見事といっていいのか、四つにわかれたブロックで、三人はばらばらになった。 控え室はどこでもいいので、一緒にいたが、身体のごつい男達が見るからに弱そうな自分達を見て嘲笑っている。 別に、気にしないがはっきりいって目障りだしむかつく。今のうちに始末したらいけないだろうかと密かにシンイチは思っていたが、倒すのは舞台でねとキッドが止めたので我慢した。 「それにしても、最大限に使いこなせてない武器ばっかりだな。かわいそうに。」 コナンにとっては、男達が持つ武器が、持つ本来の力を発揮できずに壊れていくのだろうと思い、悔しい思いをする。 どんなによいものであっても、使い手次第で落ちぶれるものだ。 「なら、勝ち抜いて武器を奪い去ったら?」 シンイチに言われ、それはそれでいいかもと密かに思ったコナンに、きっと悪魔の翼を尾が生えたに違いないとキッドは想像して身を震わせる。 コナンが小悪魔になったら、キッドも止められない。シンイチに対しても惚れた弱みもあって勝てないのに。 「哀れ。」 少しだけ、同じトーナメントで当たる者達を哀れむ。 「おい。集合だってさ。行こうぜ。」 「ああ。」 まだ、少し戸惑っているのか、返事の声が小さい。だが、嫌味はちゃんと言うので、大丈夫だろう。 「負けるなよ。」 「コナンもな。シンイチ、危なかったら呼んでね。」 「それは反則だろう。」 「でも、シンイチが優先だし。」 「はいはい。でも、大丈夫だ。」 「だね。シンイチも、レベルは俺と同じくらいだからね。種類は違うけど。」 「話はこれぐらいにしとこうぜ。」 外へ出ると、多くの観客で賑わっていた。 一応、素顔を見られないように、シンイチ達全員は顔を隠すように頭から布を被り、それを紐であたまでとめていたので、観客からも、王からも自分達の顔が見えないからばれはしない。 「シンイチも、顔を知らせるわけにはいかないですからね。」 「キッドもだろ。」 「三人ともね。」 「話をやめろ。・・・睨まれてるぞ。」 「ありゃ。ほんとだ。じゃ、王の話を大人しく聞きますか。」 登場した王の姿。 三年前となんら変わらない。だけど、確実に変わっている。周りが。 「それでは、これより大会を開始する。諸君の健闘を祈る。」 王は再び中へと引っ込み、司会が二つの舞台での第一試合を開始すると大きな声で言えば、観客が騒ぎ出す。 「お前、しょっぱなからじゃねーか。」 「別に、戦うのはどのみち同じですからね。」 珍しく、腰に下げていた細長い剣を手に取った。 「お前、魔法は?」 「最初は、必要ないと思うので。・・・それに、どうも感じるのですよ。」 「奴等か。」 「はい。」 「・・・無茶はすんなよ。」 「心配してくれるんですか?」 大丈夫です。シンイチを悲しませることはしませんからと抱きついてすりつく。 だが、シンイチもコナンも今回は一筋縄でいかないだろうということは予想ついた。 キッドの様子が、いつもと少し違っていたからだ。 「後半に入るまでは、たぶん大丈夫だろうけど、・・・負けたら嫌いになるからな。」 「え、いやっ!絶対勝つ。」 復活させる術は結構簡単なのかもしれないけれど。 「呼ばれてる。」 「じゃーね。ちょっと行ってくるよ。」 行く前にシンイチを引き寄せて頬にキスをし、あの魔術師特有の笑みを浮かべてステージへとのぼった。 相手は、キッドよりもはるかに大きな男だった。身体と同じように大きな剣を振り回して満足している男。 「雑魚ですね。」 「雑魚とはなんだ。兄ちゃん、もうようしゃしねぇぜ!」 はじめという司会の合図と共に突っ込んでくる男。しかし、振り下ろした剣の下には何もない。 スタッと軽く何かが肩にあるのを感じたと同時に、男は動けなくなった。首にあてられた剣の先。 感じる強い殺気。全てが自分には適わないと思い知らせる。 司会が勝敗を告げ、キッドはステージを下りた。司会は少し戸惑っているようだったが、無視して戻る。 どうせ、すごいですねとか次の試合はどうだとか、ありきたりな質問をしてくるのだろう。 そうやって、敵の内を探ろうとする。それが、四つのブロックで勝ち残ったそれぞれの勝者が対戦する、この王が持つ騎士達のやり方。 