相変わらず、帽子は絶好調だ

 

「はぁ・・・。」

 

もう、ため息しかでない

いったい、この帽子はどうなっているのだろうか?

 

 

 

 

帽子の家族計画

 

 

 

 

「おいこら、てめぇーーー!!」

「いぃーー、ばかーいとーーー!!」

「うっせぇ!帽子のくせにぃ!!」

そんな言い合いをしながら、リビングをぐるぐると走り回る男が二人。それも、双子それとも鏡と思うぐらいそっくりである。

まぁ、それはしょうがない。片方は最近変身能力を覚えた(?)帽子なのだから。

それはもう、新一もたまに間違いそうになるほどそっくりなのだ。

日々、同じ事の繰り返しであるので、無視してリビングのソファにて、暖かい珈琲を啜りながら新聞を読んでいる新一。

だが、さすがにうるさすぎると迷惑である。

 

バコッ

 

見事な音がした。

「うるせぇ。もう少し静かにしろ。」

怒りオーラを見せながら二人に言う新一は、それはもう怖いもので、だけどそれ以上に不機嫌になったり怒った時の新一の相手がまた大変だったりするので、おろおろする。

その仕草もまた似ている。

そして、この後のこともまた同じように過ぎると思われた。

が、しかし。意外とこの帽子は単純ではない(笑)。

何かひらめいたようにぽんっと手を叩いたかと思うと、快斗の頭にかぶりついた。

さすがに新一もそれには怒りなんか飛んでいって慌てる。

「快斗っ!帽子っ!!」

近寄ろうとしたが、そのまえに何かがぽんっと音を立てて視界が一瞬だけ奪われた。

よく、手品で風船のようなものが割れて、中からぼわんと白い煙がでて視界を遮ってというような感じである。

そして、快斗が立っていた場所を見て、新一はさらに焦る。

そこには快斗の姿はなく、快斗もどきの帽子がいるだけだったから。そして、よく見ると足元に服が散乱している。

ま、まさかというような状況。

しかも、何かが服の中でもぞもぞ動いている。

「か、快斗?」

名を呼んだ次の瞬間。

「はぁ?!」

聞こえてきた鳴き声に、慌てて服の中を漁ると、中から姿を見せたのは快斗なのかもしれないが、新一が経験した以上に退化してしまったのか、生後何ヶ月?な赤ん坊がいた。

「うぎゃぁー。」

「・・・。」

快斗らしき赤ん坊を抱き上げて、快斗もどきな帽子の方を向く。

「お前の仕業か?」

尋ねると、笑顔でうなずいて、ぎゅうっと抱きついてきた。

そして、ごろごろと懐いてくる。・・・まるで快斗のように。

「はぁ・・・。」

自然とため息が零れるのだった。

 

 

 

 

 

ガシャン

 

昼ごはんがまだだったので、とりあえずおなかがすいているだろう赤ん坊の快斗を腕に抱き、どこからか快斗もどきが持ってきたほ乳びんと粉ミルクとお湯で作り、飲ませてみる。

快斗もどきは何度も自分が快斗で新一が奥さんでそれが子供といって背後から抱きついて擦り寄ってくるが、帽子は帽子でしかないし、快斗は快斗。

あまりにもしつこいし、帽子と呼ぶのは嫌だと言うのでキッドと呼ぶことにした。『キッド』なら問題ないのか、快斗ではないことに不服を示していたが、すぐに変わらずな状態になった。

