こいつら絶対おかしい。 賢者である新一は、眉を寄せて小さく唸った。 「新一〜疲れたの?大丈夫?」 「なんなら担いでいきましょうか?」 「あ!ずりー!するなら俺だぞキッド!」 「快斗は勇者だから剣があるでしょう。その点、私は魔法使い。杖がなくても魔法の復唱なんて出来ますからね」 「う〜その通りで言い返せない…」 「ということで新一、抱き上げるのと背負うのと担ぐのどれがいいですか?」 指摘には抱き上げるのが…といっている相手をげんなりと見ながら、新一は重く深いため息を付いた。 …どうして俺、こんな奴らとパーティ組んでるんだろう…。 「それは私も同感ね」 「志保」 召喚師である志保が、なんだか悪雲を背負って呟いた。 それを見た快斗とキッドが顔を引きつらせる。 にこりと、志保が微笑んだ。 「誰の所為で工藤君が疲れていると思っているのかしら…?」 あなた達の所為でしょう? 「「す、すみません…」」 雑魚も裸足で逃げ出すほどに強いはずの勇者と魔法使いは、召喚師である志保に勝てたためしがない。 新一は日常茶飯事と化しているそのやり取りを聞きながら、ハア、とため息を付いた。 本当になんで、こいつらと一緒に旅に出てるんだ?俺。 新一は、賢者でもあるが皇子でもあった。 妖精や精霊たちに愛されて、世界に歓迎されて生まれてきた賢者。その美しさと優しさで民からも愛され好かれ、両親や家臣の愛情に包まれて、なに不自由なく生活していた。本来ならば、旅をする理由など何処にもない。 はず、なのに…。 城を脱け出して森で動物たちと遊んでいた新一は偶然、魔物と戦っている三人と出くわした。三人はそこに人がいたことに驚いて、新一を助けようとしたため必要以上に大怪我を負い、気を失った。 気を失った瞬間新一は精霊を呼んでその魔物を遠くへ飛ばし、倒れた三人の手当てをした。 一応助けようとしてくれたのだからお礼がいいたくて起きるまで待っていたのが、運の尽き…。 目が覚めた快斗とキッドは、勢いよく新一を口説き始めた。 最初は何をいっているのか理解不能だった新一だが暫らくすればそれが愛の囁きだと嫌でも理解できた。鈍感天然記念人物といわれている新一にすら気付くほどの台詞を恥ずかしげもなく囁き続けるその二人を撃退して城に戻り、その日はもう忘れて寝たのだが、次の日、彼らは城へ乗り込んできて、国王と王妃を捕まえてこういった。 『絶対絶対新一のことは幸せにするから、俺たちにください!!』 『悲しませたりしませんから、譲って下さい』 俺はものか!!(怒) 普段はストッパーになるはずの志保も、何故だかそれを黙ってみていたし。 そういった二人にさすがの国王と王妃も最初はポカンとしたようだが、王妃は手放しに喜び国王はむすっとした表情でこういった。 『大事な息子をそう軽々しくやるわけにはいかないからね。どうしても新一がほしいというのなら、その愛を証明するためにちょっと隣の国の魔王を退治してきなさい』 と、こうきた。 俺は商品かよ親父!!(激怒) ついでに驚愕なのが、それをあの二人が喜んで承諾したことだ…そう、喜んで。 『はいわかりました』『頑張ってきま〜す』と、そう言って。 ちょっとまてい!! あっさり了承して魔王退治に出かけようとしているその二人を捕まえて、ついでに親父も捕まえて、新一はそれに対して抗議した。 新一は賢者だ。魔王の強さも、彼らの強さもわかっているが、それは五分五分。生きるか死ぬかの戦いになるだろう。それをそんな簡単に決めるな!そう、新一は訴えたわけなのだが…。 『心配してくれるの?快斗君嬉しい〜V』 『大丈夫ですよ、あなたを手に入れるためにちょっと隣の国へ行くだけですから』 まるでお使いにでもいくような調子でそういった二人と。 『なんなら新ちゃん、この二人と一緒に行ってきなさいよVそこから愛が目覚めるかもしれないじゃない?』 きゃっとばかりにそういったのは母親だった。 …そんな感じで、半ば無理やり同行させられている新一…。 (絶対おかしい絶対おかしい!!) そんな感じに連れ去られ(…間違い?)すでに一ヶ月は経っている。もうすぐ隣の国へつく。そこで魔王を倒し、帰れるかといったら、そう簡単なものではない。 倒すことが、彼らが新一を手放す条件だったのだから。 (じゃあなにか!?俺は魔王を倒したらその後、こいつらと一生一緒にいなくちゃならねぇって!?) 勝たなかったら死ぬんだから、どちらにしろ帰れないじゃないか!! (クソ親父―――――!!) 心の中で罵倒して、空遠くにいる父は盛大なるくしゃみをした。 「あらぁあなた、風邪ぇ?」 「う〜ん…新一が自慢話でもしてるのかなぁ」 ありえないって。 「諦めなよ新一」 「そうですよ。あなたは私達の花嫁となるんですから」 「俺は男だ!!」 「男でもいいのV」 「私も構いません」 「構えよ!」 「漫才しているのはいいけれど、魔物よ」 「!!」 前方から現れた、獣に似た魔物。赤い目が額に四つある。 「よっしゃ!」 快斗が長剣を構えて腰を落とす。キッドが呪文を唱え、志保が地面に手をついた。 「生まれるは炎。礫は飛来し赤き光を放たん!」 「開け異界への扉。召喚師志保の名に置いて、消滅の力を貸さん」 放たれる礫の炎と、消滅を目的として放たれる光。それが魔物にぶつかって、快斗が止めを刺すべく走った。 素早く魔物の弱点となる場所をはじき出して、剣を振りかぶる。 ざくりっ! ぎゃああああ!! 断末魔の悲鳴を上げて、魔物は砂となり、風に消えた。 「楽勝♪」 「のわりにかすってますよ」 「まだまだね」 「むー、俺は接近戦だもん」 「膨れてねぇで!腕出せ腕!!」 ぶんぶん傷のついた腕を振り回す快斗に呆れて、新一がその手を取る。そして、小さく呟いた。 「宝珠解放」 至宝の宝珠。それは神秘の蒼。 そこに込められた力の指数は、誰にもわからない。 風の力を借りて、新一は快斗の傷を癒した。 「…たく、気をつけろよ」 「これくらい舐めてりゃ治るのに」 「油断すんなよ」 「は〜い」 クスクス笑って、快斗は嬉しそうに新一を抱き締める。 素直じゃない人。 本当は心配なだけ。それを表に出そうとしない。だからこそ、愛しい。 「快斗、ずるいですよ」 「いつもいいとこ取りしてるのはキッドだろ〜」 「…だああもう!放せって快斗!」 「だぁめ」 「…行くわよ、三人共」 「「はい」」 声をそろえて顔を見合わせて、そろって苦笑を零す。 旅はもう少し続くけれど。 旅に出なくても、一緒にいられるまで、そう時間はかからないはず。 「むかつくけどな」 そう、新一が言っていたことを、誰も知らない。 |