「さぁて・・・ゲームスタート・・・ってね♪」
この学園の生徒会長、黒羽快斗は不敵に笑って生徒会室の扉を閉めた。
噂の二人
小高い丘の上に立っている洒落た造りの建物。
木立や花壇が程よく配置され、一見すると広大な屋敷のようだが・・・ここは学校。
そして、この学校には名物とされるものが存在する。
校内の渡り廊下。
この校舎に似合わぬジャージ姿の教師が、ある一人の生徒に声を掛け豪快に笑う。
そしてその教師が去った後。
生徒は掛けていた眼鏡を外し、小さく舌打ちをしながら授業開始のチャイムを無視し、屋上へと足を向けた。
「あーダリぃ」
屋上の扉を開けるやいなや、なれた仕草で煙草に火をつける。
空に向かって煙を吐き出すと―――何かを踏みつけた感触。
「いてーな・・・」
声は、自分の足元からした。
「テメー、人の足踏んでおいて謝罪の言葉もなしかよ?」
思わず、驚愕する。
自分にこんな口の聞き方をする生徒がいるだなんて・・・生徒会のメンバーでもないのに。
この学校の生徒会は、PTAや教師と同等の発言権を持ち。
時に生徒会長は、学校運営に関する大切な決議権を持たされる事すらある。
故に、必然的に『生徒会』のメンバーは成績や素行、家柄なんてものまで吟味して選出され。
一般の生徒達はそんな生徒会のメンバーを羨望の眼差しで見つめる。
生徒会長にいたっては『声を掛けることすら恐れ多い』という者も多い。
―――そう、この生徒会こそがこの学校の名物・・・なのに。
「俺のこと、知らないの?」
目の前の人物に思わず問う。
と、同時に目の前の生徒を観察する。
流れるような黒髪。
『日焼け?それって何?』と言うような白い肌。
薔薇色の口唇。
そして―――その瞳。
「あ・・・」
思い出した、と口の中で小さく呟く。
噂に聞いたことがある・・・美しい、慧眼を持った名探偵が転校してきた、と。
「工藤・・・新一?」
「・・・おう、それよりも謝れって・・・」
自分に言い寄ってくる女は掃いて捨てる程いたし、一目惚れなんて事はいまだ嘗て一度もなかった。
でも―――その蒼い瞳と視線が絡んだ瞬間に、快斗の心は奪われた。
「ごめんね、足踏んで!大丈夫だった?新一♪」
「なんで、初対面の人間に呼び捨てされるんだよ」
「いいじゃん♪まぁ、お近づきのシルシに一本どう?」
「俺、煙草嫌い」
「じゃ俺、禁煙しよーっと」
「・・・なんで?」
「だって、キスする時に煙草の味したら・・・嫌でしょ?」
「ばっ!ばーろっ!!俺は男だーっ!!」
風にのって響いてくるのは、二人の騒ぐ声。
・・・名物生徒会が存在する学校に、嵐の予感。
「最近、あの二人一緒に居るよねー」
「あ、噂じゃデキてるって話だよーvv」
「うっそー!いやぁん、観察観察〜♪」
新一は、周囲から聞こえてくるヒソヒソ声にウンザリする。
「快斗」
「何〜?あ、新一その野菜炒め残しちゃダメだよ?」
「・・・うっ・・・」
「・・・もう、コレ位は食べないとダメっ!」
「・・・多い・・・」
「多くないの!ホラ、もう一口!頑張れ〜♪」
新一は、自分のお皿の上にのった食材と、目の前の男を交互に睨みつける。
最近の新一の周りの騒がしさは、すべてこの男に原因がある。
「じゃなくて、快斗!」
「ん?」
「俺、オメーと付き合ってもないのに・・・ある事ない事言われるの嫌」
「だったら既成事実でも作っておく〜?どうせ放課後は生徒会室で二人っきりになる事もあるしvv」
新一の手の甲に、そう言ってキスをする。
途端に周りからは黄色い悲鳴が上がり、新一は顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
快斗はどこからどう手を回したのか。
転校生してきて数日しか経っていない新一を『副会長』のポジションに就任させ。
事あるごとに新一にくっついて回っている。
新一とて、転校してきて間もない内にこうして知り合いが出来るのは嬉しいが・・・
