白銀に輝く毛並みを持つ獣 伝説とも最強の全ての力を扱える獣 人の配下に下る事をよしとしない獣 その獣は、ある時人の配下に下った その噂は瞬く間に広がり、誰もが信じられず もし本当ならば、主を倒して手に入れようと考えるものも現れた この世界では人とパートナーを組んで旅をする者が多い 何より、パーティを組んで旅をするのも珍しくない そんなこの世界では最強と呼ばれる獣がいた その獣を、難なく手に入れ操る者もいた そして、それを知った多くの者達はその獣の主に対決を申し込んだ 何より、この世界では一番強いとされる『マスター』を選ぶものがある マスターに選ばれる事は、誰もが望み、そして手にいれたいと願う地位と権力 だが、そう簡単にはいかない パートナーとなる物達が弱かったり、主が弱かったりすれば、どんなにものがよくても人がよくても、バランスは崩れる 何より、どの世界でも言われる事は同じで、上には上がいるのだ 今、この上にはマスターの次のその獣の主が来ている事だろう そして今 マスターの代替わりの大会が開催されようとしている このお話は、そんな世界でのある一つの旅路を追ったもの…
旅をしながらどこまでも 森での出会いが始まりを告げる
今日も天気は快晴。 雲もほとんどなく晴れていて、風通りがよく気持ちがいい一日になりそうな日。 そんな日に、のんびりと道を進む一行がいた。 「うるさい。」 『だぁってぇ〜。』 他の人からはガウガウと獣の鳴き声に聞こえるが、一緒に歩いている人間にはしっかりと会話が出来ていた。 そんなうるさく吠え続け…訴え続けるのは紫の輝きを持つ瞳と漆黒の毛並みを持つ大型の猫科の動物のような生物だった。分かりやすく言えば、黒い獅子というところか。 「だってじゃないだろ。」 『そうだけどさ。最近新一構ってくれないし〜。』 「…黙ってろ。」 『うわ〜ひどい〜。』 勝手に言ってろと、無下に扱われても、気配は穏やかでにこにこしているような獣。 これでも一応、この世界では一頭しかいないかもしれない珍しい奴なのだが、シンイチはそんなありがたみなどどうでもいいのか、それとも長年の付き合いからなのか、扱いは少々ひどかったりもする。 だが、獣のカイト本人があまり気にしている様子もなく、反対にそんなシンイチもいいんだよ〜、さすがはシンイチなどとほざいているので問題はないのかもしれない。 「この森、結構短いみたいだな。」 『あ〜、話聞いてくれてない〜。』 一人勝手にしゃべっていても、相変わらずマイペースに地図を見ながら方向を確認しているシンイチを見ながら、少しめそめそとするカイト。 それでもやっぱり、相手にされる事はなく、放って置かれてさっさといってしまう。 『あ〜、待ってよ〜。』 黒い獣のカイトは図体に似合わず賢く、そして素早かった。 たとえ、伝説の獣ではない漆黒の毛並みだが、ほしいと思うものはたくさんいるだろう。 何より、行く先々の町でマスターを目指す者達がいろいろな者達に勝負を挑んでいる世の中であり、町中では長として君臨する者が、来る者全員に勝負をさせてからでなければ出さないというようなもので、のんびりと平和に暮らしたいと願うシンイチにとっては、はた迷惑な話である。 なら、故郷で大人しくしていればいいという話になるが、生憎シンイチは本や謎が大好きで、いろいろな町を回って図書館で本を読み漁ったり、その町の謎に触れてみたりするのが好きなので、あらかた故郷での本を読みつくして、謎も解決してしまったので、出てきたというわけだ。 その相棒として、幼い頃からなぜか勝手に懐いて一緒にいるようになったこのカイトと一緒に行く事にしたのだ。 さて、数時間程森を歩いていたシンイチはふと、ある気配に気付いた。もちろん、カイトもしっかりと気付いている。 