気がつけば押し倒されていて、逃げる事も抵抗する事も出来ず、 だけど、身体はあさましくも反応を見せた。 あいつは言った。 確かに好きであって、こうなってほしいなと夢見た事もある だけど、思われてもいないし、何よりあいつは別に好きな人がいる しかも、口止め料だといって自分をめちゃくちゃに抱いた 気持ちよくてこのまま流されていたいとも思ったが このままでは駄目だと、言い聞かせる それに、口止め料は一度で充分だから、 朝にはしっかりと、自分のことをして姿を消していた ただ、カードに花を添えて置いてあっただけ だけど、それもまた彼が残してくれたもので、うれしくもあった 思われていなくても、いい 今が自分にとっての真実 この夢心地のまま、もう一眠りしようかと、
第四話 すれ違っていた思い
パジャマ姿の新一。眠そうに、そしてそんな無防備な姿を見て、踏みとどまる事はなかった。 共犯が終われば関係は一切ないと言われるかのように、厳しい彼の目。 会いに来なければ良かったのかもしれない。 ずっと心の中を支配するかのように現れた黒い闇。抑える事は出来ずに、新一を押し倒し、彼の言葉を聞かずに抱いた。 それがとても酷い事だとわかっている。気づいた時にはぐったりとしている新一の姿があった。 急いで、身体を清めて服を着せてベッドに寝かせた。 本当は残すつもりはなかったが、夢だと思われて、なかった事にされることは嫌だった。 子供の我侭のような独占欲。 カードに花を添えて、これ以上いればまた手を出してしまいそうだったから、家に帰った。 本当は、朝まで、新一が目を覚ますまで一緒にいたかったが、無理だ。その後の言葉を聞くのが怖かったからかもしれない。 いったい、新一は誰を思い、そしてそんなに悲しそうにしているというのか。 絶対に見つけ出すと決めても、何も引っかかる事はない。 幼馴染ではない。お隣の少女でもない。そして、西の探偵や白馬でもない。なら、残るのは一体誰だ。 他に、いったい誰が新一の心の中にいついているのだ。 「くそっ。」 考えても該当するような人物はない。警察関係者かと思っても、いつも側にいる頼りなさそうな刑事はアイドルのような美人の刑事が好きだ。その美人の刑事はその刑事が好きだ。 他はいてもあまり接点のないような者達ばかり。 だから、クラスメイトかと思ったりもした。だが、誰も該当しない。 「誰なんだよ。」 顔も名前もわからない相手に嫉妬する。それと同時に、新一を苦しめるものとして、憎む。 不可能をものともせず、可能にする魔術師。 絶対に見つけ出してやると決めて、今日も新一の身辺の人物を洗い出す。 その時、ふと聞こえてきたあまり関わりたくないクラスメイトの声。 「・・・何か用かよ。」 『・・・相変わらず、口が悪いわね、黒羽君。』 いつものように、ルシファーだか魔王だかの予言と、言っておきたい事があるのだと言う。 最初はまたいつものかと適当に聞いていたが、あるキーワードのような言葉で、聞き返す。 「どういうことだよ、それ!」 『だから、言っているのよ。早く気付かないといけないわ。私も、いつまでも見ていられないのよ。』 いくら、恋敵であっても、彼も大切な一人であることには違いないから。 正確には、自分と友人となったある少女の姿をした彼女の願い。 知っているが、まだ言ってはいない。まずは、快斗をどうにかしない限り、どうにもならないから。 快斗さえ動けば、変わる未来。 『さっさと言いなさい。全ては貴方の態度が招いた事よ。』 快斗はそれ以上答える事のないクラスメイトよりも、その聞かされた事で呆然としていた。 まさか、そんなことってないだろうと。 もしそれが本当なら、うれしいかもしれない。だけど、もう無理なのではないかとさえ思われてくる。 だが、確認してみないとわからない。 快とは学校へ行く事など考えず、新一の家へと向かった。
微かに残る、彼の体温。 忘れた頃に、また彼はやってくるかもしれない。 それまでは、この温もりを忘れずにいて、夢で彼に会おう。 夢で会うぐらいならば、誰も文句は言わないだろう。 あいつも、彼女も。二人の仲を引き裂くわけじゃないから。それぐらいは、許して欲しい。 もう、学校は面倒になったので休む事にする。 もう少しだけ、あいつの事を思って夢の中に戻りたい。 うとうととしはじめれば、身体は眠気に誘われて、力が抜けていく。 ちょうど寝入った時、快斗は家のチャイムを鳴らした所だった。
快斗は焦る。はやく、あの事が本当かどうか知りたかった。 そして、謝りたかった。 そして・・・。言いたいと思った。全てを。 二度目のチャイムを鳴らしても反応がない。もしかしたら、昨夜のでまだ寝ているのかもしれない。 出来ればあまりしたくはなかったが、玄関を勝手に開けて中に入る。 すると、まるで人の気配がしない。それほど、静まり返っていた。 まだ、部屋にいるのだろう。快斗は階段を上る。 つい数時間前、意識のない新一を抱きかかえて上り下りした階段。 「ちゃんとした顔で、会えるかな・・・?」 青子は快斗と新一の事を応援してくれた。白馬は新一の事を思って、幸せを願っている。 お隣の少女も新一の幸せを願っている。そんな少女を助け、輝きを失いつつある新一を助けようとする紅子。 皆、新一のためを思っている。 それなのに、自分はいったい新一に何をしてあげられていたのか。 一番、酷い奴だ。なんて馬鹿なんだろうと思うほど、情けない。 目の前に立ちはだかる扉を前にして、開けるのに少し戸惑いを覚える。 ここを開けて中に入り、何と新一に言ったらいいのか。