いつものように、事件の呼び出しを受けて学校を早退し、無事に解決できたので、家に帰る途中だった。

もちろん、警部に送ってくれるというが、まだ忙しそうな彼等の邪魔をするのは悪いと思い、辞退してそのまま家へと向かっていたのだった。

すると、どうだろうか。家の前に何かがあるではないか。

「・・・何だ、これ?」

見つけたのは白いモノ。それを拾い上げ、見てみる。それは間違いなく、ただの白いシルクハットである。

「・・・俺の知る限りでは、こんなもんを持ってる奴は一人しかいないのだが・・・。」

そういえば、その持っていると思われる奴が今夜飛び回っている日である事を思い出す。

今の今まですっかり忘れていたが、確かに、二課が騒がしかった。

「解読した後は、すっかりと忘れてたなぁ・・・。」

いつも、何故かポストに入っているその白い封筒。このシルクハットと同じ、白いもので、それは彼を思い出させるものでもある。

「あいつ、逃走中に落としたのか?」

それにしては、気付かないなんておかしいななんと思いつつ、いつまでもこんなものを持って外にいるのも嫌だったし、これをそのままここに置いておくにも目立つので、新一はしょうがなくそれを持って家の中に入った。

何か理由があるのかもしれないし、そのうち会った時に返せばいいという安易な考えだったが、さすがは世界を手玉に取るこそ泥というべきなのか、その日を境にして、ちらほらと奴は現れ、最後には住み着いてしまったのだった。

 

 

 

   白い人が居ついた切欠

 

 

 

拾ったシルクハットをぽいっとリビングのソファに投げて、昼間の日差しのせいで汗をかいたので、シャワーを浴びにいった新一。

それでは確かに何もかわりはない、いつもと同じ日常であった。

「今日の夕飯、何にしようかなぁ。」

食べないと、明日お隣に何を言われるかわかりません。ですから、何か食べておかないとと考えつつ、新一はまだ濡れている髪のまま、暑いので上を着ずにタオルを方からかけているだけで、リビングへと戻ってきたのでした。

がちゃりと、扉を開けました。するとそこには、拾った白いシルクハットの持ち主だと予想していた真っ白の目立つ人物が立っていたのでした。

「げっ。」

かなり嫌そうな顔をしていた事でしょう。そりゃそうです。前回も前々回も、たまに来ては不法侵入をして、いろいろ意味不明な事を言って帰れといってもなかなか帰ってくれない気障なこそ泥がいるのです。

また、いつものように不法侵入をして、勝手にここにいるのだと思ったのです。そう考えるのが、一番納得出来るのです。

しかし、今回は少し違ったのでした。

そして、げっと嫌そうに眉をひそめて見てくる新一を見て、その格好はあまり自分の理性にはよくないと思うのですが、この恋愛にかなり鈍い探偵君が大好きな怪盗さんにはかなり辛いものでした。

