今この時夢見た事

     今も同じ

     夢に見ている

 


     無理だと思っていたが、少しずつ心を開いて、

     作ることのない素の顔を見せてくれる愛しい人

     手助けなんてタダの口実で、貴方を、新一を手に入れたいと思い、

     ずっと側にいたいと願っていた俺。

     少しでも希望があるのならと、夢に見続けてきた

     新一が手をとってくれたときは本当にうれしかった

     幼馴染が好きの対象が違うとわかっていても、彼の口から聞きたかった

     その言葉をさりげなくだが聞けて、良かった

     それに、いても片思いで望みがないという彼

     ならば、その勿体無い事をしている相手を忘れさせて

     隣を手に入れようと思った

 

 

 


 第二話 それぞれの思い

 


 

 

相変わらず幼馴染の青子はしつこくうるさく言ってくるし、白馬は俺が怪盗キッドで、まさか犯罪組織を追っていたとはなどといい、どうしてですかと問う。

本当はこの二人を相手にするよりも、共犯者の間に少しずつ心を開いてくれた探偵、工藤新一に事でいっぱいな黒羽快斗。

怪盗キッド=黒羽快斗という図式をなくすため、アリバイ工作のためにいろいろしていたために、すっかりと共犯関係がなくなり、どうやって今は廃業してしまったキッド以外で新一に会えるかを考えていた。

よく考えれば、新一との接点が何もない自分。新一に何らかの被害が行かないようにと、怪盗キッドの際には一切の関わりがわからないように証拠は極力見つけては消していった。

それが今となっては仇となった。

「くっそ〜。せっかく仲良くなったっていうのにさ。」

これでは振り出しに戻るだ。下手すればそれよりももっと前に戻ったかもしれない。

自分が怪盗キッドだという証拠すらないのだから。

「どうしよう。」

ずっと共犯として一緒にいたせいで、すぐにでも隣にいた彼のぬくもりがない。

あるのは戻ってきた日常の中にいて、相変わらずの幼馴染と探偵。ほしいのはただ一人、新一だけだというのに。

「ちょっと、バカイト!」

何馬鹿やってるのと、どうやら新一の事を考えて話を待ってく聞いていなかった快斗はかなり珍しいほど表情を変えてうなっていたらしい。

いけないいけない。ポーカーフェイスを保たないといけないというのに。

「まったく、君と言う人は。人の話しを聞かないとはいけませんね。」

「お前に言われたくないんだよ、白馬鹿。」

「く、黒羽君!相変わらず君って人は・・・!」

いつものように喧嘩が始まるかと思ったが、そこで止める声が聞こえてきた。

「白馬―。」

その声は聞き覚えがある。振り返るのは白馬だけではなく快斗と青子。そして、その他の者達。

「まだ、教室に残ってくれていて良かったよ。入れ違いになったら面倒だしさ。」

現れたのは、先ほどからどうやって改めて黒羽快斗として知り合いうか考えていた相手、新一だった。

それが、むかつくことにこの白馬を尋ねてきた。

確かに、白馬とは同じ探偵でもあり、顔見知りだ。黒羽快斗よりも知っているだろう。

「ほら。言ってた奴。」

「あ、どうもありがとうございます。」

わざわざ来ていただかなくても良かったのにと言う白馬。相変わらずフェミニストぶりで、新一にもそれで対応する。

間違いなく、白馬も新一の事が好きだ。だから、快斗にとっては恋敵である。

「別に。それにさ、俺は中森さんにも用があったからさ。」

ほれと、見せた本。白馬は意味がわからないが、青子は思い出したようだった。

「あ、ありがとう。」

その本は工藤優作の作品の一つ。今回内容で手品のトリックが使われている。

その事を知って、かつて怪盗キッドを追いかけ、奴の手品のトリックを見破った事のある実力の持ち主が書いたものなので、参考になるのではないかと、探そうかといっていた彼に、新一が貸しましょうかと言っていたのだ。

「今日、警視庁へ行ったら出張だったみたいなので。夜には帰ってくるでしょう?」

「うん。ありがと〜。」

お父さんきっと喜ぶよと、嬉しそうに言う。その笑顔があいつが好きな笑顔なんだろうなと思いながら、蘭と良く似た彼女の笑顔を見る。

その背後で、面白くなさそうにしている快斗がいたが、誰も気付かない。

青子にも接点があるのに、自分だけがない。自分にはあの笑顔を見せてくれることはない。そんな醜い嫉妬と、他には見せたくないと思うほどきれいな笑顔を独占したいと思う事から、割って入ろうとする。