いくら気配を上手に隠していても、この二人からすればばればれなのだった。 何せ、彼等はただののんきな旅をしている者達ではなく、尋常な程に気配に敏感で、そして知恵も回って武術や様々な技術を手に入れてきたシンイチであるし、もとから天才なカイトである。 まぁ、シンイチに関しては母親に似てしまい、この本人としてはあまりうれしくない美貌を受け継いでしまったのだ。それと同時に、上で述べた技術全ては父に似たのだが。 それによって、可笑しな輩がよくちょっかいをかけてきたり、有名すぎる両親の関係で誘拐される事もあったので、身を守るすべとしていろいろ訓練をしてきたのであった。 なので、只者ではなくなってしまったシンイチはしっかりと様子を伺ってくる何ものかの気配を感じ取っていたのだった。 『やだねぇ。せっかくのシンイチとの二人っきりの時間だったのに〜。』 「うるさい。何度言えばわかるんだ?」 『そりゃぁ、シンイチがオレの愛を受け止めてくれたら。』 「いってろ。」 『あ〜、流す〜。本気なんだぞ〜?』 本気とか言いながら、何故疑問系なのだと、反対に問いたいシンイチだったが、どうやら相手が登場したようなので、気にしない事にした。 「気付いていたとは…。さすがというべきですか、旅人さん。」 現れたのは、少々時代遅れとも言うべきか、俗に言う和装というもので、分厚そうな眼鏡をかけた背の高い男で、腰には刀を持っていることから、サムライといったところだろうか。 「何か、御用ですか?」 『そうだぞ〜、せっかくのシンイチとのらぶらぶの時間を邪魔しやがって!』 シンイチの言葉以外は、がうがうと吠えているようにしか相手には聞こえない。 「どうやら、警戒なさっているようですね。」 カイトが吠えることから、不振人物とみなされているのだと思っている男。実際は、ただうるさくどうでも良い事を吠えているのだが…。 「決して妖しいものではありませんと、言っても信憑性がかけますので、まずは説明させていただきます。」 そう男は言って、男のパートナーであろう『それ』が姿を見せた。 それは九つの尾を持つ真っ白の毛並みの狐のような奴で、目は赤く、まるで炎のようである。感じるものからしても、きっとこの狐は炎系統を操るものなのだろう。 「この通り、私もまた貴方と同じ。只違うのは、私は旅をする事もなく、マスターの座を狙っている事も望んでいる事もないということ。貴方はどうなのかは知りませんが…。」 「それで、いったい何の用ですか?出来ればはやい内に町へ行きたいのですが?」 町はもうすぐなのは間違いない。賑やかな人の声が微かに聞こえてくるし、何か食べ物のいいにおいも香ってくるからだ。 「どこの町でも長がまず力試しのように、そしてはやめに強いものは落としておくといったことで、大抵の長がマスターの座を狙っている事は旅をしているのならご存知ですよね?」 「そういえば、そんな感じでしたね。以前いた町でも。」 「この先にある町では、まず私と力比べをするんです。」 それを聞いて、なるほどと納得できたシンイチ。 つまり、先にある程度レベルの強い者を置いておいて、そのレベルを超えているものとだけ戦うといったもので、全てに対して対戦するよりその方が楽で疲れさせる事が無いから、万全の体制で望めるといったものだろう。 「では、貴方の勝ちということで、私は行きます。さようなら。」 そう言って、新一は戦う気はないのだと態度で見せてそのまま去っていこうとした。 だが、相手も簡単に引いてくれるような大人しい人ではなかった。 「…それだけの力のあるものを持ちながら、どうして負けだと言うのですか?」 仕掛けた攻撃を、しっかりと止めたのはシンイチが連れていたカイト。 不意打ちでもあり、速度もそれなりにある九尾の狐の攻撃をあっさりと破っただけではなく、反対に仕掛けたのだ。 炎を消す水で。 