カイトが何の問題もなく宿をとってくれて、

眼が覚めたら自分はカイトの腕の中だった

別に、昔寂しい時に一緒に寝た事があるし、

何より安心してゆっくり休めるからカイトの腕の中が一番楽だった

だからか、今日もゆっくりと寝られた

コナンはカイトとは自分を挟んで反対側で眠っていた

今日は平和な一日になりそうだなと思った

それなのに、どうやらこの町は平和な一日をくれるつもりはないようだ

どたばたと下で忙しく仕事をする人の足音が聞こえてくる

そして、さらに昨日町へやってきた強い旅人と町長が勝負をするんだという声が聞こえてきた

耳がいいカイトやコナンもそれを聞いて驚き半分、諦め半分

そして、プラスしてシンイチを慰めるのであった

 

 

 

 旅をしながらどこまでも

  ゆっくりと本を読む時間がほしい

 

 

 

「もー、この町はなんなんだよー。」

人が折角平和にそれも争いごとなく過ごそうとして旅をしているというのに、わざわざ巻き込んでくれる。

全ては森から始まって昨日のあれ。そして、最後と言わんばかりの今日。

まったくもっていい迷惑である。

コンコンとやはりといっていいのか、宿主であろう人物がノックして入ってきた。

「おはようございます。」

かなり笑顔の主人。今日の事を知って、騒ぐギャラリーの一人だろう。

「えっと…。」

「今日の午後1時に町長の屋敷へ行けばよいのでしょう?」

昨日の二度にわたるもので、かなりやる気の無い人間だとは町長も承知済みだろう。

だから、念には念をということで、この宿の主人が連絡を受けてわざわざお出まししてきたのだろう。

「あ、はい。その通りです。」

「気にしなくても大丈夫ですよ。貴方が町長さんからいくらもらったか知りませんが、それで無理やりにでも連れて来いと言われて今にいたっても、どうせ逃げたところで上手く誘導されて結局はする羽目になりますから。」

嫌味を入れながら、全てお見通しだと言ってやる。

さすがに主人もそれ以上言わず、すごすごと退散していった。

『さっすがシンイチ〜。』

「教えたのはお前だろう?」

『だって、オレの言葉は通じないし〜。』

「何を言うか…。お前もコナンもあいつ等も、『言葉を話す』ことぐらい簡単だろう?」

「まぁまぁ、そんなことは置いておいて。」

もうすぐお昼になる。今のうちに朝食のような昼食を取っておくべきだ。それでなくても、不規則で不健康な生活をしているシンイチだ。言わないと食べる事さえしないんだから困ったものだ。

『さて、何を食べますかねぇ?』

「…さか。」

『駄目。そして、それ以上言わないで。』

半分涙を浮かべながらカイトは言う。図体のでかい獣の癖に、あんな小さな魚が駄目なんだという。いったいどういう体質で過去にどんな事があったのか知りたいぐらいだ。

『オレ、一度戻っていた方がいいか?』

「そうだな。あまり人数が多いと目立つからな。戻っててくれるか、コナン?」

ひょいっとシンイチが指を動かしてパチンと鳴らせば、コナンの姿は煙のように姿を消した。

使い魔というものは、主の命令でこの場所に呼ぶ事も、異空間と呼ばれる場所に送って置く事も可能なのである。いろいろと、便利な物だ。

だが、この図体のでかい面倒な獣は戻る事はよしとしないから困りものだ。

「お前もたまには戻れよ。」

『やだね。シンイチが心配だから。ほら、早くしないとお昼になっちゃう。』

はやくはやくとせかされて、新一は宿を後にしたのだった。

 

 

 

