帽子が帰ってきて数ヶ月が経った

 

「あ、快斗。お帰り。」

「ただいま。」

 

快斗は新一に背後から抱きついて、キスをしようとした

たまにあることだし、あまり気にしていない新一の背後から、聞こえてくる声

 

「新一っ!!」

「・・・快斗?」

「ちっ。」

「お前、舌打ちしやがって!新一に何してんだよっ!」

 

離れろと引き離しにかかると、快斗だったものが、ぼわんという効果音とともに、抱き心地のよいふわふわの人形になった

 

「お前、帽子だったのか。」

「もう、新一も無防備に駄目でしょ!」

「・・・。」

 

いーっと帽子と争う快斗

 

この数ヶ月の間に、帽子はどんどん進化を遂げて、ついには快斗の姿そっくりに変身することが可能になっていたりした

ちなみに、普段は帽子の姿は怪盗キッドのことであれだからと新一が言うし、何よりこっちの方が抱き心地がよいと言ったために、人形だったりする

 

 

 

 

恋する危険な帽子

 

 

 

 

今日も帽子に警戒しながら工藤邸へと帰ってきた快斗。何気に現在同居中。

だが、家の中は静まりかえっており、新一の気配すら薄い。

どこにいったのだろうかと、さがすが、何処にもいない。最後は自分用にと与えられた新一の隣の部屋。

近づいてドアノブに手を触れたとき、ふと、中から動く気配を感じた。

開けると、そこには人形がふにふに動いている。そして、布団の山ができている。

それは、間違えることなく愛しい人のものの気配がする。

声をかけると、びくりと山が動く。

「どうしたの、新一。」

いつもならお帰りと言ってくれるのに。とびきりの笑顔を見せてくれるのに。今日はそれがない。

それどころか、声をかけても布団の中から出てくる気配すらない。

「新一?・・・もしかして、何かあったの?」

だが、一切返事は無い。

不審に思いながらも、快斗は枕の方へ近づき、布団を捲って新一の顔を見る。

少し、泣きそうで不安定な表情。

そんな顔を見れば、快斗も心配になってくる。

何気に、うるさい帽子もどきは足で踏みつけて動けないようにしていたりするが、こっちは真剣である。

「新一?何があったの。」

新一を布団から引き出し、自分の方を向けて優しく問いかける。

悲しませる原因があるなら、それを容赦なく排除すると決めて。

快斗の問いに少し戸惑いながら、新一は口をぱくぱくと動かして、伝えた。

読唇術が使えるので、何と言っているのかはわかる。

『声が、出なくなったんだ。』

それだけだから、心配するような事は起きてないと言うが、それも問題だ。

急に声が出なくなったから、どうしようと考え込んで、結局ここへ逃げ込んだのだろうから。

逃げ込む場所が自分のいる場所だということはうれしいけれど、この事態はいただけない。

「何があったの?原因、新一はわかってるの・・・?」

聞くと、少し顔を伏せて考えて、新一は快斗の目を見て、快斗を手招きする。

誘われたら何?と快斗は新一の方へと近づく。

すると、背後ににゅっと足が動いたことで解放された帽子もどきがでてきて、快斗の頭を殴った。

それにはさすがに新一も怒って、帽子もどきを捕まえて、押さえつけた。

そして、快斗にすまなそうにしてごめんと口ぱくで伝え、捕まえた帽子もどきを指さして、次に喉を指さして、口ぱくで必死に伝えてくれた。

ようは、この帽子が全ての元凶で、新一の声を奪ってしまったということ。

「てめぇかぁぁ〜〜〜〜!!」

ぎゅむーっと帽子もどきをねじってひっぱって痛めつける快斗。それはもう、怒りにまかせて。

だが、帽子もどきだって黙ってはいない。

現在人型な人形の帽子。大きな口をあけて、快斗の頭に喰らいついた。

さすがにそれには新一も慌てて、必死に帽子を引き離そうとするが、なかなか離れない。

どさっと快斗と新一がお互い反対方向へと倒れた。もちろん、帽子は新一の方にだ。

「いってぇ。」

快斗は声を出して、新一は声がでないが、ぶつけたところを擦りながら、快斗の無事を確認しようと見て、差し出そうとした手を引っ込めた。

そこには、見た事がないほど恐ろしい快斗がいたのだ。だから、新一は怖くなってしまったのだ。

それを、何食わぬ顔で見ている帽子。それこそが原因。

