自分は、泣かないと思っていた。 涙なんて、流す事があるなんてないと思っていた。 なのに、止まらない。 これが、悲しみなんだと、わかった日。 でも、それはもう遅い。 あの人はもう、いない。 ずっと一緒だと思っていたのに、もう会えない。
悲しみの中の希望
もう、何もかもが嫌になり、その場でうずくまっていた。 あの闇に包まれた監獄のような場所の中にいた時以上の絶望が、今自分にはあると思う。 あの中にいても、まだ姉という存在があったから、今まで生きてきたのだと思うから。 それに、このままこうしていたら勝手に誰にも知られる事なく死ねるかもしれない。そう思ったからかもしれない。 そうすれば、あの人・・・大切な姉のもとへいけるかもしれないと。 だけど、そんな自分に声をかけるものがいた。 いつもなら、珍しいか暇人か変わり者だとか思うのだが、その声の主を知っている自分としては、放っておいてほしいと思えた。 声の主は、姉と共に出かけ、来た事がある工藤家の一人息子。 工藤新一だった。 いつも、自分の事を気にかけてくれる、言うならば幼なじみのような関係である。 そんな彼は、不思議な力があるのか、いつも妖精達を側に連れて、探している人物の事をすぐに見つける。 きっと、今日もそんなところだろう。 姉の死を知り、工藤家にいるはずの自分がいないので、探しに来たというところだ。 「ねぇ、帰ろうよ。」 だが、その彼の声に答えようとも思わないし、帰ろうと言われて、あの家にいくつもりもなかった。 もう、自分には居場所がないと思っていたから。
両親は、組織で殺されたと知っていた。 だが、別にほとんど知らないような人達だったから涙なんて流れなかった。 だけど、いつも自分を支えてくれて、唯一心を開ける姉が、組織に殺されてしまった。 私を逃がし、助けるために。その犠牲となってしまった。 本当ならば、姉はもっと日の当たる場所で、あの自分に見せる優しい笑顔で、平和に過ごせていたかもしれない。 それを、自分が台無しにした。 その考えが、頭から離れる事はなくぐるぐると巡る。 それと同時に、自分のせいで、彼等もまた巻き込まれてしまうのではないかと、恐怖を覚える。 その時こそ、本当に一人になってしまう。
「哀・・・。」 彼はいつも、私の偽りの名前を呼ぶ。最初にそう名乗っているし、いつもそうだし、自分もそれでいいと望んでいたけど、今はあまりうれしくはない偽りの名。 だけど、今日は違っていた。心情を知っての配慮だったのか、それとも・・・。 「哀・・・。志保。なぁ、帰ろうよ。」 差し出される手。心配そうに自分を見ている彼の蒼い瞳。 絶対にこの手をとらないと決めたのに、意志は弱いのか、それとも彼には人を従わせる力があるのか。 自ら手を伸ばし、彼の手をとっていた。 「帰ろう。今日から、志保は僕と同じ、家族だよ。」 工藤邸へと歩き出す彼。そして、手を引かれて着いていく自分。 彼は私の新たな生きる希望の光になった。 その笑顔が姉のようにまぶしくて、自分のような汚れなんかまったくないような人。 だけど、その醜い汚れの部分もよく知っている人。 まだ、自分と変わらないような年なのに、彼は過酷な運命を背負っているのだろう。 自分以上に、過酷で辛い道を、知らずに選んでいたのかもしれない。 それとも、彼の持つ何かが、その道を自ら選んだのかもしれない。 だけど、そんな彼だからこそ自分は引かれたのかもしれない。 闇にも負けず前へと進もうとする彼だから。 家が見えてきた頃、空を覆っていた雲が途切れたのか、光の柱が地上へと降り立った。 「ほら、きっと歓迎してくれているんだよ。」 光の柱を指差して、彼は笑顔で自分を見て言う。 「まだ、生きろって、お姉さんもきっと思っているから、あれは伝言なんじゃない?」 再び零れ落ちそうな涙をこらえながら、志保は新一とともに屋敷の敷地内へと足を踏み入れる。
その時、幻なのか、志保の目には新一の身体から浮かび上がるような模様が見えた気がした。 一瞬だったから、あの光の柱が見せた幻だったのかもしれないが。
でも、それが彼の背負う事となる過酷な運命へと導く刻印だとは、彼女はまだ知らない。
いつか、貴方に幸せが訪れるように この私に生きる希望をくれたように 貴方にも希望を与えてくれる人と出会えますように どんなに私が貴方を思っても 貴方は決して答えないだろうから 貴方はそういう人 だからせめて、貴方の幸せを祈らせて そして、 ずっと貴方の側にいさせて・・・ |