いつも、何を言っても通じてくれません。そして今日も、かなり嫌そうに見てきます。

それなのに、そんな格好でうろうろしてほしくはありません。いくら紳士だと言われる怪盗さんであっても、このまま狼になってしまいます。

まぁ、きっと彼はそんなことなどわかってもいないのでしょうが・・・。

さて、とりあえずお互い話をする事もありますので、ソファに座りました。

怪盗さん・・・キッドは探偵君・・・新一の隣に座りたいと思いましたが、眼で向かいに座れと言われてしまったので、しぶしぶそれに従いました。

「で、今夜は何のようだ。それを回収しに来たんなら、もう用事は終わっただろう?」

相変わらず、冷たい新一ですがそれでも通報をしてもおかしくないのに、しない彼ですのでそこに優しさと愛しさを感じるのでした。

新一はきっと気付いているのだとキッドは思っています。自分がだたの窃盗犯ではなく、目的の為に動いているのだと。

だからこそ、今まで何度ここへ訪れても通報はしなかったのでしょう。

「用事はまだ終わっていません。」

キッドはにっこりを笑みを見せて答えました。

そう、まだ何も終わっていません。まずは、今回が不法侵入をしていないという事を訴えて、出来ればこのまま居座ろうと考えたのです。

さすがは、頭のいい彼です。チャンスを逃す事はしません。

「そもそも、名探偵。」

「何だよ。用件があるならさっさと言え。」

「私は今夜、この家へは名探偵が迎え入れて下さったのですよ?」

間違いではないのでそのまま話す。だが、新一にはまったく意味がわからない内容であった。

いったい、いつ誰がこの家に入ることを、このこそ泥に許可したというのだ。

「はぁ?」

かなり間抜けな顔をしていたと思う。キッドが真剣に訴える分、倍にして自分は間抜けだったと思う。

キッドの前で取り乱すとは、まだまだだなとあとで思ったさ。

「説明しますと、少し長くなりますが・・・。」

といいながらも、話す気でいるキッド。そして、勝手につらづらと話し始める。

しかも、ご丁寧にナレーターや人の声を変えてだ。一人でアニメの声優をやれるんじゃねーのかとのんきに考えていた新一だったが、内容を聞いているうちに、先ほどよりもかなり間抜けな顔になっていったのだった。

 

 

さて、キッドが話した内容だが、それはビルの屋上で宝石が自分の求める物であったかどうかを、月に翳しているところからだった。

仕事帰りで、今日もあっけなく手に入れる事が出来た宝石が、またも違うとわかり、肩を落としていた。

明日も忙しいのではやめに休もうと、いつものように夜空を飛ぼうとした時だった。

どうやら、厄介なお客さんが来てしまったみたいだった。

なんとか逃げて、建物の影へと隠れたキッド。その時、声が聞こえてきたのだ。

それは魔女と名乗る、妖しげなクラスメイトの声だった。

『逃げる為の手助けをしてあげましょうか?』

クスクスと癪に障る笑いをする相手に、いらないと答えれば、それから返答はまったくなかったので、諦めたのか手を貸さないと思ったのかと思い、放って置く事にした。

そして、敵が違う方向へと行った気配を感じ、夜空へと飛び上がった。

だが、すぐにこの白い衣は見つかってしまい、敵は狙撃し始めたのだった。

なんとか交わしていた時、急にまたあの魔女の声が聞こえてきた。

『そのままいれば、見つかる事はないわ。』

「何言ってるんだよ、この馬鹿!」

なんと、キッドは夜空を飛んでいたはずが、突如何もない暗闇の中にいたのだった。

「だいたい、ここは何処なんだよ!」

もう、キッドの仮面なんかかぶってなんていられない。いい加減にしろという感じで、怒鳴りつけるキッド。

『うるさいわね。せっかく助けてあげたというのに・・・。』

「だから、いらねーって言ってるだろ!」

『うるさいと言っているでしょう?人の好意は素直に受け取るものよ。』

「お前の好意なんか、素直に受け取ったら後で呪われる!」

失礼な人ねと言う声が、かなり呆れているものだった。

「それで、もとの場所にはいつ戻れるんだよ。」

『それは、20分後ぐらいよ。』

「はぁ?」

『だから、20分ぐらい立てば、自動的に戻れるわ。そう、貴方がかぶっている帽子がある場所へとね・・・。』

なんだか、寒気がするような笑みを見た気がした。それと同時に、いつの間にかないシルクハットに気付いた。

その後、言われたとおり大人しく時間を過ごしていたキッド。

そこへ、遠くから声が聞こえてきたのだった。それは、キッドがなんども予告状という名のお誘いのラブレターを書いている相手で、今まで一向に来てくれない愛しい名探偵の声だった。

その後は、上記のような新一の声を聞きながら、何やら訴えようとするキッド。しかし、その声が届く事はもちろんない。

新一がシャワーを浴びに行った後、20分が経ったのか、よく見る工藤邸のリビングのソファの上に居る事に気付いた。

そして、新一がシャワーを浴びた後にここへと現れ、遭遇したというわけであった。

 

 

「・・・お前、人間じゃなかったのか?」

「ちっがーうっ!」

かなり、何か別のものを見るような目で見てくる新一に、必死に否定するキッド。もう、口調は戻っているが気にしてはいられない。

非科学的な事を信じない新一だが、キッドは嘘を言っているようには思えない。

かといっても、魔女というさらに意味がわからないような人と知り合いだとは、さすがはキッドだなと、何故か納得している。

その結果、キッドも人間ではないという判断をしたのだが、違うとかなり否定されてしまった。

お隣に迷惑だろうなと思うほどの大きな声で。頭の隅でキッドのその顔を見て驚きつつも、隣の主治医に怒られるかなと考えていた。

「ですから、私はれっきとした人間です。」

何故か、今更口調を元に戻すキッド。いったい何がしたくてどうしたいのかまったくわけがわからない。しかし、キッドにしてみれば、新一がどうしてここまで天然なのであるか不思議でしょうがなかった。

