最近、何者かの視線が自分を捕らえる。 だが、その視線の主は気配でだいたいわかっているが、いったいどうしたいのかわからないので、かなり困っていた。 「はぁ。」 「あら。ため息なんてして、何かあったのかしら?」 無茶しているようなら、容赦なく寝てもらうわよと脅されて、違いますと即答するが、お隣の共犯の少女は容赦なくやるだろうし、その笑みが何よりも怖かった。 「ただ、ちょっと気になることが・・・。」 「・・・組織かしら?」 「違う。」 なら、いったい何が気になるのと言われて、言おうか言わまいか考えて、何者かが様子を伺っていて、いつも視線を感じてどうしたいのかわからないから困っているのだという。 「ストーカーかしら?」 「違う。誰かはわかっているからこそ困っているんだ。」 どこかの西の黒い人かしらと言われて違うと首を振る。 「あいつだ。白い奴。」 「・・・警視庁二課で・・・。」 「違う。その白い奴じゃない。」 「ああ。あの気障なこそ泥さんね。」 やっと、わかってもらえたようだ。 「その彼がどうかしたのかしら?」 「・・・怒らないか?」 「内容によるわ。」 そして、やっと新一は彼女に黙っていた内容を話した。 先日の怪盗キッドをやったということと、復活したらしい怪盗が様子を伺っていること。 「・・・そう。」 怒られるかどうかと少しびくびくしていた新一だったが、哀はいたって興味が失せたかのように言葉を切る。 「ま、それなら害はなさそうだからいいわ。」 もう、どうでもいいらしい。 「あ、二度と同じような馬鹿な真似だけはやめて頂戴ね。」 「ああ。」 それだけは釘を刺しておく。 そして出て行った哀に、首をかしげる新一だけが取り残された。 「絶対、あいつは何かわかったんだ。」 恋愛に鈍い探偵は、キッドの思いは愚か、自分の思いにも気付いていないのであった。 とにかく、これ以上付きまとわれても、あいつにはあいつの日常があるのだろうし、だからこそ四六時中ってわけではないのだから、はやく話をつけて終わらせようと決めた。 なんだか少し、接点がなくなって寂しい気がするが。 そして、まだ気配がする玄関を開け、気配のする方向へと近づいていく。 良かったのは、その気配が逃げるなら逃げられるのに、その場所から動かなかった事だ。 そして、見つけた。 そこには、見つかったという感じで、ちょっと困っている、自分と似ている学ランを着ている同い年ぐらいの少年だった。 「やっぱり、気付いてたんだ。さすがだね、名探偵。」 「気これだけわかりやすくて気付かない方がおかしいだろ。見るかりたくないのなら、次から気をつけるんだな、こそ泥さん。」 話があるのなら聞いてやるといえば、もぞもぞと指を絡ませている相手を見て、鬱陶しいし、まるで自分がいじめているみたいなので、腕を攫んでずしずしと進む。先は自分の家。 急だったのでバランスを崩しかけていたが、立て直せたのはさすが怪盗というところか。 家に連れ込んで、リビングに座らせて、珈琲を入れて出してやり、相手の目の前に座った。 「で、話があるのか?ここ最近ずっと気配と視線でさ。お前暇なのか?」 「暇ってわけじゃないけど・・・。」 「なら、自分の生活大事にしろ。」 自分に似ている姿は、きっと変装だろうから。 捕まえるつもりはないし、彼の信念を知っている新一は、正体をつけとめようとすることもないが。 探偵の前にわざわざ素顔で来る馬鹿でもないと思っている。 だって、あの時はいつも決してあの服装を脱ぐ事も変装を解く事もせず、モノクルはつけたままだったのだから。 「えっと、いろいろご迷惑をお掛けしたようで、すみませんでした。」 口調は弱弱しいながらも、今の姿には似合わない敬語で。