家に帰ったら、何故かそれがあった。

 

 

 

 

 

はなまつり

 

 

 

 

 

あかり〜をつけま〜しょ〜ぼんぼ〜りに〜〜

 

鼻歌を歌いながら、それも相変わらずはずしながら歌う快斗の姿がリビングにあった。

そこまではいつものことなのでいいのだが、どうしてあれがあるのかわからなかった。

「あ、新一。お帰り。」

早かったねと、手のものを置いて新一の方へと近づいてくる。

「お前は何してるんだ?」

「え?見ての通りだよ。」

いや、見ても行動の意味がわからないから聞いているんだと言えば、えーっと大げさに声を上げる快斗。

いや、そこにあるものがなんなのかわかる。だが、新一や快斗にはほとんど無縁で関係のないお雛様というものだ。

隣の彼女ならまだしも、この家にはおかしいだろう。

そもそも、こんなものがこの家にあっただろうか?

あの母親なので、探したらどこかにしまわれているのかもしれないが・・・。

「せっかくだし。それに、お雛様とかって、毎年出さないと虫に食われたりして駄目になるでしょ?だから。」

かわいそうだかららしい。まぁ、イベントごとが好きな快斗だ。あまり男も女も気にしないのだろう。

今更なので、まぁいいやと部屋に戻って着替えることにした。

そして、部屋に戻ってこれば、しっかりと飾られた雛壇があった。

「あ、新一。」

快斗君特性珈琲ですと、カップに注いだそれを渡してくれた。

とても良い香りで、誘われる。

いつも思うが、快斗はこういったことが上手い。たまには自分もと思うが、快斗には敵わない。

なので、今夜はいろいろ作るぞーと気合を入れて買い物に出かけていったその後で、新一はこっそりとお隣へと向かい、いつも快斗にいろいろしてもらっているので、何か今度は自分がしたいのだが、何がいいのかを相談しに行った。

しかし、哀からすれば、無意識にお互いが惚気るバカップルだ。

しかも、未だにあの短冊持っている。いい加減にしてちょうだいと思う。

「・・・そんなことで悩んでどうするの?」

「だって。」

「じゃぁ、お雛様ごっこに付き合ってあげたらいいじゃない。」

だけど・・・。

お雛様ごっこと言われても、何をすればいいのかわからない。あんな格好させられるのはごめんだし、うーんと唸る新一に、ため息をつきながらも、哀はある一枚の紙を渡した。

「これに、誘ってきたらどう?」

新一からデートのお誘いはそんなにない。

だから、今度行われるというはなまつりに誘ってみたらどうかと言うのだ。

少し遠出で大変だが、こんな都会ではないけれど人が集まるかなり巷では有名なお祭りらしい。

桜が見ごろだし、それに、そこにある、その一本の桜の木の前愛を誓うと、この先も幸せでいられるというジンクスがあるらしい。

その事を教えられ、その桜の木を見つけられるかわからないが、快斗を誘ってみようと思った。

自分から誘って出かければ、快斗は喜ぶのだと哀がいったし、イベントごとが好きな快斗にはもってこいだろう。

まぁ、桜の木がたくさんあってどれがその例の桜なのかわからないのがあれなのだが。

家に帰って、どうやって誘おうかといろいろ考えながら時間を過ごすのだった。

 

 

 

 

しばらくして、玄関から快斗の気配がする。

「快斗、おかえり。」

部屋から出てお出迎えをすれば、新一のお出迎えだーっと、荷物をおいて飛びついてきた。

「ちょ、こんなとこで危ないだろ!」

「はいはい。」

飛びつかれてよろけた新一をしっかりと支える快斗。

そういうところはしっかりしている。

「ったく。」

体制を整えて、荷物を少し持って、快斗と中へ入る新一。

ごめんごめんとうれしかったからついと言う快斗を照れ隠しで怒って、今晩は何にするんだと聞けば、新一の好きなものばかり。

すぐにつくるからねと言う快斗に、ちょっと待ってと止める。

せっかく言う覚悟を決めたのだ。さっきは油断して言い損ねたけれども。

「あのな。」

「何々?」

快斗が近寄ってきて、話の続きを聞く体制になる。

「あのな。これ、一緒に行かないか?灰原がどうだって教えてくれたんだけど。」

と、先ほど貰った紙切れを見せる。

「え?本当?」

新一からお出かけのお誘いなんてされたことがないので、あっても本屋や警視庁なので、すごく喜ぶ快斗。

明後日、一緒に行こうねと、お出かけは決定。しかし、少しだけ新一はもやもやしたものを心の中に残していた。

それはやはり、灰原が快斗の喜ぶことを知っていたということ。

チョコアイスを買ってきたときはとても喜んでいたけれど。

いくらどうしようと思って相談したと言っても、すっきりしない。

そんな思いを抱えながら、当日。

様子が可笑しいのはわかっていたが、快斗は何も言わなかった。

前日にはこっそりと、お隣から聞いていて、何も言わなかった。

 