「おい、いいかげんにしろよ。」

その怒りを含んだ低い声にびくりと方を震わせて縮こまる新一。

帽子はけけけと笑っている。ちなみに、新一の背後にいて、しっかりと抱きついていたりするからこそ、快斗は怒っているのだが、新一は気付いていない。

だから、怖くて縮こまって、快斗が近づいてくると、後ろへ逃げる。

さすがに新一の様子がかわっていることに気づいた快斗は、涙を浮かべている新一にあたふたする。

手を伸ばしても、びくりと肩を震わせて怖がっている。

「新一・・・。」

ふるふると首を横にふる。

「ごめん。」

ふわりと快斗は新一を包み込むように抱き、謝る。

「ごめんね。新一に向かって怒ってたわけじゃないんだよ。」

よしよしと頭を撫でて、言い聞かせる。

恐々としながら、新一は快斗の胸に埋めていた顔をあげて、見上げる。

そこには、いつもの快斗の顔があった。ちょっと、困った顔で情けない顔をしているけれど、いつもの快斗。

だから新一は、腕を伸ばしてぎゅっと快斗に抱きついて、そのまま目をつむった。

規則正しい快斗の心音を聞きながら、次第に眠りに身体が従う。

規則正しい寝息が聞こえてきたことでほっと一安心の快斗。

きっと、声が出なくていろいろ考えていろいろ追い詰められて気が疲れてしまったのだろう。

「おやすみ。」

それはもう、学校のクラスメイトや幼馴染ですら見られないような飛び切りの笑顔で言う。

それを見て、かなり嫌そうにしている帽子もどきを睨みつける。

「おい、てめぇ。」

びくりとそれは反応を見せる。

「今すぐ新一の声を返せ。」

さもなくば、ぎっちょんぎっちょんに切り刻んで二度と戻って来れないようにコンクリで固めて沈めるぞと脅されて、しぶしぶそれは大きな口を開けて何かを吐き出した。

あらわれた輪郭のぼやけた蒼白い光のそれが、新一の口に吸い込まれるようにして消えた。

『これで、たぶん、戻ってるぞ。』

「なら、よし。・・・って、お前・・・。」

声が戻ったのならそれでいいと思ったが。

さらに問題は増えてしまうようだ。

「お前、とうとうその形でもしゃべれるようになったのか?」

『結構前からな。』

あいかわらず、嫌な帽子だ。やはり、始末するべきだろうか。

『・・・新一はお前のじゃないぞ。』

むかつく。やはりこれは排除決定だ。

『そんな殺気だって、動くと新一起きるぞ?』

そして、蹴られるぞと言われたら、むかつくが動くわけにはいかない。

さっきだって怒っていたらかなり怖がられたところだ。それに寝起きだと新一は足が出る事が多いので、やはりここは大人しくしておかないといけない。

しかし、やはりこの帽子の存在がうざくてしょうがない。

『・・・お前じゃ、始末できないぞ。』

呪われて新一に嫌われたかったらご自由にと言われたら、できないではないか。

やはり、もともとあの気まぐれで危ない魔女がよこしたものだ。

魔女にどうにかしてもらうしかないのかもしれない。

 

 

 

 

 

次の日。

「快斗?」

「あ、声ちゃんと戻ったんだね。」

「・・・そういえばそうだな。」

でも、良かったと安心しているところから、不安だったのだろう。突然声を失った事に。

しかし、快斗からしてみると、可愛い反応を見せてくれる寝起きの新一に理性というものが危うい。

「新一・・・。」

「ん?何?」

快斗に背後から抱かれ、呼ばれたので振り返ると、突然キスをしかけられた。

突然の事であたふたするが、それを受け入れる。

まぁ、それだけ新一も快斗のことが好きでしょうがないのだ。

しかし・・・。

「快斗?」

「ごめん。我慢できないや。」

次に進んでしまうのは遠慮したいものである。

 

その日、お昼までしっかりと愛された新一は、お昼も快斗と一緒にごろごろしながら過ごすのだった。

 

ちなみに、帽子は邪魔しないように縄で縛って厳重に何重もの鍵で閉ざされた倉庫に放置されていたりする。

 





あとがき

遅くなってすいません。しかも、何気に帽子再来で。
・・・かなり進化しちゃってますが、いいでしょうか?どきどき
ちょっと身振り手振りが足りない気もしますが、書き直し返品可能なので、いくらでも言って下さいね?



戻る