サンタさんの場合 「新一ーっ!」 と、目の前を歩く青年の背を見つけた青年が、名前を呼びながら突っ込んでいった。 しかし、青年は突っ込んでくる青年のことが前を向いているはずが、まるで後ろが見えているかのように軽やかに交わした。 おかげで、ズベシャッと何だか間抜けな音が周囲に響く。そう、青年は青年が避けたために、何もない地面に突っ込んだのだ。 と、ここであまり二人の人物を青年と同じように称するとややこしいので名前を紹介しよう。 突っ込んでいった青年は快斗といい、ある意味天才だが、馬鹿と紙一重という代表的な例の青年である。そして、軽やかに避けて冷ややかな目で快斗を見下ろす青年が、新一と言う。 何だか正反対な雰囲気を持つ二人だが、容姿はよく似ている。しかも、幼馴染で親同士も交流がある仲良しである。まぁ、仲良しだということを新一は認めていないが。 そんな二人は学生という身分がある。だが、それぞれ『もう一つの顔』として、学生とは違う顔を持っている。 快斗は、何と世間を騒がす大怪盗、怪盗キッドであり、新一は迷宮なしの名探偵と呼ばれる、どちらも世間的にとっても有名な学生である。 もちろん、快斗の正体は秘密である。 そんな二人は、新一にとっては不本意であるのだが、恋人同士ということになっていた。もちろん、世間的には秘密だが、二人の知り合い達は知っているので、あまり秘密という感じではない。 「それで、いきなり背後から飛びついてきて、何の用だ?」 「ぐすん・・・新ちゃんってばひどい。」 昔はあんなに可愛かったのにと、めそめそする快斗。 「話がないなら行くぞ?」 「あー!待って待って!話ならあります!」 慌てて、倒れたまま地面に野の字を書いてへこんでいた快斗が起き上がり、新一の前に立った。 「あのね、明日向かえに行くから、一緒に帰ろう。」 「・・・別にいい。遠回りだろ?」 「いいの!明日は特別だから。」 「・・・?まぁ、いいけど。」 新一からの許可を得て、飛び跳ねるほど喜ぶ快斗に、自然と新一も笑みを浮かべる。 「あー、新ちゃん笑った。」 そういわれて、すぐにむすっとなって、うるさいと快斗の頭を小突いて、再び歩きだす。 「あ、待って。」 今日も一緒に帰ろうと、腕をとって横に並ぶ。 勝手にしろと言わんばかりに、何も言わず、それでいて腕を振り払わない新一に、幸せだなと快斗は思う。 明日は驚かそう。かつての自分が彼にしたように、最高の誕生日にしよう。 彼がかつての自分達を覚えていなくてもいい。また、巡り合えたのだから、今のままでいい。 今度こそ、彼が悲しむことのない『今』を生きて生きたいと思うのだった。 「ねぇ、新一。」 「何だよ。」 「もう、一人で考え込んだり、勝手にいなくなったりしないでよね。」 「何言ってるんだよ。考え込むことはあっても、いなくなったことなんかないだろ?」 とうとう頭がおかしくなったかと言う新一に、そうだねと快斗は返す。 時々、夢に見て思い出す。彼が一人、消えてなくなることを決めたことを。 そして、今この時も、彼がいなくなってしまうのではないかと。 「新一、大好きだよ。」 「・・・馬鹿野郎。」 「それは好きってこと?」 「うるさい。」 ずんずんと歩いていく新一の顔が赤いのを見て、やっぱり可愛いなと思う快斗だった。
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