出会ったあいつはとても面白い奴

だから、自然と自分の中に入っていた

 

一緒にいると楽しかった

幼馴染やクラスメイト達と一緒にいる時間はとまた違う楽しさ

この高鳴る気持ちはいったい何なんだろう?

 

最近、どうもあいつの気配はあの日以前から感じたことがある事に気付いた

そして、あいつが隠している真実を見つけてしまった

だから、たまにあいつは悲しそうな顔をしているのか

 

探偵を騙している怪盗として

本当に、馬鹿だなと思った

だから、あいつが言わない限り、俺からは何も言わないでおこうと思ったんだ

 

 

 


治療法 前編

 


 

 

「あ、新一お帰り〜。」

「また来てたのか。」

「ちょっと、行くってメールいれたじゃん。」

「あ、本当だ。メールきてる。」

「新一〜。」

家に帰ったら、夕食作りをしている最近家に居座る高校生がいた。

この家主工藤新一と似た容姿の彼は黒羽快斗といい、昔新一の父親の友人だった盗一の息子だった。

世界的なマジシャンとして名を馳せた彼のショーを、幼少の頃新一も見に言っていた。

その時、快斗とも出会っていた。そしてよく、ゲームなどで勝負しては勝ったり負けたりと、いいライバルだった。しかし、お互いの両親の都合で離れ離れになった。

それが最近、快斗と再会したのだった。

事件の後、急いで走っていたら、同じく急いで走っていたらしい快斗と曲がり角でぶつかったのだ。それはもう、盛大に。周囲に誰もいなかったのは良かった。今でもあれは恥だと思っているからだ。

とりあえず、それで痛い足や腰を擦り、埃を叩きながら相手に謝ろうとして、お互いの目があった。

「あ・・・。」

「お前・・・。」

記憶は過去へ遡り、お互いが相手のことを覚えていて、あーっと思い切り叫んだのもまた間抜けだったかもしれない。

そして今、新一の生活習慣があまりにも酷い事を知り、快斗は家に乗り込んできては夕食を作ったりしてくれる。

それがまたおいしいから満足なのだが、迷惑ではないのかとも思うのは当然で、聞いてみたところ、またライバルと一緒にゲームをして遊べるのだからこれぐらいお安い御用だと笑顔で答えた。

だから、新一も快斗に負けないように、彼が認めるライバルでいられるように、いつも真剣勝負だった。

「夕食出来たよ〜。食べる?」

「ああ。」

再会して結構経つなぁとソファに腰掛けて考えていたら、どうやら夕食ができたようだ。

テーブルに並べられる、いつ見てもすごいなと思える料理の数々を見ながら、席に着いた。

「いただきます。」

二人して手を合わせ、夕食に箸を伸ばす。

「そうそう。今日は泊まっていってもいいか?」

「いいぜ。で、今日は何するつもりだ?」

「新一の為に快斗様特性の謎〜暗号をプレゼント。」

いつものように、お互い考えた暗号を、相手に制限時間を与えて解くか否かのゲーム。今のところ、1勝分だけ快斗が勝っているので、今回は是非勝たなければと、意気込む新一。

