この背中に

     鳥のように

     白い翼

     付けてください

 

     あの怪盗と同じような白い翼

     ほしいと思った

     だけど、それは彼女のものだろうと

     諦める事にした

 

 

 


 第三話 狂い始めた思い

 


 

 

最近、新一の元気がない。

キッドとして側に他時も快斗として出会ってからも、たまに寂しそうな顔をしていたが、それは片思いの相手のことだろうと思っていた。

確かに、それは間違っていないし、快斗自信もそれ以外に考えられないので、きっと知り合いであってたまに会うのだろうと思っていた。

だから、会うたびに思いを隠しているのだと覚った。

この人は本当に他人思いだから、他人の気持ちが優先で、自分の気持ちを後回しにする人だ。

さて、どうやって本音を聞きだそうか。

最近は仲良くなったとは言え、まだ知り合ったお友達程度。

どうしたものかと考えている日々が数日続いた。

 

 


新一が事件でとられ、会わなくなって数日。

その間のある日の帰り道。

青子は突然言うのだ。

「・・・ねぇ、快斗。」

「なんだよ。どうしたんだよ、えらく暗いぜ?何か変なもんでも喰ったのか?」

「青子は変なものは食べないもん。」

いい返すにも、いつものような元気で乱暴なそれはない。

「快斗、好きな人がいるよね?」

まさか、気付いているとは思わなかったので、快斗は驚いた。

青子に気付かれるほど、ポーカーフェイスが出来ていなかったのかと。

それと同時に、さすがな長年一緒にいた幼馴染だと感心する。

「ずっと一緒にいたからわかる。」

「・・・。」

「ねぇ。快斗の好きな人。・・・誰?」

誰といわれても、なかなか答える事は出来ない。相手が簡単なものではないから。日本ではまだ、法律的にも認められていないから。

「当ててあげようか?」

「・・・当てられるのかよ。」

挑戦的に言ってやれば、青子はずばり当てた。

「・・・工藤君・・・なんでしょ?」

「・・・。」

「ばればれ、だったよ。ずっと快斗を見てきたから。」

自分にもあまり見せないほどころころと素の感情を見せていた。

いつしか、感情を隠すようになった彼が、新一には見せていた。それが決定的だった。

「・・・青子。」

「やっぱりね。」

「・・・わかるか?」

「わかるね。快斗、わかりやすかったし。」

全身で工藤君が好きだと言っていた。工藤君は気付いていないと思うけれど。

そういった青子に違うのだと言う。新一は忘れられないのだといいたかった。

彼の心にいついている誰かが、新一から離れない限り、新一は思い続ける。その、快斗が知らない誰かを。

「・・・おかしいと思うか?」

男が男を好きになるなんてとは言葉に出なかった。

「別にいいんじゃない?」

青子は言う。人が人を好きになる理由はたくさんある。だけど、お互い惹かれあうことは滅多にない。そんな人と出会える事こそ稀で、その人こそ運命の相手。

「きっと、青子は幼馴染で、快斗の運命の人じゃなかったんだよ。」

「・・・ごめん。」

「謝らないでよ。」

謝るなんて快斗らしくな〜いと冗談めかしくいうが、少し寂しそうだった。

「青子、失恋だなぁ。」

でも、快斗も失恋かもねと突き落とすかのようなことを言ってのける。さすがは、一筋縄ではいかない幼馴染だ。

だが、幼馴染は強かった。失恋させたのだから、せめて新一に告白して玉砕してきなさいという命令。

確かに、そろそろ伝えて少し進みたいと思う。

だが、まだ決意しきれていない。それを伝えて、離れてしまうのではないかという恐怖がある。

離れようとするのなら、きっと自分はひどいことをしてしまうと思う。

この醜いほどの嫉妬と独占欲が勝ってしまえば、間違いなく新一を傷つけてまで手に入れようとするだろう。

「・・・そのうちな。」

「はやく言いなさいよ。」

新一は今日も忙しいとわかっているから、今日中にと青子は言わなかった。

「ごめん。本当に、ごめんな。青子・・・。でも、ありがとう・・・。」

決心をつけさせてくれた大切な幼馴染。きっと、今頃泣いているだろう。

新一と同じで、他人思いであるから。

 

 


告白はいつにしようかと考える。今から警視庁へ行こうかなと考えた。

最悪でも、白馬にはあえるような気がしたし。

何より、確認して起きた事もあった。

もしかしたら、新一が好きで思いが通じない相手が白馬ではないかと。

白馬はかなりのフェミニストだ。キッド並といってもいい。

白馬が新一のことを好きだと知らないのなら、言って嫌われてはいけないと考え、諦めようとしているのかもしれない。

快斗が見る限り、その場合の二人は両思いだ。それだけはなんとしてでも避けなくてはいけない。

だから、その確認もしたいと思った。

そして、聞かされることとなる。

白馬とは違ったが、新一の強い思いと決意を。

 