今更、怖くなっている。 その時、何しに来たんだという声が中から聞こえた。 どうやら、新一は起きているようだった。 覚悟を決めて、快斗はノブに手をかけて、扉を開けた。 そこには、上半身だけを起こしてこちらを見ている新一がいた。 どうやら、『快斗』がいるとは思っていなかったので、驚いているようだった。 やはり、紅子が言っていた通り、新一は気付いていたのだ。快斗=キッドであると。だから、ここにいるのはキッドだと思っていたのだろう。 快斗もキッドも気配は同じ。元は同じ人間で、新一には同じにしか思えないから。 苦笑しながら、部屋の中に入り、新一の名前を呼ぶ。すると、新一はどうしてとかすれかすれに言う。 本当に、どうしてだろう。あれだけひどいことをした自分が戻ってきて、それもキッドではなく快斗で現れたのだから。 一度、まったく気配なく消えた自分が、今更戻ってきて何をと思っているだろう。 もう、新一には嫌われているかもしれない。だけど、言っておこうと思う。 そうなってしまっても、自分が悪かったから。
紅子が言っていたのは、新一の事。 「どうして、紅子が新一の話をするんだよ?」 不機嫌丸出して言い返すと、鼻で笑う声が聞こえる。それがまた、いらいらを増やす。 『まったく、馬鹿ね。』 「馬鹿ってなんだよ。冷やかしにきたのかよ?」 青子にばれているぐらいだ。紅子はお得意の魔術とやらでしっかりとばれているだろう。 だから、隠すつもりはない。 『本当に馬鹿だわ。光の魔人の心を知ろうせず、目をそむけ続ける、馬鹿な人。』 「なんだよ・・・。背けてなんかない。」 好きな相手が誰か。そればかりを考えて、新一自身を本当に見ていたのかと問われ、言い返そうとしても、そういえばそのことばかり頭にあって、どうやって新一の隣を手に入れる為に行動しようかとばかり考えていた気がする。 それに、はっきりと幼馴染は違うし、片思いで希望がないといっていたので浮かれていた気もする。 だが、それが一体なんだと思う。そう言えば、本当に馬鹿だったのねと怒鳴られた。 『この際だからはっきりと言ってあげる。私の失恋は確実だし、それにいつまでもこの状態のままだと、光の魔人の輝きが失われていく一方だもの。』 光が消えれば、闇が増える。そして、バランスが崩れる。 紅子はなんとしてでもそれを阻止しようと思う。そうしなければ、快斗が闇に囚われてしまうから。 『光の魔人の思い人。誰だか本当にわからないの?』 「ああ、わかんないね。だから今、必死になっ・・・。」 『馬鹿!どうしてわからないのよ!』 「なんだよ!お前に馬鹿馬鹿いわれたくないね!」 お互い、けんか腰になっても今更。 『本当に馬鹿だわ。そこまで馬鹿だとは思わなかったわ。これじゃぁ、光の魔人が哀れだわ。こんな馬鹿な男の為に悲しんでいるなんてね!』 「馬鹿ってなんだよ!新一が・・・っ?!おい、どういうことだよ!」 『反応も遅いなんて、相当馬鹿ね。』 紅子はずばずばと快斗に言う。 新一はずっと怪盗キッドが好きで、手を組む前から正体である快斗を知っていた事。 その時に見た素の笑顔で、手を組んでからも一度も見せない、隠された顔のせいで、勘違いして幼馴染の青子の事が好きなんだと思っている事。 そして、一度見せてくれた素の嬉しそうな顔も、好きだと言っている相手の説明を青子だと勘違いして失恋で伝える事はしないと決めた事。 家に何一つ存在していたと、一緒にいたのだという証拠すら残さなかった快斗に、やはり探偵である自分を完全に信用してくれている事はないのだろうと思った事。 片が付けば二度と会うことはないだろうと思いながらも、一度だけ無事な姿を見たいと、白馬と青子を口実に姿を見に行った事。 はじめてもらえた華を、今も大事に持っている事。 快斗が手を伸ばしてくれるのなら、友人として一緒にいたいと思った事。 快斗以外と共にいる事はないと、彼自身が決めた事。 口実だといわれて抱かれても、また快斗に会えた事を喜びながらも、思ってもいないのに抱かれて心を痛めていた事。 全部話した。全部、まるでこの数ヶ月の間の新一の事を、まるで全て見てきたかのように、事細かに説明してくれた。 それと同時に、だんだんと顔色が悪くなっていく快斗。 信じられないという思いばかり。まさか、好きだと思ってもらえていて、正体もあの時以前から知られていたなんて。 しかも、新一が悲しむ原因を作っていたのが自分だっただなんて。 「じゃ、じゃぁ・・・。」 『そうよ。工藤新一が好きな相手は、『怪盗キッド』であり、『黒羽快斗』。貴方の事よ!』 全部がすれ違っていた。 一言いえていたら、すでに新一の隣を手に入れることは出来ていた。 とっても簡単な事だったのに。 確かに、何一つ残さなかった事で、新一にそう思われても仕方がない。 それに、その後に連絡をいれる事が出来なかったのもいけなかった。 遅くても、連絡をいれておくべきだったのだ。 それか、アリバイを作る為にいろいろ始める前に、約束を取り付けておけばよかった。 どうしてあの時会う為の口実を作っておかなかったのかと後悔していた自分。 遅くても、連絡をいれればよかったのだ。 新一が、江古田高校へ来る前に。 後悔ばかりだ。 そして、快斗は本当に新一が自分の事が好きであったのかを確かめる為に、学校なんて考えずに新一の家まで走った。 好きではないと答えられても、今度はしっかりと伝えようと思うから。 叶わなくても、それは全て自分がしてしまった事だから。
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