この大空に翼を広げ

     飛んで行きたいよ

     悲しみのない

     自由な空へ

     翼はためかせ

     行きたい・・・

 

     そして、追いかけたい

     自由な空へと飛び立った白い鳥を

     この胸の奥に隠した思いを伝えはしないが、一目だけでも無事な姿を見たい

     それで、この思いにけりとつけて、忘れたフリをするから

     今までと同じ自分に戻るから

     今だけは、この思いを持っている時間を許してほしい・・・

 

 

 

貴方の側にいたい

 第一話 希望なき思い

 

 

 

数日前。工藤新一は本来の姿を手に入れ、自分が追っていた犯罪組織を壊滅に追いやった。

同じ境遇に立たされた、元組織の一員だった灰原哀はそのまま小学生の姿でいると決め、現在にいたる。

まだ、壊滅に追いやったとしても安心できるほど安全だとは言えない。なので、今はしばらく大人しくしている新一。

哀に必要以上に心配をさせるのもよくないと考えたからだ。

いつも心配してくれる、現在はお隣の養女として暮らす哀。新一の主治医としていろいろしてくれる。

前なら、事件さえあれば飛んで行く新一だが、さすがに今回は警部にも止められたし、呼び出される事はない。

警部は新一と哀の存在が洩れないように処理をしてくれている。それにまだ時間が必要なので、情報が洩れて知られる事はないようにと、家に篭っている。

暇だと思いつつも、この生活はすぐに昔のように要請で出かけるものに変わると思う。

今だけの我慢だと、新一は片手にブラックの珈琲を入れたカップを持ち、郵便受けから取ってきた新聞を見た。

そこには、新一達が壊滅に追いやった組織とは別の犯罪組織がの発覚と、一網打尽にされて逮捕されたということが書かれていた。それと同じように大きく書かれているのは、あの気障で世界的犯罪者として知られる怪盗キッドの事も書かれていた。

「・・・あいつも、うまくやったみたいだな。」

顔が自然と綻ぶ。やっと、あの白い衣装から解放されたのだと思うと、自分のことのようにうれしい。彼には幸せになってほしいと思うから。好きな人の幸せを願わなくて何を願えというのだ。

自分の隠したこの思いを知らせる事はしない。知らせても困らせるだけだし、迷惑だとわかっているから。

そんな怪盗は、自分の組織とあいつが追っていた組織の壊滅へと導く為の共犯者。哀とは別の、目的が同じであったからたまたま手を組んだだけの、共犯者。

終わればただの怪盗と探偵に戻るだけの関係にあった彼。

いつも彼には引かれ、哀にはきっと気付かれていた事だろう。この隠そうとした思いを。

そもそも手を組もうとやって来たのは怪盗。だけど、最終的に手を取ったのは自分。

ただ、少しでも一緒にいたいと思ったから、手を取った。それが、自分にとって苦痛になるなんて、わかっていたのに。

あいつはただ、同じであったから互いに手を組まないかと言った。そして、小さい自分には動くものが必要だから、今回は手助けをしてやると言う。

ただ、警察側の情報がほしかったからそういったのだと思う。利用できる物は利用したらいい。

だけど、新一は怪盗の助けになりたかった。彼が幸せで平和な日常に戻れるように、その手助けをしたいと思った。

だから、その手をとった。少しだけでも夢を見るような気持ちで、一緒にいられたらいいなと思ったから。

だが今頃、あいつは幼馴染とよろしくやっている事だろう。

正体は手を組む前から知っていた。たまたま街中を歩いていた時に見かけたのだ。

仲良く、文句を言いながらも楽しそうに笑っているあいつと幼馴染の姿を。

きっと、自分がいたことには気付いていないだろう。

新一は、楽しそうに素で笑って見せている表情から、いつも表情を隠しているのだとわかった。

いつも、現場で合う時はどこか顔を作って隠していたから。

あいつが好きだと気付いていたから、余計にそこにはいれなくて、少しでもはやく立ち去ろうと、走った。

だって、あんな顔は見た事がなかったから。

その後に現れた怪盗の手を取り、余計に表情を隠す彼を見て、余計に悲しかった。

ポーカーフェイスで無理やり顔を作っているから。一度だけみた、幼馴染に見せるあの笑顔が忘れられなかったからか、余計に悲しかった。

しかし、次第に見せてくれるようになった素に近い表情。どこか一歩線を引いているようだったが、別に良かった。少しでも特別に見てもらえるのなら。

そしてある日。新一は聞いてしまった。後で聞かなければ良かったと思う事を。

きっかけはあいつの言葉。

「なぁ。お前は好きな奴はいないのか?」

こんなことだと、幼馴染に呆れられるのではないかと言うあいつ。

だが、俺は答えてやった。家族愛であり、生涯共にしたいと思う伴侶として選ぶ事は出来ないのだと。

「それに。いても、望のない相手だからな。俺の入る隙はない。片思いだし。」

そして、お前こそどうなんだよと、言った。

するとあいつは、少しうれしそうに言う。自分も好きな人がいるのだと。

やっぱり、幼馴染の事だろうなと思いながら、どんな奴なんだよと言えば、明らかにうれしそうに、少し照れて言う。まるで、幼馴染と一緒にいた時のように、普段自分には見せないような素の顔。

