当日… 携帯を確認すると、蘭や園子からのメールが入っていた。 「服部の奴、少しも会えないのかってメール入ってたみたいだ。」 「あら、行くの?」 「いや。俺が行って、それこそややこしくなるのも、遠山さんの邪魔するのも悪いしな。」 そう言って、先日会った時、今度こそ告白すると意気込んで相談されていたことを簡単に話すと、そうと短い返事だけが返ってきた。 「確かに、かわいそうになるわね。貴方と一緒にいると、どうしても謎大好きの血が騒いで、それ以外見えなくなりそうだもの。」 「だろ。」 一応、多少の自覚があるためか、余計に今回は服部と会うのはよそうと思った。 「それにしても、せっかくのクリスマスなのに、やってる番組は全部あの怪盗さんが独占しているっていうのは、腹立たしいわね。」 「なんだ?お前、クリスマス好きだったのか?」 「そんなことないわよ。人並みに、クリスマスで騒ぐ人間を観察するのが面白いだけよ。」 「そうかよ。」 彼女曰く、怪盗の話題はだいたい同じだし、観客の反応も似たようなものだ。だから、飽きたのだという。 「確かに、怪盗さん本人は面白いと思うわよ。」 とくに、貴方に会いにくる彼は怪盗紳士なんて名乗らない方がいいぐらい変だもの。そういう彼女に、新一は苦笑する。 「ま、あの変だと言う姿だって、無茶を隠す仮面だから、許してやれよ。」 凹んで傷ついて、必死に隠そうとする仮面を剥がして遊んで放置するのだけはやめろよと言うと、彼女は何も答えず笑っているだけだった。絶対にまたアイツで遊ぶんだろうなと思うと、少しだけ怪盗がかわいそうになり、先に謝っておいた。 それからしばらくくつろいでいると、どうやら、怪盗は仕事を終わらせたとの報道がされていた。 「中森のおっちゃん、また叫んでる。」 「あの人はいつも元気よね。」 「あのおっちゃんと服部の奴もな。遠山さん、今年もこんな調子じゃ無理かな。」 「そうね。完全に意識があの怪盗さんだものね。馬鹿ね。」 「そう言ってやるなよ。」 「事件馬鹿、それ以外に何だというの?貴方もよ。この前の…。」 ついこの前までの風邪の件をまた言われる羽目になった。悪かったと何度も言うが、怒りは当分消えないのだろう。 その時、空気が読めない怪盗が現れた。だから、彼女に変だとか面倒だとか、ろくでもないエセ紳士だとか言われるのだろう。 「まさか、こちらに来られるとは思いませんでした。」 来るとわかっていたら、掃除をしておきましたのにという怪盗に、今度は頼むというと、ほわんと周囲に花が咲く。本当に変な奴である。 「それで、女史は何を怒っておられたんです?」 「彼の普段の生活よ。」 「ああ。私も常々心配で…。」 何だろう。いたたまれない。親子会話か、これは。そもそも、新一はこんな親は持ってないしいらない。実親ですら、癖がありすぎて困るというのに。 「それで、お前はこんな派手に仕事した日にわざわざ自宅じゃないここまで何しにきたんだよ。」 「ああ。それは、先に予告したじゃありませんか。」 「そうだな。これに書いてあったが、要件はなかったしな。」 「そうですか?クリスマスの夜にお会いしたい。それは私には立派な要件だと思いますが?」 「そうなのか?」 「さぁ、愉快な怪盗さん基準じゃわからないわね。それに、会いたいだけなら要件は終わったのよね?私達はそろそろ休むから帰ってちょうだい。」 ずばっと斬って、追い返す気満々の彼女に、必死に居残る為に何かを言いだす怪盗。そんなことをしている間に、12時が過ぎ、クリスマスは終わった。 それでも、新一に用だと言いながらも、ずっとお隣の彼女とばかり話を進め、今もクリスマスが終わったことにすら気づかない彼に、もう用が終わったのだと思い、席を立った。 「あら、どこいくの?」 「名探偵、どちらへ?」 「今日は面白いニュースもないし、お前等が会話続けるなら、俺は部屋戻ろうかと。」 「なら、この怪盗を今すぐ帰らせるからちょっと待っててちょうだい。寝る前にきっちり薬も飲んでもらわないといけないもの。」 「え、今晩はお泊りさせてもらおうと思って…女史だけずるいです!」 結局、席を立ったはいいが、二人が会話を続けて振り出しに戻る。むしろ悪化したというべきか。お互いに腕をつかんでいるため、両腕が塞がった新一はどうしたものかと、二人のことを無視して他のことを考えていた。 そこへ、怪盗以上に空気を読めないのか、携帯の着信音が鳴った。 「あ…。」 見ると、こっちへ遊びに来ている西の探偵からだった。 「明日は会えないかっていってる。灰原はどうする?」 「え?どうするって何?まさか、明日は家に帰るつもりなの?」 「大方ここにある本も読んだし、面倒な襲撃の可能性があるクリスマスも終わったしな。」 「じゃあ、私と明日一緒にお出かけしましょう。」 「何でだよ。そもそも、お前は怪盗だろ?昼間出歩くなよ。」 「な、私だって夜だけしか活動してないわけじゃありませんよ。」 酷いです。そういって凹みはじめた怪盗に、認識された意味が多少違ったが、面倒だからもういいやと思うことにした新一は、服部にっ返事を出そうとすると、彼女に携帯を奪われた。 「遠山さんの邪魔したら悪い。そう、貴方がいったじゃない。明日…いえ、日付が変わったから今日ね。遠慮してあげなさい。」 それもそうだが、どうして突然そういうことをいうのかいまいち理解していない新一だが、とりあえずうなずいて返事を出しておいた。 「さて、貴方はいい加減帰ってもらうわよ。」 そういって、怪しい液体の入った試験管を何本もつかんで構える彼女に、さすがに身構える怪盗と、部屋が大変なことになると、慌てだす新一。 交わす怪盗。止める新一。 そして― 「あっ。」 「名探偵っ!」 今日はなんか運が悪いのかもしれないなと、思った新一。よくわからない液体を被り、耳が生えた。 そう、猫の耳だ。可愛くもないし、笑えない。 何故そんなものをつくったのかというと、怪盗を追い払うのによさそうだからと言っていた。出歩けないからおとなしくなるだろうという理由とともに。 そして、外をしばらく出歩けなくなった探偵は、部屋に引き込まる数日を過ごす羽目になった。 もちろん、その間、少女と怪盗が仲良く喧嘩をしながら食事だとか何だと世話をやきにきて、正月を迎えることになった。 二度と、親や西の探偵以外に、この怪盗やお隣の少女ともクリスマスは共に過ごさず、独りで隠れて過ごすと決意する新一だった。 |