生まれてきたことに感謝しよう 生まれた君に出会えたことを祝おう 大好きな君へ、たくさんの夢と希望と言葉を送ろう 「新一。明日は暇?」 「明日?明日は本を読む。」 「じゃあ、暇だね。」 昔と変わらずじゃれながら、今日も一日が終わる。 だけど、明日は少し違う。 何度も誤解とすれ違いを繰り返しながら僕等はやってきた。 お互いを相棒として、立派なサンタになった今、自由に出来る時間はあるけれど、やはり仕事にとられることが多い。 だからこそ、君が生まれた誕生日のお祝いはちゃんとしたい。 サンタにはクリスマスなんてものは仕事のピークで楽しいものではないから。 せめて、誕生日ぐらいは・・・。 サンタさんのお誕生日 「お、月斗じゃん。何しに来た?用がないなら今すぐ帰れ。」 「相変わらずだな、快斗。」 お宅訪問したら、セールスお断りな勢いで追い返されかける月斗。相変わらずの快斗の様子に苦笑するしかなかった。 「馬鹿言わないでちょうだい。」 ずいっと月斗を押しのけて、相変わらずな鈴が快斗に言う。誰もが学生時代にこの二人はすでに付き合っているのではないかと言う噂があったが、最近になってやっと落ち着いたということを聞いた。 快斗からすればまだ付き合ってなかったのかよというのだが、本人達の間でいろいろあったらしい。 まぁ、それはおいておいてだ。 「今日は新ちゃんの誕生日でしょ。お祝いに来たのよ。」 「・・・。」 追い返そうにも、さすがにもう無理だなと思っていた時、置くからひょこっと新一が姿を見せた。 「あ、鈴さんに月斗さん。こんにちは。」 大きくなっても昔と変わらず無邪気な笑顔を向けてくれる新一に、快斗の嫉妬心が突き刺さるなぁと暢気に考える二人。 「今日はどうしたんですか?」 「はい。プレゼントよ。」 「プレゼント??」 二人からそれぞれ綺麗にラッピングされた包を受け取り、首を傾げる新一。 「今日は新一の誕生日だからだよ。」 快斗がフォローのように一言言えば、そうだったと思い出したようだ。本当、自分の事に関しては疎いらしく、最初は覚えていたくせに、年を重ねるごとに忘れていく困ったさんだ。 まぁ、その度に思い出させるようにマジックで驚かせて楽しくやってきたけれど。よく、他の仲間達が先に襲撃する事もしばしばあった。 「で、今日はせっかくなので二人をパーティに招待しようと思ってね。」 「・・・いらん。」 「こらこら。快斗が断ることじゃないだろ。新一君はどうする?」 自分の両親主催のパーティが丁度あるらしく、招待状を持ってきたんだと言われ、すぐさま行くと答える。そこではたと快斗は行きたくなかったよねとしゅんとお決まりのようになるが、すぐに快斗が行くよと言えば笑顔が戻る。 「じゃあ、今晩迎えに来るから。・・・それまでは二人仲良くやっててよ。」 他の人達はそのパーティで会うように連絡まわしてるから二人の時間を楽しんでちょうだいと言われ、二人で過ごす時間と言う本当のプレゼントを有り難くいただくのだった。 家の中に入り、また忘れててごめんという新一に、気にしないでと言い、マジックでプレゼントを一瞬で目の前に出した快斗。 「おめでとう、新一。」 受け取ってと、差し出されたのは先月新一が失くした本だった。気に入っていたのに失くしてしまい、入手困難なものであり、諦めかけていたのだ。 「ありがとう。」 ぎゅうっと快斗に抱きつく新一。昔から変わらず、うれしさを表現する時抱きつく癖がついた。快斗以外にされると嫉妬心でおかしくなりそうだが、自分に向く感情はうれしく思う。 だからつい、ぎゅうっと抱き返して、苦しいよと暴れられるのがいつものこと。 「とりあえず、昼食にしようよ。