散々町長の娘に付き合わされて、くたくたになったシンイチ。 しかし、しっかりとカイトが宿へと運んでくれて、ぐっすりと眠る事が出来た。 そして、眠りすぎてしまった。 起きればもう、空高く日は上っていた。 「図書館!!」 今日の予定は、朝から図書館へ行くつもりだった。 それがどうだ。なんと寝坊をしてしまったのだ。 慌てて着替えて、カイトを連れて部屋を出て行くシンイチ。 もちろん、図書館へ向かう間、カイトの背に乗っているので、その時間を使って簡単な朝食交じりの昼食を食べた。 そうしなければ、この獣は図書館へ連れて行ってくれないから・・・。 旅をしながらどこまでも 図書館ではお静かに さて、やっと町の図書館へとやってきたシンイチ達。 読みたい本をぱっぱっと本棚から抜き取り、数十冊もの本を持って移動をするシンイチ。 カイトを背もたれにして、図書館の端でひたすら読書に励むのだった。 それを、うれしそうにシンイチの顔を見ながらひたすらじっとしているカイト。 まぁ、しばらくすれば、ちょっかいをかけはじめるのだが・・・。彼にとっては見ているだけも好きだが、やはり構ってもらいたいからだ。 たいていは、本の世界の邪魔をしなければ、それなりにじゃれたり頬にキスをしても本人が嫌がらないので、気をよくしながら時間を過ごす。 図書館で過ごす時間はそんなものだ。今まで通ってきた町の図書館でも。 だが、今回は少し勝手が違ったようだ。 なんと、あの二人はまたもしつこく現れ、旅を共にしましょうなどといいながらせまってきたのだった。 「是非、一緒に旅をさせて下さい。」 私が一緒でしたら、きっと旅先でも安全に過ごせますよと、自分の家の権力を示すサグル。 「わいがおったら、向かう所敵なしや。」 わいがおれば、この通りと上級剣士の資格を見せて、護衛をかってでるヘイジ。 だが、シンイチは読書の邪魔をされて不機嫌で、カイトはシンイチとの一時を邪魔されて不機嫌であった。しかし、二人ともそれを相手に覚らせるほど馬鹿ではなかったし、これ以上かかわるつもりは毛頭無いので、場所を移動しようかとシンイチは立ち上がった。 それを、腕を攫んで止めるサグルと、前に立ちはだかるヘイジ。どうやっても、話を聞いてくれるつもりもなければ、諦めてくれるつもりもないらしい。 がう〜と、かなり不機嫌そうにうなり声をあげるカイトだったが、二人はひたすら無視である。 「俺はお前らと旅をするつもりはない。」 じゃーなと、腕を攫む手を振り払い、そのまま立ち去ろうとした。 しかし、しつこい彼等は聞いてはくれないのだった。 「では、もう一度勝負して下さい。」 それで私達が負ければ諦めましょうと言い、そこまで言うのならしょうがないと、受けたのだが・・・。そもそもそれが間違いかもしれない。 面倒だが、外へ出ようと思ったが、二人はそんな事はお構いなしでやってくる。 「な、なんてことするんだよ?!」 本を傷つけるなんて許せないシンイチが目を見張り、そして次には怒りを見せてカイトに命令した。 本を守りながら、あの二人に退場してもらうようにと。 すぐさま二人の使い魔を倒したカイトはふと、もう一つの使い魔の気配を感じ取った。 「ちっ。」 自分としては情けない失態だ。 行動したが時既に遅し。 「貴方には出来ればご一緒したくないですので、大人しくここに残って下さい。」 「そうや。きっと、ここやったらいろんな奴がいろいろしてくれるさかい、楽できるで。」 新一を腕の中に収め、抵抗しようとするシンイチを力で押さえつけるサグル。 カッと、頭に血が上るカイト。シンイチに触れてはいいのは自分だけ。 「・・・カ・・・トォ・・・。」 かなり弱弱しく訴えるシンイチ。潤む目を見て、ぶちっと何かが切れる。 サグルとヘイジは本当の彼の恐ろしさをわかっちゃいない。 カイトにとってシンイチは大切なパートナーであり、それと同時に愛しい恋人でもあるのだ。 旅を出る前に告白し、なんとかわかってもらえ、旅の途中でやっと答えをもらえたのだ。 そしてこれからもっと甘く、そして・・・まぁ、それは置いておいて。 らぶらぶな旅をしていく予定だったのだ。だというのに・・・。 「テメェなんかに、シンイチは渡さねぇ!」 人の姿になり、突っ込んでシンイチを腕の中に取り戻す。 さすがにサグルとヘイジは咄嗟の事で反応が出来なかったが、カイトの腕の中へと奪われたのだとわかり、激怒する。 もともと茶々を入れたのは彼等だが、彼等は彼等の思い込みでいっぱいのようだ。 抱きしめてくれる腕の中で、ぎゅうっとカイト背中に腕を回す。 「今すぐ、あいつ等どうにかしろ。これ以上本を傷つけるようなら、容赦しなくていいから。」 二人は、シンイチにとって本より下の位置である。 「了解。」 にやりと笑みをみせたカイトに、今度は何かと構える二人だったが、気付かない間にまたあの広場にいた。 広場では突然現れたことでざわめきが聞こえるが、それ以上に二人は驚いていた。 