これからも一緒だよ その日、朝目が覚めたら新一の姿がなかった。 「新一?!」 「どこですか?!」 二人の誕生日当日、新一行方不明事件が発生したのだった。 真っ先に、可能性として二人は寺井の元へ走った。 しかし、彼は今朝はまだ一度も新一の姿を見ていないのだと言う。ならば、どこへ行ったのか。 快斗は影の中を、キッドは光の中を気配で調べ、屋敷内だけでなく、周辺にまったく新一の気配がないことに余計に焦るのだった。 そこで、ふと思いついた二人にとってはある意味敵な存在のこと。 この屋敷は、二人と同じように意思を持っている。よく、悪戯心で人を迷わしたりあるはずの場所に階段がなくなったりと迷惑際割りないことをするのだ。 何より、館の中心でもあり、祝福をもたらす鐘は、響きこそ美しいものの、その場所は神聖なるもので、なかなか辿り着けない。しかも、新一をすぐ連れて行こうとするのだ。 なので、あれが犯人か!と二人は勢いよく館の上を目指す。 そんな騒動を二人の部下達が見守っていた。 「・・・結構馬鹿ね。」 「今更でしょ?」 「私達は私達のやることやらなきゃ。」 「そうね。新一のお願いだもの。」 そんな女達の会話が彼等の耳に届くことはなく、ひたすら着かない鐘の元に館に響く大きな声で怒鳴っていた。 「あら、順調みたいね。」 「新一君の方はどうなの?」 「真さんと美和子さん護衛の元、無事向こうについたみたいよ。」 「そういえば、美和子さんってば新一とデートだとか言って騒いでたわね。」 「あの二人が聞いたら、またうるさいわね。」 新一のこととなると、あの二人は容赦ないし、何より大人気ない。心が狭く、今までとキャラ変わってるじゃないかと思うこともしばしばある。 そもそも、新一は翼ある者達の主であり守護する象徴でもある神なのだ。独り占めばかりされて黙っていられないのも事実だし、本人の希望でもあるので、ここぞとばかりに二人をはみらせる。 慌てふためいて走り回る二人に、少し面白いと思いながら、頼まれている作業をこなしていく。 「でも、最終的にはあの馬鹿達の為だと思うと、何か癪よね。」 今では、完全にあの二人は館の主ではなく、馬鹿扱いである。しかし、ほぼここにいる全員がそう認識しているのも事実だったりする。 このような、様々な思惑の元、日は暮れていく。 屋敷の主である白い翼を持つキッドと黒い翼を持つ快斗は、鐘の元にも新一がいないことで、完全に機嫌を悪くして部屋に篭ってしまった。 ここまで、新一がいないというのに慌てない屋敷の住人達に、二人は違和感を感じたのだ。 そして、彼等は確実に新一の居場所を知っているのだと悟った。 その為、不機嫌になって天岩戸のごとく閉じこもってしまったのだ。 「本当に馬鹿ね。」 「というか、いちいち鬱陶しいわね。」 不機嫌のオーラを扉の外にまでかもし出しているその部屋を遠巻きに見ながら、あきれ果てるしかない志保と紅子。 それでも、新一が戻れば一気に機嫌がうかれまくって青子曰く変な顔になるのは予想がつき、それもそれで嫌なのだが。 「・・・帰ってきたみたいね。」 「お迎えしないとね。」 今日のために計画し、わざわざ『外』へ出た新一が屋敷に戻ったのを感じ、二人は玄関へと向かう。 主の部屋の前に立ち、どうしようと少し怯える新一。大丈夫よという蘭の後押しにより、控えめなノックをする。 すると、新一の気配だとわかっていたからだろう。扉が開いたと思えば勢いよく腕を掴む力により、よろけながら吸い込まれるように部屋の中に入った。 「一瞬ね。」 それは本当に一瞬で、蘭も何が起こったのかよくわからないぐらいだ。けれど、二人が新一を引き込んだというのは事実なのだから、もう大丈夫だろうとその場をあとにした。 