普段、探偵としての彼は全てを見透かし、そして罪を暴き、そしてその後に自らの心を痛め悲しむ人であるから。まぁ、天然な彼もひっくるめて好きになったのだが、いい加減わかってほしいきもする。

「証明しろとおっしゃるのなら、見せても構いませんよ?この怪盗KIDの正体を。」

そこまで言われて、少し考え込む新一。

「・・・じゃぁ、今はお前を人間と仮定して・・・。」

「ですから、人間だと何度言えばわかってもらえるのですか?」

「・・・いつか・・・?」

首を傾けながら問われれば、その愛らしさにかなりあぶないキッドだったが、なんとか押さえ込む。

「とにかく。俺が拾ったシルクハットにお前はいて、俺はそのシルクハットを家に入れて、ちょうど時間がきたから戻れば、ここにいたということか?」

「その通りですよ、名探偵。ですから、今回は不法侵入ではなく、不可抗力です。」

確かに、新一は知らずともこの男を家に入れていたのだ。

「そういうことか。」

「そうです。そして、拾ってくださった名探偵に、お礼もかねて、そしてこんな事でお隣のお嬢さんの怒りを買うのも困りますので、夕食をご馳走させて下さい。」

何故お礼なのかと考えたが、確かに拾った事には違いないので、そのお礼なんだろうと解釈して、ちょうど少しおなかも減ったし、明日お隣にとやかく言われるのも嫌だったので丁度いいと考え、頼んだ。

「あ、冷蔵庫には今、たぶん何もないぞ。」

「・・・そうですね。いつも、ありませんものね。」

「あはは・・・」

乾いた笑みを浮かべる新一に、じとっと新一を見るキッド。

「では、急いで材料を買ってきますので、その間に上を着ておいて下さい。」

実は、まだ新一は上を着ていなかったりもする。キッドな内心、かなり理性と戦っていたのだが、きっと気付いてはいないだろう。

 

 

 

さて、買い物に出かけたキッドに言われて、自室で上を着て下に降りてくれば、何やらいいにおいがリビングの中を漂っていた。

「はい、どうぞ。」

出されたのは、即席にしてはとてもおいしそうで、そしてこてこての油ものではないもので、料理がうまいんだなぁとのんきに考えながら、いただきますと手を合わせて食べ始めた。

向かい側では、キッドも同じものを用意して食べていた。まぁ、作った本人なんだから、食べても問題はないだろうと思い、おいしいその料理を食べる新一だった。

通常ならば、片方は探偵でもう片方は怪盗というこの可笑しな組み合わせはないだろうし、探偵は怪盗と捕らえるだろうが、どこでくるったのか、仲良く食事を取っているのだった。

「ごちそうさま。お前、料理上手いんだな。」

「あたり前でしょう?それに、名探偵の好みに合うようにと、日々努力をしていますから。」

そういえば、たまに料理を作っていたなぁと思い返す。そして、それがいつもおいしかったなということも。

皿を片付け、本を読もうかとした新一は、ふと、まだキッドがいる事に気付いた。

「おい。帰らないのか?」

「えっと・・・。」

「何だよ。」

普段の彼からすれば珍しいぐらいにたどたどしい。いったい何なんだと思い、せっかく続きを読もうと開いた本を閉じた。

「何か言い言いたい事があるなら、今すぐ言えよ。」

「えっとですね・・・。」

「だから、何なんだよ!」

一向に話が進まない。

おちょくってるのかと、文句を言おうとした新一だったが、何故か本は手になく、そして腕をつかまれて、そしてキッドの顔がよく見えた。

だんだんと、状況を理解してきた新一は気付くのだった。

なんと、あのキッドが自分にキスをしているのだ。さすがの新一もしばらく固まっていたが、離せと抵抗をする。

すると、呆気なく唇を離したキッド。だが、見えた彼の顔はとても真剣なもので、格好よくて、こんな彼だからいろいろな人に好かれるのかもしれないなと、また彼はのんきに頭の隅で考えていた。

