ヴァレンタインの前に







快斗の料理を食べて、彼が帰った後。泊まっていけというのに帰ってしまった彼に少し寂しさを覚えつつ、そんなことないと頭から振り払って本の世界に入っていた新一。

相変わらず迷惑な電話はたくさんかかってくるし、メールもたくさん入ってくる。

いい加減鬱陶しくなったので確認せずにその相手の分だけ削除して拒否して電源を落としておいた。

これでゆっくり読めると思ったが、今度は部屋をノックする誰かがいた。

「まだ起きてるわね。」

起きていること前提にされている。

このまま黙っていようかと思った。だって、本をやめて寝ろと言われるのはわかっていたから。

しかし、相手は新一の事をよく理解している人間だ。そんなものが通用するはずがない。

「開けるわよ。」

と、入ってきた。

そして、行くわよと、腕を攫まれた。

何事かと頭の中ではクエスチョンが飛び交っている。

そして、連れてこられたのはお隣。

何故か温かいミルクを入れてくれている。

どうしてこんなところにいるんだろうなぁと思いながらそれをありがたく頂いていると・・・。

「明日は、例の二人が来る可能性があるから、今日はこっちで寝なさい。」

それを聞いて、なるほどとわかった。

とくに西にいる黒い奴なんて、朝の早くから来て迷惑していたのだ。
だから、ゆっくり寝るには丁度良い。

快斗も哀もしっかり考えているなぁと思いながら、与えられた部屋で就寝したのだった。









次の日。そう、ヴァレンタイン当日である。

蘭からメールがあり、こっちにいるという事を伝えると、今からこちらへ来ると言う。

ちなみに、朝からうるさいのが来たらしいが、二時間粘って帰ったらしい。

しかし、もう来ないとも限らない。

事件体質な新一だから、警視庁かとそちらに向かったに過ぎないのだから。

「相変わらずね。」

はいっと、蘭が綺麗にラッピングされた包みを手渡した。

「・・・ヴァレンタインか。」

「そうよ。忘れてたの?」

黒羽君も報われないわねと言われて、ぐさりときた。

もしかして、今日誘った理由はこれだろうか。なら、用意していない自分はどうしよう。

「ほら。今から作ったら?」

と、ご丁寧に材料も一緒にくれた。なんて準備がいいのだろう。

「いつものお礼もかねて、甘い物が好きな彼に作ってあげたらどう?」

それだけ言って彼女は帰っていった。

事情を知っている彼女だが、二人が一緒にいるのを見るのが結構好きらしい。どうしてかは知らないが。

泣かれるよりはましなのでいいのかもしれないが、まっすぐ言われると恥ずかしい時もある。





さて。チョコレートを貰ってしまった新一は、ラッピングされたそれを机の上に置き、材料として渡されたそれを見て、ため息をつく。

チョコレートなんて作った事がないので、どうしたらいいのかさっぱりわからない。

そこへ、遅いが朝食食べるわよと哀が食事を運んできた。

「あら。チョコレート?」

彼女が用意したのと聞かれてうなずいた。

「作るの?」

「作り方知らない。」

「あら。なら私が教えてあげるわよ。」

これを食べたらしましょうと、まずはそれをよけて新一に食事を取らせる。






食べ終わって片づけをした後。

チョコ作りが開始された。

エプロンをつけて、必要な器具を用意して。

やっぱり作ってあげるのならと、選んだものは、手間がかかる。

だけど、やっぱりこれと決めたらやるのが新一だ。

哀指導のもと、二回ほど失敗をしたものの、それは完成した。

しっかりとラッピング用の箱やら袋やりぼんまで用意されていて、蘭にはまた後でお礼を言わないといけないなと思いつつ、チョコを箱へと詰めていく。

その時だった。チャイムが鳴ったのは。

「来たのか?」

「私が出てくるわ。・・・とりあえず、それを全部詰めてしまいなさい。ラッピングしなくても、すぐに食べるからいいわよ。」

「おう。」

喜んでくれるだろうかと、出来上がったそれを見ながら、快斗の顔を想像しながら笑みを浮かべる。




こうして、快斗は新一の手作りチョコを頂ける結果になったのでした。