「何で俺まで一緒に行くんだよー!」 巻き込まれた新一皇子は王妃の「一緒に行ってらっしゃい」発言により彼らと旅路を同行することになっていた。 そしてあっという間に時は過ぎ、いきなり魔王決戦。 「いや、いくら何でも早いだろう」 「時の流れとは早いものなのよ」 志保さんの言う通りです。 「とっとと倒して新一とウエディング〜♪」 「優しくしますからね」 「何の話してんだお前らも!」 「決戦前にそんな会話が繰り広げられているのが不思議ね」 そうですね。 そこはおどろおどろしい装飾品の飾られた城だった。壁は黒く、妙に尖がっている気もする。 城門も扉も開かれていたため、新一たちは悠々と魔王のいる城に乗り込むことが出来た。 うじゃうじゃと低級な魔物たちがひしめいているが、上級な魔物は見当たらない。適当に進んで倒しながら、四人は魔王を探していた。 「こういうところ(ダンジョン)って大抵どこかに大きな扉があって、そこらに鍵とか落ちてたりするんだよね」 「何か持っていないとその扉が開かなかったり」 「で、そこに魔王がいると」 「ボスは大抵石のようにその場から動かないものよ」 ただいまの場所。ぐるっと回って2F蔵書の間。 かなり、膨大な量の本があり、新一は目を輝かせた。 「うっわーうわーすぅげぇー!全国の本をかき集めたんじゃねぇのこれ!」 愛読家の新一が在庫チェックをはじめるが、快斗とキッドは首を傾げていた。 「…なあこれってさ、去年魔王に滅ぼされた国限定の本だよな?」 「ええ…この本も、確か限定品です。この装丁の奴は確かつい先月滅ぼされた国の…」 「…もしかして魔王って、新一並に愛読書家?」 「かもしれませんね」 「工藤君、いい加減にしないと置いていくわよ」 「あー待ってくれ。勿体ねぇ。これまだ読んだことない…」 「「しーんーいーち!」」 「あ〜!」 ずるずると新一を引きずって蔵書の間から離れる。新一が文句を垂れていたが、全部終わってからまた来ようと言い包めて再び魔王探し。 そしてやっと見つけたのが、いかにも「ラスボスです」といわんばかりの装飾が施された扉。 「ここだね」 「ですね」 真っ黒な扉。それを前にして四人は顔を見合わせて、快斗が進んで扉を開けようとしたとき。 向こうから、扉が開かれた。 「!?」 四人は一歩後退して構える。 現れたのは――――――。 「いらっしゃい、勇敢なる第6478行目の勇者たちV」 「へ?」 現れたのは人間に近い姿の青年だった。 薄茶色い髪は肩まで長く、柔和な顔立ちは整っているが、唯一人間と違うのは側頭部に付いている羊のように捻じ曲がった角だろう。だがそれは、にこにこ笑っている彼によく似合い、逆に可愛らしい印象を受ける。 …これが、魔王? 四人の中に共通して疑問が生まれた。 だが彼は気にすることなく四人を中に進める。 「久しぶりのお客様だな〜何か飲む?紅茶と珈琲どっちがいい?甘いお茶菓子はいかが?」 「え…と」 「なんだか誤解されているみたいだから、話し合わない?」 にっこり笑顔でそう言われると、戦意は殺げる。だが、何故だろう。彼の笑顔は無邪気なのに裏に何かあると疑いたくなる。 「私たちが第6478行目の勇者って、どういうことかしら?」 志保の問い掛けに、うきうきと扉の奥に入ってお茶の準備を始めた(多分)魔王はにこにこと笑いながら言い放った。 「勿論言葉通り、君たちが6478回目にここに来た勇者だってことだよ?とにかく座って?大丈夫、おかしなものは入ってないから」 「「……」」 開かれた扉の向こうは今まで見てきたどの部屋よりも「魔王らしくない」部屋だった。 普通の人間がすんでいるような空間で、淡色を主とした部屋は、お茶用のテーブルと複数の扉、本棚に椅子しかない。 …これって本当に魔王? 「どうしようか…」 「彼は本当に魔王なのでしょうか…」 「みえねぇ…」 「見えないわね…」 まったく、これっぽっちも、彼は『魔王』らしくなかった。 「スコーンは好き〜?」 なんて聞いている姿は、どこにでもいる青少年そのものだった。 さてどうしよう。 新一と志保はともかく快斗とキッドは顔を見合わせて軽く唸った。 新一を手に入れる条件は魔王を倒すことだ。だが、この魔王。戦おうにも戦意がそがれて戦いにならない気もする。そして漂ってくる甘い香り。まずいことにそれはとてつもなく、彼らの好みと一致していた。 「とりあえず」 「話でも聞きましょうか」 「そのお菓子が食べたいだけでしょう」 「食意地はってるなぁ…」 二人に呆れられたのは軽く流すこととした。 結局五人はテーブルを囲むようにしてお茶会を開いていた。 「それで。貴方が魔王なのね?」 「うんそうだよ。僕魔王」 にこにこ笑いながら言われても迫力など皆無だが。 「魔王って、じゃあお前が街を滅ぼしたり精霊たちを怯えさせたり人間を攫ったりしていたんだよな?」 新一は精霊に愛された賢者だ。魔王の所業は知っているが、魔王本人の姿を知ってはいなかった。 だがあっさりと、魔王は肯定を持って返す。 「うん。青海ちゃんが欲しがっていた本があったから街を滅ぼして手に入れたり青海ちゃんを虐めた精霊をちょっと脅したり青海ちゃんの世話係のために人間を攫ったりしているのは僕だよ」 にこりと、笑顔つきだった。 