注意

これは女体化作品です
そのような内容に興味ない方嫌いな方は回れ右して下さい

死者と踊る夜の続編作品ですので、
そちらを先に読まれる方がいいかもしれません































 

人は騒ぐことが好きだ。

人ではない者達も苦しみよりも楽しく騒ぐことを好む。

 

今宵はハロウィン。

何かが起こっても不思議ではない夜。

なぜなら、死者が悪戯を仕掛けに人世へ降りられる日だからだ。

 

 

 

 

◇ 死者に捧げる祈りを今宵は貴方のためだけに 〜死者達と騒ぐ夜 ◇

 

 

 

 

とある警察おかかえの高校生探偵の家は、何故か暗雲に立ち込めるかのごとく、雰囲気が悪かった。

家主である探偵、工藤優希がかなりご立腹だったのだ。

「貴方の馬鹿騒ぎには付き合いきれないわ。」

「そないなこと言うなや、工藤。」

本日今朝方、とても賑やかで人柄は悪くないものの、テンションに付き合いきれない友人こと、関西地区担当の服部平次が工藤邸を訪れていた。

「何でもな、この日はハロウィンゆうて、仮装するんやて。だからな、工藤もたまには楽しまなあかん思てな。」

にかっと笑う男に、仮装ではなく火葬してあの世に送り返してやろうかと言ったが効果はまったくない。

「で、このうるさい人結局何しにきたの?」

平次が来てから集まった背後にいる探と紅子に問いかける。

「何でも、お祭り騒ぎで悪戯をする冥府の者達が大半こちらに流れたみたいで・・・。」

「私たちは彼らを今日が終わると同時に全部送り返す仕事が入ったのよ。」

「へぇ・・・。」

せっかく最近仕事が落ち着いてゆっくりできると思っていたというのに。だからこの時期は嫌いだと優希は思う。

そんな時、家のチャイムが鳴った。

「また、黒羽君がきたみたいね。」

哀の言葉に、少しそわそわする優希。現在の格好は魔女だ。それも、トンガリ帽子に猫耳ついたものだ。少々平次の趣味を疑う代物。

こんなものを見られてたまるかと、逃げようとしたが遅かった。

「あ、名探偵可愛い。」

そこには、怪盗の格好をした快斗がいた。

「彼にもハロウィンだから仮装をお願いしたの。」

「そういう問題じゃないわよ。」

哀の言葉につい突っ込みを入れる優希。

「それに貴方も何昼真っからそんな格好してるのよ?!」

正真正銘の馬鹿でしょと言われ、さすがにへこむ快斗。そこまで言われるとは思わなかったのだ。

仮装してこいと哀に言われたし、皆仮装で楽しむのだと聞いていたから余計にへこんだ。

何故そこまで不機嫌なのか。

「貴方は紅子とそこのお祭り男と一緒にいてちょうだい。」

「えぇー?!嫌だよ、そんなの。」

「これから仕事なの。大人しくしててちょうだい。」

「仕事?・・・死神の?」

「・・・そうよ。わかったなら、大人しくしててちょうだい。」

「わかった。」

不機嫌な理由がなんとなくわかり、快斗も大人しくなった。

優希は死神だ。それも、死神達をまとめる三人の冥王に近い死神の一人だ。だから、その仕事を放り出すこともできないし、やることも多い。

そんな彼女は死神でありながらも、死者を送る仕事を好んでいないことは一緒に過ごすようになってすぐに気付いた。

だから、何となく死神というものを嫌っているのだなと思っていた。

探偵なんて、人から嫌われるような内容もあるけれど、彼女はやり方が違うのにもちろん気付いた。

そんな彼女は強い。だけど、脆い。

手助けになりたいと思うのは傲慢なのかと思うけれど、手助けになるようなことはできないと思っていても、放ってはおけず、何かしたいと思うのだ。

今日も、一緒に騒いで楽しめるのならと思ってた。仕事があるといって、結局彼女が笑ってる顔を見れなかったけれども。

優希達が出かけていったあと、ふと思った疑問を目の前に立つ男に投げた。

「あんた、誰?」

「ん?俺か?」

はじめてみる顔だった。そいつは服部平次と名乗り、関西担当だと言った。

そこでふと、彼が何ものであるか気付いた。

関西にいる高校生探偵の一人だと。

死神というのは、探偵という仕事をするのが好きなのだろうか?そんなことを考えながら優希達の帰りを待つのだった。

 

