町の隅にある、それなりの大きさの屋敷には、一人のおちゃらけた男と、一人のとても女と間違えるほどの綺麗な男と、人を寄せ付けない大人びた少年と、とびきり美人の女二人が住んでいました。

 

「今思えば、どうしてこうなったんだろうな。」

「そうだね。シンってばすっごい俺のこと嫌ってたからねぇ。」

 

今は仲良しを通りこしちゃったけどと、おちゃらけた男。

これが東の守護獣、蒼の竜神シンが唯一愛し、いついかなる時も手を貸し、守ると決めた男。

 

「私も不思議でしょうがないわ。」

「そうね。そもそも、どうして彼に対してだけあんなに敵対心持たせたのか謎だわ。」

「シン兄とられるし、いいことないし。」

「しょうがないでしょ。出会いも突然だったし。シホちゃんやアカコやコナンちゃんとは状況が違います。」

 

出会いは、人に害をなすモノとして、快斗同様に力を持つ者達によって傷つけられた彼等を救う為に力を与えた事で結ばれた盟約。

だが、シンだけは偶然出会い、一目見て気に入った快斗が逃がさないと無理やり盟約を交わした。

最初は抵抗して、快斗を殺そうとしていたシンだが、三人の事情を知り、快斗が悪い奴ではないと知ってから、しばらく大人しくなった。

 

その後、四人は改めて快斗の配下、使い魔となった。

北の守護獣、黒の鬼神シホ。南の守護獣、紅の鳳凰神アカコ。西の守護獣、白の獅子神。

そして、快斗の一番大切な恋人となった東の守護獣、蒼の竜神シン。

 

 

 

 

紅い血の盟約

 

 

 

 

夏とはいえ、少し肌寒さを感じる夜。

空に昇り、明るく辺りを照らす大きくて丸い月。

どこかほのかに紅い色をした、不気味さを感じる。

 

最近では、得体の知れない、人には見えぬモノや力によって起こる現象で、人々は不安を寄せ、安心して寝付けぬ日々を過ごす。

そんな中、夜には出歩くものがいない静かな町を歩く者がいた。

癖のある無造作に跳ねている髪を揺らしながら、のんびりを歩みを進める。

 

ふと、その者が足を止めた。

そして、何も無い宙を見上げた。

そう、本当に何も無い。

『視る』力の無い者には、決して視えることの無いモノ。

それは真っ直ぐ進行方向へと向かっていた。

『視えた』ものに興味を持った彼は、その方角へと向かう。

 

しばらくして町から抜け、何がいるかわからない、無法地帯と化して、荒れ放題で、好きなように木々や草が生える林の前に来た。

その奥へと、アレは向かった。

彼は奥すことなく、そのまま中へと足を踏み入れた。

ざくざくと、真っ直ぐアレの向かった方向へと進む。

 

そして、こんなところにこんなものがあったのかと思う。

そこにあったのは、開けた場所に東西南北の四方と中央に大きな石がある場所。

そこへたどり着くまでが決して平凡な道と呼べるものではないが、もしかしたらそれが今までここを隠して、そして守ってきたのかもしれない。

 

そっと様子を伺うと、その中央にアレはいた。

すらりと立った、それほど身長もなく細い何者か。

漆黒の黒髪が風に揺れて、月の光を受けて輝き見せる蒼い瞳に彼は惹かれた。

アレは、人ではないモノだが、彼はとても気に入った。

とても強い力を持つモノだとわかっていても、ほしいと思った。

 

ガサッ

 

「・・・っ、何者だ?」

 

相手は音を立てて出てきた彼に気付き、振り向き様に風邪の刃を放った。

その正確さに、驚かされ、アレの瞳をまじかにみて、映されたのだとわかればなんとも言えないものが込み上げてきた。

 

「・・・この地の東の守護獣か・・・。蒼の竜神。」

「・・・ここは人間風情が足を運んでよい場所ではない。」

 

敵意むき出しの相手に、笑みが浮かぶ。

とても整った綺麗な顔。

そこらへんの女より、彼の方が美しい。

 

「生憎、ただの人間じゃないんでね。」

 

にっこりと見せた笑みが、一瞬曇る。

そして、仕掛ける。

決して逃がしはしない。

 

「さぁて、今日から俺の配下だ、東の蒼の竜神。・・・シン。」

 

瞬間、風がアレの動きを封じ、抵抗して睨みつけてくるが、怖くもないし、名前を手に入れて呼び、命令すればこちらのもの。

 