「今回も俺が勝つからね。」

何だか強気の快斗にむっとなる。そう言われると是非とも解かないと探偵の名が泣くっ!と無駄に気合が入る。

そんな新一を複雑な思いで見ていた快斗の視線にはまったく気がつかずに、今日の暗号はどうなんだろうとはしゃぐ新一。

こんな平和な時間が続けばいいのに、それはお互いがいつも思う事。

お互い、何も話さないから、お互い知らないまま。

ふと、ニュースで怪盗キッドの予告状が来たという話が出た。予告は明日の夜で、快斗は明日の夜は見に行かないとと、野次馬になる気満々。

だが、新一は知っている。野次馬に紛れているつもりで、快斗はそうでないと。

だから、新一も答える。

「またコソドロかよ。あいつも暇だよな。」

「暇って新一・・・。」

「そうだろ?毎回毎回予告状出して盗んでは返すんだぜ?」

赤字じゃねーかという新一にごもっともと答える快斗。

「でも、格好いいじゃん。マジックもすごいし。尊敬するね。」

「あんなのただの変人じゃねーか。」

「変人って新一・・・。」

ひどいわぁといじける快斗。半分は自分の事を言われてるということで本気でいじけてるのだろう。

だが、気付く前からこうだった自分は、今更意見を変えるつもりはない。何があったのかと問いただされ、答えられる自信がなかったからだ。

ただの、弱虫だ。快斗が言うまで黙っていようといいながら、本当は、またあの日のように快斗と別れるのが怖いのだ。

何より、彼の父と同じように、彼もまた顔もわからぬ闇に連れていかれそうで怖かったのだ。

本来なら探偵なのにと警察から言わせればそう思われるだろう。だが、自分だって守りたいものがあるのだ。

そう言えば、人を愛した事がない冷たい探偵にはわからないわと、愛する人を手にかけた女が残した言葉を思い出した。

大切な人ぐらいいる。だが、自分の感情で人を殺す権利など、どんな人にもないしあってはいけないものだと思っているから行動に出ないだけだ。

「・・・やっぱり、犯罪を犯す奴の心情なんてわかんねーな。」

ぼそっと呟かれた何気ない言葉。考えていて、つい言葉に出ていたとは気付かない新一。

だが、その小さな呟きのような言葉ですら、快斗に届き、とても痛い一言で危うく自分を保てなくなりそうだった。

しかし、ここでばれれば今の環境が変わってしまうこともわかっていた。だから、必ず隠し通さなければと決める。

だって、快斗はもう新一と離れた生活なんて考えられなかったからだ。

たとえ、夜の顔により、新一を巻き込む事になっても、巻き込みたくないと思っても、離れたくなかった。自分の我侭。それでも・・・譲れないものがある。

お互い考えることを今だけは奥へと追いやり、他愛もない話をしながら、暗号勝負をした。

もちろん、今回の勝者は新一で、お互い同じだけ勝ったことになった。

 

 

 

 

賑やかなサイレンの音。紅いライトが夜の闇を照らす。

騒ぐ人々が集まる中、警察は一刻一刻と近づくため、緊張が走る。

そんな現場から少し離れた場所に新一はいた。なぜこんな外にいるのかと言うと、もちろん事件で呼ばれたからだ。

「いやぁ、助かったよ工藤君。」

犯人は捕まり、すでに連行されて行った。

「そう言えば、今日はキッドの予告日だったね。」

もしかして工藤君行きたかったかい?と聞かれ、泥棒には興味ありませんからと答えた。だが、どうしても胸騒ぎがしてしょうがなかった。

だから、高木が送るというのを断り、降り立つ予定のビルへ向かった。

しばらく待てば、目立つ白い影が見えてきた。姿を確認し、ほっとすると同時に、感じた何者かの気配。先に見つけてどうにかしないとと考えるより先に、白い鳥は新一の前に降り立った。

「こんばんは、名探偵。」

一瞬でハンググライダーをしまう怪盗。そして、怪盗も違う別の気配があることに気付いたのか、少しだけ表情が変わった。

「名探偵・・・せっかくお会いできましたが、今晩はお引取り願います。」

その言葉を言い終わるか否か。紅い狙うポイントが見え、新一はキッドを庇う。

キッドにとっては、まるでスローモーションであるかのように、二人の体が傾いていくのが見える。その間に、自分の命を狙う弾が新一の腕を掠ったのも。

「――――とっ・・・。」

新一がキッドの名前を呼ぶ。そう、キッドの本当の名前を。とっさにどうしてか理解できずに頭が真っ白になる。だが、傾く体はいつか倒れて地面につくものだ。

ズサ―ッと倒れた際に、衝撃が来ないようにキッドは咄嗟に新一の身体を抱きしめた。

この時ばかりは、警察に感謝しないといけないかもしれない。

近づいてくるサイレンの音から、姿が見えぬ影はいつの間にか消えていたのだ。

すぐに傷口を確認し、頼りになる工藤邸のお隣さんへと電話をいれる。しっかりと、警察が来てもいいように、快斗に戻って。

「よか・・・た・・・無事・・・ぃ・・・と・・・。」

「どうして、どうして新一・・・?」

一度だけ少し眼をあけて、快斗の頬に手を伸ばす新一。触れられることで、快斗は生きてるという事を確認して、再び眼は閉じられた。

快斗は何に対して何を言いたいのか、もうわかっていない。ただ、軽いと思われる怪我であっても、動揺してどうにかなってしまいそうだった。

 

 

 

数分後、すでに警察のサイレンは遠ざかっていた。そして、待っていた少女が姿を見せた。

「・・・あ・・・。」

「馬鹿。じっとしてないで下まで運びなさい。」

彼女もきっと怪我をしたと聞いて気が気ではなかっただろう。だが、様子を見る限りでは命の別状はない。だから、落ち着く事ができたのだ。

「多少の怪我ぐらい、覚悟していたはずでしょう?コソ泥さん。」

「え・・・?」

「話は後でいくらでも聞くわ。今は治療が先よ。他の病気貰ったら大変でしょ!」

「・・・。」

すっと新一を抱き上げて、彼女に続く。新一は、ショックでまだ意識はない。

 





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