 

 

 

高いビルが立ち並ぶ町並みの中で、あるビルの屋上にその影があった。

「どれだけの規模?」

「今年は去年より広いですね。」

「そう。・・・灰、藍。包囲して。」

「了解。」

「仰せのままに。」

すっと、二つの影が優希の側から消えて飛んでいった。

「白。返ったらハロウィンをやり直すわよ。」

「やはり気にしてたんですね。」

ショックを受けたようにへこんでいた快斗を見たのだ。それに、彼がお祭り騒ぎが好きだというのは会う前から知っていた。

楽しみを奪ったのは事実だから、実は気にしていた。

「気にしているのなら言わなくてもいいというのに・・・。服部君のせいですね。」

「・・・。」

「それより、仕事での私への命令は?優希様。」

「夜の闇に獲物を狙う鷹よ、囲われし器の中の魂を我の元へ。」

「優希様の望むままに。」

すっと、白の姿は白く大きな鳥の姿へと変えた。

白が飛び立ったと同時に、首に下げられた鍵を引っ張り出した優希は、鍵に口付けを落とし、大きな剣のように伸びた鍵へと姿を変えた。

囲いを作る灰と藍。その中で悪戯をしている冥府の亡霊達を白い鷹が捕らえては優希の方へと投げる。

優希はそうやって投げられた亡霊の胸に鍵を突き刺し、鍵先に絡め取っていく。

「我デスマスターの名の元に、冥府へ迷えし魂を運ぶ扉を開け。」

範囲の中の亡霊達全てを捕らえれば、優希は冥府の門を開き、それらを送り返す。

その繰り返しをし、ハロウィンの夜を駆け巡った。

しかし、ハロウィンの夜にはただの亡霊と死神以外にまがい物が混じることもある。

今晩はそのまがい物がひっそり影を潜めながら、それでいて少しずつ侵略していた。

気付いた冥界はすでに動き出していた。

冥界にいる滅多にこちらに来ない死神が動いたのだ。唯一命令することが出来る悪友と言う名の主君により、彼が人世へと足を踏み入れる。

「久しぶりにきたな、この町も・・・。」

すっと日が暮れた影に紛れてその男が一人現れた。

「それにしても・・・見えるとわかると、偉く物騒な世の中だとよくわかるもんだな。」

ひらりと、白いハンカチを取り出し、何も種も仕掛けもないように何もない闇に見せ、すっとそれを宙へと舞い上がらせればそれはハトとなり夜の闇に羽ばたく。

「夢の時間はもう終わりだよ。亡霊君。」

パチンと指を鳴らせば、白いハトがふよふよと当たりに浮かぶ亡霊達を飲み込んだ。

「それにしても、今回は性質の悪い奴が脱走したもんだね。あとで優作は彼女に怒られるかもしれないね。」

それはそれで面白いと男は闇の中を歩いて行った。

ハロウィンの夜は騒がしくなりそうであった。

 

 

 

 

 

帰って来たら、疲れているであろう優希達にと、快斗はキッチンに立って簡単に食べれるような夜食作りをしていた。

「黒羽やっけ?お前本当うまいな。」

にかっと笑いながら背中をばしばし叩く男をちらりと見て、気付かれないようにため息をつく。何故か気に入られてる。そんな気がする程、まとわりつかれて鬱陶しいと、実は思っていたりする。