 

 


前方に白馬を発見し、とりゃーっといつものように仕掛ける。

「まったく、君って人は常識がない。」

怪盗キッドだと思っていても、これが怪盗キッドだとはあまり思いたくないところだ。

「それで。いったいここへ何の用で来たのですか?自主しに来たわけですか?」

そんなわけはないだろうが、一応聞く。

「いんや。新一の事が好きな白馬の思いがどうなるのか面白そうだから来てみた。」

「な、君って人は!」

どうしてそんなプライベートな事を知っている上に、大きな声で言うのですかと、かなり慌てた白馬が面白い。

「何だよ。告白してねーのかよ。」

ちぇっと面白くねーという快斗に、告白ならしましたよと言う。

「彼にはしっかりと、好きな人がいるから悪いと断られましたよ。」

それは知らなかった。聞けば、どうやら組織壊滅後すぐぐらいらしい。

つまり、それよりも前から好きな奴がいたことになる。

「彼には、一生片思いで、実らない恋だと知りながらも思い続けるのだといっていました。」

「それ、誰だよ。」

最近新一が辛そうなのを白馬も知っているので、その相手を見つけ出して文句を言うつもりだろうと快斗の行動を簡単に予想する。快斗も間違いなく新一の事が好きだと、わかるから。

「すでに好きな方には別に好きな方がいるそうです。」

「新一をふったのか?」

「いえ。思いは伝えていないそうです。困らせるだけだからと言っていました。彼、二人が幸せに過ごせるのならそれでいいと、諦める気でいます。」

いったい、そんな彼を言葉にしなくても目の前で別の誰かと付き合う人は誰のなのか、自分も知りたいと言う白馬。

白馬も、いつまでも彼のそんな姿を見ていられなかったのだ。

だが、その相手を知らない。

『二人の間には絶対に入り込めない。それに、俺はそいつ以外の奴と生涯共にしようとは思わないから。悪いな、白馬。』

と、彼は言ったのだ。辛いのだろうが、無理に笑顔を作って。

「そんな事を言われては、それ以上言えませんでしたよ。」

そして、そんなに思われている相手がとても羨ましいとも思いましたと言い、白馬はする事があるのでと去っていった。

そんな白馬は気づく事はなかった。

快斗の中に根ずくどす黒い感情が表に現れはじめていた事に。

「・・・そんな無神経な奴・・・。どうしていつまでもそんな奴の事を思っているのさ。」

横からさらう事が出来るかと思ったが、これは大きな壁だ。

何より、その相手以外を選ぶつもりはないと断言しているのだから、まったくもって隙を狙う快斗にとってはとても困る。

もう、これ以上仲良しごっこはできそうにない。

どうやって、今すぐにでも彼を手に入れる事が出来るかと、考えをめぐらせる。

そして、見つけ出す答え。

忘れられないものにしてしまおう。廃業した怪盗キッドを復活させよう。

まだ、挨拶が終わっていないし、ちょうどいい。

考えたら即行動。

快斗は家に帰り、二度と開けないと誓った隠し扉のパネルに手を触れた。

そして、再び身にまとう、白い衣装。

「さぁ。新たなショーの始まりだ。」

心が手に入らないのなら、まずは別の物を手に入れてしまおう。

そうすれば、少しずつ心の隙に入り込んでいける。

快斗にはそれ以上手段はなかった。だから、迷わず空を飛ぶ。

 

 

 


その頃。

警視庁で仲良く話をしている快斗と白馬を見かけた新一。

話の中に入れる雰囲気はなく、声をかけずに帰った。

きっと、快斗は相談していたのだろう。

もしかしたら、白馬にはいろいろ話をしているのかもしれない。

それに比べると、自分はまだ全然なのかもしれない。

友人としての位置にいると思っているのは自分だけなのかもしれない。

どんどんと、暗い方向へと思考が進む。

最近では、無理をしている自分を気にしている哀がいるが、適当に誤魔化しておく。

これは、自分の心の問題だから。

 


さて、寝ようかと思う。

ベッドの布団を綺麗にして、もぞもぞと入る。

その時に感じた、少し懐かしい、あの気配。

まさかという思いで、ベランダを見た。

この気配の主はいつも、ベランダから姿を見せるから。

そして間違いなくそこにあいつはいた。

「・・・何しに来たんだよ。」

「ご挨拶を済ませていませんでしたから。」

驚きながらも、相手に同様を覚られないようにして問いかけると、簡単にいってのけるあいつはすっと窓の鍵を開けて中に入ってきた。

眠いからはやく寝たいのに。

夢だけで会える。それだけで良かったのに。

なのに、どうして終わらせてくれないのか。必要以上には望んではいないのに。

 





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