驚いたのは、キッドではなく快斗で家に来た事 快斗はまだ、一度も家に来た事はなかった であるから、家に来るのはとても不自然な事だった あの気配を感じて目を覚ました自分 そうとう、彼の事を気にしているのだと苦笑する そして、弱いところを見せまいと構える キッドとして再び来たのだと思ったから それなのに、情けない顔をして快斗が立っていたのだ いったいどうしたのかと思う すぐに、その泣きそうになっている彼の顔を笑顔に戻って欲しいと思った 彼には笑顔がとてもよく似合うから
第五話 通じ合った思い
少しだけ距離を持って、少しだけ話を聞いて欲しいんだと言う。 すると、新一はうなずいてくれたので、少しほとして、話し始めた。 「えっと、話の前に一つだけ聞いてもいい?」 「・・・。」 「あのね、俺が怪盗キッドだって事、知っていたの?」 どうしてそんな事を聞いてくるのかと、驚いている様子から、やっぱり、知っていたのだとわかった。 「そっか。新一にはばればれだったんだ・・・。」 その言葉に、もしかしたら快斗に何かあったのじゃないかと心配になる。 「・・・誰にも、話してはいない。」 そう、本当に話していない。 もしばれそうになっているのなら、自分は何も話していないと伝えると、違うよと首を振る快斗にじゃぁいったい何のかと首をかしげる。 「・・・一つだけっていったけど、もう一つ質問いい?」 「・・・何だよ。」 下手に黙ったままでは話が長くなりそうだから、簡単に返事をするようにする。 今、快斗と一緒にいられるのはうれしいが、辛すぎるから。離れようと思っているところへ、快斗は来てしまったから。 「新一は、俺の事が好きだったの?」 「・・・どうして過去形なんだよ。」 「だって、今は嫌いかもしれないじゃない?」 きっと、今朝の事をさしているのだろうと考えたが、必要以上には言わず、うなずいて返した。 「そっか・・・。そうだったんだ・・・。」 無理に笑っているように見える快斗。どうやって知ったのかは知らないが、もしかしたらそれで困っているのかもしれない。 元々、自分が向ける感情としては、相手を間違っているようなところがあったから。 「・・・ごめん。・・・ごめんね、新一。」 何に対して謝っているのかいまいちわからないが、優しく抱きしめてくれる快斗の腕をのけようとは考えられなかった。 「ごめん。」 もしかしたら、昨夜の事かもしれないと思い当たり、それならば言わないといけないと思う。 だが、口を塞がれて、何もいう事は出来なかった。 すぐには理解できなかったが、今新一の口を塞いでいるのは快斗の口だと時間と共に理解できた。 しかし、どうしてこんな事になっているかまったくわからなかった。 快斗が好きなのは青子のはずである。そう考えると、駄目だと必死に引き離す。 「あ、やっぱり。」 また、悲しそうな顔。まるで、この前までの自分達と逆転してしまったような感じだ。 「なぁ、いったいどうしたんだよ?」 そんな顔は見たくない。そういえば、最後に一つだけ聞いてと言う。そうすれば、すぐに出て行くからと彼は言った。 どうやら、顔も見たくないと勘違いしているようだった。自分は顔が見たいくないのではなく、その泣きそうな顔を見たくなくて、笑顔の顔が見たいのだと言おうとしたとき、新一の動作を止めるような言葉を言われた。 「・・・俺、ずっと新一が好きだった。今でも好きだけど。新一が、好きなんだ。」 じゃぁ、と、さっき言ったとおり、それだけ言って出て行こうとする快斗。 快斗がドアノブに手を触れたときに、はっと我に戻った新一は、引き止めないといけないと、快斗を呼んだ。呼んでも間に合わないのならと、身体も同時に動いていた。 「か、快斗っ・・・!」 急に起き上がった身体は悲鳴をあげ、がくんと崩れそうになった。 