というか、青海ちゃんって誰だ? 「あ、ちなみに僕の名前は圭。よろしくね〜」 「…青海ちゃんって?」 「僕の可愛い可愛い妹V」 シスコン決定!! 四人の中に共通した文字はそれだった。 「…なに?つまりあんたは、妹を可愛がりすぎてあちこちに迷惑かけてるわけ?」 「迷惑かけてないよ」 「かけてるから6478回も勇者が来るんだろ!」 「やだなあ彼らは遊びに着ただけだよ。ちゃ〜んと御持て成しして返してあげたよ。ただし、無事に人里に辿り着いたか知らないけれどV」 「…」 御持て成しのショックで魔物に食われたんじゃ…。 ここに来るまでに見た人間の亡骸を思い出して、四人は明後日の方向を見た。だが圭は気にすることなく紅茶を啜っている。 「それで、君たちも戦う?受けて立つよ?」 笑顔で言われて別の恐怖が上ってきた気がした。 「…俺は遠慮しとく」 「私も遠慮させてもらうわ」 新一と志保は即答だった。 無駄な争いはしない二人。 ただし、快斗とキッドはかなり唸った。 「僕を倒さないと何か困るの?」 「ええ、物凄く」 「俺たちの結婚がかかってるんだよね」 「へえ、それは大変だね」 「倒されたって事にしてくれないかな」 「でも僕死にたくないし」 「負けたってだけで命までとろうと思ってはいませんよ」 「真似でもヤダなぁ。ところで誰と結婚するの?」 「「新一」」 「そっか、頑張って」 「そこ突っ込まないのか!?」 さらりと交わされた問題に新一が突っ込んだ。 だがその突っ込みも流される。 「新一の親父さんが魔王倒したらいいよっていったんだけどさー」 「僕は別に悪いことしてないから別を当たってくれないかなー」 「集めた本は押収品でしょう」 「プレゼントだよ。君たちだって大好きな人が欲しがっているものはなんでも手に入れてあげたいじゃない?」 「ええまあ」 「でも盗品は怒られるし」 「盗品じゃないよ持ち主いなかったし」 持ち主殺したのか? その突っ込みは口にはしなかった。 賢明な選択だろう。 快斗とキッド、圭はなにやら三人でつながりのない会話を一通りしていた。新一と志保はそのくだらないやり取りを蚊帳の外で眺めていた。 ふと、視線を出入り口に向けると、小さな角らしきものがぴょこりと突き出ているのに気がついた。 「…?」 新一は好奇心も手伝い、そろそろとそれに近づいてみる。ぴょこぴょこと動くそれは、圭の頭に付いている角とよく似ていた。 ぴょこりと、扉の間から小さな顔が覗いた。 「…」 「…」 「「……」」 そこにいたのは小さな女の子だった。 蒼い目をした、短い黒髪の可愛い子。 魔王の城に不釣合いなその子供に新一は再びフリーズした。 「あ、青海ちゃんV読書終わったの〜?」 その隙に、横からいつきたのか圭がその子供を抱き上げる。どうやらその子供が、妹の青海らしい。確かに、角が同じだ。 「ほら青海ちゃん、お兄さんたちに挨拶は?」 「は…はじめま、て」 (可愛い…) たどたどしい言葉使いにキュンと来た新一は(長旅で癒しを求めていたため効果は覿面だった)かなりな笑顔を見せた。 「はじめまして青海ちゃん。俺は新一だよ」 「新…?」 「うん、そう」 ほのぼのとした空気が流れた。 それを壊したのは嫉妬した兄(心が狭い)圭だった。 「残念ながら僕のことは倒せないからほか当たってね〜」 「?たおしゅ?」 「青海ちゃんは気にしなくていいんだよ〜VV」 (妹バカ…) メロメロなデロデロな魔王に四人は渇いた笑いを漏らした。 「うぬぬ〜こうなったら」 「ええ、仕方ありません」 「あら、どうする気かしら」 (嫌な予感…) 悲しいことに、こういった時新一の予感は良く当たる。 「「このまま貰って行っちゃおう」」 「やっぱりかぁ〜〜〜!!」 新一の雄叫びが城に響いた。 「一応魔王を倒そうとしていたのはたいした進歩だと思うけれど?」 何せ彼らは「我が道を行く」勇者と魔法使い。 城に乗り込んで皇子(新一)を連れ去らなかっただけ、旅の途中で方向転換しなかっただけ進歩しているのだ。 結局こうなったけれど。 志保はため息をつき、意気揚揚と(来たときよりもかなり嬉しそう)これからのことについて一方的に語っている彼らを追うために歩き出した。 そのまえに、振り返ってきょとんとした妹を抱きかかえている兄である魔王を振り返った。 「騒がせたわね」 「いえいえVなんか楽しそうだからまた遊びにきてっていっといてV」 遊びに来たわけではないのだけれど。 無難なことに「わかったわ」とだけ行って、志保は三人の後を追った。 「面白い一行だったね〜♪」 「ま、くゆ?」 「うん♪来る来るV来なかったら連れ去ってくるから大丈夫だよ♪」 彼らを止められる人はどこにもいない。 それから暫らくして、どこかの王国の王様が皇子を探す捜索隊を作ろうとしたけれど、最強な妻に言い包められて泣く泣く諦めたとか諦めなかったとか。 そしてその皇子も、何だかんだ言いつつ彼らと旅を楽しんだようです。 …魔王はそのまま何年も、猛威を振るったようです。 RPG第二段!魔王は誰だ!! |