だが、そんな帽子に構っている余裕などない。どうやったら快斗が元に戻るかだ。

ここは生憎、帽子が作り出した不思議な世界ではないので、方法はわからない。

帽子に聞いてもいいが、また何をやらかすかわからないので聞くに聞けない。

そんな状況のまま、お昼のために新一は快斗にミルクを飲ませてみるが、少し飲んだその後は一向に飲もうとしてくれない。

ぎゅっと新一の服を攫んで、顔をすりつけてくる。まったく、何がしたいのかわけがわからない。

さすがに快斗といえでも、ここまで退行すると言葉もしゃべれず、何を訴えているのかわからない。声を出して必死に訴えているようだが、まったくわからない。

そして、とうとうぐずりだして暴れはじめる。

そのせいで手元が狂い、ほ乳びんを落として、打ちつけた場所が悪かったのか、そもそも消耗品なのかしらないが、いとも簡単にそれは割れた。

慌てて拾おうとしたために、指を少し切ったし、手から腕にかけて、ミルクが飛んで袖が濡れた。

少しだけ、快斗もミルクがかかったりして、拭くのも面倒なので、片づけを『キッド』に頼んで、お風呂場へと向かう。

もう、お風呂入ってこのまま寝てやろうという勢いでだ。

快斗を脱がせて、足元に寝かせて上を脱いだ。が、ここでまたおさまっていたのに快斗がぐずりだした。

どうしたと抱き上げると、大きな目が新一を見上げて、ぐずっていたのが嘘かのように笑顔を見せた。

やはり、不安とかで、離れるとあれなのだろうかと思ってみたりする。

母親ではないのだが・・・。少し複雑な気分だ。

ここは、彼の本当の母親を呼ぶべきか。そんな事を考えている時だった。

「っ?!か、快斗っ?!」

何かやってるかと思えば、自分の胸に吸い付いているではないか。

「おい。男だから出るわけねーだろ。」

引き離そうにも力は強い。・・・侮れない。

そして、やっとのことで引き離しても、今度は泣き叫ばれる。

「こっちの方が泣きたい。」

はぁっとため息をついて諦めると、満足したのか、頬を摺り寄せるように近づいて吸い付いた。

放っておけば諦めるかと思ったのだが・・・。

どうもこの状況はよくないかもしれない。そう、思い出してしまうのだ。

少しだけ、快斗の腕が恋しく思っていたら、歯があたって思い切り噛まれ、いたっと声を漏らす。

本能のままになのだろうか。

しばらくしたら、どうしてか寝た。

「なんでだ。」

かなり精神的にも疲れながら、お風呂はやめて濡らしたタオルで快斗の身体を拭き、自分も着替えてリビングに戻った。

 

 

 

 

そして、朝目覚めたら・・・相変わらず幼い快斗がいた。いたが、少しだけ成長しているように見えるのは気のせいだろうか。

夜鳴きはなくてそれに関しては良かったのだが。

そんな事を思っていたから気付くのに遅れた。

「だぁー、なんでお前がいるんだよっ!」

背後から伸びてきた腕に驚き、それを確認して『快斗』を引き離す。

すると目を覚ましたそれは、ぶうっとむくれる。そんなところが微妙に快斗と同じ。

やはり、『ペット』は『飼い主』に似るということだろうか。『ペット』の部類に入るのかは微妙だけれども。

はぁっと厄介ごとは相変わらずなためにため息をつく。

起き上がって、目を覚まして自分の腕で頭をあげて、にこっと笑顔をみせて新一に手を伸ばす。

もしかして、もう一日寝たらはいはいしはじめるとか?そんなことを思いながら、快斗を抱き上げて、ベッドから蹴り落とした『快斗』は放置して下へ降りる。

すると、ちょうどチャイムがなり、玄関をあけた。

「あら、工藤君。いつからお父さんになったの?」

そこで、お隣さんと快斗の対面に気付き、やばっと思って焦るが、彼女から逃げる事など無理である。

「それ、黒羽君かしら?」

「・・・そうです。」

「また、あの帽子の彼かしら?」

「・・・・・・そのとおりです。」

面白い事になっているのねと思いながら、とりあえずあがる。

そこへ、復活した快斗こと帽子が現れた。

むうっと怒って新一の背中にべったりと貼りついた。

「おい、こら。離れろ。離れろ、キッドっ!」

「帽子君はキッドって名前になったの?」

「キッドの帽子だからちょうどいいだろ。ややこしいし。」

親鳥に懐く雛のごとく、小さな快斗と快斗もどきが新一に頬を摺り寄せてぎゅっと腕で離れないようにつかまっている。

そっくりねと暢気に思っていたが、そんな暢気な空気が大変なことになった。

何を思ったのか、キッドは新一から少し離れて、じーっと哀を見ていて、ぽんっと手を叩いた。

今度は何をしでかすつもりだと思ったがすでに遅し。

「あー!!灰原〜〜〜!!」

新一の叫びの背後で満足げにしているキッドがいた。

「灰原―、無事かー?」

一応上着で身体を包んだまま抱き上げる。ちょっと快斗は他所に置いておいたので、文句を言うように声を上げて手を伸ばしているが構っている余裕がない。

なんとキッドは、哀までも赤子にしてしまったのだった。

どうしようとあたふたしていると、とうとう快斗まで泣き出した。

「泣きたいのはこっちだよ。

子供は小さいので、片腕で足りるけれど。それに、抱き上げてぎゅっと服を攫んだら、満足したのか泣き止んだけれど。

キッドは相変わらず背中にべったりと張り付いているし。

いったいどうしたらいいんだと新一はまたため息をつくのだった。

そして、なんとかキッドの様子を伺ってみるが、無理そうである。今の状況を楽しんでいるようだったから、元に戻してくれることはないだろう。

一日がとても長い。新一はかなり疲れてしまっていた。

なので、昼寝をしようと部屋に戻って哀と快斗を両サイドに寝かせて自分も寝た。

キッドも入って来たが、気にしてる余裕はない。

そして、深く眠りについた。

 