こうもアプローチされたり、周囲に噂されるとげんなりするもので。
と、食堂に響き渡る着信音。
途端に、快斗の機嫌が悪くなる。
「警察?」
「ん、行ってくる」
快斗の問いに頷いて、携帯に出ながら立ち上がる。
途端に、凛とした気配を身に纏った新一に・・・快斗は溜息を零した。
快斗は理事長直々に新一の、警察へ関わった事件内容等を聞いている。
・・・本当に、同い年かと疑ったほどに彼の実力は凄かった。
しかし、それとこれとは別である。
探偵としての新一は確かに綺麗だが・・・新一には、自分の事だけ見て自分の事だけ考えて欲しい。
恋をする事で、こんなにも我侭になるとは思わなかったけれど。
そろそろ、新一に自分の本気の気持ちを分かってもらわないと・・・自分も我慢が出来なくなる。
何せ彼は無意識に色気を振りまくのだ。
快斗に気を許してくれている証拠だと思うが・・・肩に凭れて寝られた時には流石に参った。
何か、新一に本気を分かってもらう方法はないか。
そう、考えて―――
「そうだ!」
快斗は椅子から思いっきり立ち上がった。
これならば、面倒くさがりで謎が三度の飯よりも好きな彼は乗ってくるだろう。
「さっそく明日、新一に言ってみよ〜♪」
快斗はウキウキしながら残りの食事を処理した。
「どうかしたかい?工藤君」
「いえ・・・なんでもないです・・・」
快斗がある企みを思いついた時。
新一は警察から迎えにきた車の中で、悪寒を感じていた。
風邪でも引いたかな、と首を傾げる。
「どうだい?新しい学校は―――生徒会に入ったんだってね」
「はぁ・・・」
無理やり入らされたというか、何と言うか。
しかし、馴染みの刑事に心配を掛けたくないので笑顔の仮面を被ってごまかす。
「面白いヤツと・・・友達、になりましたよ」
「面白い?ははっ、そうなんだ」
何でか『友達』という風に括ってしまうことが躊躇われたが。
そう言葉を吐き出す。
自分は性に対して偏見を持っているわけではない。
同性愛も有りだと思うし、快斗のいう『新一だから惹かれたんだ』という言葉も分かる。
・・・その気持ちに応えるかは別として。
(分かんねぇんだよなぁ・・・)
自分の気持ちが分からない。
快斗の笑顔は好きで、彼の隣は確かに居心地が良かった。
神経質で、決して自分の内まで見せない新一が気を許して猫を被る事無く接してしまうのだから・・・
快斗はある意味凄い。
嫌いではない。
では、好き?
と聞かれると・・・分からない。
「工藤君、現場に着いたよ」
「あ、はい」
快斗の事で悩んでいた頭を、事件の事へと切り替えて。
新一は掛け声を掛けて、車を降りた。
「おはよvv新一」
「・・・はよ」
放課後、生徒会室に入ると。
快斗が新一に抱きついてきて、満面の笑みで挨拶をしてくる。
今日、新一は昨日の事件で引き続き学校を休んでおり、朝も居なかった。
放課後になって生徒会の仕事があることを思い出し、事件にメドを付けて学校に来たのだった。
「なんで、オメー機嫌がいいんだ?・・・いっつも俺が事件で居ないと機嫌悪いのに・・」
「決まってるじゃん!新一に逢えたからだよ」
「・・・あ、そ」
そんな、満面の笑み反則だろう。
思わず鼓動が跳ね上がった気がした。
ぷいっと横を向いて、自分の机に向かおうとすると・・・快斗にがっちりとホールドされる。
「ね、新一」
「な、なんだよ?」
「ゲーム、しない?」
「・・・はぁ?」
人の跳ね上がる鼓動を知ってか知らずか、新一を抱きしめたまま笑顔でのたまった。
「かくれんぼ♪」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アホか」
「俺に負けるのが怖い?」
「・・・んだと?」
快斗の言葉に、思わず声が剣呑になる。
「名探偵の新一が追われる側になるなんて・・・自信、無い?」
「んな事あるか」
「じゃ、決まりねvv」