名前も簡単。

すでに自分が配下にしたモノの中に、仲間がいたからだ。

だから、彼が最後。

北も西も南も、すでに配下についている。

東の彼だけが見つからなかった。

こんなところで偶然でであるなんて、今日は良い夜だと彼、快斗は思う。

それも、こんなに綺麗な自分好みの竜神様とは思わなかった。

 

「怒った顔も綺麗だ。」

「触るなっ。」

 

無理やり力で跪かされ、屈辱だと顔を歪ませて快斗を睨む。

顎に触れる手を振り払おうとするが、身体の自由は利かない。

 

「今は、自由を全て奪って・・・束縛されている状態だからね。動くなんて無理だよ、シン。」

「うるさい。」

「口は反抗的だね。せっかく綺麗な容姿にもったいないな。」

「てめぇだけには言われたくない。」

「それより、新しいご主人様に忠誠誓わない?」

 

すぐに、お友達に会えるよと言う男。

シンと呼ばれた竜神は知っている。

この男によって、すでに三人の仲間が消えたことを。

この男の配下に下った後、一度もここへ帰ってくることはなかった。

決してこの男の配下に降らぬと決めていたというのに、こんなにあっさりと事が運ぶとは

失態だと、唇を噛み締める。

 

「駄目だよ。せっかくの綺麗な口に傷がつくよ。」

 

シンの意にそぐわぬままに交わされた紅い血の盟約。

決して快斗から盟約を違えないようにと腕に取り付けられた輪。

快斗以外には外す事が出来ないもの。

 

「これからよろしくね。」

 

それが、シンにとって最悪な第一印象だった主との契約の時。

 

 

 

 

 

こんなことが、シンと快斗の間にはあった。

シンは三人が帰ってこない原因は彼等を使役する術師である快斗だと思い込み、絶対に三人を取り戻すと、いつも町に出ては探り、策を考えていたのである。

そんなシンを他所に、快斗の力を貰って元気を取り戻し、快斗をこき使う三人がいたのだが。

三人が言うには、東の守護獣は気まぐれで人に気を許さず懐かない奴で、四人の中で一番の美人だという事を聞いていた。

性別上は男ということで、いくら美人でもと快斗は思っていたのだが、まぁ、惹かれてしまったわけで。

三人から姿を見せたらすぐに攻撃してくると聞いていた通りの反応だったので、とりあえず言う事を聞かないのなら無理やりでもということで、盟約を交わしたのだった。

その際が、かなり悪役ちっくだろうが、逃がしてしまう方が痛いので、結果としては問題なく日々を過ごすのでよしとしよう。

連れて帰られてかなり不服そうにしていたし、殺気だっていつも殺そうと狙っていたが、町のお偉いさんの依頼を終わらせて家に帰り、そこでくつろぐ三人の姿を見て拍子抜けした顔があった。

事情を聞いて、殺気立つことはなかったが、まだ配下に降ろされたのが気に喰わないらしく、快斗はただただ苦笑するだけだった。

だが、どうにか手名付けて、やっと恋人という位置にまでたどり着いた。

彼は、思っていた以上に快斗にとっては手ごわかった。

あそこまで鈍いとは思っていなかった。

だが、何度もアプローチを繰り返し、三人からそれとなく言われて、なんとか今は俗に言う恋人とという関係になった。

三人は大切なシンをこんな奴にくれてやるのは勿体無いと、最初は協力しなかったが、いつまでも続く、無意識で甘いオーラを出す二人が見ていられなくなったらしい。

そのことを後で聞いて、快斗は苦笑し、新一は顔を紅くしてそっぽ向く。

とまぁ、こんな感じで出会って時間を過ごして今にいたるのである。

 

 

 

 

