ヴァレンタインの後に







「そう言えば、出かけるのか?」

出かけようと、昨日言っていたことを思い出し、食べ終わったチョコの包みを片付けて快斗の方を見る新一。

「出かけるつもりだったけど、家で一緒にいるのもいいかなって思ってさ。新一はどっちがいい?」

「快斗がいいと思う方でいいぞ。」

そう言うと、少しだけ考えて、もう少しだけしてからちょっと出かけようかと言う。

それにうなずいて、丁度部屋に戻ってきた哀に頼まれた『手伝い』をして、さっさと帰れとも言われたのでお隣へ帰る事にした。

どうやら、これから実験の作業を再開するらしい。

まぁ、あいつらのことなんてどうでもいいし、すでに新一の頭の中から綺麗さっぱり消えているけれど。

「それにしても、新一おいしいよ。これ。」

また作って〜とお願いしてくる快斗に、たまにならなと応えた。

いつもしてくれる快斗。そんな彼が喜んでくれるのなら、またやってもいいかなと思うのだ。

そんなラブラブオーラを振り撒きながら、家へと引っ込んでいった。










ちなみに・・・。

「活きのいいモルモットが手に入って良かったわ。」

ちょうど、やりたいことがあったのよと、哀には黒い笑みが見られたとか・・・。

せっかく早く目を覚ました黒い人は、その笑みを見て再度気絶してしまったのは言うまでもなく。

憂さ晴らしもかねて、たっぷり楽しんだらしい。









さて。夕暮れ時。

出かけようと快斗が言うので、そうだなと立ち上がる新一。

しっかりとコートとマフラーと手袋をつけさせられて、二人仲良く出かけていった。

ある意味デートなのだが、新一はわかってなかったりする。

そして向かった先は快斗の家。数回しかまだ来た事がないところ。

行きたい場所ってここのことかなと思っていると、どうやらそうらしい。

玄関を開ける快斗。新一は入っていいのかわからず、そこに立って快斗の反応を待っていた。

新一の動きが止まっているのに気付いた快斗は、おいでと手招きして呼ぶ。すると、新一は恐る恐るながら、快斗の後についてくる。

すると・・・。

「あら、新一君。いらっしゃい。」

快斗の母が出迎えてくれた。

なんだか、自分の母親と同類のように思えたのは気のせいではないと思う。

「快斗ったら独り占めしちゃって、なかなか連れてきてくれないんだもの。」

会いたかったわーと抱きつかれた。やっぱりのりは自分の母親と似ている。

「もう、母さん。新一は俺のなの。」

母親から新一を引きはがして自分の腕の中に抱きしめる。

少し恥ずかしくて紅くなる顔を見られないように下を向く。

しかし、この二人にはお分かりのようで。

「もう、可愛いわ。さっさとお嫁さんにもらっちゃいなさい。」

「そのつもりです。」

いいのだろうか、この会話。

認めてもらえるという点ではいいのかもしれないが。なんだか複雑である。

「あ、新一君に用意したのよ。」

早くあがりなさいよと、玄関から奥へと引っ張って行く彼女。やっぱり快斗と似ている。

「ほら、これ。連れてきてくれないから、私がいっちゃおうかと思ってたの。」

どうやら、今日来なければ明日家に来るつもりだったらしい。

もしかしたら、だから快斗は連れてきたのかもしれない。

「ありがとうございます。」

渡されたそれ・・・チョコを受け取ってお礼を言う。

「駄目。そんな笑顔振り撒いちゃ。勿体無い。」

背後から伸びてきた腕に捕まえられて、視界を遮られた。

「はぁ?何がだよ。減るもんじゃねーだろ。それに、お礼は言わないと。」

「減る!母さんにはお礼はいいの。」

暴れても力で適うはずはないということは経験上わかっているが。

「でも・・・。」

快斗を見ても、ちらりと母親の方を見たりしていた新一。

これ以上は我慢できないと言わんばかりに、二階の自分の部屋へと新一を連れて行く快斗。

そんな息子と友人の息子の後姿を見て母は思う。

「少し見ない間に、すぐに大きくなるものなのね。」

新一君は綺麗さが増して、息子には勿体無いわとも言っていたが、それを二人が知るはずもない。