やっぱり、聞かなければ良かったと思った。

「そいつは無鉄砲で無茶ばかりするんだけどさ。それでいつも目がいって見てしまう。そんな奴。」

「へぇ。」

「それにさ。かなり他人思いなんだよ。純情無垢で、笑顔がとっても綺麗で、可愛い人だ。」

こんな時には見たくはないと思うほどの、あいつのうれしそうな感情のある顔。ふと、幼馴染と二人仲良く歩く姿が見えた気がした。

幼馴染の中森警部の娘、青子。

彼女はたまに無鉄砲に突っ走って、無茶をするが、それをフォローする快斗。

仲が良くて、いつも一緒。他人思いで純情無垢。笑顔がとても綺麗で可愛いだなんて。まさにそのまんま。

たまに中森警部から聞く無鉄砲で無茶をした話を知っている。

そう。間違いなくあいつは彼女が好きなのだ。幸せをつかめるのなら、幸せの中で過ごしてほしいと思う。自分はただの今だけの共犯者だから。

この恋は適わないもので、一切の希望はないのだとよくわかった。

その後、相変わらずご機嫌で夕食は何がいいと聞いてくるあいつに、適当に答えていた。

普通に振舞えていただろうかと心配になるが、あいつの態度が変わることはなかったから、大丈夫だろう。

それでいい。この思いに蓋を閉めてしまおう。そうすれば、何も問題はない。

第一に、自分が男であるあいつを好きになるなんて、人を好きになるのは惹かれるのだからしょうがないだろうが、あいつにとっては自分の思いは迷惑なものでしかないだろう。

しかも、怪盗であるあいつにとっては、探偵なんて危険なものを置いておくなんてことはしない。

今は、共犯者として近くに入れた時間があればいいと思う。

きっと、この時間が最初で最後の自分に与えられた、許された時間なのだろう。

 

 


その後、新一はあいつと一緒に念入りに計画を立て、その計画の元、警察の協力を得て、哀にもいろいろ手伝ってもらい、組織の壊滅へと導いた。

そしてあいつも同じように動かした警察を利用して追い詰めた事だろう。

これで、この共犯者という時間も終わり。

あいつは新一の家に来る事はなかった。きっと、正体を隠すためにいろいろ細工するのに忙しかったのだろう。

だが、それでいい。そのまま、会わない方がきっと無様な姿を見せずにすむ。そう思った。

何より、はじめから組織の壊滅の間だけ、手を組んだ関係。

無事な姿を一目だけでもと、会いに家に行こうと思った。自分と彼との接点は何もないから、学校で待つのは目立つと思ったから。

だが、何も接点がないからこそ、会いに行っても『あんた誰?』と初対面のふりをして追い返される可能性もあった。

知らないといわれたら、すみませんと謝って帰ればいいかと思ったが、あいつの口からそんな言葉を言われたら、きっとなかなか立ち直れないというほどの重症な思いだったから、やめた。

あいつにそんな事を言われたら、きっと駄目だろうから。

新一の手元には、何一つキッドが共犯者として存在したものはないし、正体を知る証拠もない。

あいつはやはり警戒していたのだろう。新一という厄介な探偵という存在に弱みを握られないように。

それに、クラスメイトで探偵をしているという白馬と同じようにはなりたくないと思った。

あいつは言っていた。白馬は現場に残された髪の毛から自分の正体を知っていると言ったらしい。

だが、可能性を考えれば、あいつがその正体である人物とイコールであると考えるのは難しい。

クラスメイトだというのなら、白馬自信にその彼の髪の毛が付着し、キッドとの対面の際に服から落ちたのかもしれないし、キッドに現場へ行くまでの間にその彼とすれ違い、くっついていたのかもしれない。

可能性をあげればいくつもある。中森警部であっても、お隣である以上、スーツについていてもおかしくはない。

そんな事で言う探偵の一人と思われたくはなかった。少しでも他の人達とは違う場所にいたいと思った。

大勢いる中の一人と片付けられたくなかった。思いが通じなかったとしても、彼の唯一の探偵でありたいと思ったから。それぐらいならば、許されるだろう。

 

 


ふと、一目だけならいいだろうと考え、行動に出る。

これが、最後の見納め。これ以上女々しく思い続けても、表には決して出さないと決める。

警視庁へ行ったときに、出張でいなかった中森警部へと届けるものと、白馬に渡す資料。

白馬と中森警部へ確実に渡してもらう為に娘の青子に会いに行く。それを口実に、江古田高校へと向かおうと思う。

青事は面識があるし、白馬と青子の二人に会いに行くのなら、自然とあいつも近くにいるだろう。

「・・・今日でじめじめしてたのは終わりだ。」

思い続けるのは自由だから。ずっと思い続けるだろうが。

会うのは、姿を見るのはこれで最後だと決める。

 

今私の願いが叶うなら

翼がほしい

会いに行く勇気の翼がほしい

弱い自分を覆い隠す翼がほしい

そして

今までと変わらない、自分に戻るための翼がほしい

 

少しの我儘が通るのなら

友人としてでいいから

彼の側にいたい

辛いかもしれないが

彼の幸せを見守り続けたいとも思うから

 




     あとがき

 死にネタではないのだが、この暗さ。
 読まれた方、大丈夫でしたか?三話目まではかなり暗いまま進行しますので、
 覚悟の在る片のみ、次へ進んでくださいね・・・(汗