 

 

 

何かが呼んでいる。頬をぺたっと触れるものがある。

「ん・・・なに・・・?」

目をあけると、呼んでいるものの姿が見えた。

「快斗?」

眠いけれど、状況を思い出した新一は身体を起こして、目をこする。

その間にもそもそと自分の足の上に乗りかかるものがある。

「って・・・。快斗。」

快斗は昼寝という短時間、といっても五時間も寝てしまっていたけれど、自分で身体を起せるし、ハイハイしながら動き回れるようになっている。

なんだろうか。このはやい成長は。結局キッドは何をやりたいんだろう。

はぁっとまたため息をつきながら、哀の方を見ると、こちらも同じようになっていた。

はうことはできていないようだけれど。

日はとうに暮れてしまっている。夕食を食べないわけにはいかないので、哀だけ抱き上げて部屋を出ようとすると、快斗がたたたとはいはいで追いついて足に貼りついた。

そして、大きな目を潤ませて何かを訴えてくる。

うっと新一はその目に逆らえず、結局快斗も下へつれて降りる事にした。

新一としては、絶対何かをやらかしてしまいそうな快斗は置いていきたかったのだが、それは無理なようだ。

連れ降りて、二人を下に下ろしてキッチンに入ろうにも、快斗はついてくる。

駄目だと言ってもついてくる。わかっているのかわかっていないのかは知らないが、これには困った。

包丁や火を使うと言うのに、これでは出来ない。

しょうがないと思いながら、レンジでできそうなおかずや冷凍ご飯を探す。

それを適当に温めて二人に食べさせながら自分も食べる。

これぐらい成長していたら、たぶん食べれるだろうと、おかゆもどきなご飯をつつきながら、明日はどうなっているんだろうと不安を覚えながら片づけをするのだった。

 

 

 

 

もうすることもないと、昼寝もしたが寝ようと布団の準備をする新一。

隣に寝かそうとしても、哀とは違ってはしゃいで一向に言う事を聞いてくれない快斗を宥める。

眠くはないのはわかるが、寝てくれないと困ると思っていると、視線を感じた。

今回の原因であるキッドがドアを少しだけあけて覗いている。そのキッドと目があった。

実は先ほど、思い切り新一は怒ってこの部屋から追い出したのだ。

しゅんっとして、ドアに張り付いているキッド。

そんなところまで快斗と似ている。

「ったく・・・。入ってこいよ。」

そう言うと、目を輝かせてキッドは入って来た。そして、新一にがばっと抱きついてすりついてきた。

やはり、これは帽子だけあって人ではない。でも、帽子とは少し違うから、快斗同様に犬科の何らかの動物だなと思いながら、頭をぽんぽんと撫でてとりあえず寝るように指示する。

そして、ベッドではなく床に布団を広げて四人で寝るのだった。

 

 

 

 

 

朝が来た。朝日が新一の顔にあたり、目が覚めた。

目が覚めると、隣には子供はいない。いるのは、快斗が二人。哀がいないので、あれっと思った。

起き上がると、快斗が目を覚ましてどうしたのと聞いてくる。哀はどうしたと聞いてみれば、隣でしょと答えてくる。

その後話をしても何事もなかったかのように話す。

まぁ、赤ん坊にまで戻っていたので、覚えている方が不思議だけれども。

もしかして、夢だったのかなと思ってみる。

とりあえず、帽子ことキッドも起きたので三人でリビングへ行く。

そして、朝食を食べた。

そこまでは良かった。

快斗が、朝どうして新一の隣で寝てやがったと言えば、つーんとそっぽ向いて無視したので、快斗が怒った。

すると、帽子も反抗して頭からかぶりついた。

なんだか、どこかでちょっと見たような・・・。

そんな事を少し思っていると、またどこかでみたかのように煙がでて、ポンッと言う音がした。

「まさか・・・。」

そんな事を思いながら、煙が晴れるのを待てば、そこには服の塊があるだけ。

近寄ってみると、その塊ががさごそと動いている。

「快斗―!?」

ご近所中、朝からご迷惑になるような音量で新一の声が響いたのだった。

 





あとがき

今日も帽子は絶好調。私でも止められないかも・・・。
こんな感じになってますが、お気にめしましたらどうぞ、夕澄sama