 

 

 

 

桜はちょうど満開で、綺麗に咲いていた。一番の見ごろだっただろう。

久しぶりにこれだけの桜を見たなぁと思いながら、新一は快斗と歩いていた。

だけど、あまり浮かない心。

快斗も、浮かれていたけれど、悩んでいる新一に、さすがに黙っているのも我慢の限界だ。

これ以上、無理に作られた笑顔など見たくない。

誘ってくれたときはうれしかったけれど、その後はどこかぎこちない笑み。

いつもの心から見せてくれるものじゃなくなっていた。だから、気になっていたのだ。

お隣に聞いても原因がわからず、何か考え事かと思っていたが。

せっかくの快斗からしてみればデートなのに、新一が上の空なのはいただけない。

「新一。」

「・・・何?」

少ししてから反応を見せる新一。

「ちょっと、座ろう。」

ずっと歩いて疲れたでしょ?と、快斗は用意してきたシートを出して、あまり一目がない場所を選び、桜の木の根元にそれをひく。

そして、二人でその上に腰掛けた。

「ねぇ。ずっと、何を考えてるの?」

言葉にすれば、少しびくっとしながら、新一が快斗の顔を見る。

「別に。」

「別にじゃないでしょ?」

近づいて、木を背中にして逃げられないようにして、答えを求める。

全てをひっくるめて好きだけれど、自分と一緒にいてこんな顔をされるのは辛いし、自分以外の事を考えられていたのならむかつく。

「俺と一緒にいるのは、楽しくないの?」

「そんなことはない。」

「じゃぁ、どうして?」

「・・・。」

問いから答えはない。

しばらく二人の間には会話がなかった。

だが、我慢も限界の快斗は行動に出る。

「お出かけするのが好きじゃないし、町から離れて人はあまりいないといっても、そんなに少ないわけじゃない。誘ってくれて俺はとてもうれしいのに、肝心の新一がそんなんじゃ、悲しいでしょ。」

それとも、これが、別れるための最後のデートとかかと聞けば、違うと答える新一。

「違う。・・・快斗とは、一緒にいたい。」

普段聞くことの無い新一の素直な気持ち。

「いつも、快斗が俺にしてくれて、あまり俺は何もしてあげられないから、灰原に相談したんだ。」

それは知っているから、続きを待つ快斗。

「快斗、喜んでくれたけど、言ったのは俺じゃなくて灰原なんだ。」

つまり、やはり自分は何もできてないんじゃないかと思って、落ち込んでいたのだと理解できた。

「あのね、新一。」

目尻に浮かべている涙を指で拭ってやり、優しく笑みを見せて言う。

「俺は新一が好きなの。他の人が言ったとしても、新一と一緒じゃなきゃ嫌なの。それに、新一と出かけるから意味があるのであって、新一と一緒にいられるのなら家で一緒にいてもいいんだ。」

だから、新一の笑顔を見せてよと、抱き寄せる。

「ほん、とに・・・?」

「本当だよ。好きだよ新一。今日は誘ってくれてありがとうね。」

ぎゅうっと抱きしめて、新一が落ち着くまでそうしていた。

 

 

 

 

はらりと落ちてきた桜の花を手に取る快斗。

花びらではなく、茎のままで落ちてきたそれを新一の頭につける。

「快斗っ!」

やめろよというが、ちょっとだけという快斗の好きにさせてやる。

「桜の精になって、いなくならないでほしいね。」

桜の下には死体が埋まっていると聞くし、それを吸ってほのかに赤い色を見せるのだという事もよく聞く。

桜の花が似合っていて、心配になってくる。

「馬鹿。」

「馬鹿で結構です。」

快斗の膝の上で、のんびりと桜を見物する二人。

新一の顔からは、普段と同じ、あの笑みが見られた。

「新一も一緒に歌わない?」

 

さーくーらー、さーくらー

 

と、快斗が歌う。相変わらずどこか音が可笑しい気がするが、人の事は言えないので言わない。

嫌だと言ってむうっと怒れば、こそばされて、笑いすぎて苦しかったりしたりしたが、仕返しをしてやった。

 

家に帰る頃には、すっかり甘い空気を放つばかっぷるに戻っていた。








     あとがき

開設当時にフリーをしていたお話、星に願いを、君に願いをと、相互お礼品として配布している君の願いは僕の願いの続編です。
初心に帰るという気持ちで。
少しごたごたしつつも、やっぱり甘い二人で。



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