そいつが居ついて、はじめての仕事。 ・・・窃盗という名の仕事。よくもまぁ、探偵の前でやってのけるものだ。 何故か、気にしていないのだが・・・。それはそれで問題なのかもしれないが、あいつの事情を知っているので、なんとも言えない。 そういえば、今夜は雨が降るらしいが、大丈夫なのだろうか?
その雨が、さらに問題を起こすなんて、今の新一は考えもしない。 第一に、誰も思いはしないだろう。 最初に仕組んだ魔女でさえ・・・。
一時的な帽子との別れの切欠
少し雨が気になって起きて待っていようと思ったが、最近の疲れからか眠気に襲われた。 少しうとうとしていたら、ふと、あいつの気配を感じ、確認しようと起きればそこに彼はいた。 だが、困った事に、そいつが本当に本人であるか少し疑問がある。 「お前・・・。」 そう。お隣の少女ほどはいかなくとも、彼は小さいのだ。 自分より少し大きいはずなので、これは明らかに可笑しい。 何より、かねてからこの人懐っこさが犬だと、それも大型犬だと思っていたからか、耳を生やして、尾をふりふり振っているではないか。 「・・・まさかっ!」 そこで気付いた。そういえば、かつてあったではないか。自分も彼も猫の耳と尾がついてしまう出来事が! はっと、気付いて完全に眠気など抜けてしまう。 「その通り。ここはあの帽子の中です!」 かなりうれしそうに答えてくれるそいつ、快斗はやっと新一が起きた〜などと言いながら、抱きつくそれ。 そして、恐る恐る自分の状況を知ろうと手を伸ばす。 あるのは、長い耳と丸い尾。 ・・・これは、何だろう・・・?現実逃避をしても、誰も文句はいわないだろう。そう、絶対! 「あ、それはね、可愛い兎さんだよ〜。」 聞きたくない〜と思うが、残念ながら、しっかりと聞こえてしまう、うれしそうな快斗の声。 「うわ〜?!」 猫の次は兎か?!なら、ここは何処の国だ?!こいつは犬だぞ?! と、パニックを起こす新一。だからか、気付かなかった。いつのまにか、迫って来た快斗が自分を押し倒していただなんて。 「って、ぎゃー!てめぇ、何してやがる!」 体格の差は少しあるものの、びくともしない、自分を押し倒す快斗の腕。なんだか、むかつく。 そして、今になって出来れば気づかない方が良かったかもしれない事に気付いた。 もしかしたら、この黒い犬だと思っていたものは、黒い狼だったのかもしれない。 言葉に出てしまっていたのか、快斗がしっかりと、狼だと答えた。そして・・・。 「こんなに可愛い兎さんを見逃すなんて、狼としては勿体無いと思うでしょ?」 そんな問題じゃねーと言っても、聞いてはくれません。 「大丈夫。ちょっといつもより身体は小さいけど、結局は同じだし〜。」 口は塞ぐと言ったことと、抵抗力を奪う為にキスされて、いつの間にか流されてしまっていた。
動くことなく・・・正確には動く事が出来ない新一は、いつの間にか先ほどまでいた部屋とは違っていてかなり驚いていた。 いきなり、部屋から森の中にいるのだからしょうがないだろう。きっと、間違った反応ではないはずだ。 しかし、最近のこの可笑しな経験から、だんだんと反応の仕方が変わってきていることも事実なのだが、前はこんなことはなかったのだから、驚くにきまっている。 「やっぱり、今回はおかしいよねぇ。」 すでに服を着ている快斗がのんきにそんな事を言っている。 現在は、新一の服を着せているのだが・・・。 「雨が降ってきてやばいって思ったんだけど・・・。」 「結局、降られたのか?」 「そうなんだよね。そしたら、シルクハットがぐにゃぐにゃになってつぶれてさ。困ったなぁと思えば、いつのまにかこちら側に来ていてさ。そう思えば、場所が変わって今度は新一がいたんだよ。」 と、自分の経緯を慌てることなくのんきに話してくれる。原因なら、きっとそれだねぇと着替え終わりと、にこにこしている。 だが、新一にはのんきに話す内容とは思えなかった。 少し間違えると、それはかなり恐ろしくリスクを負うかもしれないことだ。 前回は戻れたが、いつも同じように戻れるとは限らない。 「どーすんだよ!」 ここはシルクハットの中。長いので面倒になり、帽子の中と新一は言うのだが、その中にいる以上、元が駄目になれば、戻れない可能性だってあるのだ。 