うそつきと探偵

 

 

 

その日、思いきり正座して頭さげて、必死だった。

けど、目の前に座っている、無関心の目がとてつもなく怖かった。

絶対、このままだと後々何されるかわからない。それぐらい、探偵の目は笑っておらず、危険だった。

「あの、その…。」

「…。」

その無言がとても辛い。けど、全ては自分が悪いのだからどうもできない。

本当に、数日前の自分に何やってるんだと罵倒をなげたいぐらいには、へこんでいる。

そもそも、こんなことになったのは、数日前のこと。怪盗らしく、うそつきの日に嘘のようなパーティをやろうという計画が元だ。

簡単に言えば、もっと前から出逢っていたとはいえ、お互いがお互いをきっちり認識した出会いの日であるこの41日に一緒に過ごす約束をとりつけたのだ。

事件や本に没頭して構ってくれない恋人に約束をすれば、大抵のことはその約束を守ってくれる。だから、約束したのだ。

なのに、だ。クラスメイトの面倒事に巻き込まれ、怪盗の仕事が長引き、結局その日に行けなくなった。そして、手作りで食事作るから楽しみにしててと言ったので、たぶん食べずに待っていたのだろう。

次会ったら例のクラスメイトには仕返ししてやると誓いながら急いでやってきたのだ。

とにかく、嘘をついてもいい日に、約束を破って約束を嘘にしてしまったのだ。

普段ならば、自分以外ならば、冗談として受け止めてくれていたかもしれない。だが、この日に自分であることが何よりも問題だった。

「本当にごめんなさい。」

「…もういい。」

すねたようにそっぽ向く彼に本当に自分の馬鹿さ加減に嫌になる。

「あの、あのね、新一…。」

パタンと閉じられる本。こちらへ向けることなかった視線が交わる。

「都合だってあるだろうから、もう別にいい。」

「でも、新一。」

「愚だ愚だ言うな。…で、その荷物持ってるってことは、あの日のやり直しでもするんだろ?」

まだ機嫌は悪そうだが、ちゃんと話してくれるのが嬉しかった。

「そうなんだ。本当、ごめん。だから、嘘にしたくないから、やり直しさせてほしいんだ。」

「…好きにしたらいいだろ。」

「うん。」

そう言って、俺はキッチンへと向かう。だから、新一のつぶやきを聴き損ねることになった。

「ったく。そもそも俺が怒っていたのは、お前じゃないっつの。」

約束の日のトラブルの原因と、あの日のことを電話で楽しそうに報告してきた彼のクラスメイトの探偵に、だ。

これでも恋人という仲だ。彼には言わないが嫉妬していたのだ。

「ま、わざわざ言ってやるつもりもないけど。」

約束の日からは数日過ぎてしまったけど、結局彼はここにきて、一緒に過ごす時間をつくってきたのだ。それでいい。

お隣の少女がいたら、貴方も大概馬鹿よねと冷たい目でみて、惚気はいらないと帰ることだろう。

 

 

 

 

それから数日後のこと。

裏で手を回し、正当な理由でとある人物を国外へ行くように仕向けたことで多少満足した新一は今日も本を部屋で読みふけていた。

「彼の方が嫉妬深いかと思っていたけど、貴方も大概ね。」

「…うるさい。」

そんなつもりではないが、思ったより嫉妬深いことに最近気づいたのだ。そう、彼と付き合うようになってから、だ。

「まぁ、貴方の食生活が安定して、適度に人間らしく外で活動する分には彼の存在は私も認めていいと思うけど。」

「お前も大概他人が周囲に入るの嫌いだよな。」

「仕方ないじゃない。元々そういう場所にいたのだから。人は思っているより他人に無関心で、他人に対して敵意を持っている。」

自分の領域を荒らされないか警戒するようにと、彼女は言いながら珈琲を口にした。

「でも、良かったわね。」

「何がだ。」

「楽しみだったんでしょ?1日に食べる予定だった食事。」

「…。」

何だかんだといって彼がくるのを楽しみにしていて、彼が作る料理なら警戒もせずに口にする。そんな彼が手作り料理を作ってパーティをすると言われれば、表情には出さないものの、楽しみにしているのは少女には手に取るようにわかっていた。

しかも、約束が無理だと分かった時の落ち込み具合も同じく。

「少しはあの怪盗さんみたいに素直になったらどうなの?」

「…わかってて言うところがお前のある意味悪いところだよな。」

「そうかしら?」

今日も事件はなく平和に流れる。今晩は、噂の彼が来るから夕食の心配もない。だから、二人はこのままのんびり午後を過ごすのだった。

 

 

 

その頃のとある怪盗の家にて。

『元気がないわね。不気味よ。』

『灰原か。』

『そんなに寂しいなら素直に言えばいいのに。』

『いえる訳ないだろ。それに、いくらあいつの料理が好きでも、そう言ったら毎日押しかけて本を読む時間もなくなるだろ。』

『そういうことにしておいてあげるわ。』

『何だよそれ。』

『本当は、押しかけてそのまま居座ってても文句を多少言うにしても、傍にいてほしいっていう本音も存在しているってことよ。』

『…最近のお前、機嫌悪いだろ。』

『そりゃそうでしょう。貴方とあの怪盗さんのどちらからも惚気を聞かされ続けて…最近では貴方達に薬でも盛ろうかと思うもの。』

流れてくる、携帯からの録音に、にやにやする怪盗。お隣の幼馴染がいたら気持ち悪いと言われるぐらい、だらしない顔になっていた。

『好きさ。好きだけど、認めるのも言うのも癪なんだよな。』

『あら、どうしてかしら?』

『惚れた方が負けってよく言うだろ。』

『いいじゃない。たまには負けてあげても。』

『いいんだよ。それに、毎日一緒だったら、途中で事件や人の命よりあいつの方を優先してしまいそうになるから。』

探偵として行動したい。だが、あいつが危険だと知れば、もし事件によっては人の命がかかっていても、そっちが気になって問題が起こるかもしれないそれが嫌なのだと言う彼の言葉。

時々不安になるけど、その言葉を聞いて彼は愛されてるなと嬉しくにやにやしていたのだった。

もちろん、これは落ち込んでいた彼への少女からのプレゼントだったりする。

だから、探偵が盗聴されていた本音を怪盗に知られたと知ることは秘密のままに。