「やっぱり、君も俺の正体知ってるわけ?」

「ん?ああ、黒羽が怪盗やっつー話か?そら知っとるわ。何せ、お前さんのおやじさん、あっちじゃえろう有名やからな。」

どうやら、相当父親は目立つことをしたのだなと思った。

「せやけど、俺は黒羽がお前で良かったって思ってるんやで。」

「どういうこと?」

「お前の噂はあっちでもかなりいろいろあるんや。工藤も結構前からお前のこと知っとってな。ずっと心配しとってん。あの工藤が気にする人間やで?そうそうおらへん。どんな奴やろ思てたんやけどな。お前で良かったと思ってるんや。」

だから、これからも工藤のことよろしゅうなと言う彼は、本当に優希のことが大事なのだろう。

自分を気にする優希に、自分が可笑しな奴ならきっと殺しにきてもおかしくなかった。今ならそう思う。

会話の最中、少しだけ彼がやはり死神なんだと思えるような、冷たい目をしたからだ。

そういえば、優希と出会って死神という存在があるのは知ったけれども、死神とは何かは考えたことはなかったと思い返す。

死者の魂を迎えにきて運ぶ者だとは知っている。だけど、それだけではないのだろう。無理に聞くつもりもないし、知ろうとも思わなかったけれど。

人間が死神と関わる事の重大性がわかっていないのかもしれないと思った。

いつでも殺せるだけの力はあるし、人の死ぬ日も全て把握している。彼等は人と同じであるようで、人ではないものなのだ。

あまりにも彼らが人と同じように笑ったり怒ったりするから忘れがちだが、常に人である快斗とは見えない壁がある。

今更それを思い知らされた感じだ。

そう、自分は何も知らないのだ。

「できたっと。」

できあがった物をお盆の上に載せ、テーブルへと運ぶ。

「相変わらずこういうことは上手よね、黒羽君。」

「うるせぇ。」

今はただ優希の帰りを待とう。そう思っていた矢先のことだった。

ガタン―

何かが部屋に入り込み、扉が開いた。

「まさかっ?!」

「くそっ・・・。小泉さんは黒羽んこと頼むで。」

快斗はそいつの姿を見て、何故か恐怖を覚えた。身体の自由が利かないように金縛りをかけられたかのように動けない。

これが、恐怖だと頭で認識して、もう一度それを見て恐怖の理由を悟った。

あれは、『人間』ではない。

「冥府の脱走者を確認しました。速やかにこの場を包囲し、人世と切り離します。」

紅子は快斗を庇うように前に立ち、ペンダントの水晶を高く投げ、その場所を保護して人世に影響が及ばぬようにした。

それを確認し、平次は左腕をちらりと見て、宣言する。

「冥府の脱走者を確認。戦闘開始するで。」

握り締めた左の拳をあれの方へと向けると、左手首についていた腕輪が黒く光り、形を変えて左腕を覆う鎧と化した。

そして、右手で左手首の輪になっている部分を人差し指で引っ掛け、ぐっと引っ張れば、そこから黒い剣が引き出された。

『そやつの命を頂戴するには目障りな護衛がついているとは思っていたが・・・少々期待はずれの護衛だな。』

「期待はずれかどうかは、お前さんが体験してみたらええやろっ!」

だが、相手の言うとおりだというのは平次にもわかっていた。

自分と相手の能力相性はとても悪い。同じ死神や亡霊といっても、持つ気質はそれぞれ違う。もちろん、相性が良い悪いもでてくる。

その中で、相性が悪くて自分が不利になるのはわかっていた。

階級でわけてしまっても、あちらの方が自分より高位だと気付いた。それでも、彼を守らなければいけないのだ。

よっぽどなことがない限り、死神は死なないのだから多少の無茶も大丈夫だろうと足止め役になるつもりなのだ。

これだけの奴がでてくるのだ。きっと、援護が冥府から送られてくるはずなのだ。

それまで持ちこたえればこちらの勝ちだ。快斗が関わることなら、間違いなくあの男はあの人をこちらへ寄越す。

「小泉っ!工藤に連絡してくれ。すぐに一人こっちに戻せゆうんや。」

「わかったわ。」

すでに人の領域を超えた者達の戦いは始まっていた。

岩のように硬く、殻で守り、重力をかけて岩を振り下ろす。平次の戦闘スタイルは見ている限りでは近距離に優位な格闘型。

自分は手出しできない歯がゆさから、ずっと平次を目で追って観察して行き着いた結果、気付いたことだった。

平次が戦闘に入った際に一瞬見せたあの表情は、相手に適わないとわかっていたからだと気付いた。

何せ、相手は水のように原型を留めないようなもので、いくら岩で押しつぶしても水は逃げてしまう。しかも、木々の力もあるのか、放たれる鶴のようなもので岩は動きを止められる。