そして、時は年の末。あと数時間もすれば、新たな年に変わる時。

日が暮れ、全ての者達が寝静まった頃。

「シン。」

「何だよ。」

快斗はシンの名前を呼ぶ。そうすれば、いくら姿を消していても目の前に姿を現す。

主の呼び出しには絶対に答える。それが盟約を交わしたものの最低限のルール。

技量や知識がなく、使い魔として降ろした人が弱ければ飲み込まれ、命令を無視しても人は何も言えない。

扱いきれない使い魔は、己の身を滅ぼすもの。

だから、術者は慎重に選ぶのだが、生憎快斗は普通ではないので、四天王とまで言われる東西南北守護の獣を全て使い魔に降ろした男。

人柄もいいし、気まぐれな四人も結構今の生活も気に入っているので、わざわざ命令に背く事はないが。

だからといって、せっかく寝ていたのに起こされるのはたまったものじゃない。

普段から寝ろと煩い男のくせにと、内心文句を多量に述べながら用件を言われるのを待つ。

「・・・動いたみたいだ。」

「・・・そうか。」

何がとは言わずとも、シンは理解している。人にとっても、そしてシン達方位の守護獣にとっても、敵となるべく黒い闇。

闇に即する使い魔となる者も多いが、あれらだけは例外だ。滅ぼさなければいけないもの。

「あそこか。」

「そう。まだ、探してるんじゃない?シンが俺の使い魔として降りたことを知らなければ、あの場所に。」

あの場所は四人にとって大切な場所。荒らさせるわけにはいかない。

「だから、来てくれる?」

「ああ。第一、あの場所はお前に言われるまでもなく守りに行くさ。」

「そう。」

快斗はシンと外に出て、姿を変えたらすぐに角に右手をかけて背に飛び乗る。

そのしなやかな蒼く光を放つ、すぐに傷がついてしまいそうな鱗で覆われたその背に。

今のシンは蒼き東の竜神と呼ぶに相応しい、濃い蒼の鱗と銀の角と蒼い瞳の竜だ。

「無茶するなよ。」

「シンこそ、無茶しないでね。」

せっかくの綺麗な肌に傷つけるのは勿体無いと馬鹿な事を言う奴の事は無視して、シンは目的の場所まで飛ぶ。

目的の場所で、シンは急降下する。快斗も慣れたもので降りる寸前に元の姿に戻ったシンの腕を取ったまま着地する。

そこには、闇のあの者達が待ち構えていた。

「さっさと出てきやがれ。」

「駄目だよシン。挑発しちゃぁ。」

ほらほら、たくさん出てきちゃったじゃない。と言いながら、一切目が笑っていない快斗が出てきた者達を確認する。

「まずは掃除しないとね。」

快斗にとっても、ここはシンと出会えた場所。そして、何か不思議なものを感じ、それでいて落ち着く場所なのだ。

そんな場所を荒らされたくはない。

シンは宙に円を描き、二回目の円を描く際に指から宙へ溢れ出る水を、まるで薄い布のように空高く舞い上がらせた。

そして右手を構え、左手で水に触れれば、細かい細工の施された細い剣が現れる。

快斗は首にかけていた紐を引き出し、その先についている黒い珠に呪をかける。

そうすると、その呪はたちまち姿を変え、シンとはまた違うシンプルな細工のされた細い剣が現れる。

「年末の掃除は終わらせたところなのにね。」

「さっさと片付けて帰るぞ。」

一匹の竜神と一人の術師が今年最後の夜に、軽やかに舞う。

その様はまさに、天から降り立った使い。

 

 

 

最後の黒い闇が醜い叫び声を挙げた後、年が明ける鐘の音が聞こえた。

今日は終わり、明日が今日となった。

「妙な年明けになっちゃったねぇ。」

「あいつ等が悪い。そして快斗も悪い。」

「そんなぁ。でも、シンと二人で年明けできるのはうれしいけどね。」

ぎゅうっと背後から抱きついてくるが、帰るのに彼は背に乗るのだから丁度よく、シンは呆れた顔をしながら空に向かって軽くジャンプすれば、そのまま姿を変えて夜の空に舞い上がる。

しっかりとその背に快斗は乗り、彼等の『家』へと帰る。

この関係がいつまで続くのかはわからないが。

いつ、快斗が命を落とすのかもわからないし、シン達守護獣が彼から離れるかもしれないし。

未来はまだ何も定まっていない。

守護獣達が大切にする彼の者が眠るこの地と、まだ多く残るあの闇の者達がいる限り。

ただ、今の五人は今と言う時間を大切にする。

いつこの時間が失われるのかもわからないから。

かつての主である彼の者と同じようなことにならないために。

 





     あとがき

 なんでだ。なんで予定外な展開に?!しかもなんだこの終わり方はっ?!
 と、書き終わってからの李瀬の感想です。本当、こんな内容じゃなかったのですよぉ。
 本当、どうしてなんでしょう。どこかで間違えたんだな。うんうん。
 あまり触れずに終わらせておこう。(遠まわしに逃げるということ)
 一応、元旦限定トップ及び、強制送りつけ(迷惑)の絵の二人のお話なんです。そのはずなんです。
 見て下さった方々、受け取って下さった方々、どうもありがとうございました。