幸せを願って離れようとする新一。

快斗は布団をつかんで、引きはがそうとする。最初は抵抗していたが、快斗に力で適わないのはわかりきっている結果で、数十秒後には引きはがされた。

そこには、うずくまって顔を見せない新一の姿があった。

「俺は新一が一番好きだって言ってるでしょ。どうしてその気持ちを疑うの?新一から好きだって言ってもらえた時、とってもうれしかったんだよ。なのに、どうして今更離れていこうとするの?」

俺が何かしたの。昨日のあれは全部誤解で、両思いになれた相手は新一のことなのにと叫ぶ。

新一の肩を攫んで身体を起こし、顔を上げさせる。

「どうして泣いてるんだよ。俺のこと嫌いなんだろ。別れるんだろ。・・・なら、どうしてそんなに悲しそうにしてるんだよ。」

どうしてそこまでかたくなに意思をまげようとしないのかわからないが、全て本心でないことはこれでわかる。

「だって・・・。」

「ねぇ。ゆっくりでいいから。今新一が思ってること、教えて。」

新一の涙で緩んだ蒼い瞳の前で、パチンと指を鳴らす。催眠の合図。

ゆっくりと、口が言葉を伝える。

「お前が誰といても、気にしなかった。だけど、広告見て、昨日はあの人からのキスで紅くなるのを見て・・・中森さんが言うように、たらしなのは変わらなくて、最近はどこか無理してるし、何か言いたそうにして我慢してるし。」

やっぱり、ばれてたんだなぁと思う。そういうところには鋭いから、今までも見逃さすに事件を解決へと導いた探偵なのだ。

「それで?」

「・・・・・・灰原みたいに、お前の支えに、怪我を治してやる事も出来ない。」

「そんなことないよ?」

「でも、お前、泣きそうにしても、俺の前で泣かない。・・・辛い事、全部隠して、俺に何も言わない。・・・あいつには、見せるのに。お前は、・・・灰原が好きなんだ。」

とんでもない事を聞いたような気がする。

「・・・哀ちゃんは関係ないよ?どうしてそう思ったの?」

「昨日、お前は俺に言うつもりだったんだろ。あいつが好きだから、俺と別れるって。」

「ちょっと待って。どうしてそうなるの?」

だから、言われる前に別れようとして、相手が哀だと知ったんだと言う。

いったいどうしたらそんな話になるんだろうか。そもそも、彼女だって好きな相手は自分と同じ目の前にいる人物だ。

自分と哀が恋人同士だなんて、ありえない。あったら怖い。

「・・・違うよ。哀ちゃんは違うよ。俺が好きなのは新一だよ。・・・俺の幸せを願ってくれるのなら、離れるなんて言わないで。・・・大嫌いと別れるという言葉を言われるのが、俺には一番堪えるから。」

腕の中に抱きしめる。温かい新一のぬくもり。これがずっとほしくて、手に入れられた時なんて、どれだけ幸せだったか。

「ほ・・・んと・・・?」

「本当だよ。新一と一緒にいられるのが、俺の幸せ。俺の事が好きなら、別れるなんて、言わないで?」

優しく問いかけると、小さく首が縦に動いた。

「でも、お前男なんかより、女の方が・・・。」

「そんなことないよ。いつも新一の側にいて触れていたいんだから。こうやってね。」

腕の中に閉じ込めた存在に話しかける。新一の手も、快斗の腕に伸びる。

「俺も、こうしてると落ち着く・・・。」

そうして、その後に聞こえてきた小さな声で聞こえた言葉に、目を丸くする快斗。だけど、うれしくなって、ずっと抱きたくてしょうがなくて、新一の許可がもらえるまで待つつもりだったのだと答えると、うれしそうにする新一。もう、涙は止まっていた。

「だから、今はおやすみ。目を覚ますまで、側にいてあげるから。・・・目を覚ましたら、今度は嫌いじゃなくて、好きって言ってね。」

再び、新一の目の前でパチンと指を鳴らした。すると、糸が切れた人形のように、快斗の腕の中で眠りについた。

「まったく。どうしてそんな風に考えがいっちゃうかな。」

腕の中で眠る新一の顔を見ながら苦笑する快斗。

ベッドの上に寝かせて部屋の扉を開けて哀に説明しようと思ったが、新一の手が快斗の服を攫んで離さない。

「やっぱり、新一は無意識の行動ばっかりなんだね。」

自覚なく無意識に訴えるから、新一をずっと見ていたらわかるのだ。そして、彼は自分の心を癒すのだ。

「新一は、いつも気付いてくれるよ。」

新一を抱き上げて、扉に近づき、ロックを解除する。

「どうなったの?」

「今は寝てるよ。」

快斗の腕の中で眠る新一を見せる。

「そう。」

大人しく快斗の腕の中で安心して眠っている新一を自然と笑みが出る。

この男の事をこれだけ好きなくせに、勝手に悩んで閉じこもって馬鹿ねとつぶやく。

「それでね・・・。」

新一がかたくなに嫌いと言い、別れるといった原因を説明した。

「相手が昨日の事を見ていて私だと思った?それこそありえない話じゃない。どうして私が貴方みたいな一直線馬鹿な人を好きにならなくちゃいけないのよ。」

「俺も、さすがに怖くて哀ちゃんを好きとは言えないね。」

「言われても断るわよ。」

「そもそも言わないからね。」

それに、新一の前ではポーカーフェイスはきかないことは分かりきっていたが、手を出さずに我慢していたことでそんな風に思われてしまっていたとはと、少し反省する。

それと同時に、同じ思いでいてくれたことにうれしさを感じた。

「泣くのなら、これから彼の前だけにしておきなさい。」

「うん。そうする。でも、新一に振られた時は構ってね。」

「いいわよ。・・・実験につきあってくれるのならね。」

「それは遠慮したいな・・・。」

哀にはまた明日と言って、快斗は新一を腕に抱いたままベッドで眠った。

彼が安心してぐっすりと眠れるように。

 

そして、目を覚ました新一は、快斗の腕の中にいることでパニックを起こし、昨日の事を思い出して、顔を真っ赤にして快斗の胸の中へ顔を隠した。

しばらく好きなようにさせていたけれど、もう一度ちゃんとはじめましょうと、快斗は言い、うなずいた新一にキスをした。

恋人同士になって、そして二人にとって、はじめてのキス。

新しい朝は始まったばかり。

 





あとがき

途中からリクエストから逸れてしまっている・・・
すみません、良sama
書き直しならしますので、いくらでも言って下さいね



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