「…それにしても、貴方は水だったんですか…。」 「…。」 「どちらにしても、通るには私と戦ってからでなければいけませんよ?」 それが合図だったのか、相手は再び仕掛けてきた。 「ココノ。行きなさい。」 一度吠えた後、ココノと呼ばれた九尾の狐は主の命令に従って、すごい勢いで襲い掛かってきた。 「…しょうがないな…。すぐに終わらせろ、カイト…。」 『後で、御褒美頂戴ね。』 なんだかハートマークがつくような勢いで話すが、もちろん相手には吠えている声しか聞こえていない。 イエスもノーも言わないシンイチに、御褒美がもらえるものと勝手に決定して、カイトは飛び掛ってくる相手を交わし、呪術を使う。 相手も対抗すべく、炎を巧みに操って応戦するも、カイトを相手にするには弱い。 『…悪いけど、いつまでもシンイチとのらぶらぶに邪魔されるのはごめんだから、終わらせてもらうよ。』 急に鋭くなる目。変わっていく瞳の色。 相手はカイトを水の属性だと思っていた。確かに間違いではないが、間違いでもあった。 正確には、水だけではなく、四大元素だけでもなく、木といった緑を足した五大元素を操れるのだ。 だから、炎も操れる。このココノよりも圧倒的に力の差を見せ付けるような、炎を操る事が出来る。 まぁ、五つの力がそれぞれ仕える事をわざわざ教えてやるなんて親切心はないので、相手には水と炎が使えるという認識だけでいてもらおうと思う。 『…炎帝降臨…。』 カイトの吠える声と共に、導かれるように現れたのは雷のように、巻き上がった炎。避ける事を許さず、ココノに襲い掛かった。 「ぐわぁぁあああああっ!!」 「ココノっ!」 炎が治まった後、相手はココノに駆け寄ったが、ココノはダウンして消えた。 正確には、存在を維持する為に一時的に小さな姿をしたり、人目では見えなくなったりするのだ。 体力の回復の為に、必要な事みたいだ。だが、まだ人間様は解明しきれていないので、はっきりとはわからないが・・・。 まぁ、いる事は気配でわかるし、小さくなっても目が届くので、あまり人間様は気にしていないみたいだ。 「…じゃぁ、もう行ってもいいよね?」 「ええ。貴方は合格しました。きっと、町へ着いたらいろいろ勝負を申し込まれる事でしょう。」 なんだか嬉しくない事をいってくれると思うが、事実なので仕方が無い。だからこそ、この戦いを控えたかったのだ。 そう、ずっと戦いの一部始終を見ていた鳥がいたのだ。誰かと契約を結ぶ鳥が。 最初にいたのはカイトがすぐに片付けたが、何度もやっても仕方がないので放っておいたのだが…。面倒な事になったかもしれない。 「ま、その時は逃げるよ。」 「…頑張って下さい…。」 これで、もう終わりだという二人。顔をあわせる事は運がよければあるだろうが、この広い世界、それもこの森を守るとなれば、早々ないだろう。 「…そう言えば、まだ名乗っていませんし、お名前を伺っていませんでしたね。私は、マコトと申します。」 終わってからで、それもさようならという時で今更という感じもするが…。 「…シンイチ…。またな、サムライのマコトさん。」 後ろを振り向くことなく、ただ後ろに見えるように右手をふっただけで、すぐに視界からシンイチの姿は消えた。 「…本当に、強い方でした…。」 完全に手加減をされていても、圧倒されるようにやられてしまった。 「まだまだ、修行不足ですかね?」 一度、森から出て、強い物達と勝負をして経験をつむべきだと、決意するマコト。 そんなマコトの決意も知らず、やっと街が見えてきたと、宿をどうするかなとのんきな事を考えているシンイチ。 御褒美もらえる〜と気味悪くご機嫌な獣を連れて、町へと入って行った。
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