「次は、コナンちゃんだよ。」 「わかってる。」 間に一つ試合があって、決着がついたその場所。先ほどキッドが勝ちをとった場所。 そこで待っていたのは、ごつくて硬い鎧で身を堅め大きな斧を持った大男。 はじめと言われる前に、斧を振り下ろす男。威嚇であるために、ワザと当てずに振り下ろしたが、動じないコナンに面白そうに口元をあげていた。 「次やったら反則ですからね。では、はじめっ!」 その言葉とともに、男の鎧はすべてばらばらに砕け散り、斧の刃も見るも無残なものになった。 「なっ。」 何が起こったか分からない男の足を容赦なく持っていたそれを伸ばしてはらい、転ばせる。 男は完全に戦意は失っている。よって、コナンの勝ち。 また、司会は話しかけようとして、無視されて、ちょっとへこんだりしていたが彼等は知らない。 さて、反対の場所でも試合は着々と進み、しばらく休みだったが、とうとうシンイチの番がやってきた。 「どうするつもりですか?」 「ジンかウォッカかな。ベルモットでもいいけど。」 その名前を聞いて、キッドはぎゅうっとシンイチを抱きしめる腕に力をいれる。 その名前は、新一の恋人らしい狼の次に気にいっているらしい黒い獅子。 「ほら、離せ。・・・話なら後で聞いてやる。」 げしっと蹴り飛ばして試合の場へと向かう。 「シンイチィ〜。」 めそめそと悲しむキッドを、ちらりと振り返ったシンイチが一瞬だけ見せた笑み。 それでいいのかと思うのだが、キッドは復活していた。やはり、シンイチはキッドの扱いを心得ている。 こんな奴の相手はしてらんねぇと、コナンは武器の調整をするのだった。 そして、始まったシンイチの試合。キッドは出られるぎりぎりの場所でシンイチをじーっと見ていた。 コナンはシンイチが勝つことはわかりきっているので何も言わずに自分のことをする。 すぐに、観客の声が聞こえ、終わったんだと思って席を立って確認する。 全ては一瞬の事。始まりの合図とともに相手に向かう風。次の瞬間には相手は場外で、観客との境を作る高い壁に激突した。 シンイチは気にせず舞台から降りる。 場外でも、勝ちとなる。先に出たのだから、相手の負け。だから、もう用がないその場所から離れるのだ。 そしてまた、話しかけられずに終わった司会は、そんなに嫌われているのだろうかと少し落ち込んでいたりする。 結構気の弱い騎士団の一人のようだった。 「お帰りシンイチ〜。寂しかったよぉ。」 「たった数分だろ。何言ってるんだ、この馬鹿。」 「ひどいぃ。」 確かに数分だ。出てすぐに帰ってきたのだから。 「で、あれってウォッカだよね。」 「ああ、頼んだらすぐに出てきてぶっ飛ばしてくれた。」 「・・・姿ワザと見せなかった?」 「たぶん、最後にはワザと見せてくれるだろ。」 「その台詞、真剣な人には痛いというか、むかつく一言だよね。」 「お前もか?」 「全然。でも、別の意味でむかつきます。だって、シンイチが・・・。」 「はいはい。」 その間はキッドのことなど考えてくれないし、ウォッカ達のことだし、キッドとしては羨ましいのである。 「そんなこと別にいいだろ。今は試合のこと考えてろよ。・・・負けたら嫌いになってやるからな。」 そう言うと、やはりシンイチ至上主義なキッドのスイッチが入る。 そして、勝ったらご褒美を何気に強請り、約束を取り付けたりしているところはさすがなのかもしれない。 順々に勝ち残り、四つのブロックのそれぞれの優勝者が決まった。 もちろん、シンイチ達三人とも優勝者だ。もう一人は、キッドも知っている剣士。それも、異国の地の者。 「さて、騎士団の面々とご対面ですね。」 「そうだな。・・・面倒だけど。」 「・・・。」 三人はそれぞれ思い、次の敵が現れるのを待つ。 そして、その時がとうとうやって来た。 大きな鐘の音が鳴り響き、王の言葉がふってくる。大きな歓声とともに、ご自慢の騎士団の四人が姿を見せた。 ひ弱そうな、声をかけてきた司会者もいる。 「それぞれ一対一で戦ってもらおう。まずは、挑戦者マコトと騎士団シラトリ。前へ。」 臣下が次からの試合の正当な判断を下す審判となり、二人を舞台へ呼ぶ。 