数分後、新一を連れて行かれた事で不安定になっていた快斗だが、探さないとと立ち上がった。 「そうだ。行くぞ。どうせ、まだ近くにいるはずだ。」 目的は新一かもしれないが、快斗や月斗だってその中に含まれているのだから。絶好の機会を逃すはずがない。 と、月斗が言うと、にやりと笑みを浮かべる快斗に恐怖を覚えたのだった。 だって、快斗の年頃の少年では、まず纏う事の出来ない空気と目の圧力。さすがは普通からかけ離れ、黒いサンタ達からスカウトがくるくらいだ。 「どうせ、あちらからコンタクトをとってくるはずだ。・・・絶対に新一を見つけるまでは下手に動くなよ。」 「言われなくても。」 すぐさま行動開始である。黒い服の気配は独特だから、少し近づけばわかるのだ。 だから、・・・快斗は見つけた。 「てめぇ。」 そこには、何度も自分を勧誘してくる一人、ウォッカの姿があった。 「手間がはぶけやしたね。兄貴」 「そうだな。あっちからのこのこと出てくるからな。」 すたっと、ウォッカの側に遊戯の上から降り立った金髪の男、ジンが目の前に現れた。 「新一どこにやったんだよ。」 「別にどこにもやってないぜ?」 嫌味ったらしい笑みをみて、ぷつんと快斗は切れる。 「消す。」 「おいおい。待てって。」 止めようにも、快斗は本気だった。かなり危険な状態だ。 と、そこへ。 「か〜い〜とぉ〜〜〜。」 どこからか聞こえてくる声。 ひゅるるる〜っと音が聞こえる。まさかっと、音がする方向を見れば、快斗の頭上から新一が落ちてくるではないか。 「新一っ?!」 さすがに快斗だけではなく月斗や鈴も慌てる。そして、何故かジンとウォッカも。 だが、快斗が腕を伸ばして、それに届く前に新一の落下が止まり、再び空高く飛び上がっていった。 だが、今度はソリと一緒に安全に降りてきた。 しかし、一緒に乗っていたのは、同じように誘ってくるベルモット。 しっかりと新一の身体を捕獲しているのが気に入らない。 「何やってるんですかい、姉御。」 「ちょっと飛び降りたのよ。危ないからこれで回収したけれど。」 見せたのは、伸縮自在のゴム。使い方次第でとっても便利な代物。 「ん?どうしたの?」 突然ベルモットから新一を奪い返し、ぎゅうっと抱きしめる快斗が、少し様子がおかしいのでどうしたんだろうと首をかしげる新一。 「心配したんだよ。」 「あ、ごめん。」 突然いったら困るよねと、素直に謝る新一。 「で、どうしてあの人と?」 「ベル姐?こっちに来てたから顔見に来たんだって。」 にっこりといわれても、どうしてと疑問が浮かぶ。 「あのね、ベル姐はね、昔にあった良い人なの。」 いや。黒いサンタの時点で、サンタの世界では悪い人なのですが・・・。 新一に言ってもわかっちゃくれないだろう。 「ジン兄とベル姐が今度仕事でこっちに回ってきたらしいから、挨拶に来たんだって。だから、お返事してたのと答えられて、そうなんだとしか応えられなかった。 どうやら、過去にベルモット達と何かあったらしいが、聞かないでおこう。
とにかく、新一も無事に取り戻し、今回は本当に挨拶だけだったらしい三人は何処かへ去って行った。 結構、黒いサンタでも、礼儀を弁えていない悪い奴ばっかりじゃないのかもしれないと、新たな認識をした三人。 帰りはすっかりお寝むな新一を抱きしめる快斗を乗せて、月斗は安全運転であの家へと戻るのだった。 だけど、まだお泊りは続く・・・・。
コケコーコケコー・・・
なんとも微妙な鶏の鳴き声が聞こえてきた。 「んー。」 新一はうるさいので音の元はどこだと布団から手を伸ばしてばたばた叩く。 だが、手が何か触れる前に音は止まった。 「ったく、意味のわからん目覚ましばっかりだよな。」 鶏の形をして、先ほどまで起こすために鳴いていた音を消してそれを手に取る。 絶対に月斗の趣味ではないので、父親の趣味だろう。 結構、テーマパークとかを開設するにあたり、キャラクターがこんな感じだったと思う。 「・・・似てないよな。」 あまりにも似ていない親子。まぁ、他人のことなのでどうでもよいが。 「新一。起きて。・・・今日も出かけるよ?」 「んー、あと1時間・・・寝る・・・。」 「駄目だってば。」 新ちゃーんと必死に起こそうとする快斗。 約10分後に、やっと起きてくれたが、まだ寝ぼけている。しょうがないなと、快斗はお得意のマジックで服を着替えさせた。