死神もまた、人世と同じ自然という名の本来ある力の理に沿っている。

「服部っ!」

水圧で押しつぶされる右腕。平次は痛みで叫びそうになった声を押し殺すが、骨が砕けるような嫌な音が快斗にも聞こえた。

ドスッと平次は壁に押し飛ばされ、その場に崩れるように落ちた。

止めを刺そうと近寄るそれに、囲うように銀色の矢が床の上に刺さった。

「服部君。大丈夫ですか?」

急いでとんできたのであろう。額に汗を滲ませながら、背中の茶色の翼を閉じて服部の元へ降り立つ探。

「これだけやられて意識がある貴方がすごいですよ。」

「白馬かて同じようなもんやろ。」

「そんなことより・・・厄介な相手が冥府から脱走したようですね。」

「そうみたいや。せやから、もう少ししたらあの人が来ると思うわ。」

「そうですね。」

会話が切れたちょうどその時。白馬の放った足元の矢を黒い影が増えたと思ったと同時に吹き飛ばしてかき消した。

「僕も君も、あのようなものの相手に対応する担当の死神じゃないんですけどね・・・しょうがありません。」

すっと、左腕に持っていた弓を消し、それは彼の指輪へと姿を変えた。

右手で懐にしまっていた懐中時計を取り出し、指輪の石で時計をカチっと一回叩く。すると時計は持つ柄に細かな細工がされた、細長い先を持つ剣のような棒へと変わった。

探はその棒を足元に突き刺し、時間を歪ませる。

「今より時間を止め、脱走者の時間を奪います。」

探の宣言に従うように、棒が突き刺さる床から水が流れるように相手へと向かい、絡め取る。

「間に合うと、いいんですがね。・・・これを突破されたら、殺されるのを覚悟して下さい。黒羽君。」

時間を奪うとしても、限界があることはわかっている。ただの足止めにすぎないのもだ。

それでも、やらなければいけない。

きっと、予想をはるかに超える速さで破られるとは思うけれども。

「君はまだ人としてやると決めたことを終わらせていないのだから、できれば生きてほしいですがね。」

その言葉は彼の本心だと快斗にもわかった。いつも探偵として怪盗に問い詰める彼の姿とはまったく違っていた。

余計に、何も出来ずにいる自分が歯がゆくて、自分が狙われているというのにただここで大人しくしているだけの足手まとい。

今までそんなことはなく、自分の事は自分で守ってきたというのに、まったく世界が違う。

「・・・もう、ですか。」

冷静なようでどこか焦るような探の声に、はっと顔をあげる快斗。

少しずつ、探が動きを止めるように絡んでいた不思議な糸のようなそれらがはがれていく。

『いいかげん、お前ら殺す、死神。』

ぞわっと寒気が走る。寒気だと思った震えは恐怖だとあとで気付いた。

本気で殺される。そう思った。

襲い掛かろうと大きく伸びたそれの真ん中に、何かが刺さっていた。

「いけないね。悪さをするのは・・・冥府へ戻れ、愚かな亡霊よ。」

簡単にそれの背後をとり、ステッキを真っ直ぐ突き刺した男がパチンと指を鳴らせば足元に扉が現れ、開いてそれを飲み込んだ。

「遅くなって、悪かったね。服部君、白馬君。それに、小泉さん。」

黒いシーツに赤いネクタイをした男は、黒いシルクハットをとった。

そこに立っていた男の顔が見えて、快斗は目を見開いた。こんなところにいるはずの人物ではなかったからだ。

「何で・・・親父?」

「無事で良かったよ。快斗。」

その顔、その声、見間違えるはずがなかった。

「快斗っ!おじ様!」

バタバタと大きな音をたてて、驚いて動きが止まっている快斗の前に優希が戻ってきた。

「あ・・・えっと、片付いた後・・・かな?」

快斗が死んだはずの父親を見て驚いているのはわかっているので、間抜けにもばたばたとこの部屋に入ってきてまずったと思った優希は、それしか言えなかった。

 