そして、はじめられた。 数十分、刃がぶつかり合う音が続いていたが、唐突にそれは終わりを告げた。 マコトの持つ刀がシラトリの持つ剣の刃を場外へ飛ばしたのだ。 「なかなかやりますね。」 「そちらこそ。」 だが、まだ終わっていない。シラトリとて、ここを守る騎士団の一人だ。いくらでも手の内に持っている。 別のものを取り出し、シラトリとマコトは同時に飛び出し、ぶつかり合った。 そんな彼等を見ながら、暢気にしている三人。 「まだ、続きそうですねぇ。」 「どっちもそれなりにできるからな。だが、あの騎士団の男、そう長くはないぜ?」 「コナン。知り合い?」 「・・・一応な。・・・そして、あの剣がシラトリの切り札とも言うべき代物だ。」 それを始めから出して戦っていたのだ。それを失っては、後は辛い。 「あ、本当だ。」 シンイチから見ても、シラトリが厳しいのがわかった。 「では、もうすぐ終わりますね。」 時計を見て、どれだけ時間が経ったかキッドが見ていた時、パンッと試合を止める銃声が鳴った。 「勝者、挑戦者マコト。」 完成があがり、悔しそうながらも、握手を交わして舞台を降りるシラトリ。 その場所へ、別の騎士があがり、次の名前を呼ばれる。 だが、それは偽名であるから、まだ誰も気付かない。 「じゃ、行ってくるよ。」 コナンは二人を振り返って言い、舞台へと登る。そして、どうせなら次に控えているもう一人も一緒に相手をすると言うと、さすがに驚かれたが、条件を飲んでもらった。 「どれだけ上達したか、チェックしてあげるよ。ワタルさん。ミワコさん。」 被った布から少し見える顔。その顔に二人は驚く。どうして彼がここにいるのか。 だが、他は気付かず、悲しいかな、試合は始まった。 だが、結果は見えている。二人でかかっても、彼には適わないことがわかっているからだ。 「勝者!」 名前を呼ばれる。そして、舞台を降りる。きっと、何か言いたいのだろうが、今は答える事は出来ない。 試合の間、ずっと感じている視線と気配。これがある限り。二人もきっと気付いているだろうから、何も言わないけれど。 そして、最後の人物が舞台へとあがる。 「では、私が・・・。」 「いや。俺が行く。気付いていてるんだろ。」 「・・・。」 「やはり、あの男か。」 視線と気配の正体は、今舞台に上がった四人目の騎士。 忌まわしい、呪いの塊であるもの。男と言っているが、性別ははっきりとわからない人物。 すでに人かどうかでさえ危うい人物だ。 「ですから、尚更大切な貴方に行かせはしません。」 そう言って、勝手にキッドが舞台へ上がってしまった。そうなっては手が出せない。 「馬鹿野郎。」 「あいつはすでに馬鹿だろう。」 「そうだったな。・・・救いようのない馬鹿だ。」 そして、試合開始の合図が出された。 最初は有利に見えていた試合。その通りに試合はキッドの勝利で終わった。 しかし、それだけでは終わらなかった。 「避けろ、キッド!」 シンイチが叫ぶと同時に、影がキッドの側を通りぬけ、それに当たった。 だが、叫んだことで、『キッド』という名に反応し、ざわめきが広がる。 「へぇ。」 キッドは面白くなさそうに背後にいるものを見る。シンイチが叫んで回避してくれたが、避けれないことはなかった。 ま、心配してくれてうれしいけれど、それに対しては何の感情もない。 「やっと、本性を見せてくれるんだ。『パンドラ』」 国王の表情が変わったのにコナンも気付いた。何せ、この国で起こったある出来事はパンドラが原因なのだ。キッドやシンイチも少なからずはパンドラによって何かあることは知っている。 三人が共通して目指す目的はパンドラだったりする。だから、気が合う事もあり、余計に一緒に旅を進めることになったのだが。 まさか、またここへ戻ってきているとは思わなかった。 試合中に視線と気配を感じるまでは。 「まさか、また会えるとはな。『黒魔術師キッド』。しかも、そろいにそろって。今日は、楽しい一日になりそうだよ。」 そう言ったかと思えば、一瞬にして人ではないものに変わった。そう、『化け物』と呼ばれるものになったのだ。 「今度こそ、息の根を止めてくれるわ。」 