一方、腕を掴まれたと同時に抱きこむ腕に、痛いと感じる。 何より、彼等がとても怒っているのに気付き、怖いと感じてしまう。 「快斗、キッド。」 「新一。どこにいたのですか。」 「いないから心配したんだよ。」 そう言っているが、目は少しも笑っていなかった。 自分の行動で彼等を怒らせた。その事実が新一を悲しませる。 怒らせたくない。けれど、怒らせてしまったこと。どうして、怒っているのか、新一にはわからないこと。 せっかく、今日は彼等に笑っていてほしいからと思って、用意したのに。 「ごめん、なさい。どうして、怒ってるのかわからないけど。怒らせたのなら、ごめんなさい。」 ただ、新一は謝る。 どうしたら、彼等がまた笑ってくれるのかわからないから、謝る。 ただ、自分はいつもいろいろしてくれる二人のために、何かしたかっただけなのに。 結局自分がしてしまったことは、彼等を怒らせること。 もっと、自分は『守護神』としての立場を考え、迷惑をかけないようにしないといけないのかもしれない。 そんな考えが巡る。 「新一。泣かないで下さい。」 「泣かれると困っちゃうよ。」 いつの間にか、涙がこぼれていたらしい。けれど、気付いたら余計に涙は止まらなくなってしまった。 「ごめ・・・なさい。もう、黙って外に出ない。ごめんなさい。・・・嫌いにならないで。」 今、一番恐れていることは、彼等二人を失うこと。怒らせてしまい、嫌われてしまうのではないかと考えてしまうと、彼等を疑っているようで嫌だった。喧嘩ぐらいでどうにかなる関係ではないと思っているからだ。 けれど、同時にそれは自分の思いすごしで二人を縛り付けてしまっているのではないかと、思ってしまう自分の心。 弱い心が彼等を縛りつけようとしているのが、何より嫌だった。 「外に、出てたんですか。」 少しだけ、慌ててゆるんだトゲトゲとした空気が、再び戻る。 「嫌いになるわけないし、新一のことが好きだよ。それはいつも言ってることだけど、外に出たってどういうこと?」 「今日、行かなきゃ意味がなかったから。」 皆にお願いしたのだと小さな声で告げた。 「まぁ、出てしまったものはどうしようもないし、無事だったから良かったものの。」 「今日という日だからこそ、一緒にいてほしかったのですがね。」 「わかってる。だから、どうしても、これが必要だった。」 そう言って、ポケットから取り出したのは、銀色のブレスレット。中央に白い石と周囲に黒い一回り小さな石が取り付けられたものと、中央に黒い石と周囲に白い一回り小さな石が取り付けられた2つのそれ。 「二人に。おめでとう。・・・ごめんなさい。」 突然のことで脳がしばらく停止していたが、二人は慌ててそれを受け取り、再び新一を抱きしめた。 「謝らないで下さい。・・・ありがとうございます。」 「新一も考えてくれてたのに、怒ってごめんね。これ、ありがとう。」 ごたごたしながらも、新一が祝ってくれようといろいろ考えて、びっくりパーティにしたかったということを知り、反対に焦って謝る二人。 せっかくの新一の好意になにてことを!と、結局考え付くのはそこである。 それから、必死に新一が怯えないように気をつけながら、仲良く一晩明かした。はずである。 その日、三人が部屋から出てくることはなかった。 「やっぱりこうなるのよね。」 「でも、あの不機嫌オーラは傑作だよね。快斗は馬鹿だから。せっかく新一君には見せないようにしてたのに。バレちゃったし。」 今後どうなるかちょっと面白そうだという幼馴染でもある青子の言葉に、全員がそれぞれ意見を交わす。 後に、少し一歩引いて前ほどすぐに近づいてくれない新一に、二人が凹んでいるのを目撃することとなる。 |