なんだか違和感を覚える。 「別に。借りを返すつもりで協力したんだからな。」 「・・・そうですか。」 いつものあの気障で人を見下したようなあいつではない。いったいどうしたのだというのだ。 「お前、まだ調子悪いのか?」 「あ、それは大丈夫。」 なんだか、ポーカーフェイスが出来ていない。それでいて、何かを隠そうとしている。 もしかしたら、無理をして来たのかもしれない。 あの事が気になって、こいつは本当は優しい奴だから、気にして来たのだろう。 なんて、馬鹿な奴だ。だけど、そんな心遣いがうれしいかもしれないと思ってしまう。 「あのね、名探偵。」 「だから、何だよ。お前はいったい何がしたいんだ?」 相手が隠すつもりなら、こっちはいつもの自分でいないといけない。 だから、素直に心配なんだと顔にも口にも出さずに、新一は目の前の怪盗に向かい合う。 「この前は、本当にありがとう。へまして意識もなかったから、後であいつに聞いたんだけど・・・。」 探偵に泥棒の真似させてごめんと謝る目の前の相手。 人の好意にごめんって、どういっていいのかわからなくて困っているのはわかるが、自分は無償でボランティアをするような性格ではないし、こいつだから助けたいと思ったのに、失礼な奴だと思いながら、飲み終えたカップをテーブルの上に置く。 少し、あいつというのが彼女だとわかりながら、詰まる思いを隠しながら。 二人はきっと仲がよい。彼女がとても心配していたぐらいだし、こいつも結構信用しているようだし、彼女が好きなのかもしれない。 それなら、きっと望みはないだろう。いつの間にか気に入っている怪盗。 気に入っている段階でそれ以上思いが膨れ上がらないようにすればいい。 だけど、もう手遅れの状態にまできているかもしれない。 だって、こんなにもこいつの事が・・・。 やっと、新一も自分の思いに気付いたのだった。だが、遅いのかもしれない。 だから、隠し通そうと新一はすぐさま決めた。それが一番いいのだと。 本来、向ける対象が違うから、軽蔑されたくないし、いつまでもライバルで共犯者でいたいと思ったから。 「で、それだけを言いに来たのか?」 「あ、えっとそれでね。」 おろおろとする様が、本当に怪盗キッドなのかと思う。 「なら、帰れ。もういいだろ。」 キッドが飲んだカップを持って、台所へと消えようとする新一の姿。 「あ、待ってっ!」 「何だよ?」 呼び止められて、無視できない自分に心の中で苦笑しながら、新一は振り返る。 「ずっと、言おうと思って、名探偵のことと、俺のことも全て終わってからにしようと思った。」 何を言い出すのだろうかと聞く新一。 「紅子に聞いた。あいつが怪しい力でどうにかしたみたいだけど、怪我したんだってな。」 「・・・そんなの、覚えてないな。」 「嘘付け。」 「そういうお前の方こそ、重症だったんだろ?」 「それは・・・。」 どうやら、この怪盗は自分のせいで怪我させたということで、気になっているのだと新一は理解する。 なら、話は簡単だ。 世間では人を傷つけないことでも有名な怪盗。新一を気にしていたのではない。怪我させたということを気にしているのだ。きっとそうだ。 「大丈夫だ。お前のせいじゃない。」 だから気にするなと言って、そのままもう帰れといった。 だが、しぶとい怪盗は帰る気配はみられない。 無視して、カップを洗う。その間に帰るだろうと思った。なのに。 「・・・なんでまだいるんだよ。」 カップを洗い終え、リビングに戻ってみたら、まだソファの端っこにそいつはいた。 「あのね、まだ言いたい事を言い終わってなくて・・・。」 「なら。さっさと言え。」 「えっとその・・・。」 また、はっきりとせずもじもじするそいつ。