「・・・ここ?」 「そうだな。」 「・・・思ってたより、普通だね。」 「だな。見た目は。」 どうみても、このマンションは普通である。作りも他とは変わらないだろう。 だが、何故か違和感を感じてしょうがない。 「よく、一階の一番角の部屋が取れたね。」 「・・・追い出したとか?」 「・・・。」 ありえそうなことに苦笑しながら、快斗はチャイムを鳴らしてドアが開くのを待つのだった。 新居へのご案内 「あれ?引越し??」 朝起きてきたら、何故か玄関に詰まれたダンボールが三箱。 まさか、新一が家でか?!と慌ててリビングへ飛び込む。 「どうした?」 そこにはお隣さんとのんびりお茶を楽しむ新一の姿があった。 「ちょっと、どういうことなの?!あのダンボール!!」 「ああ、あれね。クラウドとリオンが新居見つけたから、荷物送ろうと思って。」 「え??」 思ってもみないことに間の抜けた返事を返してしまう快斗。 「だから、彼等、やっと住処見つけたのよ。で、すでに向こうに行ったけど、荷物はあとで送る予定なの。」 もうすぐしたら取りにくるから、心配しなくても玄関は広いのに戻るわよと言われ、ちょっとほっとするのだった。 「そうそう。明日、掃除とかあるから、手伝いにきてほしいって彼等言ってたわよ。」 「・・・え?」 つまり、来いということだろう。 「あの・・・。」 「行ってきなさい。」 「はい・・・。」 「新一も、一度行ってきなさい。場所は知っておいて損はないと思うもの。」 「そうだな。」 どんなところにしたのか一度見ておこうかと、珍しく出かける気でいる新一に、密かに快斗はデートだと浮かれるのだった。 そして次の日。冒頭に戻るのである。 「まだ何もないけどね。あ、お茶と紅茶と珈琲ならどれがいい?」 「お茶。」 「珈琲。」 「わかった。ちょっと待っててね。」 リオンももうすぐしたら来るからと言われ、そう言えば姿が見えない事に気付く。 「・・・普通で良かったな。」 「拍子抜けしたけどな。」 だが、何か仕掛けがありそうで、部屋中をじっくり観察する。 「どうぞ。」 「ありがとう。」 お礼を言って受け取り、一口飲む。その時丁度リオンが部屋に現れた。 「あら。来てたのね。いらっしゃい。」 部屋の奥から出てきた彼女は何故か白衣を身に纏い、それが紅い液体が染み付いていた。 もしかして、もしかしなくても、これはという恐ろしい想像が導かれる。 「あ、失敗だった?」 「ええ。やはり、駄目ね。モルモットには悪いことをしたわ。」 やっぱりかと思うと同時に、こんな一般家庭が入ってるようなマンションでやらないでくれと言いたくなるのは当然だろう。 「今度は何をやってるんだ?」 恐る恐る聞くと、聞きたい?と笑顔で言葉と裏腹に聞くなという圧力をかけて聞いてくる。 どうやら、聞いたら殺される。そんな予感がする。 早々に、ここから立ち去るのが安全への第一歩のように思えた。 「なぁ。ここって・・・」 「あ、ここは連の所有マンションだから、少々のことは大丈夫だよ。だから、地下室作った。」 さらりといらん情報を下さるクラウドにそうですかと答えることしかできなかった。 やはり、まともじゃない人間にまともな場所での生活は無理だなと自己完結して、掃除って何をしたらいいのかと本題に入るのだった。 「じゃあ、掃除頼もうかな。地下室広いから片付け大変で困ってたんだ。」 一番聞きたくないことを聞いてしまった瞬間だった。 「お願いね。」 無事に帰れるのだろうかと、本気でこの時思う快斗。 「新一君はリオンの話し相手をお願いね。」 行くよと、快斗はクラウドに引き連れられ、奥の部屋へと姿を消す。 度々快斗の叫び声が聞こえてきた気がするが、きっと気のせいだろう。 そういうことにして、新一は空耳扱いするのであった。 快斗がそんな簡単に死ぬような奴ではないと思っていたこともあるが、関わらないのが最善の策だと、さすがの新一も真実に目を逸らして逃げたかったからかもしれない。 新一はリオンの話し相手をしてのんびり過ごし、快斗はクラウドの指示の元、扱き使われてくたくたになりながら帰宅した。 そんな二人を出迎えたのは、これまた優雅に紅茶を飲んでいるお隣さんだった。 そして、快斗に夕食を要求するのだった。 断ることなどできるはずもなく、泣く泣く調理を開始するのだった。 「なぁ。」 「何?」 「もしかして、あのマンションって・・・。」 「貴方の思うとおりよ。」 つまり、連が提供して、ここに何故か集まるあのメンバーが一室ずつ部屋を与えられている。 和也や竜都は別にあるために滅多に足を運ばないが、寝たり何か作業をする際に彼等は出入りしているらしい。 「・・・だよな。」 あんな場所で、一般人は住めないだろう。ノイローゼになって出て行くだろうと思う。 「私達の部屋も一応あるのよ?」 「・・・いつの間に・・・。」 知らない間に、いろいろ動いていることを再認識する新一なのであった。 「だって、あそこだったら誰も気付かないわよ。」 はっきりと所在がしれている工藤邸なんかより、よっぽど安全だ。いろいろそろっているし、何よりそう簡単に侵入者を許すようなセキュリティでもない。 「なぁ。」 「あそこ、招かれざる客は病院で入院送りよ。」 「・・・。」 聞く前にさらりと答える志保に、周囲にはまともな奴は誰もいないのかとつぶやくのであった。
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