昼ごはんを食べる為に、シンイチ達は空いていた一件の店に入った。

どうやら、ここには果物酒が置いてあり、街一番のものがそろっているらしい。

さっそく、シンイチはカイトに言われるので仕方なくパスタを頼み、お勧めの果物酒を一つ頼んだ。

カイトの分として、もう一つ別にパスタを選んだが、今思えば別に必要なかったかもしれない。

注文した品がテーブル上に並べられ、シンイチは早速パスタを食べた。

結構さっぱりとしていて、おいしく食べられた。

だが、お邪魔無視と言うものはしつこくて、人の話しを聞かないというか、昨日のあの二人組みが再びシンイチ達の前に現れたのだった。

せっかく、おいしいパスタと果物酒を堪能していたというのに、まったく迷惑な人達である。

ちらりとカイトの方を見て、カイトも逃げるのに賛成してくれたようだ。

すぐにカイトは獣の姿に戻り、残す事に躊躇していたシンイチの分を合わせて一口で平らげた。

シンイチはすぐに店の人におつりはいらないからと、これだけあればたりているだろうという金額を渡してカイトの背に乗って店を出て行った。

もちろん、驚きながらもあの二人は追いかけていった。

取り残された店の人間や客はいったい何があったのか理解できずにいたが、手元に残された、あきらかに倍額も払われているそれに渡された人は驚いて、持っているのが恐ろしくて店主に渡す始末だった。

 

 

店を出て、なんとかあの二人を振り切ったシンイチは、そろそろ呼ばれている町長の屋敷へ行くかとカイトに聞けば、え〜と言われた。

どうやら、いつものカイトなら面白そうとなるのだが、今回は嫌らしい。

『どうせ、コナン達を使うつもりでしょ?』

「あたり前だろ?」

『じゃぁ、暇じゃん!』

「…そういう問題じゃないだろ…。」

出来ればシンイチも行きたくはないが、後々面倒な事になっても困るので、カイトに頼んで、あの二人に遭遇しないように空から屋敷を目指した。

なんと、カイトは漆黒の翼も持っていたのだ。

「本当、お前って何でもありだよな。いつも思うが…。」

『いいでしょ〜。オレは天才だからね〜。』

「…馬鹿と紙一重だがな。」

『うわ〜、ひど〜い。カイト君泣いちゃうよ〜?』

「…勝手に泣いてろ。知らねー。」

めそめそと泣きまねをしても、嘘だとわかっているのでさらに突き放されて相手にしてもらえない。

それでも、カイトはシンイチから離れる事など望まずに、どちらかというともっと親密な関係になりたいと願いながら、町長の屋敷を目指したのだった。

 

 

 

約束より30分はやく着いたシンイチとカイト。

だが、昨日から待ちくたびれていた町長はすぐに始めると、時間が早まったのだった。

さて、これからはじめるぞと言う時に、勝負を申し込んできた町長は、何とも賑やかなお嬢様だった。名前はソノコと言うらしい。側には幼馴染みだというランもいる。

聞いたところによると、今回は町長というよりも町長の娘とするらしい。

「よく来てくれたわね!さぁ、はじめるわよっ!」

って、あの格好いい方がいないじゃないと叫ぶソノコ。どうやら、カイトの事を言っているようで、彼が人間だと思っているようだった。

「もう、いないんじゃ駄目じゃない。二対二でそれぞれ使い魔一体で行こうと思ったのに。」

だから、ランも呼んだのにと文句を言う。

シンイチにとってみれば、カイトがこの隣にいる獣だと、昨日あの二人と対戦した時にわかっているはずなのだが、どうして知らないのか謎だった。

というか、このソノコという存在自体も謎である。

なんだか一人で勝手に叫んで勝手に怒って勝手に文句を言っている。ちなみに、シンイチは半分以上もソノコの話をまともに聞いてはいなかった。

彼の頭の中では、今日読もうと考えている本の事でいっぱいだったからだ。

「まぁ、いいわ。貴方は強いんだもの。二対一でも充分ね!」

なんだか勝手に自分に有利なように状況を作っているのだが…。

「そのかわり、そっちは二体使い魔がいるようだから、二体使ってもいいわ。」

だが、精神力がどれだけ持つかが問題でもある。使い魔は主の精神的な問題で強くも弱くもなるからだ。二体同時に使えば、一体を扱う時以上に安定した強い精神力を求められる。

「…二体ねぇ…。」

「どうしたの?一体でもいいけど?」

「なぁ。」

「何?」

「四体じゃ駄目か?」

今更助っ人を頼んでも駄目よ〜と言っているソノコの耳に、とんでもない発言をくれたシンイチ。

「な、何馬鹿な事を言っているの?!」

そう、通常なら馬鹿な事である。

すでに知っての通り、シンイチが連れている二体の使い魔はかなり強いものである。なのに、四体も持っている時点でもすごいが、それでいいかと聞いてくるなんて、自殺行為である。