一体何がしたいのかまったくわからない。 その時だった。 「いい加減にして頂戴。」 「あ、小泉さん。」 「あ、紅子ぉ?!」 現れたのは、相変わらずこの怪盗以上に神出鬼没な紅子だった。 そして、もう一人、お隣の哀だった。 二人のことに気付いて、ずっと二人して話をしたり情報を交換したり、そして様子をいつも伺っていたのだ。 だというのに、せっかく話をするのかと思えばこの様。 「いつまで馬鹿やってるつもり?」 どうやら、今までのを全て見られていたようで、顔を真っ赤にして紅子に文句を言って近づいていく。 それを見て、冷めていく新一。 まるで、誤解を必死に解こうとする彼氏のようだ。 やはり、あいつは彼女が好きなのかもしれない。 そんな事をまったく気付いていない三人は、二対一で快斗をいじめているのだが、生憎鈍い新一にはそうは見えなかったのであった。 部屋を出ても彼等は気づく事はなかった。 普段は、人の気配に敏い三人がそろっていたというのに。 それだけ、新一は気配を出したり消したりする事に長けていることもあるが。 二階の部屋に逃げ込み、鍵をかけて布団の上に倒れる。 このまま寝てしまおう。哀がいればたぶん戸締りも大丈夫だろうから。 あの二人のことも、彼女は知っているようだから何も問題ないだろう。 やっぱり、哀はあいつのことを知っているんだ。 ちょっとしたやきもちなのかもしれない。 「情けない・・・。」 それと同時に悲しくなってきた。 自分からは怖いし、何か合った時にも困るから聞こうとしなかったし、知ろうと調べようとしなかった。 それはあの時ではいい判断だっただろうけれど。今は少し辛いかもしれない。 鈍い新一はどんどんと違う方向へと誤解していくのであった。 最終的に、布団にもぐって、疲れもあってか簡単に眠りについたのだった。 「どうしてはっきりといわないのかしら?」 「彼が鈍いのは共犯の時からわかっていたことでしょう?」 「だって・・・・・・あれ?」 ふと、言い合っている間に、すっかり忘れていた新一に助けを求めようと思い、いるであろうソファの方を見た。 「新一は?」 「・・・いないわね。」 「そうね。」 気付かないぐらい、話し込んでいたかしらと、のん気に言っている紅子に、快斗はすごい形相で文句をさらに言う。 「ど、どうするんだよ!新一が、新一がっ!」 きっと呆れてどっかいっちゃったんだと、騒ぐ。 「・・・確かに、呆れてもしょうがない状態だったかもしれないわね。あまりにも間抜けだもの。」 「ひどい・・・。」 「それにしても・・・。」 少し困った事になったかもしれないわねと、哀は思う。 たまに、彼は突拍子もないことを仕出かしたり思いついたり、そして誤解してしまう事があるから。 「とにかく、部屋にいるでしょうから、覗いてきなさい。」 「いいの?」 「いつもしてたんでしょ。今更じゃない。」 「そうだけど・・・。」 でも、哀直々に許可があるのなら、安心してゆっくりと怖がらなくても大丈夫だと思いながら、階段を上った。 そっと上り、気配を消しているが、一応ノックを二度してから、入るよと声をかけて中へと入った。 すると、そこには身体を丸くして、布団にもぐって眠る新一の姿があった。 「か、可愛い・・・。」 何時見ても、寝顔は可愛い。 だが、少し気になるところがある。それは、彼の頬をつたり、流れ落ちた涙の跡。 「泣いてたの・・・?」 どうして泣いているのかわからない。 もしかしたら、事件で何かあったのかと思い、どうしようと思いながらも、これ以上いては我慢するにできないので退室することにする。 そして、考えながら降りてきたら、下ではのんびりとお茶を飲む二人の姿があった。 「・・・なんでくつろいでいるのですか?」 