「・・・」
ハメられた気がしないでもない。
しかし、後の祭りだ。
「制限時間は一時間。俺が500数えるまでに校内のどこかに新一は隠れてね」
「・・・おう」
「俺が新一を見つけたら・・・俺のお願い、聞いてもらうよ?」
「・・・俺が勝ったら?」
「それはないね」
「なんでだよ!」
快斗の、俺を抱きしめる腕に力がこもる。
「俺は新一がどこにいても、見つけられるよ」
確信に満ちた、声。
力強い瞳。
それ以上、快斗の瞳を見れなくて・・・新一は逃げるように生徒会室を後にした。
「さぁーて♪なんだか脈もありそうだし・・・頑張りますか!」
生徒会室から、実に楽しそうに数を数える声が聞こえてきた。
―――そして、一時間後。
外が夕焼けに染まってくる頃、快斗は屋上にきていた。
「・・・ったく・・・」
以前に風邪を引きやすい体質なんだ、と漏らしていた愛しい彼は。
屋上のフェンスに凭れてすぅすぅと眠っていた。
「風邪引いたら逢えなくなるじゃん・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・見舞いにも来てくれねぇのかよ?薄情だな」
「―――っ!起きてたの?!」
「こんな寒いところで熟睡できるほど、神経図太くないの、俺は」
「さいですか・・・」
とりあえず、寒いと訴える彼を抱きしめて自分の温もりを分ける。
腕の中で安心して、力を抜く彼に苦笑を漏らす。
こんな風に、自分に身体を預けてくれるから―――快斗の欲望は暴走しそうになるのだ。
「なぁ」
「ん?」
「お願いって、なんだ?」
「・・・目、閉じて」
「ん」
腕の中で彼の蒼の瞳が閉じられる。
快斗は、蒼が見えなくなった事を寂しく思いつつも・・・新一の口唇にキスを贈った。
短い、時間のような。
長い、時間のような。
それほどに甘いキス。
「新一・・・好きだ・・・」
「・・・」
暴れだすかと思った新一は、快斗の腕の中で顔を真っ赤にして俯いている。
「返事・・・くれる?」
「ズルイ・・・」
「え?」
「オメーばっかり先回りしやがって・・・」
「・・・しん、いち・・・?」
新一の言っている事が分からずに、首を傾げると。
新一から、噛み付くようなキスを贈られる。
「・・・え?!」
「・・・それが俺からの答えだ・・・バ快斗・・・」
新一も気付いてしまったのだ。
快斗への気持ちに。
勝負を仕掛けてきた快斗の、あの藍の瞳に囚われてしまった。
彼の、温もりをどうしようもなく欲してしまった。
あの、抱きしめられた腕の中から抜け出したくなかった。
「・・・好きだ・・・快斗・・・」
転校してきてから、数日で。
いつの間にか新一の心に居ついた変な男は、新一の中に恋心も植えつけた。
「マジでー!!よっしゃー!!」
新一の告白に、目を思いっきり見開いて―――次の瞬間、快斗は満面の笑みで新一を抱きしめた。
屋上に、優しい風が吹く。
この日を境に、名物生徒会の会長と副会長の噂は・・・真実へと変わった。
新しい、関係の始まり。
あゆsamaのコメント
李瀬様の相互リンクのお礼話にお礼返し(笑)
あんなに素敵無敵な文章を頂いたのに・・・お返しがこんなんでスイマセンっ!!
・・・中味とか・・・本当に書き直し有りなんで・・・(ボソリ)<小声で言って脱走
お礼お話の為、李瀬様のみフリーとさせて頂きますvv
李瀬のコメント
あゆsamaから相互お礼を頂いちゃいました〜。
どうもありがとうございます〜〜。
私の可笑しなリクエストに素敵なお話を本当にありがとうございます。
何がいいって?
なんでも強引に進める権力者なだけど少しお馬鹿っぽい快斗君や、新一さんとのあの出会いとかが。
本当に本当に、ありがとうございます、あゆsama
これからも、よろしくお願いしますね
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