ぽんっと得意の手品で新一に華を一輪出してそれを贈る。

「はじめまして、工藤新一君。」

まっさか、青子が顔見知りだ何てびっくりだよなと言いながら、しっかりとその華を渡す。

「何よ。お父さんのところに行った時に会ったんだもん。」

その時迷子になって困っていたところを新一に案内してもらったのだが、それは言わない。

「あ、もう迷わないよね?」

「あ、言っちゃ駄目〜。」

「あ、ごめん。」

「中森さんは迷ったのですか。僕も始めは迷ったのですよ。」

「そうだな。広いしな。最初は俺、親に連れられたからな。」

そんな事を話している。自分の知らない事で、うらやましいと思うと同時に、どうしても入ってこれを気に仲良くしようと考えた。

「ったく、相変わらずなんだな、アホ子は。忙しい彼の手を煩わせるなんてさ。」

「何よ〜。バカイトのくせに〜。」

と、楽しそうにいつもの騒ぎを始めた二人。

本当に仲がいいと思う。

「本当、仲がいいんだな。お前も大変そうだな、白馬。」

「まったくです。どうしてこう、黒羽君は落ち着きがないのだか。」

そうやって話している二人を横目で見て、すっと戻ってきた快斗が言う。

「お、白馬口説いてるのか?」

「なっ、黒羽君!」

君って人はと、白馬も混じる。本当に、毎日楽しいのだろうなと思う。

少し、彼の日常も見れて、この華も貰ったし。もういいと思う。

最後の贈り物。彼にはなんでもないものかもしれないが、新一にとってはとても大切な物。

大切に、残しておこう。きっとこれが、唯一自分に与えられた彼からのものだから。

「白馬、中森さん。黒羽さんも。俺は帰るから。じゃぁ、また。」

そう言って去っていく新一。

きっと、聞こえていないので、苦笑して振り返らずに立ち去る。

だが、快斗には聞こえていた。新一の声を全て聞き漏らさずにいようと神経を張り巡らせているのだから。

も、という扱いだったが、黒羽として認識してもらえて、これからだと考える。

これから、名前を呼んでらえるようになって、少しずつ彼の中での地位を確立していけばいい。

とても、簡単に考えていた。とても、簡単に。

片思いの相手が誰かは知らない。だけど、自分にも希望があり、その相手と上手く行く事は彼が言うにはないのだろうから。

いくらでも自分が攻める事は出来る。そのことばかり考えていたからだろう。

新一が本当にどれだけその相手が好きで、快斗と思いがすれ違っているなんて、考えもしていなかったのだから。

 

 


「あ〜、もう。疲れた。」

先生が止めに入って、なんとか収まったあの事態。

あの後、白馬も不本意ながら、罰として裏庭の掃除を当てられた。

本当に、疲れた。青子がこき使ってくれるから。

「さて。どうせめていこうかな。」

今日の出会いは偶然で、かなり自分だけがはみってむかつくものだったが、これからだと気合を入れる。

絶対に、新一の心を手に入れるのだと、信じて。

今日も新一の夢が見られたらいいなと思いながら、眠りについた。

 

 


そんな快斗の思いも知らない新一は、もらった華を花瓶に活け、部屋の窓際に置いた。

外から淡く部屋に灯す月の光で、一層彼を思い出させた。

「・・・枯れないように、しないとな。」

枯れてしまえば、残しておきたくても残らない。いつか、哀が掃除に来たときに捨ててしまうだろう。

「ドライフラワーになるかなぁ?」

この華は大丈夫なのだろうかと思い、明日調べるかと考える。

最悪、押し花にしてしおりをつくってもいい。

そうすれば、本を読むときに挟んでおいて、いつでも彼を思い出す事が出来るから。

 

そうして、二人の夜は明けて行く・・・。

 

 

 

 


それから約一月が経った。

組織の件は片付き、要請も入るようになって、警視庁へ行くようになった新一。

哀は無茶をするといって怒りながらも、心配している事がわかるので、苦笑しながらごめんと誤まっておく。

自分は、事件となると止まる事はできないから。

その間に、お弁当を届けに来た青子と一緒に来た快斗と会ったり、中森に本のお礼と言って夕食をご馳走しようと誘ってくれた時に快斗も一緒だったので、その時に名前で呼び合うようになった。

少しだけ願った我侭。友人として彼の幸せを見守りたいというもの。

ほんの少しの事なら、神様は叶えてくれるのかもしれない。だって、現にそうだから。

少しずつ知っていく彼の姿。そして、同時に切なくて苦しくなるような彼等の仲の良い姿。

だけど、彼がこの平和で幸せな日常に戻れた事に関しては、新一も心からうれしかったから、複雑ではあったが、祝って応援してあげたいと思った。

きっと、自分と蘭のように、馬鹿をやりあってまだお互い言えていないのだと思うから。

 


その後も何度か会い、この時間を大切にしたいと思うようになった。

何より、快斗も自分と会うことに関して、嫌がる事はなかったから。

いつも、歓迎してくれていたから。

その笑顔を手に入れることは出来ないのだろうけれど、友人としての場所を手に入れて、それ以上を望めばきっと罰があたる。