「あら。私は別に構わないじゃない。彼女に関しては、私が許したからいいのよ。」 「そうですか。」 何時まで経っても、彼女には勝てる気がしない。 だが、今はそれ以上に新一の事が気になる。 あの涙の原因が知りたい。そして、新一を悲しませるものはできる限り排除して、いつも側にいたい。この腕の中に閉じ込められる事が出来る日がきてほしいと願う。 だけど、それはまだまだ無理なのかもしれない。 今の新一を独りにしておくのは少し心配だったし、哀がいてもかまわないというので、快斗はリビングのソファでお泊りをすることにした。 哀がいうには、どうせ明日の朝までぐっすりだろうからとのこと。 今日も新一の夢を見られるかと思いながら、哀が教えてくれた客間からとってきた布団をきて眠りについた。 次の日の朝。 「器用ね・・・。」 「あ、おはよう哀ちゃん。」 そこには、ご機嫌で料理をして、皿をテーブルに並べる怪盗の姿があった。 もう、完全にあの気障な怪盗の面影などはなかった。 「いい、主夫になるわね。」 「ありがと。」 「貴方がいたら、彼の生活の乱れがなくなりそうね。」 「でしょ?今はとってもお買い得なんだよ。」 と、まずは彼女に認めてもらわないと、いずれ同棲したいと考えるキッドにはこの先が危うい。 「で、えっと黒羽君だったかしら?」 「そうだよ。黒羽快斗。江古田高校三年生。新一と同い年〜。」 「そう。」 「あ、哀ちゃんの分も用意したんだよ。」 はいっと、用意された三人分の朝食。まぁ、おいしそうなので哀も頂こうかと考えた時、ちょうどこの家の主が降りてきたようだった。 ドアが開き、中へと入ってきた。 その様はかなり不機嫌そうだった。哀も珍しいと思うぐらい、不機嫌だった。 あの不機嫌な時に見せる笑顔すらない。 「あ、あの・・・おはようございます、名探偵。」 ちょっと、それにびくつく快斗はつい敬語になり、それがかえって新一には機嫌を降下させるものだった。だが、快斗がそれに気づく事はない。 「何で、お前がいる?」 「私が泊まるようにいったからよ。まだ、組織のことで話があったから。」 「終わったのか?」 「ええ。朝食もしてくれたみたいだし、昨日朝食を食べなかった貴方に作りにくるつもりだったから、手間も省けたわ。」 「えへへ。」 哀に褒めてもらえて少しうれしい快斗。そして、さらにそれが新一の機嫌を降下させた。 「俺、いらない。」 だが、それを哀が許すはずがない。 「駄目。ちゃんと食べなさい。」 「俺は珈琲で充分だ。」 と、珈琲を入れにキッチンへと向かおうとした新一を止める快斗。 「あとで入れるからさ。とにかく食べて。」 自信作だからと、笑顔で言われて言葉に詰まっている間に、快斗は新一を席に座らせる。もちろん、快斗の隣だ。 哀とは向かい合って食べるので、新一自信あまりきにしていなかったが、かなり快斗は心の中で喜んでいた。 新一と仲良くご飯を食べれたこともだが、隣に、こんなに近くにいられることが。 不機嫌なのは、寝起きだからと誤解したままで。 哀も快斗も知っている。新一の寝起きの悪さは。だから、それには気にしないでいた。 もくもくと食べる新一。気まずさに話しかけたりするが、あまり反応はよろしくない。 なので、自然と哀へと会話が流れてしまう。 気がついたら、新一は食べ終えていて、快斗はすぐさま珈琲を入れに行こうとするが、まだ食べてろと止められて、大人しく座った。 確かに、まだ自分は食べている途中だ。行儀が悪いのは事実。 「・・・不器用ね。怪盗さん。」 「あはは・・・。」 まだ、快斗は大きな誤解が生じている事に気付いてはいなかった。 現在、哀はのんびりと快斗の入れた珈琲を飲んでいる。