 

 

 

 

時計の針が0時を指し、ハロウィンは終わった。

だが、工藤邸ではまだハロウィンが続行していた。

あの後、せっかくなので快斗が用意した夜食をつまんで騒ぐことにしたのだ。何か言いたげで腑に落ちない快斗だったが、とりあえず食べようと平次が言ったからである。

こんな時でも発言できる彼がうらやましいかもしれない。

「で、何で親父がいるんだ?」

「ああ。私は死んだ後、悪友と会ってね。」

死んだ後って何?と、快斗は思ったが何も言わなかった。

「本当は天国行かしてあげたいけど、ちょっと罪状から罰を少し受けてもらわないといけないと言われてね。地獄へ行くなら、その後天国言ってもすることないだろうし、死神としてなら悪友と馬鹿騒ぎを続けられるからね。それもいいと思ってね。」

「そんな簡単に死神になるなよ?!」

あははと笑う父親にとうとう突っかかる快斗。

実は彼が死神になった時、優希も今の快斗と同じ事を彼に言っていたのは遠い昔の話。

「それに、冥府も昔よりはそれなりに楽しいところになったよ。」

「いや、楽しいとかの問題じゃないから。」

「そうだけどね。私はこれでいいと思っているんだ。もう、何度もこの世に戻ってくる人生も飽きたしね。死神になった方が、彼女達ともずっと変わらず同じ場所にいられるからね。」

飽きたとかいう問題ではないだろうと誰もが思ったが、その言葉に込められた意味を知っているために優希は何も言えなかった。

「どういう、意味だよ。」

「快斗が死んだ時、冥府に送られ冥界の王、死神王とも今は言うかな。彼に会えば全てわかるよ。前の人生で生きた記憶は持たずに戻ってくるけど、死神を選べば記憶は全て戻る。つまり、犯してきた過ちも全て思い出す。」

まだ、死ぬつもりも死ぬ予定もない快斗には遠い話だけど、実際その日が来たらはやいものだろう。

「おじ様はいつでも何も悪いことはしてないわよ。」

「君はそう言ってくれるけれど、私はいつもパンドラに踊らされてきた罪人。それは変わることはないんだよ。」

「でも・・・。」

何か言おうとして口を閉ざす優希。そんな二人の様子を見てつい快斗は口に出した。

「そういえば、優希は親父のこと生前から知ってたの?」

会話の経緯からして少し気になっていたのだ。ここにいる全員は彼が命を落とし、死神になったのは同じ死神なのだから知っているだろう。しかし、明らかに整然の父親も知っていたように聞こえるのだ。

「もちろんだよ。私の悪友は彼女の父親・・・工藤優作なのだから。」

「・・・はぁ?!」

確かに工藤優希の父親が工藤優作だとは知っていた。工藤優作というだけでも有名だがまだ会ったことはない。何となく彼女が死神なのだから同じ死神で忙しいのかなという程度んしいか思っていなかった。