しかし、それを快斗が呼ばれた事と、気配で感じ取ったのか、すぐに側に来て身体を支えてくれた。 「なぁ、さっきの事、本当なのか・・・?」 快斗は青子が好きなはず。だけど、ずっと好きだと言ってくれた。嘘でも、それだけで満足かもしれない言葉をくれた。 だから、少しだけ我侭を言いたくなった。 本当に好きだといってくれるのなら。 「本当に・・・?」 「・・・ああ。新一が好きだよ。」 そっかと、返事をそれだけして、やっと捕まえたと、ぎゅっと服を攫む。 まだ、背中に腕を伸ばさないのは、だるいのと戸惑っているからだろう。 本当に、伸ばしていいのかどうかと。ここで、嘘だと言われて傷つかないように。無意識に心が感情を止めているのだろう。 「新一・・・。好きだよ、好き。」 ぎゅっと抱きしめてくれる腕の中。それがとても心地いい物だった。 そして、だんだんと優しい眠りに誘われた。 今まで、ゆっくりと眠れる事はなかったのだ。 寝ても、快斗の事ばかりで、だけど中には現実で思っていたように離れていこうとする快斗にも会った。 だから、そういう時は寝たいと思えなかった。 半々の確率で見れる夢。 だけど、もう夢ではない。すぐ側にこのぬくもりがある。 今度は背中に手を伸ばして、ぎゅっと攫んで眠りについた。 「おやすみ・・・。」 昨晩はまともに休めていないだろう。だから、そのまま寝かしておく事にする。 新一が腕を離してくれないので、自分も少しだけ側で休もうと思いながら。 その時、背後に気配を感じ、振り返ればお隣の少女がいた。 「・・・次、彼を悲しませるのなら、容赦なく存在を抹消してあげるわ。」 きっと、心配していただろう。目が真っ赤だ。いろいろ調べていたのだろう。自分同様に。 そして、自分同様に聞かされたのだろう。紅子によって。 「忠告感謝いたします。しかし、もう大丈夫ですよ。私は彼の側を離れるつもりはありませんし、悲しませるつもりもありません。」 「彼が離れる事を望んだら、離れるのかしら?」 辛い選択のとき、新一は間違いなく快斗や哀の事を思って、心を偽っていう事もあるだろう。 「そんな事をしても、私は離れたくありませんから。・・・離しませんよ。彼が本当に心から望むまでは。」 なら、一生くっついているのねと言われたので、新一が望むのならそうしますよと答えた。 「まぁ、今はいいわ。たまに彼、眠れないみたいだから、これからちゃんと寝かしつけてちょうだい。」 「心配要りませんよ。」 それだけ言って、今は大人しく寝てなさいと出て行った。 しっかりと、昼には家に来なさいと言っている事から、すでに新一を起こしに来た時に何があったのか察したのだろう。 「適わないな、お隣さんには・・・。」 今は、新一の側でゆっくり休みたい。 自分にくっついている新一を抱きしめ、布団の中に入る。 安らかな眠りにつく。 起きたら、言おう。 おはよう、と。
今私の願い事が叶うならば翼がほしい この背中に鳥のように白い翼つけて下さい
白い鳥を繋ぎとめる事の出来る翼 白い鳥を思い出させるもの 願いが叶うのならほしい 彼を追いかけられるように、この背中にほしい
この大空に翼を広げ飛んで行きたいよ 悲しみのない自由な空へ翼はためかせ 行きたい
悲しみを抜け出したい あの大空に、鳥のように あいつが見ている視界に立って 少しでもあいつに近づきたい
今富とか名誉ならばいらないけど翼がほしい 子供のとき夢見た事今も同じ夢に見ている
富も名誉も あったとしても何の役には立たない あいつと同じ場所に立つ為には そんなものは何の役には立たない 子供の頃に夢見た来た事 相手は変わったけどいまも同じ ずっと一緒にいたいと願うだけ
この大空に翼を広げ飛んで行きたいよ 悲しみのない自由な空へ翼はためかせ 行きたい・・・
もう、悲しみのない自由な空へ いけたんだよね・・・?