つまり、二度と戻れずこのままここで彷徨い続ける事が可能性としてあるのだ。 そう、このまま。それは、この耳や尾を仲良くしなければいけないという事。 「嫌だ〜、どうにかしやがれ〜。」 快斗の肩をつかんでぐんぐんと振り回す新一。 冗談じゃない。こんな兎の姿で狼と一緒にいる何て、本当になんとかしないといけない。 第一、食物連鎖的に考えれば、兎は狼に食べられてしまうではないか。 毎日毎日つき合わされればこっちは死ぬ! 万年発情期男に付き合いきれるようなものじゃない。 今日もいまのでかなりくたくただというのに・・・。 「なんとかしやがれ〜。責任とれ〜〜!」 先ほどよりも激しく快斗を振り回す。 「だ、だったら、紅子がなんとかしてくれるっって・・・。く、苦しい・・・。」 そんな事を言われても、落ち着いていられません。 何より、新一はまだ快斗が言う、そのクラスメイトで魔女と名乗る『紅子』という名の人と会った事がないのですから。 知らない人に助けを求めるなんて、無理です。 そう思った矢先・・・。 快斗が思ったとおり、予想外の事が起こったので来てくれた魔女に話しかけました。 いったい誰に話しかけてるんだと快斗がいる方向を見れば、そこに人がいました。 長い黒髪の紅い服を着た女。 「おい。俺たち今すぐ戻りたいけど、戻れるか?」 「あまり長居をすると、戻れなくなるから。今から戻すけれど?」 「だってさ。良かったな、新一。」 「良かったじゃねー。だいたい、全部お前のせいだろーがっ!」 また、止まったと思ったが、ぐわんぐわんと頭を振られる。そのうち、頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。 「・・・戻らないの?」 「あ、戻りたいです。お願いします。」 一向に話が進まない為、言葉を差し込めば、しっかりと反応を返す新一。よっぽど、嫌なのだろう。
こうして、なんとか戻ってこれた彼等。 そして、見つけたのはゲル状というか、どろどろに解けた帽子がそこにあった。 「・・・これ、本当にお前の帽子か?」 「・・・違うと、思うのですが・・・。」 そんな二人に、あきれ果てる紅子。どうやら、まだ気付いていなかったようだ。 快斗としては結構楽しんでいたので、そんなことは気にしていなかったというのが事実なのだろうが。 「それは、私があの日摩り替えておいたもの。いい加減、気付いてもおかしくはなかったのだけど。」 気付かないなんて、だんだんぼけてきたんじゃない?と嫌味を言われる始末。 「・・・気付かなかったのか?」 「まったく。おかしいなぁとは思っていたのですが。」 しかし、今回の事は紅子にもびっくりなものだった。 まさか、あの帽子は水に触れると溶けるだなんて。誰も思いもしない。 「そう言えば、水で溶ける帽子なんてあるのか?」 「さぁ。紅子が渡すようなものだしな。」 「何、それ。ただ、助けてあげようと思ってした好意じゃない。失礼な人ね。」 ぼけっとしていないで、しっかりしないと駄目よと彼女は言って、帰っていった。
何はともあれ。帽子がこうなった以上、二度とあの世界に行く事はないだろう。 「なんだか、これだけいろいろあると、別れが悲しいものだよねぇ」 どろどろに溶けた、かつて帽子だったものの処理をする快斗。 さて、その後の彼等はどうなった・・・?
おまけ
帽子とお別れをした次の日。 自分の帽子は何処だろうと探し、見つけて出してくる快斗。 「あったのか?」 「うん。母さんが洗ってたみたい。」 だから、気付かずにいたらしい。いいのか、それで。 「そういえば、次の予告は明後日だったよな。」 「新一来てくれるの〜?」 「まさか。家にいる。」 「えぇ〜〜〜。たまには来てよ〜。」 探偵を誘う怪盗・・・いいのか? 「ま、帰ってきていちゃいちゃできるからいいんだけどね。」 「ば、お前はそんなことしか頭にないのかー!!」 と、賑やかな一日。
明後日、彼等は別れたばかりの帽子と再会するなんて、思いもしない。 さて、明後日はどんな世界へ彼等は行くのかな? 終わり
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