だが、自分の父親の言い分を考えると、冥府で死神になることを選んだ理由である悪友は彼女の父親ということになる。

「ちょっと待って!親父、優希のこと知ってたの?」

「ああ。当たり前だろう?よく私のショーを見に来て喜んでくれた可愛いお客さんだよ。」

サラリと告げられた事実。今までそんなこと知らなかったと言っても、教えてなかったからねと返ってきて、がくっとなる。

もしかしたら、もっと早く優希と知り合うチャンスがあったというのに。その辺りは絶対にわざとだろう。

「とにかく、二人の治療しなければいけないから、一度連れて帰るよ。」

「お願いします。」

快斗が用意した夜食を食べて雑談するようにリビングに集まっていたが、平次と探はまだ手当てをしていなかった。

見た目の外傷はすでに哀と呼ばれる少女がしているので気にしていなかったが、まだ治療が必要と知り、外相以外の自分ではどうにもできない部分の痛手を思い知る。

きっと、それを優希も受けてきたのだと知れば尚のこと。

あまりにも何も知らない自分が歯がゆく足手まといになることが嫌で仕方がない。

「私も一度あっちに行ってくるわ。蘭さんだけに後始末の処理任せるのは悪いもの。」

「わかった。また、明日ね。」

盗一がステッキを窓にさしたかと思えば、突如その場所が鍵穴となり、扉が現れて開いた。

「あまり無茶をするんじゃないぞ、快斗。」

またなと、盗一は平次と探を連れて扉の中へと飛び込んだ。哀はそれに続くように飛び込めば、扉はスゥーッと消えた。

部屋に残ったのは優希と快斗と紅子だけ。

「私も、自宅へ戻らせていただきますわ。では・・・優希様。」

部屋の外に出て彼女も扉と同じように姿を消した。

どうやら、快斗の常識で考えられるような退場の仕方をする輩はここにはいないのだとわかった。

「本当に、ごめんなさい。巻き込んでしまって。」

「いいよ。危険と隣り合わせなのは日常茶飯事のことなんだからさ。」

ねっと笑いかけるが、優希の表情は曇ったままだった。

「今日は帰った方がいいわ。こんな日に死の空気を纏う私の側にいてはいけないわ。」

今思うと、どうしてこんな行動に出たのかわからない。

優希の腕をつかんでしっかりと抱きしめていた。

「お願い。そんな辛そうな顔で帰れなんて言わないで。」

余計に気になって帰れなくなるからと言えば、笑おうとして失敗した優希の顔がそこにあった。

「俺は優希と違ってただの人間だし、手助けすることなんてできない。けど、無理に笑わないで。俺も見てて辛くなるから。でも、本当に笑えるのなら、笑って欲しい。優希は笑ってる方が似合うから。」

ねっと、ぽんっといつものお手軽なマジックでハトを出し、それを赤い薔薇へとかえた。

「優希が死者の冥福をいつも祈ってるのは知ってる。だけど、そんな優希がいつも壊れそうで怖いよ。無理に笑う時なんてとくにね。だから、俺は優希が本当に笑えられるように優希の幸せを祈るよ。」

突然のことで反応ができずにいた優希だったが、くすっと笑みを零し、快斗が差し出した赤い薔薇を受け取った。

「ありがとう。」

それは、快斗が出会ってからはじめてみるかもしれない、天使の微笑みだった。

「なら、私も祈るわ。今日は死者にではなく、快斗の無事とこれからも幸せに生きていけられるように。」

その日、最後まで優希のことを気にしながら快斗は工藤邸を後にした。

優希はソファに腰掛けてぼんやりと天井を眺めた。

「昔も今も、幸せを祈ってるわよ。快斗。」

たとえ、自分が堕ちるところまで堕ちようとも、彼の幸せと引き換えならそれでいい。

そして、彼はそれを何も知らなくていい。

服のボタンを二つはずせば、現れる過ちの証。

そっとそれに触れ、唇をかみ締める。もう、快斗の側にいてはいけないと何度もこの証を見るたびに思う。

それでも、側から離れられないのは自分の決意の弱さ。

今日も、冥府へ送る魂達の冥福を祈る。だが、それに隠れて快斗の幸せも祈り続ける。

自分が祈る資格はすでにありはしないとわかっていても。






あとがき
やっと終わったっ!
もう、長くなって終わらないかと思いました。
ギリギリ、ハロウィン期間に更新。
すごくこの設定動かすのが難しいと痛感しました・・・。
設定もう少し考え直さないとだめですね、これ。