「お、起きてきたか。」 「朝ご飯は出来てるわよ。」 「げっ。」 快斗が見た机の上には例のあれがいた。 「ん、どうしたの。」 突然固まった快斗にどうしたのかと顔を覗き込む。 反応がまったくないので、むうっと膨れて、しらないっと椅子に座った新一は、やっと気付いた。 「あ・・・。」 目の前には新一にとってはおいしそうな和食があった。 だが、あれが嫌いな快斗にとってはご馳走なんかではなく敵だと言うものがある。 ちょっと可哀そうになったので、あれ以外のお皿を隣の机に運んで、固まっているが、なんとか意識を取り戻した快斗を引っ張る。 「これで、大丈夫でしょ?」 「ありがと。」 なんとも情けないが、あればっかりはどうしようもない。 うーっと唸りながら、だけど新一の親切心に喜びながら朝食を食べるのだった。
「やっぱり、悪戯がすぎたわね。」 「いっちゃったねぇ。寂しい。」 あれな料理を作った鈴はしょうがない子よねと言いながら食べ、新一まで行ってしまったことで寂しいと言いながらあれをつつく月斗。 やっぱり、新一が好きだということで頑張ったが、快斗が一緒では無理ねと思い改める二人だった。 恋人ごっこのようにいちゃいちゃしている二人を見ながら、あまり食べる気がしないわねと鈴が言い、同感だという月斗。 そんな甘ったるい空気を壊すものがこの後やってくる。
朝食の片づけをしていた時だった。 例のアレの件に関してずっとうるさかった快斗だったが、今はもう何も言わなくなって平和になっていた。 なのに、問題はどんどんとやってくるものだ。
チリンチリン
玄関に誰かが来たという鈴の音が鳴った。 「誰かしら?」 「こんなところに来る奴っていねーと思うけどな。・・・ちょっと見てくるよ。快斗はしっかり新一君のこと頼むな。」 泥棒だったら困るからなと笑いながら部屋を出て行った月斗。 ぎゅっと新一を腕に抱き締めて、やってくる何かに構える。 「快斗?・・・あれ。これ。」 新一も気付いたようだ。 「本当に来たのね。」 出来れば来ないで下さいとお願いしておいたのにと、鈴は言いながらお茶の用意をする。 そして・・・。 「新一君っ!」 「盗一さん。」 ばんっと入ってきた快斗の父、盗一に笑顔で飛びついた新一。快斗を振り切ってだ。 そんな新一の行動にちょっとショックな快斗。 「少し見ない間に、体重軽くなってないかい?」 「そんなことないもん。」 むっと膨れる新一。側ではさらにむっと膨れてご機嫌斜めの快斗がいる。 「荒れてるわね。」 「荒れてるな。」 第三者だからこそ、のんびりとしているが。わかっていて見せ付けるこの親も親だなと思う月斗。 「ちゃんと食べてるもん。だけど、・・・大きくならないんだもん。」 しゅんっとする。結構気にしていたのである。 「ごめんごめん。ちょっと言ってみただけだよ。」 大丈夫、今のままでもねと、新一を降ろす。すると、すぐさま新一に抱きつく快斗。 「快斗?」 なんだかむくれている快斗を見て首をかしげる。 「快斗。まだまだだぞ。そんなんではいけないぞ。」 はっはっはと言いながらソファに座る。 こんなにややこしくした張本人がこんな状態ではどうしようもないだろう。 とりあえず、鈴はお茶を出した。 「すまないね。」 「いえ。それにしても、出来れば家で大人しくしておいて下さいと言いましが?」 「いや、ちょっとこちらの方にまで来たからね。」 ほら、この近くにある場所でマジックの舞台だよと言われて、そういえばマジックが昨日やるという宣伝があったことを思い出した二人。 今回はちゃんと仕事だったようだ。