これからはずっと、 貴方の側にいられるよね・・・? 貴方の側にいたい それが今願う 一つめの願い もう一つは この幸せがずっと続くように
「おはよう、新一・・・。」 「・・・快・・・斗・・・?」 そうだよと、ぎゅっと攫む彼を抱きしめる。 「・・・夢じゃ、ないんだ・・・。」 少しだけ、疑っていた。起きたときにはいないのではないかと。 「そんな事は、ないよ。だって、せっかく新一といられるようになったのに、勿体無いし、まだまだ、新一に謝らないといけないし。」 だけど、新一には快斗に謝って欲しくはなかった。謝るよりも、こうやって側にいてくれるだけで充分だった。 夢で見た。以前会った魔女だと名乗った女が言っていた。 全部、お互いにすれ違ってしまっていた事。 自分と同じ思いで、快斗がずっといたという事を知った。 だから、自分のことを好きだと言ってくれるのなら、謝らないでほしかった。 悲しそうなあいつ・・・快斗の顔を見たくはないから。 「快斗が、好き・・・。ずっと前から、好き。・・・愛してる。」 「うん。俺も、新一が好き。愛してるよ、新一・・・。」 ぎゅっと抱きしめてくれる腕がとても温かかった。そして、くせっ毛が頬に当たってくすぐったい。 しかし、幸せを完全には認めていない者もいて、邪魔はされる。 「いい加減、起きてきなさい。食事を取らない事には感心しないわ。」 現れたのはお隣の主治医の少女。 「あっ・・・。」 「・・・哀ちゃん・・・。」 自分から抱きついているようにも見え、顔を赤らめる。それを可愛いと思うが、それよりも睨みつけてくる哀の目が怖いと感じる快斗。 きっと、しばらく無事に過ごす事は出来ないだろう。間違いなく。 「いつまでも起きてこないから、夕食を作っておいたわ。さっさと降りてきなさい。」 そういって、下へと降りて行った。 夕食といわれて、今何時だと時計を見れば、嘘だろと驚く。なんと、夕方の六時だったのだ。 さすがにこれでは、今日一日ご飯を口にしていない事になり、主治医として文句を言うだろう。 「とりあえず、食べに行こうか・・・?」 「うん。」 起きれるかと聞けば、また顔を真っ赤にして大丈夫だと言うが、危なっかしくて見ていられない。 すっと、腕を伸ばして新一を抱きこみ、足をあげる。 「なっ?!」 お姫様抱っこは恥ずかしいらしく、離せと抵抗する新一。 今朝、身体を清める為にこうやって階段を上り下りしていたのだが。やはり、意識がなかったせいだろう。 下にいけば、さっさと座りなさいと、睨まれた。 今晩、無事に休めるかどうかも危うい。
数週間後
「なぁ。」 「・・・聞かないで・・・。」 昨日から姿を見せなかった快斗が戻ってきていた。 寂しかった新一はどうしてかと問おうとするが、どうやら恐ろしいものを見たのかかなり怯えているというか、少しやつれている。 「どうしたんだよ?」 部屋で休もうと考えたのだが、べたっと新一がくっついてきた。 お互いの気持ちを知ってから、新一はくっついてくるようになった。 それはとてもうれしくて幸せなのだが、それ以上に恐ろしいものがあるので、複雑である。 「・・・哀か?」 「・・・。」 哀が何かしている事は知っている。自分が誰かを思っている事も知っていたから、ちょっとした嫌がらせなのだろうが、ここまでするのなら考えなくてはいけない。 いくら自分のためだとしてくれているのだろうが、やりすぎは駄目だ。 それに、一人でいるのが寂しい新一にとっては、哀にとられる時間も嫌であったりもする。 「何があったんだよ〜?」 言っても、何もないよと、無理に笑って言う。だが、明らかに隠しきれていない。顔が引き攣っている。 ポーカーフェイスはどこいったのだろうか。 とにかく、快斗を捕まえて、くっつく新一。 すりすりとなついてくっついていれば、ぎゅっと抱きしめてくれる。 この数週間で覚えた事・・・?らしい。 そうしている間に、快斗は自分を取り戻していくのだった。
ちなみに、お隣であったことは、弱みを握られ、それによって精神的打撃を受けていたのだった。 お魚と新一を使った、一番快斗に効く方法。 それを新一は知ることはないが・・・。
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