ギャーーーーーーッ その日は、そんな叫び声から始まった 帽子とお魚とそして・・・ せっかく帽子は溶けて、少し寂しく思いながらもお別れだと思っていた快斗と新一。 しかし、現実はそんなに甘くなかった。 甘くて熱い夜を過ごした次の日の朝。 だるそうで眠そうな新一を起こして着替えるように言って、朝食の用意をしに行こうとベッドから降りた。 そこまでは良かったのだ。 「・・・なんで?」 足元にある何かに触れて、なんだろうと快斗はそちらを見た。 そして、クエスチョンマークで溢れる。 そこには、怪盗キッドのシルクハットがあったのだ。 昨日は置いておいた記憶も無いもの。最後にこの部屋にあったと言えば、溶けてゲル状になった例の帽子だけ。 あれはそのままにしておくわけにもいかず、ちりとりと雑巾で集めてバケツに入れて、捨てに行ったはずだ。 こんなところにちゃんとした形でいるわけがない。 恐る恐る、それに手を伸ばしてみる。すると、転がって内側を見せたと思えば、自分と新一を吸い込んだ。 あー、やっぱりこれはあの帽子なんだと、どこか遠くで考えながら、その日、再会してすぐにまた可笑しな世界へと飛ばされたのだった。 それから数日後だった。 寝ていて目が覚めれば、またそこは部屋ではなかった。 そして、冒頭のような叫び声があがったのだった。 現在、叫び声を上げた主である快斗は、新一の背中に張り付いて震えている。目は閉じて怖い怖いと言い続けている。 わかっているけれど、新一にしてみれば、快斗のこの状態と目の前の光景に呆れる事しか出来ない。 簡単に言ってしまえば、竜宮城みたいなものだ。水族館といってもいいのかもしれないが、ガラスで遮られてはいないし、亀が乗れと催促してきているし。 しょうがなく、快斗を貼り付けたまま新一は亀の背に乗ってみた。 喰われるーとか言うが、通常は逆で、お前が食う側だろうがと思うが、そこまで嫌いなもの相手にはそうなるのかもしれない。 もしかしたら、過去に大きな魚にでも食べられそうになった経験から嫌いになったのだろうかと、真剣に考える新一。 亀に呼ばれ、気づけば城の前まできていた。 よくわからないが、歓迎されているらしく、奥へと連れて行かれる。 すると・・・。 「いらっしゃい。待っていたわよ。」 そこには、長い黒髪を背に流し、のんびりと座っている女、紅子がいた。 「てめー。全部てめーの仕業か?!」 こんな趣味の悪いもんーっと半泣きになりながら叫ぶ快斗。その様は情けない。 新一はあの後にしっかり挨拶もしたし、話も何度か交わしてそれなりに仲良くなった。 何故だかしらないが、お隣ととてつもなく怪しい関係を結んでいるような気がするが、それは命が危ぶまれるので聞かないが。 「失礼な人ね。私じゃないわよ。」 「じゃー、他に誰がいるんだよ。」 そういう快斗に、すっぱりと犯人を答える紅子。 「あの帽子に決まってるじゃない。」 そうか、帽子かと言って、あーっと気付く快斗。 魚という恐怖から、全ての元凶であるあの存在の事をすっかり忘れていたのだ。 「ここがどこかわかってなかったのか?」 「こんな気味の悪いところにいて、頭が働くわけがないでしょ!」 嫌ー帰るーと叫び散らす。 そんな快斗に呆れる紅子。ただの駄々っ子にしか見えない。 「とりあえず、私も役目を果たさないと帰れないから、料理食べて頂戴。」 どうやら、今回オプションとして乙姫役までも引っ張り込んだようだ。 「ご苦労様です。」 「私もこんな風になっていたなんて知らなかったわ。」 新一が言えば、紅子はため息を吐く。 だが、新一にしてみれば、乙姫が黒い服っていいのだろうかという疑問が・・・。 まぁ、それはおいておくにしても、意思を持って、本来の術者ですら巻き込むようになった帽子。 ゲル状になってから、少し進化してしまったのかもしれない。 その後、食事を楽しむ新一。滅多に食べれない絶品の魚料理。 快斗は震えながら新一の背中に張り付いて帰ろうとずっと言うが、もう少しといって、料理を口にするのだった。 「とりあえず、それ持って、それ連れて帰って頂戴。」 どうやら、ここ以外の場所へと帰すらしい。来た時と同じ亀が呼んでいる。 あまりうれしくないが、玉手箱というようなものを貰い、快斗を背中に貼り付けたまま亀に乗ってその中から地上へと向かう新一達。 着いた場所はお決まりなのか、浜辺だった。 亀がまたなという感じで手を振って去っていった。 こうして、お魚から離れた快斗は、まだ涙を溜めているが、大分元に戻ってきているようだった。 なんだか、少し身の危険を感じてしまうのは気のせいだろうか。 「悲しい快斗君を慰めて。」 そう言って、新一を押し倒す快斗。 「やめんか、このバカ!」 抵抗しても剥がれない。その時、暴れて持っていた箱が横に落ちて、紐がはずれて開いた。 「え?」 「あ?」 もくもくと煙が二人を包む。 「もしかして、おじいさんになるとか?!」 「嫌。でも、新一と一緒ならそれでも!でも、やれなくなる!!」 「んなこと考えるな!」 げしっとやっと蹴って退かせた。 だが、煙が充満してけほけほと咳をする。 「けほ、だ、いじょぶ?し・・・けほ・・・いち。」 寄ってきた快斗が手で煙を追い払うようにしながら、新一の身体を抱きこんでなるべく煙を吸わないようにさせる。 そして、煙が晴れたその場所には・・・。 「なんだよお前。」 おじいさんな二人ではなく、浮いている元凶である帽子があった。 なんとか無事に帰ってきた二人。 しかし、おかしな居候はまだまだトラブルを引き起こす気満々のようだ。 最近は変身も出来るらしい。 たまにぶよぶよの風船人形みたいなキッドになったりして新一を笑わせる反面、快斗に追いかけられて逃げる光景があるとか。 今日も、賑やかな声が工藤邸から聞こえてくる。 |