一息ついても、快斗の警戒は解けることはなかった。 さすがにどうしたんだよと新一も心配になる。 「新一君は気にすることないよ。」 目の前で父親である彼が言うので、そうなのかなぁと思うが、ここまで敵意むき出しにする快斗も珍しいので、本当にどうしてなんだろうと思いながらクッキーをかじる。 「そうだ。せっかくだから、新一君に魔法を見せてあげよう。」 約束していただろうと言えば、覚えてくれていたんですかと、喜ぶ新一。それがさらに気に入らない快斗。 「でも、快斗はいいよな。いつでも盗一さんのマジック見れるし。」 俺は以前親の関係で来た彼に見せてもらって、人目で凄いと思って、次もまた見せて下さいとお願いしたぐらいだ。 「そんなことないよ。けちだから、あまり見せてくれない。」 「そうなのか?じゃぁ、一緒に見ようよ。」 ねっと言われたらうなずいてしまう。 そんな二人をにこにこして見ていた盗一が動き出す。 「じゃぁ、小さなお客様に満足していただけるように、魔法使いが一時の魔法をお見せしましょう。」 こうして、サンタとしてではなくマジシャンの盗一の顔になり、しばらく四人は本物のマジックを見ていた。 これが、サンタとしてだけではなく、夢を与える者としての功績が認められた者だけが得られるバッチを持つ者。 「やっぱり、快斗のお父さん・・・盗一さんはすごいね。」 確かに自慢の父親なので、褒められてうれしいが、ライバルである限り、心は複雑な快斗だった。
お泊りの日は今日まで。朝起きて、帰る用意をする新一と快斗。 昨日は快斗の父盗一が来たりしていろいろあったが、いつまでもここでお泊りしているわけにもいかないし、帰る用意をするのだ。 快斗としては、このまま新一と二人でどこか行きたいのだが、それをこの二人が許すはずもなく、そして自分の父親が大人しくしているはずもなく。ため息をつきながら片付ける。 そんな快斗の様子を見て、昨日帰ってしまった父親が恋しいのかなと、また違った方向へと考えていたりした。 「なんでいるんだよ。」 何故か、帰ったはずの盗一がそこにいた。 敵意をむき出しにして快斗が吠えると、はははとわかっていながら楽しそうにしている父親の姿があり、相変わらずねと鈴と月斗は思い、ため息をつくのだった。 「でも、おじさん本当にどうしたの?」 「帰ることがわかっていたからね、お迎えに来たんだよ。」 普段のものとは違い、仕事用の大きなソリが外にとめてあった。 「それに、二人を招待した居場所もあるしね。」 とにかく行くよと、月斗と鈴に言葉をいくつか交わして、二人を抱き上げて相変わらずな感じで去っていった。 「・・・相変わらずだな。」 「そうだな。」 とりあえず、置いてけぼりをくらった二人も、家へと帰るべく、ソリに荷物を乗せて出発したのだった。 誘拐された二人は、現在盗一の操作するソリにて空を移動中・・・。 「で、どこに行くんだよ。」 新一と快斗は盗一の膝の上。荷物は後ろ。 これだけ広ければ、二人とも後ろに乗っても問題はないが、なんだかんだ言っても、息子が可愛くてしょうがない親バカである。そして、親バカ以上に、悪友の息子がお気に入りで、よく悪友と取り合ったこともあり、ちょっとした嫌がらせと自分の満足のために現在にいたる。 まぁ、そんなことこの二人には知らないところの話であるが・・・。 「パーティだよ。二人には、盗一のマジックショーの助手をしてもらおうと思ってね。」 突然の事に目が点になる二人。 「まぁ、大丈夫だよ。ついてから、だいたい1時間以上は余裕があるからね。」 やる事も簡単だから二人なら出来るよと簡単にいってのける盗一に、呆れ果てる快斗。 でも、そんな父親に文句を言っても嫌いになれないからしょうがないし、彼のマジックは本当に好きだから、手伝いならいい。 ・・・ただ、新一までというのが気に入らないだけで。 こうして、お泊りはまだ無事に終わる事のない二人は、盗一に拉致られてそのままショーの会場へと向かう事になったのだった。 盛大に行われたマジックショーは大盛況。 助手として客席から選んで呼んだ盗一。やっぱりこのためかと、快斗は一人で行かせるものかと、新一の腕をしっかり攫んでステージ上に登った。 