そう言い、襲い掛かってくる大きな化け物に対抗する為、短い呪文を唱え、放つキッド。 キッドほどの黒魔術師ならば、通常ならば長い詠唱が必要な魔術であっても、一言で出来るのだ。ものによっては、何をしたいか思うだけで出来るものもある程の魔術師。 避ける瞬発力も反応も、やはり人並みではない。ある意味彼も化け物と呼ぶに相応しいだろう。 「だが、場所が悪いな。」 「ああ。」 二人の戦いを冷静に見ているシンイチとコナンはこの後を考える。もし、あれが暴れ出せば、周囲の人間がどうなるか。きっと、ひとたまりもないだろう。 騎士達も最悪の事態を避ける為に、観客を外へ出しているが、間に合わないかもしれない。 それに、仲間だと思っていた騎士がパンドラだったのだ。少なからず動揺もあるだろう。 「人間というものは脆いからな。」 「そうだね。」 だから、すぐにあれを別の場所へ飛ばすのが一番いいと、シンイチとコナンは考え、キッドに術で語りかけると、わかったと答えが返ってきたため、転送呪文を発動させようとした時だった。 「やっと、会えましたね、シンイチ様!」 突如観客席から下りた来た人物がいた。それについ振り替えたシンイチはげっと声を上げる。 何故なら、そこにいたのはワトソンを肩に乗せて、こちらへやってくるサグルだった。 書類や面倒ごと放り出して家出同然のように出てきたから少しだけ、いろいろ言われるだろうなとは覚悟していたけれど。 「まったく。追いかけてもすぐにどこかへ行ってしまわれるので、困りましたよ。」 「足が速いのがいるからな。」 それはもちろんキッドのことだ。キッドに全力で逃げられたら、サグルでも追いつけない。 今回、ここへは提出が遅れていた書類を提出する為に来たのだ。こちらへ向かっていることを聞いていたが、もういないと思っていたのに運が良かったようだ。 しかし、パンドラに関してはタイミングが悪かった。 「あれは、パンドラか。」 「そうですね。しかし、どうしてこんなところに。」 すぐに意識がそがれ、ちょっとだけほっとしたのは黙っておこうと思うシンイチ。 「だから、あれを被害が出る前に飛ばそうと思ってな。」 今回は場所が悪いから、やりあうなんてこと、出来ない。 サグルもあれがパンドラであるのなら、真剣にもなるだろう。呪いの固まりであり、災いの元凶なのだから。 「ワトソン。」 「わかっている。」 ワトソンがサグルから離れて宙に飛んだ。同時に、淡い光に包まれ、大きな鳥となった。 サグルは床の上に杖を立て、呪文を唱える。それによって現れた風がワトソンを包み込み、真っ直ぐパンドラへと向かって行く。 「キッド、避けろ。」 気付いて避けた瞬間、それはパンドラを突き抜けた。それと同時に足元に現れる魔法陣によって、それは何か叫びながら、別の場所へと飛ばされていった。 これで、今は全て片付いたように思われるが、まだまだ問題は残っている。 「コナン。」 そう、今のでキッド、シンイチ、コナンの正体がばれたのだ。 騎士達もコナンの突然の帰還にどうしてと動揺している。無理もないだろう。一番力のある守り手であったコナンは突然城を出て行ったのだから。 今更、どうして戻ってきたのか。誰もが疑問に思うだろう。彼等にしてみれば、帰って来てくれることを願っているが、何か目的があるコナンは、絶対それまでは戻ってこないと思っていた。 それがどうだ。今はあの有名な黒魔術師のキッドとクドウ家の子息、白魔術師としても有名なシンイチと共にいたのだ。パンドラのことも含め、王が何も言ってこないはずがない。 「緊急ですので、協力を願います。」 シンイチはまだ言ってくるサグルを少し無視して控えていたメグレに頼む。 あの剣を今見せていただけないかと。 どうしようかと考えたが、王がよいという許可を出したので、持ってきてくれた。 シンイチはそれをお礼を言って受け取り、剣の装飾にある宝石に手を触れた。 「これは違う・・・。だが。」 キッドは宝石を取り外し、足元に投げつけて粉々に壊した。さすがに騎士達が動いたが、すぐに事の次第に気付いた。 宝石から白い煙が出たと思えば、すぐにそれは消えた。