夕食にって思ってたけど、夕食はあっちで食べると思うから、ケーキをね。」 「うん。」 快斗が作ったお菓子はおいしくて甘いけど、くどい甘さではなくて、新一は大好きだった。 快斗が見せてくれるマジックやおいしいケーキを食べながら、いろいろ話していたら時間はあっという間にすぎるもの。 「そろそろだね。」 「あ、そっか。」 招待されてたんだと思い出す新一。目の前のことに囚われてすっかり忘れていたと慌てる新一が可愛いなぁと思う快斗は重症かもしれない。 「はい、新一。」 受け取っていた招待状の封筒を一つ渡す。 中身を開けて、新一の目が輝き出す。中身は、新一向けに暗号で書かれた招待状だった。 「その暗号の場所でパーティやるみたいだよ。」 「みたいだね。それにしても、この時期に花見ってある意味すごいよね。」 「まぁ、他と違って寒いからね、こっちは。」 何より、季節を自在に操る人がいるから、花見をすると言った時に、桜の満開時を計算して計画でもねったのだろう。 そもそも、この場所では桜自体咲く事が珍しい。 「行こうか。」 「うん。」 少しずつ暖かい夏へと変わる、生き生きとした緑に茂るこの頃。 出会った時より成長した二人のサンタが空を飛ぶ。 パンッパパンッっとクラッカーが鳴り響く。そして、声を揃えて新一を迎える。 「ハッピーバースディ、新一。」 「ありがとう。」 にっこりと笑顔を返す。それが今自分が返せること。 だが、それすら見せるのは勿体無いといわんばかりに嫉妬深い相棒がいるけれども。 今日は見逃してくれるだろう。 皆からプレゼントを貰って、乾杯をする。 いつまでも、こうやって賑やかに皆で騒げたら幸せだろう。 クリスマスにサンタはプレゼントを運ぶもの。 だからサンタはプレゼントをもらう事はできない。 でも、それでもいい。 クリスマスだけじゃないから。プレゼントや幸せが得られる時は。 こうやって、素敵な仲間と出会え、一緒にいられる時間が幸せで、一番のプレゼントなのだから。 『これからも、ずっと一緒にいようね。』 数年前、何度その言葉を快斗と交わしただろう。そして今、一緒にいる。 これからもまたずっと一緒にいようねとお互い思いながら。 「新一―!」 おいでっと呼ぶ快斗に返事を返して、駆け寄る。 ぐいっと腕をつかまれ、バランスを崩して快斗の方へと倒れる。 ちゅっと唇が触れる。すぐに離してくれたが、悪戯が成功したような子どもの笑みで、その余裕がむかついて。むぅっとなる。 だから、ちょっとした悪戯心がわく。人前では決してしないけれど、今日はいいやと、自分から快斗の頬にキスを返す。 離れたら驚いた顔をしていたので、べぇっと舌を出して悪戯の成功に喜ぶ。 「ちょっと、新一っ!もう一回!!」 「やだよ。一回だけ〜。」 ばたばたと追いかけっこをする。昔もよく追いかけっこをしたものだと思いながら、逃げる。あっさりと捕まることぐらいわかっていたけど。 「もう、逃がさないからね。」 「おう。離すなよ。」 クスクスと笑う新一にお仕置きと称してくすぐられ、逃げる。 そんな二人のじゃれあいを見ながら、呆れる者もいれば、微笑ましく見守る者もいるし、煽る者もいる。 「そうそう。新一。」 「何だ?」 「来月の俺の誕生日。祝ってくれる?」 きょとんとしていた新一がにやりと笑みを浮かべる。 「当たり前だろ。思い切り印象に残る誕生日パーティをしてやるよ。」 「それは楽しみだね。」 もうすぐで、今日が終わる。 大人になっても、サンタは夢を届ける仕事をする子ども。 たくさんの子どもの夢を運ぶ素敵なお仕事。 今日もサンタ達は夢を描き続けながら、夢を運ぶお仕事をしています。
|