その際に、しっかりと快斗の顔はばれていたし、盗一も息子だと紹介したし、負けず嫌いな快斗がマジックを披露したものだから、また次もと客からアンコールがあったりした。 まぁ、二人の存在だけではなく、新一の存在も大きかっただろう。 だが、これ以上見せるのは勿体無いの快斗は舞台袖へとマジックが終わると新一を連れて引っ込んだし、盗一もこれ以上はやめておこうと、アンコールに答えて舞台を降りた。 帰りのソリにて。 新一を腕に閉じ込めて、盗一をじっと睨む快斗。 どうして快斗が怒っているのかわかってない新一は困りながら、おろおろしていた。 そんな二人を横目で見ながら苦笑する盗一。 「しょうがないだろう。急遽助手が怪我をして出られなくなったのだから。」 快斗ならば、そういったことに代役として出てもしっかりこなしてくれると思っていたから頼んだのだ。 まぁ、舞台で突然指名されるという形で、何にも説明ぬきであったけれど。 ちゃんと新一にマジックでどうしたらいいのかをこっそり耳で教えて大きなマジックを成功させた今日。 「父さんのせいで、また新一が助手しなくちゃいけなくなっても、俺は許さないから。」 「快斗。」 「新一が次に舞台に立つときは俺のショーだからな。」 駄目だからと宣戦布告。 どうやら、新一を取られて怒っている快斗も、盗一同様にマジックのショーをして新一をサンタだけではなく舞台のパートナーとしてもやると決めたらしい。 ちょっと驚いていたけれど、快斗は何だかんだ行っても父親が目標で、それが夢ならば手伝いたいと思っている新一は、頑張れよと言う。 「ありがと。」 ぎゅうっと抱きしめて頬に唇を寄せる。 「快斗なら、出来るよ。」 新一も快斗の頬へかえす。 そんな恋人同士のようないちゃつきを見ながら、苦笑する盗一。 いつの間にか、息子は彼の息子ととてつもなく仲がよくなっているのだと実感すると共に、間違ったことを起こさないとよいのだけれどもと、少し心配になる。 もちろん、快斗だけではなく新一の父親であり悪友である優作に対してもだ。 「もうすぐ、家に着くから、そろそろ荷物持ってて下さい。新一君。」 「はーい。」 「えー、もう?」 お泊りは今度こそもう終わり。 ほら、新一の家が見えてきた。 またねと、二人は別れて、それぞれは家の中へ。 もうすぐしたらはじまる新学期に向けての用意をはじめる二人。 新学期からも、またクリスマスまで協力して学び、準備をしようと、今から楽しみになる。 もちろん、楽しい事だけではなく辛いこともあるけれど。 お互いと一緒にいられるのなら、それは全部いいことなのだ。 「快斗。喜ぶかな。」 お泊りの前から、ずっと作っていたこれ。 クリスマスプレゼント(〜お願い参照)には、白い手袋をあげた。 あれは時間がなくて市販品だったけれども。 今回はおそろいで白いマフラーを作っている。それがもうすぐで完成するのだ。 ここは、人間世界と違い、温かい日もあるが、寒い日の方が断然多い。 だから、いつも自分を温かくしてくれる快斗が寒くないようにとあげた手袋。今度はいろいろあって迷惑をかけた快斗にちゃんと渡そうと思っている。誕生日もあることだから、それを理由にして。 サンタは基本的に七月から授業が始まるのだが、その一ヶ月前から自由に登校できるようになる。 始まる理由は、入学式が七月始めにあるからだ。 そして、登校可能な理由は、まだペアが決まっていない者達が新入生の資料を漁ったり、休みの間の話をしたり、今年の授業の流れや去年のおさらいなどなど、様々な理由で学校を利用する者が多いからだ。 快斗も新一も、お互いが会うために学校へ行く事にしている。新学期を気持ちよく始めるために、掃除をしようと約束してある。 だから、その日までに間に合わすぞと、決める。もちろん、その日とは掃除ではなく快斗の誕生日だ。 お泊りという、楽しい経験をした新一は、ほくほくした気持ちでプレゼントを仕上げ、その日が来るのを待つのだった。
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