あれから、何度この日を迎えただろうか。

今年で、何度目の冬を迎えようとしているのだろうか。



あの日から、アイツの姿が俺の側にない。

ただ、それだけなのに、それ以外、アイツと出会う前と変わりないというのに。

いつからこんなに俺は寂しがるようになったのだろう。



あといくつの冬を越せたら、アイツはここへ帰ってくるのだろうか。







冬を知らせる魔法使い






世界はとても複雑にできている。だけど、人の心は簡単になっている。

だから、同じことが繰り返されていても、誰も気にしない。何より、同じことに疑問を持たない。

俺達には、心はなくてもいい。そういう風に作られているのだから、仕方がないのかもしれない。

けれど、俺はもう、アノ頃には戻れない。

俺は、アイツと出会い、知ってしまったのだ。

俺を含め、この国にいる者たちは、それぞれ仕事がある。それはアイツも同じだけど、俺とアイツは仕事が少しだけ違っている。

アイツは冬を知らせる精霊だった。だから、冬が来ることをこの国に知らせるのが仕事だった。

寒いのなんか嫌いだと言いながらも、一面真っ白になった山や野原、そこで最初に足跡をつけるのが楽しいといってはしゃぐ奴だった。

そんなアイツの笑顔が、俺は好きだった。けれど、最初は好きってことすらわかっていなかった。

俺達の仕事に、感情はいらない。

だから、誰かを好きになるという気持ちも不要のものだった。持たないように、最初にそう造られていたから、俺はこの気持ちが何なのかまったくわからなかった。

それを、アイツは俺に教えた。

けれど、それは禁忌に触れることで、アイツは罰せられてしまった。

それは、今日のような、白い雪が舞う遠くで月が見える明るい夜のこと。

あの日から、俺は一人で冬を待ち、去るのを見て、今年もアイツじゃなかったことに落胆していた。

今日もまた、あの日がやってくる。

だけど、アイツが来る気配はない。

毎年、この日になると、アイツがこの窓から入ってきて、俺を連れ出す文句を言って・・・。

そんなことを考えながら、今にもやってきそうなのに来ないアイツに、何故アイツだけが罰を受けなければいけないのかと最近では考える。

罰せられるべきなのは誘ったアイツだけじゃなく、誘いに応じた俺も受けるべきなのだ。

なのに、国はそうしなかった。

アイツが言うには、待つことも罰のようなものだと言っていた。

本当に、罰のようだ。

いつ戻るかわからない、もしかしたら二度と会えないアイツをただ待つだなんて。

もし、これが夢であるのなら、覚めてくれればいい。

そして、アイツが起こしてくれて・・・俺はまた、あの日に戻れる。







今年もまた、冬がきた。アイツが罰を受け、去ってしまったあの日がきた。

空はあの日と同じ、冬を知らせる雪が地上に降り散る。

だけど、その雪に混じって、違うものが俺の頭上に舞い降りた。

それは、俺が良く知るもので、すぐに手に取り、立ち上がる。

アイツが戻ってきた。

この羽はアイツのもので、アイツがこの国に戻る可能性を示しているもので、俺はただ、ひたすら探した。

アイツがきっとどこかにいる。

そして、見つけたアイツの後姿。

あの日より背が伸びたけれど、あの日のままかわらない振り向いた時の笑顔。

「お帰り。」

「ただいま。遅くなっちゃった。」

本当に遅くて、もう戻ってこないんじゃないかと思った。

「何泣いてるの?」

泣かれると困るよと言うが、俺はどうして泣いているのかわからず、何も答えられなかった。

「遅くなって悪いんだけど、今日はね、迎えに来たんだ。」

「迎えに?」

どういうことだろう。

「帰ろう。ここは寒くて寂しくて暗くて・・・皆がいないから。」

「皆って?」

「思い出して。ここは・・・・・・・のいる場所じゃないよ?」

アイツに触れた手がとても暖かかった。俺の手がとても冷たいのだと、今更気付いた。

「ねぇ、帰ってきて。皆、待ってるから。・・・・・・がいない世界は、寂しくてつまんないよ。」

どういうことだろう。

これは、俺が知ってるアイツなのか。罰を受け、それが終われば迎えに来て、またあの日のように一緒にいられる。

そう思っていたのに、俺が思っていることと話が合わない。

「思い出して、お願い。」

ぎゅっと抱きしめられるアイツの腕の中で、俺は考える。

けれど、あったかくて、心地がよくて・・・何も考える気が失せてしまった。

俺はアイツがいればいい。一人でいなければ、それでいい。

「帰ろう。」

その言葉に、俺は自然と頷いていた。







遠くで、声が聞こえる。

だけど、手の温もりは消えない。

「・・・・し・・・・・いちっ!



うっすらと広がる視界。そこには、必死な顔で俺の名前を呼ぶアイツがいた。

「・・・良かったっ!」

「・・・何・・・俺も、心配した。」

「もうっ!人の心配してる状態じゃないでしょ!わかってるの、新一!」

何で、泣いてるのか聞こうと思ったけど、聞きそびれた。

それに、考えても、先程まで見ていた光景が幻のようにかすんで何も思い出せなかったから、今がどうなっているのか少し頭が混乱していた。

「とにかく、無事で良かったわ。」

「灰原・・・?」

そう言えば、帰ろうと言われた。皆がいるところへ。

そして、あの世界に放り込まれる前に、自分がどういう状態であったのか、だんだんと思い出してきた。

「そっか。・・・悪かったな、快斗、灰原。」

「本当に、悪かったと思ってるの?あそこであんなことするなんて・・・本当に、死んだらどうしようかと思ったじゃない!」

「悪い・・・。」

「もう、あんなことしちゃだめだからね。」

暖かいこの腕の中で、俺は考える。

俺の罰は待つこと。確かに間違ってなかった。

コイツはいつも、俺のことを心配している。そして、俺に構ってくる。

いつしか、大切な人に変わっていたことに気付かないで、コイツが危ない時、咄嗟に体が動いていた。

俺はコイツに置いていかれるのがきっと嫌なのだろう。

だけど、今回俺はコイツを置いていってしまうところだった。

だから、コイツが迎えにくるまで、俺はあの世界で迷っていたのだろう。

それに、どこかで迎えにきてもらえなければそれでもいいと思っていたところもあり、そうなればそのままあの雪のように春が来て消えてなくなるように、自分も・・・と思っていたのかもしれない。

「・・・雪か。」

「え?あ、本当だ。」

俺を呼び覚ましにきた魔法使いは本当に冬の精霊かもしれない。

目覚めさしたその日に雪をつれてくるのだから。






あとがき
夢だというオチのクリスマスに意識が戻る新一の話。
何があったのかは・・・わかりませんが、キッドに何かあったからこうなったということで。
一応、サンタの夢が覚めた後の彼等であったりします。
なので、夢の世界がサンタが夢であったように、まるで現実のような世界にいる感覚で日々をすごすわけで、そのあたりの何らかの力は彼等の周囲には残っているのかもしれません。