「馬鹿って何だよ。二体じゃバランスがよくないから四体って言っているんじゃねーか。で、どうなんだよ。」

しばらくソノコは考えて、いいわよと答える。そして、自分とランもそれぞれ二体ずつ出すからそれで四対四で行きましょうと答えを出した。

やっと、決まり、勝負が始まる。

「四対四、先に四体ともダウンした方が負け。それでいいわね?」

「ああ、問題ないよ。」

同時に八体の使い魔が現れ、勝負と言う名のゲームが始まる。

 

 

ソノコが今回に選んで出したのは黒い兎を白い兎。だが、一般常識で知られている兎とは違う。何処が違うといえば、人の身長とあまり代わりがないほどの大きさという事と、鋭い目つきだろう。

『…似合わずすごいというか、ぴったり当てはまっているというか…。』

「いいんじゃねー?」

そんな感想を漏らしていたなんて、ソノコは気付く事もなかった。

そして、ソノコの使い魔の隣に現れたのはこげ茶色の毛並みの狼と同じく熊であった。

「…。」

『なんか、こっちの子の方がすごいかも〜。』

ソノコよりも綺麗で美人なランが勝負で使う事にした使い魔を見た感想。

きっと彼等は彼女がこの町一番の空手の達人だと知らないからそう思ったのだろう。もし、知っていれば成る程と納得できたかもしれない。

だが生憎、彼等はそんな他人の事情を知ってゆっくりしているほど時間はなかった。

そして対するシンイチはというと、カイトは出さずに五匹かどうかはわからないが、人形のコナンを含めた子供が四人現れた。

「頼むな。」

『うん、大丈夫。任せて!』

『ご期待に添えるようにします。』

『あとで、うな重食わせろよ。』

『…。』

「あとでな。あとで皆で夕食食べような。」

なんだかピクニックへ行くような保育士さんのようなシンイチ。隣にいるカイトの苦笑が、心の中でどんな事を考えているかわからないシンイチにはまた呆れているんだろうなとしか思っていない。

「へぇ。可愛い使い魔じゃない。ねぇ、ラン。それも、言葉を話すわよ?」

はじめて見たわ〜と騒ぐソノコ。そりゃそうだ。人の言葉を理解して話す事が出来る使い魔は一握りだ。それも、五体持っていて五体ともそうであれば珍しいだろう。

「…なんだか、この勝負の勝敗がはっきりと見えてきたんだけど。」

「い〜じゃないの。経験は必要よ〜?さぁて、行きますか!」

なんだか前フリが長かった気がしたが、やっと勝負開始のゴングが響いたのだった。

 

 

 

勝敗はランが思ったとおり、シンイチの勝ち。

コナンを司令塔にして、残りの三人がそれぞれ持つ力を扱いやすいように変化して、コナンが彼等を操っていく。

「…あんなのははじめて見たわ。」

「でもすごいじゃない。滅多にお目にかかれないわよ!」

それもそうだ。使い魔が他の使い魔を主同様に『使う』ことはしない。だが、シンイチの使い魔達は特殊な奴等が多く、一般常識がまったくといっていいほど通じなかった。

コナンは風を主にして、多少電気を空気を通して流す事が出来る。それに合わせて、ミツヒコの炎とゲンタの地とアユミの水を上手く使い、相手を四体倒したのだった。

「ゲームは終わり。私達の負けよ。」

久々に強い相手で楽しかったというが、負けたのは相当悔しいようだった。

シンイチにしてみれば、この二人の使い魔もかなりの使いだとわかった。だが、まだまだ甘いところがある。それさえ直せばもっといいように行くと考えた。

だが、操る主に教える事はしない。自分自身が気付いて考えなければいけないからだ。そうしなければ、バランスが崩れて契約が壊れてしまう。

「じゃぁ、もう帰ってもいいですか?」

「いわよ〜。あ、でも夕食ぐらい食べて行きなさい。その子達と一緒にこれから夕食なんでしょ?」

タダなんだからいいでしょと、半ば断るまもなく無理やり拉致られてしまった一行であった。

 

 

こうして、今日も長い一日をシンイチ達は終えたのだった。

だが、長い一日であったのにもかかわらず、シンイチはゆっくりと本を読む時間はなかったのだった。

そのおかげで、少し不機嫌だったのを、必死にカイトが宥めるのであった…。

 

 

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