新一は書斎に篭ってひたすら本を読んでいる。 片づけをし終えた快斗は、新一に昨日の話を続きをしようと思うのだが、本を読んでいるのを邪魔しては今までの経験上蹴られるのは必須なので、しばらく様子を見ようと哀の向かいに座った。 さすがの哀も、快斗といるときは機嫌のいい新一が無表情であることに不信に思いだしていた。 「哀ちゃん・・・。」 はぁとこちらではため息ついて情けない顔をしている怪盗。 「・・・そういうことね。」 なんとなくわかった哀。 さっきから、快斗は自分にばかり話をしている。今もそうである。だから、自動的に一人になる新一は拗ねているのだろう。 よくよく思い出せば、昨日もそうでなかっただろうか。 「馬鹿ね・・・。」 「ば、馬鹿・・・。」 快斗だけにいったことではないが、快斗は哀の言葉にショックをうけて固まっていた。 「貴方、本当に馬鹿みたいな数字のIQを持つのなら、少しぐらい考えたらどうなの?」 「何を?」 「どうして、工藤君が貴方と話をしないか。」 真っ直ぐそう言われて、グサリとその言葉は快斗に突き刺さる。 「や、やっぱり、避けられてる・・・?」 「そうね。貴方が馬鹿だからでしょうね。」 ガーンとさらにぐさりとくる言葉を容赦なくくれる哀にえぐえぐと悲しむ快斗。 「工藤君も、ある意味では馬鹿ね。貴方と一緒。」 「え?名探偵がどうしたって?」 「・・・そもそも、その代名詞自体も彼には失礼な呼び名よね。」 「そ、そうなの?」 キッドの時は別に気にしていなかったようだし、呼べば返事をしてくれていたのだが。 「そうとうな馬鹿ね。」 ぶつぶつと言葉に出ていたようだ。 「だって・・・。」 「そもそも、好きなら好きとはっきり言ったらどうなのかしら?ねぇ、こそ泥さん?」 「だって・・・だって、相手が相手だし・・・。」 「あら?諦めるつもりなの?なら、私は容赦なく追い出すわよ。」 きらりと目が光った気がする。かなり本気の目だ。 とてつもなく恐ろしい何かを感じた快斗は即座に誤った。 「貴方がそうだから、工藤君もああなるのよ。」 「どういうこと?」 「・・・それぐらい自分で考えたらどうなの?貴方、そこまで馬鹿なの?」 「ひどい・・・。馬鹿馬鹿言わなくても。」 「馬鹿に馬鹿といって何が悪いの?馬鹿じゃないと言うのなら、理解しなさい。」 「だから何を?!」 うーと唸る快斗に呆れ果てる哀。ただの奥手なだけかと思ったが、この怪盗も相当恋愛には鈍いのかもしれない。 「・・・工藤君は、あの大嫌いだったどっかの気障なこそ泥さんのことを気に入っている。・・・そう言えばわかるかしら?」 「大嫌い・・・。」 哀の言葉の大嫌いにかなり反応してさらにショックを受けて沈む快斗。 「ちょっと、どこを聞いているのよ。貴方のことを気に入っていると言っているのよ。大嫌いなはずなのに。」 「・・・矛盾していませんか?」 「あら?工藤君が素直な人じゃないことぐらい、今までの経験でわかっていたと思うけれど?」 えっとと、快斗は哀の言葉を整理する。 「つまり、好意はあるってわけ?」 「そうね。貴方に会える日はうれしそうだったわよ。あと、予告の日はとても心配していたわ。かなり、顔に出るもの。誰だってわかるわ。貴方の事が好きなのよ。わかんないの?」 「ええ?!」 からになったカップをテーブルの上に置いて快斗を睨みつける。そして、言う。 「さっさと動きなさい。いつまでも馬鹿やってないで。もう、わかったでしょ?これでわからないのなら、二度と彼の前に現れないでちょうだい。」 これ以上いってもわからないのなら、迷惑だから来るなと言う哀に、ゾクリと寒気が走るが、苦笑して理解した快斗は書斎へと向かうのだった。 「・・・相当な馬鹿みたいね。彼。」 