「私は、名探偵の事が・・・新一の事が、好きなんです。」

しばらくフリーズしていた新一。

「・・・って、はぁ?何いってるんだ、お前。とうとういかれたか?!」

うろたえて慌てる新一。迫ってくるキッドを押しのけようとするが、体力の差は見ての通りで、何よりまったくキッドが言っている事を理解できていない新一だった。

「ですから、私は新一の事が好きなのです。愛しているのです。ですから・・・。」

突然になってしまったが、別にいつか言おうと思っていた事が今日になっただけだ。嫌いだと言われるのなら、遠くで見守りながら、そして不埒な輩から守りながら新一の幸せを願ってこの初恋を終わりにしようと思っているのだ。

「だ、だって、お前男だろ?」

「そうですね。それとも名探偵?私が女の方が良かったとおっしゃるのですか?」

「はぁ?そんな事言ってねーだろ。第一、お前が女だったとしても、これはおかしいぞ。」

確かに、可笑しいと言えば可笑しいもので、第三者から見れば、これは逆だろう。もし、キッドと女とするのなら。

「わかっていませんね、名探偵。女性であっても、最近は物騒なんです。名探偵なら、女性であっても男性であっても、襲われてしまいます。」

「んな馬鹿な事があってたまるか!第一、そんな気違いはお前だけで充分だ。」

まぁ、過去にいろいろあった新一ですが、それは全て一人で相手を倒し、対処しきれていた事と、幼馴染のガードがあったので無事に過ごせていたのですが、まるっきりわかっていません。

ここまでくると、どうして今まで無事であったのか謎です。怪盗キッド以上にこの名探偵は謎なのかもしれません。

「そ、それに、お前怪盗だろ?」

「そうですね。そして貴方は探偵だ。」

どうやって逃げようかと考えるが、逃げ場はなさそうである。

なんだか、追い詰められた兎の気持ちがわかる気がします。きっとこのキッドは肉食動物なんです。そしていつか自分を食べるのです。

まぁ、間違っていませんが、新一さんが思っているものとはきっと違う事でしょう。

「どうすれば、分かっていただけますか?」

「だから、何をわかるって・・・。」

「ですから、名探偵が好きだという私の思いです。そして、名探偵の答えは何ですか?」

そういわれて、さすがにいつになく真剣な彼の顔をみて無下にいう事が出来ません。

しばらく考え込む新一に、キッドは問いかけます。

「私の事は嫌いですか?」

「嫌い・・・ではないな。害はないし。」

「それでは、キスは嫌でしたか?」

「な、何言ってんだてめぇ。」

出来れば思い出したくないのですが、キッドには重要な事なので、流す事は出来ません。

「真剣に答えて下さい。」

「え、あ・・・。うー。」

「うならないで、どちらか答えて下さい。」

「だって。」

「では、こう聞けば答えて頂けますか?嫌悪感を懐きましたか?」

何か、自分にとってかなり害があるようなものだと感じましたか。その問いに少し考えた後、新一は『害は・・・ないと思う・・・』と小さく答えたのでした。

これを聞けて、少し余裕が出来たキッド。にっこりと微笑んで、言います。

「もう一度、貴方にキスを贈る事を許して下さい。もし、新一が私の思いを受け取っていただけるのなら、拒んで下さっても結構です。もし私の思いを受け取って下さるのなら、私の秘密を教えましょう。」

そう言って、再び近くなる二人の距離。呆然としていた新一は拒否する以前に、そのキスにおぼれ、それどころではなかった。

やっと、解放された時にはくたくたになって、そして顔を真っ赤にしていた新一。気付かされていたというべきなのか。

実は、新一自信もどうしてこのこそ泥が着ても通報しないのか、そして邪険に扱いつつも気になってしまうのか不思議に思っていたのでした。

そして、その答えは今、いとも簡単に出たのでした。

拒まれなかった事に喜ぶ新一は改めて申し出る。

「はじめまして、新一。黒羽快斗です。黒い羽に快いと北斗七星の斗で黒羽快斗。よろしく。」

差し出された手を受け取って、いつの間にか恋人同士な二人になったのでした。

 


その後、お隣からは見ていられないほど甘くて胸焼けがするわと言う少女がいたとか。

そして、たまにこの切欠となったシルクハットの中に行ってしまうという事態が起こる事があったとか・・・。

それはまた、別のお話。

 





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