「一瞬で、こないな数の瞬間移動やと?!」 「ありえません。現代でわかっている使い魔で出来るものはいません。」 しかも、二人にとってはカイトのような人型で普段は黒い獣となる使い魔なんて、知らなかった。 「大事なシンイチにちょっかいをかけた挙句、本を傷つけたり回りに迷惑かけた代償を受け取れ。」 にっこりと笑みを見せていたカイトの目が、突如怒りで溢れ、一瞬だけ目の色が変わった。 白銀の毛並みを持つ獣と同じ、白銀色に光る瞳。特有なのか、少し紫がかっているようにも見えるそれ。 一瞬だったが、その瞳が彼等の動きを抑え、獲物を逃がさず捕らえる。 「こっちも忙しいんだ。二度と関わるな。」 攻撃が彼等にヒットし、その場で崩れ、倒れる。 倒れた彼等には興味なしと、背を向けてシンイチの方へと歩いていく時、その場の誰もが彼からある姿の影が見えた。 もしかしたら、それは幻覚だったかも知れない。だが、大勢の人間がそれ見た。 黒い髪ではなく、白銀色の毛を靡かせた、あの白銀の獣と同じ色の毛を持つように。 そして、伝説や絵でしかしらない白銀の獣の姿と被る。 「まさか・・・。」 だれもが口ずさむが、真実は闇の中。 だって、彼等はすでに何処かへと消えていたから。 集団で白昼夢をみているような、そんな感じ。 「よし。これで心置きなく邪魔もなく読める。」 邪魔な二人を倒して広場に置き去りにして、彼等は図書館へと戻ってきていた。 読みたい本をいくつかあさり、また同じ場所でゆっくりと本の世界を楽しむ。 背中に黒い獣が座り、それを背もたれにしながら、のんびりと過ごすシンイチだった。 その光景が、誰もが何か邪魔をしていないような雰囲気に駆られ、近づくことなく避けてくれていたので、何の邪魔もなく過ごせたのである。 さて。出してきた本は読み終え、他にもないかと探しに行こうと立ち上がろうとした時だった。 「やっと、見つけたわよ。」 突如、長い黒髪の美女と、赤茶色のセミロングの美女が現れた。 「あ、シホ。それにアカコ。」 「うわっ、なんでぇ?!」 二人ともいろんな意味で驚いた。と同時に、カイトはせっかくのらぶらぶな旅に邪魔がという独占欲丸出しで慌てていた。 「まったく。探したのよ。」 「そこの男の方が力が強いから。なかなか見つけられなくて困っていたのよ。」 出て行く前、シホ達は遠出をしていた。 そして、シンイチ達が旅立ってから10日後に帰ってきて、慌てて追いかけてきたのだ。 しっかりと許可も取ってきたし、最低限の荷物で追いかけた。 主治医がいたら何かあっても大丈夫だろうと、問題なく許可してくれたので、手間取ることなく出発できたのだが。 気配はつかめないし、シンイチ達は進むのが速かった。 「で、ちゃんと人間らしい生活しているのよね?」 「あたり前だろ。こいつが許すわけないだろ。」 まだもたれている背中にいる獣を指差す。 「それもそうね。」 ま、志保の場合、おろそかにさせるようなら、最強と呼ばれたこの獣だろうが、容赦しない。 「で、どこまで進んでいるのかしら?」 獣の恋心は知っている彼女達。 シンイチ達の旅立ちの日は知らないから、関係がどうなったのか知らないのである。 「そりゃぁ。告白して、やっと受け入れてもらっちゃったぁ〜。」 いつ間にか人型になったカイトが聞かれて、カイトが答えて顔を真っ赤にしている間、ぎゅうっと抱きしめて、幸せオーラを撒き散らしながら答えた。 「そう。」 呆れるぐらいご機嫌で、この勢いでは惚気られるので打ち切る。 「とりあえず、私達も同伴するわ。」 ちょうど、薬草の研究や新しい医学書に興味があるからだとか。 紅子の方も、新しい魔術書の読み漁りがしたいらしい。 意見は同じなので、今日から四人で旅を続けることになる。 カイトは少し気に入らないが、二人がいたらシンイチを守る壁は完璧に近いので、その点はいいので諦めるのだった。 「そうそう。無茶させない程度になら、いちゃついていても構わないわよ。」 しっかりと釘を刺す志保。 それは痛いと、めそめそ涙を零していじけるカイト。 その点には鈍いシンイチは意味がわからず、いじけるなよ、行くぞとカイトを励ましてみる。 その後、シンイチと抱きついて押し倒されるのだが、しっかりと蹴り上げて、本人気付かぬままに回避していた。 「彼が相手なら、なかなか難しいわよね。」 目の前で怒って怒鳴り散らしているシンイチとごめんなさいと必死に許しを請うカイトの姿を見て思う二人だった。 今日も平和に、彼等の時間は過ぎる。 二日ほど町に滞在した後、ある程度この町の本は読み漁れたので次の町へと出発する。 今までは二人だったけれど、新たな二人を足して四人で続く。 知らぬ間に、シンイチは無自覚でカイトに甘えていたが、普段の彼からはあまり見られないような表情が多かった為、少しうれしく思う志保と紅子。 その頃。まだ諦めの着かない愚かな二人は旅立った彼等を追うのだが・・・それはまた別のお話。
|