やってられないわとつぶやく哀だが、少しうれしそうだったのは、彼等は知らない。 コンコン 二度ノックして、新一いるーと聞きながら扉を開けて中を覗く。 すると、そこには黙々と本を読んでいる新一の姿があった。 冷静になってみれば、どれだけ周りを見る力が劣っていたかよくわかった。 かすかに、入ったときに新一の肩が動いた。そして、見ている本の文字を追っているように見せかけているだけの視線の先。 余裕がなくて何にも見えていなかったことに気付いた。 「名探偵。昨日の話の続きがあるんだ。」 近づいて、読んでいない本を取り上げて彼の視界から消す。 やっと、合わせられた目線。 「ずっと言おうと思ってたんだ。」 にっこりと笑みを見せれば、可愛い事に少し顔を紅くして、そっぽを向く。 言ってもいいだろうかといつも悩んでいた。 だけど、言おうと決めたし、ずっと側にいたいと思ったから。 「ずっとずっと、名探偵のことが、新一の事が好きなんだ。」 とても驚いていた彼の顔。嘘だと呟く小さな声。 ぎゅうっと抱きしめて、もう一度好きだと言う。好きだと頭で認識してもらうまで。 好きだから、協力した。好きだから、少しでも側にいられるようにといろいろやってきた。 呆然としていた新一だが、少し悩んで、言いにくそうにしていたので何かと聞いてみたら、小さな声で、でも確かに快斗に聞こえる声で伝えられた言葉。 「うん。愛してるよ。新一。」 数日後の午後 「で、今はこの様なのね。」 目の前で離れない快斗と、引き離そうと必死になっているが、何処かで手加減している新一の姿があった。 「離れろ、快斗。」 「やだ。もう離さない〜。」 と、この調子で数日が過ぎていた。 「何時まで馬鹿をやっているつもりかしら?」 「何時までも?」 「私に聞かれても知らないわよ。そうね、区切りをつける為に一服盛ることなんか・・・。」 「丁重にお断りさせていただきます。」 「あら、そう。残念だわ。」 でも、絶対目は本気で、冗談なんかじゃないとわかるから、冷や汗ものであった。 「それにしても。工藤君も相当なものね。」 思い出すのは、新一が誤解していた内容。 快斗もどうしてそうなるのと、何度も紅子は関係なく、好きなのは新一だけだと連呼して、否定しまくって新一に言い聞かせた。 「でも、弱虫の怪盗さんもいけなかったのじゃなくて?」 「確かにそうかもしれないけどー。」 そこまで考えがいっちゃうなんて誰も思っちゃいない。 どうして新一が好きなのに、自分の近くへくるのが哀目当てになるのか。 紅子が共犯者でキッドを助けるようにいって、その後お礼に行けば、怪我やら迷惑かけたことだとという義務で来たと思うのだろうか。 哀を目当てなんて、自殺行為じゃないか。聞かれたらさらに自分を苦しめるだろうが。 「だって・・・。」 新一自信、そこまで鈍いと思っていなかったので、二人が真実を知った際に呆れた顔をしたり笑われた事で顔を真っ赤にしてまた書斎に篭るなんてことをしたが、快斗に簡単に鍵は開けられて捕まるし、哀には可笑しな知識をつけるよりそっちも少しは勉強したらどうだとか言われるし。 「快斗なんか嫌いだ。」 「どの口かなぁ?そんな事を言うのは。」 ふにっと頬をつままれた。 「らっれ。(だって)」 おかげで言葉は可笑しくなる。相変わらずにこにこした快斗は今度は頬をつついてきて、やめろと腕を攫んだら、反対に抱きこまれた。 「嫌いじゃないでしょ?好きでしょ?」 「う〜〜〜〜っ、ああ、好きだよ、馬鹿!」 そんな二人を見て、やるなら部屋でやって頂戴と一言言い残して、哀はお隣に帰るのだった。
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