だが、それが何なのかすぐにわかった。 パンドラの呪いによって閉じ込められたもの。 だから、誰も何も言ってこなかった。 「壊してしまい申し訳ございません。」 一応謝って返した。 「久しいな、コナンよ。」 「お久しぶりです。王様。」 「・・・それで、どうだったのだ?」 「大方、わかりました。しかし、まだ時間がかかると思います。」 「そうか・・・。」 また、しばらく会えないなと寂しそうな王にすみませんと謝って、背を向ける。まだ、帰るわけにはいかないからだ。 話が済んだかとシンイチは聞き、うなずいたのを確認してサグルの元へ行く。 「悪いが、まだ帰らないからな。」 そう言って、行くぞとキッドに言葉をかける。 それと同時にコナンはキッドの背に飛び乗り、キッドはシンイチを抱き上げた。 優雅に一礼したと思えば、すうっと三人はその場所から姿を消した。 まだ、彼等は捕まって足止めをくらっている暇はないのだ。 「あっ!シンイチ様!!」 はっと気がついたサグルは叫んだ。今回、せっかく書類が少し片付くかと思われたが、逃げられてしまったのだ。 「・・・諦めるしかないだろうな。」 「はぁ・・・。また、こちらで勝手に処理していかないといけないんでしょうか。」 こうやって、サグルの苦労は減る事はなかった。 その頃、実は三人はまだこの国にいた。 理由は簡単。アガサ邸に預けているものがあるからだ。それを知らないサグルを含めた多くは、もう国外へ出たと思っているだろう。少々、哀れだ。 「博士〜、まだかかりそうか?」 「いや、もう終わった。思ったよりも、早く終わったんでな。」 あと、と、何やら新たに付け足した機能や仕掛けの説明をしているアガサに、一応耳を傾ける。 「もう、出て行くつもり?」 「言い方が追い出したいって感じなのは気のせいですか?」 「別に、追い出してもいいわよ。あなたの追い出し方は簡単だもの。」 そう言って、最終兵器とも言うべきものを取り出した。 それは、可愛いメルヘンちっくな魚の絵柄のマグカップ。 「貴方の分もしょうがないから作ってあげたわよ。」 と、意地悪く笑みを浮かべながら甘くされたカフェオレの入った魚のマグカップを渡そうと向ける。 「いや〜っ?!」 叫び声を上げて、情けないかな、シンイチの服を攫んで背後に逃げ込んだ。出て行かないところが、シンイチと離れたくないという意地だったりする。 「お前も、あまりいじめてやるなよ。」 「あら。別にいいじゃない。減るものじゃないし。」 「確かにそうだけどな。後がうるさいんだよ。」 「そうね。貴方に危害が加わるのなら・・・。やっぱり、抹殺するべきかしら?」 どうも、彼女はキッドを毛嫌いしている気がしてならないシンイチだが、とりあえずカップを取り上げて、キッドの視界に映らない台所へ術で飛ばした。 そして、まだめそめそといじけるキッドの頭を撫でたり、言葉をいろいろかけると、いいように約束を取り付けられて、悲しいかな抱きついて離れなくなってしまった。 こうして、ばたばたしながら、一日を終えた三人は、次の町へと移動するのだが・・・。 「おい、キッド。」 「なんですか、シンイチ。」 着いた先の宿。野宿でなかったのだからいいのだが、盛った獣がいるのでは、おちおち寝てられない。 「俺は疲れたから休みたいのだが。」 「だから、ご一緒に。」 「ふざけんなっ!コナン、こいつどうにかしろ。」 「・・・無理だな。」 「諦めて下さい。シンイチ。」 ちゅっと頬に可愛くキスをして、がっしり捕まえられてしまった。 「ぎゃーー!!」 約束をしたことはしたが、疲れたから休みたかったのにとシンイチは心の中で泣きながら、キッドに思う存分やられて次の日の朝くたくたになっていた。 こんなことなら、サグルと共に一泊だけ仕事があっても屋敷に帰れば良かったかもしれないと思いながら。 暴走したものを操作するのは難しい。 扱いに慣れても、一度暴走すれば、手に負えない。改めてキッドはまだまだ扱いを考えなければいけないと思い知らされたシンイチだった。
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